かくして“それ”は成った。大方予想していたとおり、暴虐なる悪鬼は世界を飲み込もうと手ぐすねを引いている。
賽は投げられた。もはや時間の進みは止め用がなく、少女たちはその時間の渦に呑み込まれようとしている。
もはや一刻の猶予もない。だからこそ、その時は来た。絶体絶命の窮地、これをひっくり返すとなれば、それこそ“盤外”から駒を持ち出すしかない。
禁じ手だ。誰もが考えもしないことだろう。誰もが想定もしなかった状況だろう。だからこそ、すべてはここに終息する。
ミッドウェイ海戦から始まり、マリア沖、レイ沖――南西諸島“沖ノ島海戦”。キス島撤退戦。第一次カスガダマ沖海戦。北方海域艦隊決戦。
すべての行末がここに決する。
長かった戦いが帰結する。
だからこそ、思いを込めて手を伸ばす。暗く、そして何もない海の底。瞳を開いているのか、閉じているのかすらわからない暗闇の中に、ただ自分自身という存在だけがある。ここは、つまりそういう場所だ。
伸ばした先に、何かが宿る。“恨めしい”。――“海の上に在る者が恨めしい”。それらは一つではない。千、万、億、兆。
幾つも、幾つも幾つも幾つも幾つも。
“恨めしい”と。“憎らしい”と。声が重なり、耳を貫く。果たして正気とは思えないほど、狂気を伴ってその世界はある。
――地獄といえた。
――無間地獄だと、言えた。
解っている。死んでしまったのだから無理はない、行きたかったのだから仕方ない。それでも一言言うならば――“やかましい”。
どうでもいい、わざわざ自分を構わないでほしいものだ。
さぁ、始めよう。ここからが――
『――――、』
思考を止めた。
何かが聞こえたように思えたのだ。聞き覚えのある声、忘れるはずもない、彼とは少し前に、会話を交わしたばかりであるのだ。
だからこそ、耳を疑った。
『聞こえているんだろう?』
――話しかけている先は、間違いない、あまりにもあまりであるが、間違えようもない。何故ならば、彼が語るのだ。呼びかけるのだ、その名前を。
本当に、少しばかりの意思を込めて。
『――――――――“電”』
海に“在る”かつて自分自身であった艦名を、呼んだ。
――ニィ、と口元が緩むのを感じた。よもや自分の存在を、気取るものがいるなど考えもしなかった。
『君は、この瞬間を待っていたはずだ。知っていたはずだ。ならば、君が何とかしろ。これは君の――戦いの行末であるんだぞ?』
そう、そうだ。
解っているではないか、彼は――南雲満という青年は。
『全てを終わらせる時だ。姿を見せろ、“電”』
――眠りについていた身体中に力を込める。そう、“その時は来た”。満の言葉、そして返す自身の言葉、それらは同時。唱和した。
『さぁ、始めよう。ここからが――――反撃の時だ』
♪
何を言っているのかと、島風は思考を複雑に揺らした。急に満が声をかけた先は、島風でも、金剛でも、北上でも、愛宕でも、龍驤でも、――赤城でもない。
ありえない存在に、矛先を向けたのだ。
「……何を?」
――何を言っている? 電? 彼女がこんな所にいるはずもない。
誰もがそう考えた。誰もがそう疑わなかった。島風は、満の正気を、思わず確かめるような心持ちを抱いたのだ。
――だが、違った。
最初に動きを見せたのは龍驤だった。
気がついた。即座に回避運動に移る。一切のよどみもなく、気がついたことは幸運、しかしそこから先は、彼女の実力あってこそだった。
間一髪、砲撃も、航空爆撃も避けきったのだ。そして愛宕も、我に返ったように飛び出して、倒れた北上を抱き起こして状態を確かめる。大丈夫だ、これでもう、彼女が沈む心配はない。
信じられないことだった。――先ほどまで島風たちを支配していたはずの渦潮が、延々と広がり続けていたそれが、シン――と静まり返り、海は平静と化している。
