死神達の恋歌   作:yatenyue

73 / 74
月の導き 2章 第五話 狂乱の幕開け 磔の死体

ついに、旅禍は副隊長をも倒しのけた。

 

 

 出てこない目撃情報に私は苛立ちを隠せなかった。

 

 

 藍色の髪の死神

 

 

 その目撃情報がないのだ。

 

 

 どういうこと?

 

 

 霊圧も感じないし・・・

 

 

 

 輝の情報から卯月が旅禍のひとりであることは間違いないのに・・・・・

 

 

 それは私たちが独占している情報の一つ。

 

 由宇の報告で

 

 

 他のメンバーに

 

 

 織姫と呼ばれる、不可思議な結界術を使う少女

 

 石田という、滅却師の少年がいることが分かっている。

 

 

 あとひとりの情報は大柄な黒い肌の男ね。これはほかでも出回ってる。

 

 十二番隊に目をつけられそうな能力の持ち主である石田・織姫両名には、由宇を見張りにつけている。

 

 いざとなったら、救出するように言って・・・

 

 

 皐月は、下手すれば、マユリを殺しかねないし、

 

 須王や魅は、隠密に向かないし、

 

 輝は顔バレしている。

 

 海依はほかの情報収集頼んでるしね。

 

 

 

 

 

 

 

 それにしても吐き気がする。

 

 

 食欲がない。

 

 

 

 いざというとき体力がないと困るっていうのに・・

 

 

 

 とりあえず、食べても問題がない、なぜか体がほっしている果物を私は口に含んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 第五話 狂乱の幕開け 磔の死体

 

 

 

 

 

─一番隊舎─

 

 

「事態は、火急である!!」

 

 

ついに副官の一人を倒され、もう下位の死神達に任せておけるような状況ではなくなった。

 

元柳斎はこれを重く受け止め、先のギンの行動を不問とした。

 

そして上位席官の廷内常時帯刀、及び戦時全面開放の許可を言い渡した。

 

これにより、戦局はますます激しくなる事が確定した。

 

**

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「いやあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

戻らぬ体調を気にしつつ布団から出ていた美月は、突然聞こえてきた悲鳴に部屋を飛び出した。

 

耳に届いた声の主は桃。

 

彼女の身に何かあったのではないかと、霊圧を感じる方へ全力で向かう。

 

だが、そこで見たのは…

 

 

「ッ!? 桃ちゃん…!?」

 

 

 桃とイヅルが、刀を向け合っていた。

 

 あんなに仲の良かった二人が・・・

 

 

 

 なにより桃の瞳に宿るそれは殺気。

 

 昨日までの彼女とはあまりにも違うその荒々しさに、困惑した。

 

 

 

「“弾け 飛梅”!!」

 

ドオオオオオン!!

 

 

口上と共に変化した彼女の斬魄刀。

 

爆破能力を持つそれは、解放後すぐに凄まじい爆発を起こして見せた。

 

 

 桃色の火球。

 

 

「こんな所で斬魄刀を…!! 自分が何をしているか、わかっているのか!? 公事と私事を混同するな、雛森副隊長!!」

 

 

常にひたむきに職務に臨む彼女。

 

目を覚まさせるため、あえて普段は使わない呼び名で訴えるイヅル。

 

しかし怒りで我を忘れているのか、桃は全く耳を貸そうとしない。

 

 

「そうか…」

 

「それなら仕方ない…僕は君を…───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵として処理する…!!」

 

 

バッ─────

 

 

空高く飛び上がり、イヅルは刀を構えた。

 

 

「“面を上げろ 侘助”!!」

 

 

互いに解放状態の斬魄刀を持つ副隊長、戦えば無事では済まない。

 

 

 

彼女は走り出した。

 

 

       ほぼ同じタイミングにもうひとつの影が躍り出る。

 

 

 

 

            《side 桃》

 

 

 

 

 

 

 

  私が目にしたものは胸に刀を突き立てられた藍染隊長の姿でした。

 

 

 

 

 「藍染隊長が嫌です。

 

  藍染隊長ーーー」

 

 

 

 

 

 

 「なんや?朝っぱらから騒々しい」

 

  「っ」

 

 「おやこれは一大事だね」 

 

 

 

 そして私は、しろちゃんが言った言葉を思い出した。

 

 

 《気をつけな。三番隊には気をつけな。特に

 

 

 藍染のやつがひとりで出歩くときにはな》

 

 

 

 

 目の前が真っ赤になった。怒りで

 

 

 

 「お前かぁあああ」

 

 

 

 市丸隊長に斬りかかったその刀は、吉良君によって受け止められた

 

 

 

 「吉良君、どうして?」

 

 「僕は三番隊副隊長だ。

 

   どんな理由があろうと隊長に剣を向けることは僕が許さない」

 

 

 

 

 あの男が、その場を離れようとするのを目にした時私は行動を止められなかった。

 

 「おねがい どいてよ吉良君」

 

 「それはできない」

 

 

 「どいてよっ」

 

 

 「ダメだ」

 

 

 「どけって言うのがわからないの?」

 

 「ダメだというのがわからないのかっ」

 

 

 

 私は斬魄刀を開放していた

 

 

 

 

 

 

 

    それからは、美月ちゃんが見たのと同じ。

 

 

 許さない。

 

 

          《sideend》

 

 

 

 

 

 

 

 

「───…動くなよ、どっちも」

 

 

 「イヅル君、刀を引いて」

 

 

 

 

 私はイヅル君の正面に立ち、その刀を自分の刀で受け止め

 

冬獅郎は、桃ちゃんの刀を足で押さえつけていた。

 

 

 あれ、刀に違和感。

 

 少し重くなった気が?

