「ボクはこのままでいい。ずっとこの姿のまま、君のそばにいる!」
「うん! 約束だよ。僕たち、ずっと友達だからね!」
赤ちゃん支那モンたちが暮らす「はじまりの町」で永遠の友情を誓ったマサオとキュベモン。しかし そんな二人を運命は残酷にも引き裂こうとしていた……。
襲い来る敵支那モンたちから、赤ちゃん支那モンとマサオを守るためにキュベモンは立ち向かう。
しかし、キュベモンでは手も足も出せず、とうとうマサオまでが怪我を負ってしまう。
「どうして……どうしてボクは……どうしてボクだけ……進化できないんだよ!」
キュベモンの叫びが悲しく響き渡る。
あたりを絶望が支配した次の瞬間……マサオが握り締めた支那バイスの中からまばゆい光が溢れ出した!!
「キュベモン進化~~っ! ニューインキュべーモン!」
敵支那モンを押し戻し、光の中で進化するキュベモン。キュベモンは大型支那モン・ニューインキュべーモンへと進化をとげたのだ。
「キュベモンが……進化した……」
「すまないマサオ……約束を破ってしまって……」
呆然と見上げるマサオに、ニューインキュべーモンモンが悲しげに語りかける。
「だが進化してようやくわかったのだ! 奴らを倒せるのはこのボク……ニューインキュべーモンだけだということが!」
毅然と叫ぶニューインキュべーモンにマサオは支那バイスを掲げる。
「分かったよ。キュベモン…・・・ううん、ニューインキュべーモン。一緒に戦おう」
たとえ進化しても、キュベモンの優しさが消えない限り、二人の友情に変わりはないのであった。
残り時間は少ない。今日を含めてたったの七日しかもう残っていない。
それにも関わらず、まだ『the new base of incubator計画』はまだ第二段階で足踏みしているままだ。
ニュゥべえが感情をエネルギーを魔力に変える方法を理解してくれるまでは進展は見込めない。
逆に言えば、ニュゥべえがその方法さえ理解してくれれば、第三段階まではあっという間なのだが、
悩んでいても時間は刻々と過ぎて行く。
ここから先は頭だけではなく、身体も張らないといけないところなのだろう。
頭痛がするような難題だが、昨日暁美の表情から見て、魔法少女のみの『ワルプルギスの夜攻略』は勝算が怪しいようだった。
それに彼女たちのワルプルギスの夜以降のことも考えれば、『the new base of incubator計画』は必要になる。
まだニュゥべえと僕、正確には計画の全容を知っているのは僕しかいない。暁美や織莉子姉さんには伝えておきたいところだが、下手にアウトプットして旧べえどもに知られたらそれこそ取り返しが付かなくなる。
少なくても当分は彼女たちに教えることはできないだろう。
そんな
担当教員は小平先生と言ってこの見滝原中でも厳しい教師だ。授業中、ぼんやりとしている生徒はこの数学の時間に限っては一人もいない。
あのスターリン君でさえも、真面目にノートを板書している。いつもは自分が主人公の異能力バトルものの小説を書き
前に感想を聞かせてくれと読まされたことがあったが、序盤から絵に描いたような『最強の異能力』なるものを常備しているので苦戦どころか、ほとんど一行で敵が粉砕されていた。敵の名前もこの見滝原中の先生と同性同名だったことから、嫌いな先生に対して憂さ晴らしも兼ねているようだった。
文章の方は擬音が大半の内容を埋め尽くしているので非常に読みづらく、さらに思い出したように数行に一人づつヒロインを増やしていくので終盤に行くにつれて誰が誰なのか分からなくなっていく物語だった。
午前最後の授業も無事終わり、僕は伸びを一つしながら廊下を見渡す。
この一面ガラス張りの壁も『誰かに見られている』という感覚を生徒全員に持たせることで、恥ずべき行動を未然に減らす意味合いがあるんだろう。教師が通れば一瞬で教室内が見渡せるため、いじめの早期発見にも繋がる。
そう考えると、案外理に
「政夫くん」
「あ、鹿目さん」
声をかけてきた鹿目さん、そして彼女の後ろには美樹、志筑さん、杏子さん、暁美とカラフルな髪のいつもの愉快な皆が並んでいた。
こちらは毎日見ているが完全になれる気はしない。というより、何も感じなくなったらその時は僕の中で大切な何かが壊れてしまった時だろう。
しかし、最近はメッシュとかじゃないだけマシかなぁ、などという感想も持ち始めているのでもう末期かもしれない。
「お昼、食べに行こうよ。マミさんたちももう屋上で待ってるよ」
「そうだね。じゃあ、早く行こうか」
相変わらず、僕は男女比がおかしな昼食タイムを送るべく、彼女たちに連なって屋上へ向かう。
最初の頃こそ、やっかみや嫉妬の目線などもあったが、今では茶化した笑みで手すら振ってくれる男子が多い。
これも僕が同性のクラスメイトにも嫌われないように、昼休み以外の休憩時間に積極的に会話に参加し、困っていそうなら手を貸して、じっくりと印象操作をしたおかげだ。