「何……で」
今度こそ、あらゆる疑問が島風を支配していた。満に対する疑いも、何もかもを忘れ果て、ただその現象が、島風のすべてを覆い尽くしていた。
「――怨念一つ一つに“干渉”しました。深海棲艦はあれで、中枢は共通していますから、深海棲艦と同じシステムに干渉できるこの海の底からならば、容易にこの状況はひっくり返せます」
言葉が、聞こえた。
――懐かしい声だと、そう思った。信じられない声だと、そう思った。
同時に、突拍子もなく、とても懐かしい、姿を見た。
その髪も、その姿も、その瞳も、よく覚えている。ただ、声だけは聞かなければ思い出せなかった。島風が覚えている原因である少女と、その声は少しだけトーンが違うようであったからだ。
口にする。
――感情はきっと、今にも溢れてしまいそうな“歓喜”であったのだと、後に思い返してみて解る。その時は、もう訳も分からずその名前を、呼ぶしか無かったのだ。
「――――電?」
「……はい、そう“なのです”。正確には“先代の”という冠詞がつきますけれど」
海の上、彼女は突如として現れた。
“先代”の電。間違えようもない、かつてあの少女が持っていた“雰囲気”と、今目の前にいる電が有する雰囲気は、酷似している。
そして突如として現れた――その意味も、今ならばだいぶ、察しがつく。
「……まさか、“念現象”デースか?」
金剛が、恐る恐るという風に問いかけた。彼女はといえば、未だに装甲空母姫の周囲を旋回、敵の砲撃をひきつけている。渦潮が消え、金剛は無視できない存在に変わったのだ。
「そうですね。これはその応用です。もう少し体系に沿ったオカルトですけど」
「ですが、先代の“電”はすでに轟沈したはず。――ありえません、余程のことがなければそんなこと!」
言うは赤城だ。彼女自身がそもそも轟沈から復活した艦娘であるが――だからこそ、解るのだ。一度沈んでしまえば艦娘の魂は散ってしまう。後はその散った魂が、怨念に変わるのを待つ他ない。
だというのに――電は沈んでいる。既に次代の電も存在している。それでもなお彼女がそこに“在る”には、訳が必要だ。
「あれ? 前にもいいませんでしたっけ? ほら、深海棲艦には“自分と似たような存在”を仲間と誤認する性質が在るって」
――はっとする。
思い出した。たしかにそんなことをミッドウェイ海戦で初めて相対した“電”は言っていた。――駆逐艦の残骸を赤城に見せてそれを実践してみせた。
そう、それと同じことだ。海の中にいる彼女は深海棲艦と誤認されている。思念だけが、暗い海の中にいる感覚を赤城は知っていた。おそらくは――満もそれを感じていただろう。あの中に、“電”は沈んでからずっと存在し続けていたのだ。
「とはいえまぁ、よっぽど人の話を聞かないか、“私みたいに”慣れっこじゃないと、周りの声に発狂して結局深海棲艦になってしまうんですけれどもね」
「……なっ!」
突如として、電の身体が異様にぶれた。接続が不安定なるような、砂嵐の如きブレ。同時に、声も大きく変質する。
姿が、二重に重なっているようだった。
――電は慣れっこ、と言った。自分は“海に沈みなれている”と。その意味することは何だ? ――彼女は本来、電ではなかったのだ。彼女は沈み、生まれ変わるたびに新たな艦娘となった。電も、その一つに過ぎない。
ならば、その源流は?
「幸運でした。――まさか南方で沈んだと思っていた私の換装が、こんな所にまで流れ着いていたわけですから」
――“七十年前”と、あの時。
満と会話した時の“電”はそういった。その意味するところは――
もしも、もしもだ。それが例えば――数十年も昔にあった大戦。世界の行末を左右しうる戦いの当事者であったとすれば?