 

 

 

「日番谷くん」

 

 「捕えろ、二人ともだ」

 

 

その一言で乱菊と射場が桃を、修兵がイヅルをそれぞれ拘束した。

 

 

「雛森!

 

剣でやり合いなんかやってる場合かよ!!

 

藍染隊長をあそこから降ろしてやるのが、先なんじゃねぇのか?」

 

 

 

 ももちゃんははっとする。

 

 

 「総隊長への報告は俺がする、

 

 そいつらは拘置だ、連れていけ。」

 

 

 私にも見える。

 

 でも違和感がある。

 

 それに、藍染が、こんなにあっさりやられるはずがない。

 

 検死に、皐月も行ってもらおうかな

 

 いや、卯ノ花隊長が信頼できないってわけじゃないよ。

 

 

 

 

 「すんませんなぁ、十番隊長さん。ウチのまで手間かけさせてもうて」

 

「…市丸…」

 

 

聞いた事のない冬獅郎の低い声に私は反応した。

 

 

 

「てめえ…雛森を殺そうとしたな」

 

 

「…はて、何の事やら。」

 

「今の内に言っとくぜ」

 

 

飄々としたギンとは反対に、彼の口調はとても険しく冷たかった。

 

 

「雛森に血ぃ流させたら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がお前を殺すぜ…!!」

 

 

 

 

ズキンッ─────

 

 

 心にはっきりとした痛みが走った。

 

 

  自分に対して聞かせてくれたことがない怒りの声

 

 冬獅郎にはやっぱり桃ちゃんは大切な存在なんだ。

 

 

 

 頭では理解できてるつもりなんだ。

 

 でも心が、それを拒んでしまう。

 

 

 醜い嫉妬。

 

 

 

 もし、私と桃二人がピンチなら冬獅郎は桃を助けに行くだろう。

 

 私が強いからでも、

 

       それを想像するのも

 

 

 心が痛んだ。

 

 

 

 違う世界の“私”を最やんだのも、ウィンリィに対する嫉妬。

 

 見ればわかった。

 

 “私”があの世界に行かなければ彼女が彼の、エドの愛する唯一になることが

 

 

 

 それに比べれば桃は違う。

 

 彼女と冬獅郎には赤い縁は見えないから。

 

 彼女に嫉妬するのはあまりにも、自分勝手だ。

 

 

 

 それが自分の顔に出ている気がして、私は市丸の言葉を最後にゆっくりその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

「そら怖い。悪い奴が近づかんように、よう見張っとかなあきませんなぁ」

 

 

 

 

 

 

 このあとの冬獅郎が続ける言葉も聞かず・・

 

 

 藍染の後始末を頼まれた彼が何をするかも知らずに・・・

 

 

 

「あと、美月に涙を流させたり傷つけたりしたら殺すなんて生温ぃもんじゃ済まさねぇ」

 

 

 「おやおや、

 

 大切なものは一つにしておかんといけませんで、やないと、二つとも失う羽目になるやもしれませんなぁ。

 

 言いますやろ、二兎追うもの一兎も得ずてな。」

 

 

 

 

 

 

***

─五番隊 特別拘禁牢─

 

「ひどい顔だね…」

 

「乱菊さん…」

 

 

憔悴しきった様子でいた桃を目にし、晴れない表情で話しかける。

 

 

「これを…」

 

 

懐から出したのは、一通の手紙。

 

 

「藍染隊長の部屋にあった。あんた宛だよ…」

 

「藍染隊長が、あたしに…?」

 

「見つけたのがウチの隊長で良かったよ。他の誰かだったら、証拠品として提出されてあんたの所へは届かなかったかもしれない。

 

何が書いてあるのかは知らないけど、自分の隊長が最期に遺した相手が自分だったってのは副隊長として幸せな事だよ。

 

   大事に読みな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別の牢の中では

 

「まだ寝ておるのか?」

 

「情けねぇな、オイ」

 

「…久しぶりに出てきたと思ったらそれかよ、オイ。もっと他にかける言葉があんだろ」

 

 

己の斬魄刀の薄情な台詞に恋次は悪態をつく。

 

口の悪い蛇を尾に持つ、貫禄を帯びた猿の姿。

 

それが彼の斬魄刀、蛇尾丸の真の姿だった。

 

実は人間体もあるのだがそれはほおっておいて

 

まだ若い古臭い喋り方をする女性の声の猿と、少年のような声の蛇が話す。

 

 

 

 

「儂はもう、回復したぞ。もう、いつでも戦える」

 

「…」

 

「次は貴様の番だ」

 

「いつまでも寝てねぇで、とっとと回復しちまえよ! そしてあの“斬月”って野郎と戦わせろ!」

 

 蛇の方が言う。

 

 

主に似て好戦的な性格の彼(?)らに、恋次は呆れたようにため息をつく。

 

 

「馬鹿野郎、居眠りでもしてたのかてめぇは」

 

「「ん(/あ)?」」

 

「俺の敵は、もうあいつじゃねーよ」

 

「…そうか。ならば、貴様の敵とは誰だ? 貴様はこれから、誰と戦う?」

 

「っ…」

 

 

その言葉に、恋次はグッと拳を握り締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

届けられた一つの手紙、

 

それが呼ぶ、混乱の嵐をまだ、誰も知らない。

 

 

 

 翻弄されるは桃の名前を持つ少女。

 

 その脚本を描いたのは

 

 

        彼女が最も信頼する人

 

 

 

 

   

 

      

   To Be Continued      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。