仮面ライダーディケイド Another End   作:オンドゥル大使

17 / 25
輪廻

 

 次に視界に飛び込んできたのは満天の星空だった。

 

 その星空を狭めるように物理法則を無視したビルの群れが乱立している。夏海はその光景に見覚えがあった。

 

「……ここは、『ライダー大戦の世界』の中にあった場所じゃ――」

 

「いいえ。あれは、この場所を模倣した世界です」

 

 突如として響いたその声に、夏海は視線を向けた。そこには白い服を着た紅渡がビルの側面に立っていた。夏海はその姿を、信じられない、と言ったふうな眼で見つめ、戦慄したように後ずさった。

 

「……嘘。どうして? だって、私はあなたを」

 

「はい。確かに。僕はあなたに殺されました」

 

 夏海が濁した語尾を、渡は平然と言い放った。渡はビルの側面から跳び、夏海と同じ地面に降り立った。夏海は士を抱えて後ずさろうと、手に力を込めた。しかし、その手は何も無い空間を掴んだ。見ると、先ほどまで傍に寄り添っていたはずの士の姿が無かった。夏海は焦って周囲を見渡すが、どこにも士の姿は無い。

 

「……士くんは?」

 

「彼はこの世界には来られませんよ。ディケイドは消滅し、内包していた『クラインの壷』が開いた。そうなった以上、門矢士という器は最早意味を成さない」

 

「どういう意味ですか? さっきから『クラインの壷』って。それに、士くんが器っていうのは一体……」

 

 夏海が渡の言葉に眉を寄せて反論する。それを見て、渡はため息をひとつ吐いて、仕方がない、と言った。

 

「あなたも既に無関係ではありませんからね。全てをお話しましょう。これからお話しすることが、あなたの知りたがっていた〝真実〟です」

 

 その言葉と共に、星空の一画に映像が映し出される。そこには青い光を放つ星がひとつ浮かんでいた。

 

「世界は、元々はひとつでした。ライダーなどは存在せず、怪人もいない。ただ人間同士が殺しあう、哀しい世界。もし、世界を見守る神というものが存在するのならば、それを嘆かわしく思ったのでしょう。ある瞬間、世界は分岐を始めました」

 

 渡の言葉に反応したかのように、青い星は全く同じ姿に分裂した。それは単細胞生物が増殖する様に似ていた。

 

「言ってしまえば並行世界です。ですが、最初は並行世界といえど、最初の世界、我々が『起点の世界』と呼ぶ場所からはそうそう飛躍した世界ではなかった。起こるべき戦争が起こらない、死すべき人が死なない等、変化の乏しい世界。しかし、それでは『起点の世界』とほとんど変わらない。人は醜い争いをするばかり。そこで、世界は急激に変化を始めました。すなわち今までの人間の価値観を大きく覆し、人間以外の敵を創り上げることで世界に多様性をもたらそうとした。これが『仮面ライダーの世界』の出現です」

 

 分裂していた青い星のひとつが、他の青い星から離れていく。恐らくあれが『仮面ライダーの世界』なのだろう。

 

「これによって最初はかなりの成果が得られました。仮面ライダーと、ショッカーと呼ばれる組織が造り出した怪人達との戦争。それは他の並行世界では見られなかった、人間の進化を見出せたからです。――しかし」

 

 含んだような渡の声と共に、『仮面ライダーの世界』が他の並行世界とは独立して分裂を始める。それは今までの緩慢な分裂とは比較にならないほどの速度だった。瞬く間に青い星が増え、暗礁の景色を埋め尽くしていく。

 

「『仮面ライダーの世界』はその独自性ゆえに、『起点の世界』と同じく自己分裂を始めた。それによって仮面ライダーという存在を核とした世界が無数に生まれてしまうことになったのです。その爆発的な増加によって、並行世界はバランスを崩し始めました」

 

『仮面ライダーの世界』から生まれた二十四個の青い星は、やがて各々の引力に引かれあい、玉突きのようにぶつかりあい、砕け散りながら『起点の世界』へと向かっていく。

 