今の時代に、伝説として名を残す艦娘であったとすれば? ――同じなのだ、電と。伝説と呼ばれ、幸運と呼ばれ、無敵と呼ばれた駆逐艦、先代“電”と。
その少女は、同一なのだ。
その姿が今にも切り替わろうとしている。その直前、声を上げる者がいた。
島風である。
「……電!」
「――島風、お久しぶりです」
「電、なんだよね?」
「はい、そうですよ。先代の電、“なのです”」
――その声は、明らかに震えていた。今にも、何かを決壊させてしまいそうなほど。
「何で、沈んだの!? 何で、勝手にいなくなったの!? 何で私を……置いていったの」
もう、聞いていられないほど、彼女の心は弱っていた。無理もない、信じられないことが幾つも起こったのだ。そしてその“信じられないこと”が、あまりに島風を震わせてしまうのだ。――歓喜という感情で。
「私にはやらなくてはならないことがあったの。それに、島風には、私が知っている頃よりもずっと、大きくなって貰わなくちゃ行けなかった。……島風の成長に、私は少し邪魔だから」
「――そのために、沈んだの!? 沈むって、怖いことでしょ!? 寂しいことでしょ!? なのに、何の躊躇いもなく沈めるの? 無事だってわかってるって、そんなの言い訳にならないよ!?」
――電は言ったのだ。慣れっこでなければ発狂し、深海棲艦へ落ちていってしまうと。つまり沈めば、おどろおどろしいほどの狂気にさいなまれるというのに、それでも電は沈むというのだ。
誰かのために――今、この時のために。
「それが……私のやり方なのです。黙っていてゴメンナサイ。――私のこと、幻滅しましたか?」
電という存在は――その根源にあるものは、見方を変えればあまりにドライで、そしてそして不躾だ。仲間たちを、ある種駒のように利用して、時には自分の命すら投げ出す。
――あの“夜”。満の前に現れた“先代の”電が語った彼女の理想は、そういう理想だ。
「……バッカ」
島風は――
「そんなわけ、無いじゃん」
――泣いている。泣いて、怒って、それでも心の底から、喜んでいる。
親友なのだ。電は、大切な仲間なのだ。たとえ彼女が“どうしようと”島風の中で、それは変わらない。
「――おかえり」
「……ただいま」
それが、“先代”電の、電としての最後の言葉だった。切り替わる。入れ替わるように現れる。
――七十年前の大戦で、当時敵の中枢がいた最深部に突入した艦娘は一人を残して轟沈している。そしてそれは時雨という名の駆逐艦で、沈んだのは当時の連合艦隊旗艦武蔵とその相棒雪風とて例外ではなかった。
だが、何故時雨という艦娘は生き残ったのだ? 誰もが死した激戦の中で、何故? 生き残ったのが“雪風”でも“武蔵”でもなく、なんでもない一駆逐艦でしかなかった“時雨”なのだ? ――雪風は確かに武蔵に信頼されていた。だが、時雨にはそんなことは一切ない。つまりそれは、時雨が単なる駆逐艦でしか無かったことを示している。
だが、時雨は生き残った。――その、意味するところは、時雨という存在を、“電”という存在に置き換えればすぐに分かる。
そう、駆逐艦が特別だったのではない。その駆逐艦に宿った魂が、特別だったのだ。
「改めて、お初お目にかかります。陽炎型八番艦“雪風”です」
彼女は、南雲機動部隊に対し、そういって挨拶をした。
――伝説の駆逐艦。数十年前の大戦を生き残った、“時雨”に最終的に宿っていた魂であり――幸運艦雪風、その人である。
♪
“先代”電――改、雪風の活躍により世界を飲み込むほどの渦は消え去った。そう、残る敵はあとひとつ――深海棲艦特殊艦艇“装甲空母姫”。
『さぁ、これがクライマックスだ。これで決めるぞ、いいな、島風』
「――任せて下さい」