そうでなければ、こんなにも可愛らしい異性に囲まれている僕は虐めの標的になっていたと思う。もっとも、このクラスの男子は気立てがいいことは確かだ。これも教室一面ガラス張り効果なのだとしたら、文部科学省は見滝原中のような構造の学校を増やすべきだな。
屋上へ上がると三年生の面子はすでに揃っていて、僕らを待っていてくれた。
「まー君。こんにちは」
「こんにちは、織莉子姉さん。巴さんも呉先輩もこんにちは」
挨拶を交わすと、呉先輩がたたっと近寄って来て僕の手を引いてベンチの方に乗ってるバスケットを指差した。
「政夫! 政夫! 今日ね、私頑張って政夫のためにお弁当作ったんだよ!」
「お弁当と言ってもサンドイッチだけどね。……おにぎりよりはうまくできていたから安心できるはずよ」
元気よく喋る呉先輩と、ちょっとくたびれた様子で補足する巴さん。それを見る限り、巴さんが呉先輩と一緒にお弁当を作ってくれたのだろう。仲良くやれているようで心がほっこりとした。
特に呉先輩は他の人とやっていけるか不安だった故に安心ができた。
「ありがとうございます、呉先輩。じゃあ、今日はいっぱい食べちゃうかもしれないです」
「うん! たくさん作ったからどんどん食べていって」
「……はい」
きらきらとした瞳で呉先輩は満面の笑みを僕に向ける。
……この笑顔を魔法少女になんかならないままで見たかった。
あの人の輪に入っていくことを怯えていた呉先輩が自分の勇気と意志だけで、この楽しそうな笑みを手に入れていたなら僕は心の底から祝福できた。
でも、『下らない奇跡』なんぞのせいで性格を捻じ曲げてしまった今の彼女を見るとどうしても悲しくなる。
もう少し僕がうまくやれていたら防げたのかもしれないと思うと、無意味だと分かっていても後悔の念が湧いてしまう。
今の呉先輩が幸せそうに見えるからこそ、あの引っ込み思案だった彼女の幸せを夢想して止まなかった。
大きな長方形のベンチを外側に輪を描くように座ると僕らは昼食を取り始めた。
「どうかな?」、と期待に満ちた視線を向けてくる呉先輩の前でサンドイッチを口に運ぶ。
中はベーコンとトマトとレタスの一番オーソドックスな具。どの具も不揃いでトマトに関しては完全に潰れていた。そして、マーガリンかバターのようなものが具の隙間にこれでもかと塗られている。
それでもこのサンドイッチを呉先輩が僕のために作ってくれたのだと思うと、嬉しさが味に付加されて、美味しさが感じられた。
「美味しいです。……ただマーガリンみたいなのはもうちょっと控えてもらえるとなお美味しくなると思いますよ」
「あ、そうだね。気をつけるよ」
「呉さん、あれだけ言ったのにまだ塗りこんでたの!? ちゃんと全部チェックしたのに……」
「まあまあ、巴さん。キリカが私やまー君以外の人の言う事を素直に聞くわけがないのだから、そう気を落とさないで」
呉先輩の隣でがっくりと肩を落とした巴さんを慰めるように織莉子姉さんが紙コップに大きめな水筒の中の液体を注いで渡していた。色と香りからして紅茶だろう。……それにしても織莉子姉さん。分かっているなら、巴さんに協力してあげればよかったんじゃないのか。
呉先輩は二人の台詞は聞こえていないのか、わざと聞き逃しているのか、僕に次のサンドイッチを勧めてくる。
「……政夫さんは本当に女性に好かれるのですね?」
志筑さんが何か含みのある雰囲気で微笑みながら、僕にそう呟いた。
表情は笑っているのだが、明らかに目や雰囲気が怒っていると告げている。
「あの、志筑さん? 僕、……何か君にした?」
「私『には』していません。ですが……」
「ですが?」
恐る恐る聞いてみると、志筑さんはくわっと目を見開いた。
「ほむらさんに対してあまりにも失礼な行いなのではありませんかっ!?」
「ほ、ほむらさんに?」
どういうことか分からず、暁美を見ると慌てたように志筑さんを止めようとしていた。
「ちょっと! 志筑さん、貴女!?」
しかし、志筑さんはそれを気に留めることすらせず、僕をまっすぐ見据えて話を続ける。
「政夫さんは一昨日、ほむらさんとデートをしたそうですね。にも関わらず、他の女性の手作りのお弁当を召し上がっているのは、いささか節操がなさすぎるのではありませんか!?」
最低の男だとでも言うように志筑さんは強い憤りを僕へとぶつけてくる。ある意味において魔法少女だの魔女だのよりも怖い、女の怒りだった。
僕はそれに押され気味になりながらも、志筑さんと暁美が親交を深めているらしいことを知り、ほのかな嬉しさを感じた。
暁美はこういったプライベートまで志筑さんにさらけ出し、志筑さんは暁美のためにこうして僕に怒っている。
僕の知らないところで新たな友情の絆が芽吹いていたらしい。そういえば、この前のデートは暁美に妙な知識を入れ知恵している人物の存在を感じたが、恐らくこの様子から見て、あれは志筑さんだったのだろう。
