仮面ライダーディケイド Another End   作:オンドゥル大使

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悪鬼

 火球が背中に迫った瞬間、ディケイドはスカイライダーを盾とした。

 

 それと同時に、銃型に変形していた武器――ライドブッカーを本来の形である本型に展開し、中から一枚のカードを取り出す。それを腰にあるバックルの差込口へと入れ込んだ。その瞬間、『クロックアップ』という電子音とともに、ディケイドは戦闘機を足場にして遥か上空へと一瞬のうちに跳躍した。

 

 直後、真下で爆発音が起こり、大気を振るわせる。

 

『クロックアップ』は限定的ながら、超高速の加速力を使用者に与える能力だ。元々は仮面ライダーカブトの武装だったが、ディケイドにとっては誰の武装であろうが関係がない。

 

 ディケイドはクロックアップ状態のまま、バーコード状の翅で大気を切りながら旋回し、先ほど自身を襲った火球を撃ち出した本体へと目を向けた。

 

 そこにいたのは一体の赤い龍だった。蛇のように長い身体を持ち、獣のような前肢を向け、鰐のように裂けた顎を開いて咆哮する。ディケイドはその龍の名を知っていた。本来ならばある世界の、鑑の中にしか存在できない魔物、モンスター。その一種、ドラグレッダーだ。

 

 さらにそこにいたのはドラグレッダーだけではない。その頭部に、何者かが乗っていた。ディケイドの複眼がその姿を捉える。

 

 それは西洋の鎧のような銀色の甲冑に身を包んでいた。生身の部分は赤く、左腕にドラグレッダーの頭を模した形の篭手を装着し、右腕には中国の青龍刀のような形をした剣を握っている。頭部の鎧の合間から赤い複眼が覗き、ディケイドを睥睨する。

 

「――龍騎か」

 

 ディケイドがその名を呼ぶと、龍騎は剣の切っ先をディケイドに向け、忌々しげに言った。

 

「スカイライダーを身代わりにしたか。卑劣な真似を」

 

「卑劣だと?」

 

 龍騎の言葉を聞いたディケイドは嘲笑うかのように返した。

 

「卑劣なのはお前も同じだ。俺を殺すために、この世界の人間を一人、殺したじゃないか」

 

「多少の犠牲は止む終えまい。お前は危険な存在だ。ここで、俺が倒す」

 

 龍騎の手が、ベルトへと伸びる。龍騎のベルトの黒いバックル部分には数枚のカードが納められている。そこから一枚、龍騎は抜き取り、目の前に掲げた。そのカードには金色の翼が描かれており、背景の赤い炎がカードの中で揺らめいている。そのカードの上部には『SURVIVE』と刻印されている。

 

 龍騎は左手の篭手を前にスライドさせ、そのカードを篭手の中に挿入した。篭手を元の位置に戻す。その瞬間、『SURVIVE』という電子音がどこからとも無く響く。

 

 瞬間、龍騎の身体に変化が訪れた。鎧の隙間から現われた炎が、龍騎の身体に纏わりつき、周囲の大気を焼き尽くす。その炎は龍騎だけでは無く、ドラグレッダーをも飲み込んでいく。巨大な炎が、龍騎とドラグレッダーを球体状に囲み、その全身を覆うと同時に、光とともに弾け飛んだ。

 

 そこにあったのは先ほどの龍騎とはまるで違う姿のライダーだった。赤く巨大な鎧を身に纏っており、左手の篭手は消え、代わりにドラグレッダーの頭部を模した銃器をその手に握っている。また、そのライダーが駆るドラグレッダーの姿も変わっていた。全身が逞しくなり、前肢を支えていた肩の部分が巨大化している。

 

 ドラグレッダーは先ほどよりも裂けた巨大な口を開き、咆哮した。その一声で大気が振るえ、熱を孕んだ呼気がディケイドの身体を貫いていく。

 

 しかし、ディケイドは少しも臆することなく、冷静に目の前の状況を分析した。

 

「なるほど。龍騎サバイブか。切り札であるその姿になってまで、俺をこの場で殺したいというわけか」

 

 その言葉に龍騎は「ああ」と言って頷いた。

 

「世界の破壊者、ディケイド。お前は、ここで俺に殺される」

 

 龍騎は銃口をディケイドに向ける。その姿を見たディケイドは鼻で笑い、ライドブッカーを銃の形に展開した。

 

「俺を殺す、か。いいだろう」

 