「これが最初にあなた方に伝えたライダー世界の融合現象です。融合した世界は隣接する世界を取り込み、ひとつになろうとする。ですが、あなた方に教えたのは表面に過ぎない。見てください。これから起こることが、隠していた真相のひとつです」

 

『起点の世界』に巨大な塊となったライダー世界が迫る。その時、『起点の世界』から米粒ほどの大きさしかない紫色の光がライダー世界に向けて放たれた。それは幾何学的な軌道を暗い空間に描きながら、先端にあるライダー世界を貫いた。瞬間、先端のライダー世界が風船のように弾け、内側から爆ぜた。その衝撃に夏海は思わず、顔を覆った。紫色の光はそのライダー世界を貫くだけでは飽き足らず、次のライダー世界も貫き、内側から崩壊させる。

 

 その紫色の光が何であるか、夏海には分かった。

 

「……あれは、ディケイド?」

 

 夏海の言葉に渡は頷いた。

 

「そうです。『起点の世界』はライダー世界の侵攻を防ぐために、全てのライダー世界の能力を持った〝世界〟の一部を撃ち出した。それがディケイドです。元々、ライダー世界は『起点の世界』から生まれたものですから。全てのライダー世界の情報を集約させたものを創り出すのは不可能ではない。つまりディケイドは世界の破壊者であると同時に、『起点の世界』からしてみれば救済者でもあった。ご覧ください。これが世界の破壊者の、最初の姿です」

 

 紫色の光は星々を貫き、切り裂いていく。瞬く間に増殖したライダー世界は、それを凌駕する速度で破壊されていく。紫色の光が青い星に突っ込み、円錐状の穴が生じたかと思うと、反対側から紫色の光が突き抜け次の瞬間に星は内側から爆発する。

 

 夏海は呆気に取られたように、その様子を見つめていた。星々を破壊する紫色の流星。それぞれが積み上げた歴史を一瞬のうちに消し去る閃光。それはまさしく世界の破壊者の姿そのものだった。

 

 二十四のライダー世界は残すところ、あと九つとなった。その内のひとつにディケイドは潜り込んだ。

 

 しかし、今度は先ほどまでと違い、一瞬で出てくるということはなかった。夏海が不審そうにそれを見つめていると、渡が口を開いた。

 

「ここで一度、世界の破壊者は滅びます。中をお見せしましょう」

 

 渡が指を鳴らすと、青い星が急速に拡大される。衛星写真のように日本の国土が見え、そこからさらに拡大され山岳地帯の一部へと場面は展開する。雪が降っているのか、山は白く染まっていた。

 

 その白銀の景色の中に三つの影があった。ひとつはディケイド。それに対抗するのは尖った漆黒の鎧を持つライダーだった。

 

「……クウガ。じゃあ、あれは、ユウスケ?」

 

 しかし、ユウスケが先ほどまで変身していた姿とは複眼の色が異なる。ユウスケの変身していたクウガは複眼が闇のように黒かったが、今目の前でディケイドと対峙するクウガの複眼の色は目が醒めるかのような真紅だった。

 

 夏海の疑問に、渡は首を横に振った。

 

「いいえ。あれはあなたの知る小野寺ユウスケの変身するクウガではない。あれはオリジナルのクウガです」

 

「……オリジナル? そういえば、さっき鳴滝さんがユウスケのことをレプリカって――」

 

「そのことについては追々説明します。今はこれを黙って見ていてください」

 

 夏海の言葉を遮り、渡は映像に視線を固定した。真実は教えるが質問にはいちいち答えないということなのだろう。夏海は不満ながらも、黙って映像を見つめた。

 

 映像の中にはディケイドとクウガのほかにもう一人、人影が立っていた。クウガの後ろに立っているということはクウガの側の人間なのだろう。コートを羽織り、ディケイドに銃口を向けているまだ歳若い男だった。鋭い眼光を湛えたその風貌は「刑事」という言葉を自然と夏海の頭に想起させた。

 