信じられないほど、今の島風には気力が満ち満ちていた。――もう、雪風は海の上にはいない。だが、彼女はあくまで海の中で行動する必要があるから海の上に現れることができないのであり、今もまだ生きている。
――この戦いが終われば、換装のサルベージを行うことができるだろう。それが解っているからこそ、島風は勢いを感情に載せた。
やる気が、でないはずがなかった。
「まぁ、色々ありましたけれど、これでフィニーッシュ? んんんー……その通りデースッ!!」
ぱっと、金剛が諸手を上げて見せる。こちらもまた、気合十分。
「北上さんは、私がお守りします。……もしも沈んだら、あの人に悪いですしね」
「よろしくねー」
愛宕は、北上を背負い意気込んでいる。彼女は大破した北上の護衛と、対空防備、その三式弾を大いに活用することになるだろう。
「……ふふ」
龍驤は、一人おかしげに笑った。――自分の知っている“伝説”と呼ばれた駆逐艦は、本当なもっとすさまじい“伝説”の持ち主だった。それが、嬉しくて仕方ない。
まるで自分のことのように、喜んでいた。
「――提督」
『赤城、後は君たちにすべてを託す、思い切りやってやれ。終止符を、打ち込んでやるんだ』
「了解!」
赤城は、少しだけ勇気を満から受け取った。別にどうしても必要というわけでもない。ただ、それが在るだけで、赤城は自分が無敵になったかのような感覚を覚えるのだ。
『さぁ引導を渡せ、この世界の行末に、ひとつの証を刻んでやれ――――南雲機動部隊ッッ!』
「――はい!」
島風の応答。そして、艦隊は動き出す。――否、島風のみが、装甲空母姫に向けて飛び出した。最後を飾る一撃。それは島風の手によって行われる。
同時に空がにわかに騒がしさをます。龍驤の艦載機が再び発艦した。そして敵艦載機と同様に、赤城の艦載機が出し惜しみなく投入される。
混沌と化す空中戦。そこに赤城達の狙いがあった。
発艦した赤城編隊のウチ、空爆『彗星』が急降下爆撃のため列を離れ飛び立つ。そして、『烈風』及び『流星改』が、猛烈な勢いで比較的低空の空を走り抜ける。
狙いは先ほど同様、敵の挑発。だが、同じ海戦の中で二度も策が通用するほど深海棲艦も愚かではない。だからこそ、搦手という概念が存在するのだ。
先の本命、龍驤攻撃隊が、無茶とも言える特攻を敢行する。それを見過ごす装甲空母姫ではなかった。即座に機銃。そして艦戦が龍驤の『流星改』を狙い打つ。
混戦が生まれた。敵艦載機を撃滅スべく突撃を行う赤城の艦戦及び、敵に突撃を行う龍驤のと赤城の艦攻。三者がそれぞれの位置から装甲空母姫編隊をかき乱す。
荒れに荒れた。もはやそれぞれ、敵味方を認識するしか無いほど、状況は乱れきっていた。
そして――海。
飛び出した島風の砲撃が装甲空母姫をかすめる。回避行動でそれを装甲空母姫は往なす。砲撃は、金剛達へ向け無くてはならない。この場の最大火力は、やはり金剛なのだ。
――だが、島風はあえて挑発するように、いくども装甲空母姫に砲撃を続けた。それは挑発という意味合いもあっただろうが、無視できない位置に自分が存在していることを教える意味合いもあった。
砲撃の手を緩めれば金剛に押し切られる。かと言って回避行動にのみ専念することはできない。速度は島風の方が上。――つまり、いつかは追いつかれ、直撃を受ける。
艦載機はつかえない。あまりの膠着状態で、手を出すことができないのだ。
とはいえ、それはある意味チャンスとも言えた。装甲空母姫の機銃はもはや意味を為していない。あまりの混戦具合に、放てば自身の艦載機すら巻き込んでしまうのだ。
ということは、だ。使えなくなった機銃は、自由に振り回すことができる。火力は無いに等しいが、島風への牽制には使える。あまりに近づくのであれば、これで蜂の巣にしてしまえばいい。