 ディケイドは銃を構え、龍騎に向けて言い放つ。

 

「来い。全てを破壊してやる」

 

 その言葉を合図としたかのように、ドラグレッダーが咆哮し、ディケイドに向けて速度を上げて滑空する。ディケイドはライドブッカーの中からカードを一枚取り出し、ベルトに挿入する。

 

『アタックライド、ブラスト』という電子音が響いた瞬間、銃を握るディケイドの手が、銃ごと三つに分身する。その分身した銃から赤い光が撃ちだされた。それをドラグレッダーは空中で身を傾けて、巧みに避ける。それと同時に、裂けた口を大きく開いて、ディケイドに噛み付こうとした。ドラグレッダーの炎を纏った牙が目前に迫る。ディケイドは舞い踊るかのように、その牙を寸前のところでかわし、ドラグレッダーの首筋を足場として疾走する。

 

 それを見た龍騎は舌打ちをしながら、バックルから新たにカードを取り出し、銃器に差し込んだ。『Sword Vent』という電子音とともに、銃器の先端が刃に変形していく。ディケイドは既にライドブッカーを剣の形態に展開し、そのまま斬りかかった。

 

 ドラグレッダーの身体の上で、二つの剣がぶつかり合い鋭い金属音が響く。ドラグレッダーは身をよじりながら上昇と下降を繰り返し、ディケイドを振り落とそうとするが、ディケイドは背中の翅でバランスを取っているのか振り落とされることは無い。無論、ドラグレッダーを駆る龍騎はバランスを崩すことも無く、ディケイドの剣に応戦する。

 

 ディケイドの剣が垂直に振り下ろされる。それを龍騎は頭上で弾き、ディケイドに向けて突きを放つ。それをディケイドは紙一重で避けると同時に、反転しながら横薙ぎに剣を振るった。龍騎がそれに反応し、後ずさる。その鎧の胸の部分に、浅いながら生々しい傷が刻まれていた。それに対して、ディケイドは無傷である。

 

 ディケイドは剣を肩に担いで、ため息をついた。

 

「その程度か? 龍騎の名が泣くぞ」

 

「黙れ! 悪魔!」

 

 龍騎は激昂したように叫び、剣を構えなおす。それを見たディケイドが、呆れたように息を吐きながら、ライドブッカーからカードを一枚取り出した。

 

「……悪魔、か。なら、その悪魔と、お前らとの格の違いを分からせてやる」

 

 そのカードをバックルへと差し込む。『アタックライド、スラッシュ』の音声が龍騎の耳に届く前に、龍騎は雄叫びを上げながらディケイドへと斬りかかった。その剣をディケイドは振るった刃で弾く。刃と刃が交わった瞬間、ディケイドの剣が三つに分裂し、龍騎の刃を貫通して赤い鎧を横一文字に切り裂いた。

 

 何が起こったのか。その疑問を龍騎が発する前に、ディケイドの刃が再び龍騎に襲い掛かる。咄嗟のことに反応しきれず、龍騎はその身にディケイドの三つに分裂した赤い刃を受けた。刃は龍騎の身体を、ベルトごと斜に切り裂いていた。黒いバックル部分が切られた部分から罅割れ、次の瞬間、バラバラにそれは砕けた。

 

 それと同時に龍騎の身に纏っていた赤い鎧が硝子のように弾け、元の姿へと戻っていく。龍騎は力尽きたかのように膝を折った。それを見下ろしながら、ディケイドはライドブッカーから一枚のカードを取り出し、バックルに挿入する。

 

『ファイナルアタックライド』の電子音がドラグレッダーの上で鳴り響いた瞬間、龍騎は顔を上げた。

 

「ま、待て! 俺は、もう闘えない。だから、これ以上は――」

 

「だから、どうした?」

 

 龍騎の言葉を遮り、ディケイドが言った。ディケイドと龍騎の間の空間に、光のカードが何枚も展開されていく。

 

「言っただろう。俺は、全てを破壊すると」

 

 ディケイドの身体が跳び上がり、空中で飛び蹴りの体勢を取った。それと同時に光のカードも浮かび上がり、龍騎へと一直線に配置される。光のカードを貫通しながら向かってくるディケイドに、龍騎は叫んだ。

 

「くそっ! この、悪魔が――!」

 

 その言葉が響ききる前に、ディケイドの蹴りが龍騎を貫き、ドラグレッダーの胴体をも引き裂いた。

 


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