 黒いクウガがディケイドに向けて駆けていく。それに対し、ディケイドはその場で静止したまま、ライドブッカーの刃を振るい、一撃でクウガの左腕を斬りおとした。鮮血が白い地面をまだらに染め上げる。クウガは左腕を落とされてもなお、残った右腕で渾身の拳を放つ。しかし、万全のディケイドにそれは通用しなかった。ライドブッカーで拳を受け止めたディケイドは、身体を捻り回転を加えた一閃をクウガのベルトに向けて放った。その一撃がクウガの黒い霊石から肩口までを切り裂く。傷口から迸った赤がディケイドに雨のように降り注ぐ。

 

 クウガの背後に控えていた刑事風の男がそれを見て、何事か叫びながらディケイドに発砲する。しかし、ディケイドに弾丸など通じるはずが無い。すぐに弾を使い切った刑事が次弾を装填しようとする間に、一瞬にして男の目の前に立ったディケイドが男を蹴りつける。

 

 雪の上を男は転がり、苦悶の表情を浮かべた。その手から銃が滑り落ちる。男へとディケイドはライドブッカーを剣の形に変形させ、雪を踏みしめながらゆっくりと迫る。ディケイドが男を見下ろし、その手を振り上げた。その時、突然、ディケイドの身体から高熱の炎が上がった。何が起こったのか、理解し切れていないディケイドに後ろからクウガが組み付いた。暴れるディケイドを必死で押し止めながら、クウガは刑事の男に向けて叫んだ。

 

 ――逃げてください! 一条さん! こいつは、俺が倒します!

 

 一条、と呼ばれた男はその声に僅かに逡巡する素振りを見せたが、次の瞬間にはディケイドに銃口を向けていた。 

 

 ディケイドは後ろから組み付いてくるクウガの鳩尾に肘を食らわせ、怯んだ所をライドブッカーの刃で再度、斜に切り裂かれた。先ほどの傷とちょうど交差する傷が新たに刻まれ、クウガは膝を折った。

 

 ――五代!

 

 一条が叫び、ディケイドの背に銃弾を撃ち込む。しかし、ディケイドは一条の攻撃を無視して、クウガに止めの一撃を放とうとライドブッカーを振り上げた。

 

 その瞬間、クウガは雄叫びを上げながらディケイドのバックルへと真っ直ぐに拳を突き入れた。空間が軋み、大気が割れ、降りしきる雪が一挙に弾けた。それほどの一撃であった。

ディケイドの鎧に亀裂が入り、砕けた先から霧散していく。しかし、ディケイドは振り上げた刃を、そのままクウガの無防備な首筋へと振り下ろした。

 

 夏海は思わず、視界を両手で覆った。

 

 クウガの切り取られた頭部が、雪原を転がる。噴き出す鮮血の赤が、白銀の景色を塗りつぶしていく。

 

 一条がその光景に、眼球を戦慄かせ叫んだ。

 

 刹那、ディケイドの鎧が砕けると同時に、雪原は灰色のオーロラに包まれ消失した。

 

 再び映像は青い星の場面へと縮小される。内側から青い星が砕け散り、その残骸と共に紫色の光が『起点の世界』へと尾を引きながら戻っていく。それはまるで彗星のように見えた。

 

「世界の破壊者はあと八つというところまでライダー世界を追い詰めましたが、オリジナルのクウガによって一度滅ぼされました。これが、門矢士がディケイドであった記憶を持たず〝かつて全てを失った〟原因です」

 

 渡が『起点の世界』に帰っていく紫色の彗星の尾を眺めながらそう語った。夏海には、その顔がどこか悲しげに見えた。かつて全てのライダーを救うために戦ったライダーの姿を見ているのだ。そこに特別な感情が無いはずがない。

 

 残り八つになった青い星達が虚空に浮かび上がる。それを見つめ、渡は言った。

 

「我々はクウガの世界の破壊により、ディケイドの存在を知った。一度滅ぼされたとはいえ、ディケイドがいつ復活し、また滅ぼしに来るか分かったものではない。そこで我々は、ある存在にすがりました」