そうか。鹿目さん以外どうなろうと知ったことではないと言っていた暁美が、魔法少女とは関係なく新たな交友関係を築いたのか。
出会ったばかりの独りでだった彼女と比べると本当に感慨深い。
僕は志筑さんの腕を引いて発言を止めさせようとしている暁美の顔を見つめた。
恥ずかしそうに慌てている彼女にはもうこびり付いていた孤独な雰囲気はどこにもない。
「何で笑っているのですか、政夫さん!! 私は怒っているんですよ!」
「え? 今僕笑ってた? ごめん。気が付かなかった」
知らぬ間に頬が緩んでいたようだ。志筑さんには失礼なことをしてしまった。
「政夫さんはほむらさんの好意に
「……さっきから言わせておけば、好き放題言って……。何なんだ、お前? 私と政夫が仲良くしているのがそんなに気に食わないのか?」
呉先輩が怒りのこもった目付きで志筑さんを威圧する。
「そ、そういうわけでは……」
「じゃあ、どういうつもりなのさ! 不愉快だよ、こっちはせっかく愛する人と触れ合ってるっていうのに」
今にも噛み付きそうな勢いだ。流石に志筑さん相手に魔法なんて使わないとは思うが、呉先輩は本格的に気分を害している。
これはまずいな。すぐに
僕は呉先輩の肩に手を置いて、自分の方を向かせた。
「呉先輩。そう怒らないであげてください。彼女も自分の友達が
「……でもさ」
納得できないといった様子で呉先輩は口を尖らせる。
別に彼女も志筑さんに対して攻撃的な言葉を吐きたいのではなく、楽しい気分を邪魔されたのが気に食わなかっただけなのだ。
「それに僕の態度も悪かったかもしれません。好意を向けられていながら八方美人な行動を取り勝ちでした」
ここに居る女の子を見渡す。
誰に対しても一定の優しさを振りまいていた僕は確かに優柔不断と言われても仕方がないだろう。
特別、誰から好意を向けてもらおうとなどは考えてもいなかったせいで、積極的にそういったアプローチには応えるつもりがしなかったのは事実だ。
「志筑さんは僕にはっきりしてほしいんだよね? ほむらさんのこと」
「……はい。ほむらさんに好意を持たれている事を自覚しながら、他の女性に目移りしている政夫さんはあまり見ていて楽しいものではありません。もし、私がほむらさんの立場だったら耐えらないと思います」
そう言って、志筑さんは暁美を横目で見つめる。
暁美はその視線を受けた後に、思い切ったように僕へ顔を向けた。
「私も……、私も聞きたいわ。貴方の私への気持ち」
他の女の子は誰も口を挟まず、にぎやかな雰囲気は霧散されて屋上に厳かな静寂が訪れる。
美樹ですら茶化すことはせず、無言で僕を見ている。
これはある意味において公開処刑に近いものを感じる。人目に
恥ずかしさが心中渦巻く中、僕は暁美への想いを口に出す。
「僕はほむらさんのこと……好きだよ」
えっ、と小さな声が耳に届いたが、か細すぎて誰の声だか判別がつかなかった。
「でも、愛してはいない。僕の君への感情は恋愛ではなく、親愛だ」
嘘偽りのない言葉は、きっと暁美を傷付けるだろう。それを分かって僕はなお語る。
彼女の想いに応えられないと。
自分などを好きにならないでほしいと。
そして、最後にこう付け足した。
「僕は、多分人を本気で愛したことのない人間なんだと思う。これからもずっと、誰のことも掛け替えのない存在だとは思えない。だから、僕なんかじゃなくもっと素晴らしい人を好きになって」
「……そう」
暁美は小さく呟いただけだった。
彼女の瞳を伏せて、それ以上の言葉を発しなかった。
千の罵倒の言葉よりも、その無言が僕を責め立てた。
「……ごめんなさい」
頭を下げた後、僕はベンチから腰を起こす。すぐに屋上から去ろうと思った。
居た堪れなくなったのもあるが、僕がここに居ると彼女が涙を流せない。
後ろから、美樹が僕の背中に鋭い台詞を投げつけた。
「今の政夫……最低だよ」
「知ってるよ」
ドアノブを捻り、中の階段へと歩いていく。
言われなくても僕が一番知ってるさ。自分を最低じゃないと思ったことなんて一度もない。
この世で一番僕が嫌いな人間は、他ならぬ僕なんだから。
キャラの人数が多すぎると動かしづらいですね。
織莉子編は自重するべきだったか……。しかし、織莉子編がない場合だと変わりに政夫の性格が「ああなった」原因の話をかかなくてはいけないので、さらに陰鬱な過去話を挟まなければいけなくなったから、どっこいどっこいってところです。
最初は面白半分で入れた恋愛要素がここまで後を引くとは……。
まあ、元を正せば、この物語は、まどマギの世界観に一般人視点で突っ込みを入れるギャグストーリーだったんですけど。
キュゥべえが姿を政夫が視認させてしまった……いや、ショッピングモールでまどかを探しに行った時点ですでに崩壊していたのでしょう。