ようは、それは島風の狙いと同様だ。――超至近であれば、どれだけ火力の低い一撃でも、十分な殺傷力を得る。この場合、島風の攻撃そのものがそれに辺り、装甲空母姫の機銃が同様であった。
絶え間なく音を立て、機銃がついに火を噴いた。慌てて島風が回頭する。円を描くように船体を動かして、迂回するように接近を試みる。
だが、機銃は隙間なく弾幕を作る。これでは装甲空母姫に接近することが不可能だ。――それでも、手はある。島風は、一瞬距離を取り、そして構えた。
狙いは簡単。金剛の援護を受けること。狙い通りであった。金剛は島風の意図を確実に理解している。そう、島風の目前、装甲空母姫から島風を覆うように、砲弾が突き刺さったのである。
かくして、装甲空母姫の視界から島風は消え失せた。
ここから現れるとすれば三択。左右か、中央か。ほとんど直感であった。――装甲空母姫は、その中から中央を選択する。
島風は、必ず水柱を突き破り現れる、と。
須らくそれは正解であった。島風は装甲空母姫の予想通り、水柱を蹴破って現れた。だが、装甲空母姫の予測に反し、彼女は蜂の巣にはならなかった。
問題は、その体勢にある。彼女はほとんど体勢を横にして、倒れこんで突き進んできたのである。これでは、本来頭を狙うはずだった一撃が、意味を成さなくなる。そして、島風は装甲空母姫の機銃を“すり抜けた”。
そのまま機銃の射線から外れるように横にそれ、更に追いすがる機銃すらも回避して島風は接近する。体制を立て直し、それでも当たらないようギリギリまで体を丸め。
――そして、
「――届いた!」
そう、つぶやいた。
――その頃、上空では混迷を極める格闘戦が繰り広げられていた。編み玉の如くもつれ合った艦載機。その中を“通り抜ける”艦載機がいた。
誰も、それを意識することはできなかった。気がついたとしても、誰かが追っているだろうと思うしか無かった。それほど、余裕がなかったのだ。
だが、違う。通り抜けた艦載機は南雲機動部隊の“本命”だ。そう――飛び立ち始めた直後、赤城の編隊から抜けた艦爆『彗星』の一群。狙うはひとつ――装甲空母姫だ。
直上から、狙う。
――金剛が、北上が、愛宕が、龍驤が。
その姿を見送った。
赤城が、そして島風が、最後の一撃に意識を詰める。
赤城のそれを含めて島風が代弁するように――――
「いっッッケェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
咆哮が、轟いた。
そうして、ありとあらゆる島風の武装が、主砲が、魚雷が――そしてそれとは別に、赤城の艦爆が。一斉に、装甲空母姫を――貫いた。
爆発。
――、
直撃は、島風の耳をハジケされるかのような爆音を伴った。黒煙が装甲空母姫の前進から溢れ――
そして煙が晴れる。
超至近から一撃を受けても、装甲空母姫は決して身動ぎはしなかった。ただ押されるようにぐらりと揺れ、そのままだ。
ぐん、と瞳が目一杯島風へと向けられる。射殺すかのような瞳。けれども、それだけだった。
怖くないとばかりに島風がニィっと口元を歪める。
爆発が、もう一度起こった。
――今度こそ、それが装甲空母姫の終焉だ。
軋みを上げて沈みゆく彼女を島風は見送る。戦いの終わりと呼ぶには、あまりに上出来過ぎるかもしれない。
だが、島風には実感があった。これで終ったのだ。
――長い長い戦い。南雲満がこの世界に転生し、戦って、戦って、悩んでまた戦って、辿り着いた一つの結末。
かくしてカスガダマ沖海戦は集結した。
各々の思いと、各々の成長をその証とし、――一つの収穫を、その戦利品とした。