魔法少女まどか?ナノカ   作:唐揚ちきん

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第十二話 カミングアウト

暁美の話を聞き終えた僕は、情報を整理して暁美に確認をとる。

 

「えーと、つまり君は鹿目さんを救うために何度も同じ一ヶ月を繰り返してる、ということでいいんだね?」

 

「そうよ。話が早くて助かるわ」

 

何でも一ヵ月後、ワルプルギスの夜という、なんだか厨二心くすぐられるネーミングの魔女が来て、この見滝原市をめちゃくちゃにするらしい。

そして鹿目さんは最強の魔法少女になって立ち向かい、ある時は相討ちに終わり、ある時はワルプルギスの夜を倒せたものの代わりに最悪の魔女となったそうだ。

その(たび)に暁美は時間を巻き戻している。その過程で魔法少女の真実にたどり着いたという。

 

突拍子(とっぴょうし)もない話だが、一応嘘ではないと仮定して考えよう。そうなると、いくつか気になるところがあるな。

 

「ちょっと質問なんだけど、暁美さんは時間を巻き戻していると言ったけれど、今回以前の僕と出会ったことってあるの?それといつも起きることは暁美さんが過去に体験したことと同じなの?」

 

「ないわ。貴方と会うのはこれが初めての事よ。それから私の体験した過去と食い違う事いくつかあるわ。例えば、いつもは大体、まどかは私と出会う前から魔法少女だったけど、今回はまだ魔法少女になっていない事とか、・・・私の知らない魔法少女が現れた事もあったわ」

 

暁美は首を振った。

これがすでにおかしいことに暁美は気づいてない。本当に過去を巻き戻しているのだとしたら、『繰り返し』である以上、暁美を除いて過去と同じことしか起きないはずなのだ。

『暁美の目の届かない場所』で暁美の知らない何かが起こっているのなら、別におかしいことはない。だが『暁美の目の届く場所』で暁美の知らない何かが起きることは、暁美が何かしない限りは絶対にありえない。

 

「これは僕の仮説なんだけどさ。暁美さんにとって『ここ』は並行世界なんじゃないの?」

 

「どういう事?」

 

「つまりね。暁美さんがは『悲惨な結末の未来』から『そうなる一ヵ月前の過去』に戻ったんじゃなくて、『悲惨な結末の未来』から『そうなる一ヶ月前によく似た並行世界』に来てしまったんじゃないかってことだよ。ひょっとしたら君が今まで『過去』だと思っていたのも、実は『過去によく似た平行世界』だったかもしれないね。心当たりとかなかった?」

 

「……もし仮に貴方の言う通りだとしても、まどかを助けられるのなら私にとって何ら変わりはないわ」

 

暁美は少し押し黙った後に、毅然と言い放った。少し黙ったところを見ると心当たりはあるのだろう。だが、暁美の言葉には迷いはなく、覚悟が込められていた。

 

立派だ。実に高尚な考えに違いない。いくら何度も心を砕くような時間を過ごしたとしても中学生でここまでのことが言えるものだろうか。…………なんてことは僕は少しも思わなかった。

なぜなら、それはあまりにも鹿目さんの命を軽く見ているのと同意だからだ。

 

「全然違うよ。暁美さん。『並行世界』だということは、君が見てきた『鹿目まどか』と『鹿目さん』は限りなく近い別人ということになるんだよ」

 

「……?言っている事の意味が理解できないわ」

 

眉をひそめるだけで暁美はまったく分かっていないようだ。

なぜここまで言っても分からないのだろうか。ひょっとして理解するのを拒んでいるのかもしれない。

 

「もし暁美さんが『過去』ではなく『並行世界』から来ていたなら、暁美さんが去った後も『並行世界』はそのまま存在し続ける。つまり、この世界の鹿目さんを救ったとしても、死んだ『鹿目まどか』は死んだまま、魔女になった『鹿目まどか』は魔女になったままだ」

 

暁美は『鹿目さん』を無数にいる『鹿目まどか』の一人程度に考えている。何度もやり直しができるとはそういうことだ。次があると思ってしまえば、一回一回が軽くなる。

恐らく、今まで暁美が失敗し続けた理由の一つだろう。

 

暁美の顔が見る見るうちに青ざめていく。目が皿のように開いている。

理解したのだろう。死んでいった『鹿目まどか』が皆すべて『たった一人しかいない存在』であったことに。

 

でも、僕は納得ができない。

暁美が魔法少女でなかった世界で、『鹿目まどか』に命をかけて守ってもらったにも関わらず魔法少女になったと暁美は言った。それは最初の『鹿目まどか』の想いを踏みにじったことに他ならない。

勝手な願いで最初の『鹿目まどか』が成し遂げた結果を暁美は台無しにしたのだ。そして、助けるどころか、何人も『鹿目まどか』を死ぬことよりもおぞましい魔女に変えてしまった。

 

こいつは一体何人の『鹿目まどか』を犠牲にすれば気が済むんだ?こいつが憎むインキュベーターと結果的には何も変わらないじゃないか。

そのくせ、自分は『鹿目まどか』を救うとほざく。

ふざけるな。彼女の命を何だと思ってるんだ。

 

「君にとって『鹿目まどか』はみんな同じに見えたのかい?」

 

最後にそう吐き捨てて、僕は席を立った。

こんな人の命を冒涜(ぼうとく)するような奴と一緒に居たくなかった。

店に入っておきながら、何も頼まずに帰るのは少々マナー違反の気がしなくもないが仕方ない。

 

「……貴方に何が分かるの。あの苦しみも知らないくせに!」

 

「だから?『お前の知らない苦労を私はしている。だから私は偉い』、って言いたいの?ハンディキャップを(かさ)に着るような幼稚な意見だね」

 

暁美の目を見てはっきりとそう言ってやった。僕は生まれてこの方、父さん以外に口論で負けたことは一度もない。

暁美は俯いて押し黙った。

 

どうしようか。ここでお別れしてもいいが……一応、暁美を(なぐさ)めの言葉ぐらいはかけるべきか。

でも僕はこいつのやってきたことを許せそうにはない。少なくても、僕の価値観では到底納得できない行いだ。

 

だが、鹿目さん達、そして僕自身が一ヶ月後の絶望を乗り切るためには暁美の力が必要になってくるだろう。ここまで知っといて、平然と安全な日常に一人だけで帰るのは、無責任以外の何物でもない。

仕方ない。ここは我慢しよう。

 

「暁美さん。本当に『鹿目さん』を救いたい?何人もいる『鹿目まどか』の一人じゃなく、一人しかいない人間として」

 

「当たり前よ!私は……わたしは、まどかの友達なんだから……」

 

俯いているから表情は見えなかったが、涙まじりの声だった。

でも、信用できないな。友達だったのは最初とその次の『鹿目まどか』であって、この世界にいる『鹿目さん』じゃない。この()に及《およ》んで『鹿目まどか』と『鹿目さん』を混同して考えている。

 

「だったらできる限り協力するよ。これから一緒に頑張ろう」

 

暁美の傍に寄って、手を握り締めた。

あの薄暗い改装前の倉庫と同じ、優しさも思いやりもない形だけの握手。

そんな僕の手を暁美は握り返してくれた。

 

「……わかったわ」

 

こうして僕と暁美は協力関係(おともだち)となった。

 




改めて見ると、政夫、酷い奴ですね。

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