 

 映像の中、クウガの世界が滅びた虚空に爪の先にも満たない光点が浮かび上がる。その光点が拡大されて映し出された。それは長大な銃身を持つ、青い銃だった。

 

「……ディエンド」

 

 夏海が呟いた言葉に渡は頷いた。

 

「そう。ディケイドが滅びたことが原因か、または初めからそこにあったのか。それは判然としませんが、クウガの世界が滅びた跡にはディエンドライバーが残されていた。それによって変身するライダー、ディエンドを用い、我々はあることを考えつきました」

 

「ある、こと?」

 

「夏海さん。ディエンドの能力はご存知ですか?」

 

 渡の質問に夏海は曖昧ながら頷いた。確か海東は他世界のライダーを召喚し、それに戦わせていた。

 

「他の世界のライダーを呼び出す能力、ですか?」

 

 その言葉に渡はゆっくりと頭を振った。

 

「正確には違います。あれは他の世界のライダーを呼び出しているのではない。他の世界のライダーをコピーし、一時的にその世界のライダーとして召喚しているのです」

 

「同じじゃないんですか?」

 

「大きく違います。他の世界のライダーを呼び出す能力ならば、呼び出している時間は元の世界に呼び出されたライダーは不在となる。それでは呼び出されたライダーの世界は核を失い、自動的に崩壊してしまう。ディエンドの本来の能力は世界の核に匹敵するライダーをコピーし、それを意のままに操る能力なんです。この能力を我々は応用しました。即ち、我々の世界ごとコピーを造り出し、それを囮として配置する、という策です」

 

 映像の中にディエンドが映り込む。銃身をスライドさせ、カードを装填する。全てのライダーの紋章が銃身上にホログラムとして表示され、重なっていく。『カメンライド』の音声と共に、ディエンドは銃口を虚空に向けて構え、引き金を引いた。

 

『オールライダー』の音声が鳴り響き、小さな二門の銃口から九つの青い星々が撃ち出され、暗礁の中を漂い始める。その凄まじい光景に、夏海は星々の創造の縮図を見ているような気分になった。九つのコピーされた世界が、それぞれのオリジナルの表に回り、ちょうど表がコピーの世界、裏がオリジナルの世界という形を作り出す。

 

「これによってコピーされた世界は九つ、存在することになります。そしてそれぞれに九人のレプリカライダーが配置されました。クウガからキバまで。クウガはオリジナルが滅びているため、コピーとは言い難い部分がありますが、それはこの際構いません。ディケイドがいずれ復活し、ライダー世界を破壊しに来るのは分かっていました。ならば、と僕は早期にディケイドの覚醒を促した。『起点の世界』に九つのレプリカライダー世界をわざと近づけさせ、滅びの現象を誘発する。それによるディケイドの覚醒、及び、九つのライダー世界を巡らせ、レプリカを破壊してもらう。『起点の世界』からディケイドが出現した最初の理由はライダーを全て破壊し、『起点の世界』に世界を一度統合するため。いわば庭木の剪定と同じです。増えすぎた並行世界を一度ゼロに戻す。それがディケイドの使命。つまり――」

 

「……ちょっと待ってください。それなら、あなたの話にある『起点の世界』というのは」

 

 渡の言葉を遮った夏海の脳裏に嫌な予感が過ぎる。爆発から逃げ惑う人々、異形の怪物が共食いを始め、崩落するビル群。それらの記憶が思考を掠め、夏海は言葉を濁した。

 

 ――言ってはならない。言ってしまえば、後には退けない。理性が必死に押し止める。それを振り切り、夏海は言葉を紡いだ。

 

「……『起点の世界』は、私がいた世界、っていう事じゃないですか」

 

 言ってしまった。その後悔の念が胸中を埋め尽くした直後、渡はこちらを真っ直ぐに見つめ、「はい」と首肯した。

 

 その瞬間、夏海は膝を折り、その場に蹲った。最初から仕組まれていたのだ。ディケイドという存在にレプリカライダーを破壊させるためだけに、自分の世界は蹂躙され破壊された。仲間だと思っていたライダーの手によって。

 

 キバーラの言葉はある意味間違っていなかったのだ。自分の世界の命運はライダーによって握られ、ディケイドの生死に関わらず自分は大切なものを失う。

 

 視界がぼやけ、地面が大粒の涙によって濡れていく。

 

 渡は暫く夏海を見つめていたが、やがて映像に視点を戻した。

 

「つまり、レプリカライダーの破壊によってオリジナルは守られる。『起点の世界』に、二十四のライダー世界は全て駆逐されたと誤認させる、という策でした。しかし、ディケイドが門矢士などという器を持ってしまったがために、この策は失敗に終わった」

 

 士の名前が渡の口から発せられ、夏海は顔を上げた。渡は映像に視点を固定したまま、話を続けた。

 

「門矢士という人間としての人格を持ってしまったがために、彼は本来の役目とは別の行動を取り始めた。ディケイドは存在自体が世界を破壊する、世界からすればいわばウイルスのようなものです。それが世界の崩壊現象を止めようと、まさかレプリカライダーと手を組んで戦うとは思いもしなかった。そのせいで世界の融合現象はより早められた。そればかりか、レプリカの生存が世界のバランスを大きく崩し、『起点の世界』と融合し、崩壊寸前の世界を作り出してしまった。それが、先ほどまで我々がいた『ライダー大戦の世界』です」

 

「……つまり、それは」

 

 夏海は覚えず自分の声が震えているのを感じた。渡は振り返り、夏海が全てを察したことを了解し、頷いた。

 

「そうです。ディケイドはレプリカを破壊しなかったせいで、自らを生み出した『起点の世界』をも破壊してしまったんですよ。こんな、ライダー世界が入り混じった不均衡な状態にある世界をね」

 

 崩壊寸前の混ざり合った世界の映像を背に、渡は両手を広げた。その顔はどうにもならない現実に引きつったような笑いを浮かべていた。

 

「……だから、我々はせめて、自分たちの世界だけは守ろうとディケイドを破壊しようとしました。この戦いで多くの仲間が命を散らし、無残に殺された。僕はディケイドを破壊した後、自害するつもりでした。この状況を作り出したのは、謀らずも僕らですからね。咎は受けるつもりでした。しかし、あなたが僕を殺してくれたおかげで、それは思わぬ方向に進んだ。仮面ライダーキバーラという特殊なライダーに殺されることで、僕は『クラインの壷』の内側にカード化せずに侵入することができた。ディケイドは破壊され『クラインの壷』が解放された上で、僕があなたと会話をすることになるとは思いもしませんでした」

 

 渡の発した『クラインの壷』という言葉に夏海は口を開いた。

 

「何なんですか? その『クラインの壷』っていうのは」

 

「ディケイドのバックルとライドブッカーに直結する空間ですよ。永続的にエネルギーを貯蔵し、取り出すことが出来る。ディケイドが全てのライダー世界の力を意のままに行使できるのはこのためです。ディケイドによって破壊されたものはこの空間に行き着きます。尤も、カード化されているので意識はありませんが。そういう点では天国とも、あるいは地獄とも言い換えることが出来ます。この中には、ディケイドが破壊したライダーの世界も含まれていると言われますが、それを引き上げることはまず不可能でしょう。そのためには、同じく『クラインの壷』にアクセスできる能力を持ったライダーが必要に――」

 

 そこで唐突に渡は言葉を切った。そして目を見開き、何かに気づいたかのように眼球をわなわなと慄かせた。

 

 夏海がそれに疑問を挟む前に、「そうか。そういうことか。だから、あの人は……」と渡は口の中で呟き、突然、夏海に目を向けた。

 

 その視線に夏海がびくりと身体を震わせると、渡は声を荒らげ叫んだ。

 

「早く、ここから出てください! 彼の目的は」

 

 続く言葉が渡の口から出る前に、銃声が星空で満たされた空間に鳴り響いた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。