とある神器持ちの日記   作:ウメ種

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オーディン様って、全知ではないけど、神様の中でもかなり知識が深い神様です。(俺の中では
斬鉄剣振ってる脳筋じゃないんだよ。
そんな神様が知らない、という事がフラグだったのさ(イミフ


77(主神日記)

 #月O日

 

 さて――何を、どう書くべきか。

 あの小僧…上代徹。書き残すとしたら、あの小僧の事だろう。

 千の上級悪魔を倒し、『覇龍』へと至った赤龍帝を従え、『無限の龍神』を動かした小僧。

 ……はたして、あの小僧は何者なのか。久方振りの戦闘の熱も引いた今――儂の思考にあるのは、あの小僧への知的好奇心のみ。

 知りたい。

 あの小僧が何者なのか。

 持っている『神器』はどういうものなのか。

 なぜ、その力を隠そうとするのか。

 ――その力を、思いのままに振るわないのか。

 そして……どうして、何も望まないのか。

 ミーミルの泉に左目を捧げ、儂は知識を得た。この世の、ありとあらゆる知識をだ。

 その知識の中に――あの小僧のような存在は、無い。

 力を得た人間は、良くも悪くも、変わる。変わってしまう。

 力を恐れて自滅する者も居れば、力を悪用して滅ぼされる者も居る。

 力を良き事に使おうとして利用される者も居れば、魔王殺しの勇者へと至る者も居る。

 その逆に、悪用して魔王へ至るものもまた、力を得た者だ。

 だが、あの小僧はそのどれでもない。

 力を得ながら力を隠し、普通の人間を演じておる。

 演じようとしておる。

 流石に、異質すぎる力は世界の目から逃れられぬようだが。

 儂然り、オーフィス然り、冥界然り、天界然り――。

 

 

 結局、あの小僧がしようとした事は、ひどく単純な事だ。

 何かしらの大掛かりな『力』を発動するために、不足している分を周囲の上級悪魔から掻き集めた。それでも足らなかったのか、周辺の大地の命も奪った。千の上級悪魔を無力化し、大地を塵へと変える異能。

 それだけでも脅威だと言うのに、それはただ――足らなかった力を補充する為だけのものでしかないと言うのだ。

 ただそれだけだ。

 ――ただそれだけで、戦いは終わってしまったが。

 その何かしらの――儂の知識に無い『力』も、発動する前にオーフィスに潰された。

 見てみたかったが、もしかしたら……オーフィスがあの小僧を殺さなければ、儂が殺していたかもしれん。

 それほどまでに、圧倒的な『力』だった。未知の魔方陣に、世界を軋ませるほどの『力』。

 北欧の主神が、オリンポスの神が、帝釈天の仏が、僅かばかり恐怖するほどの『力』だ。

 何故赤龍帝があの小僧に従ったのか。

 何故今まで裏に隠れていたオーフィスがその身を晒してまであの小僧を殺したのか。

 判らぬことが多い。

 ……だからこそ、楽しみだ。

 楽しみで、楽しみで――愉快でたまらない。

 ミーミルの泉に左目を捧げ、世界の知識を得た。

 だが、まだまだ儂の知らない知識が世界にはあったのだ。

 これを喜ばずして、何を喜ぼう。

 これ以上の退屈凌ぎ――これ以上の幸せなど、在りはしない。

 ああ、ああ――ノルニルの真似事をする人間。

 時間を操り、支配し、変質させる神如き者。

 お前はあの時、オーフィスから殺されなければ何をしようとしていた?

 気になる。

 ……知りたい。

 オーフィスに殺されて尚死なぬ人間。

 最強の一角である『無限』ですら殺せぬ人間。

 名付けるなら――『夢現』か。

 確かにそこに存在している最弱の人間なのに、最強も、悪魔も、天使も、堕天使も、神も、殺せない。

 悪夢のような存在。だと言うのに、確かに存在している。

 夢現。

 言い得て妙、と言うのはこういう事か。

 『無限』と『夢幻』。オーフィスとグレートレッド。

 そして『夢現』――殺せない人間、上代徹。

 世界が変わるな。

 いや……それすらも、あの小僧の思い通りなのやもしれぬな。

 『ムゲン』に名を連ねるなら、もう誰も、あの小僧には手出しは出来ぬ。

 力の本質は見せず、だが力を示した。

 ――どうしようもなく、興味が湧いた。

 

 

 

 #月P日

 

 あの小僧は、今日は力を使い過ぎて倒れている。

 今なら、殺せるだろうか?

 さて――興味はあるが、試す気は無い。

 少なくとも、今は殺さない。それでは、儂の知的欲求を満たす事は出来ぬだろう。あの男がどうやって死ぬか――それは最後に知り得る情報だ。

 いずれ殺すかもしれぬが――それはあの男の全部を知ってからだ。

 儂の知らぬ力を持つ存在。

 今度、折を見てロスヴァイセ…望むならば、女神を数人与えても良い。

 情報が欲しい。

 知識が欲しい。

 儂は知りたい。

 儂が知らぬ全てを。

 

 

 

 #月Q日

 

 サーゼクスの小僧から、あの小僧が目を覚ました事を知らされた。

 会いに行こうとしたが、ロスヴァイセのヤツに止められた。

 こういう時、主神などという肩書は邪魔で仕方がない。

 人間一人に会いに行くには、どうにも儂は目立ち過ぎてしまう。そして、それは魔王も然り、だ。

 サーゼクスの小僧もセラフォルーの嬢ちゃんも、あの小僧には会いに行けないようだ。儂すらいけないのだ、我慢する事だ、若造ども。

 オーフィスが動いた。テロリストどもも本格的に動き始めるだろう。

 次はどの陣営が狙われるか? 冥界か、天界か、『神の子を見張る者』か……儂ら、北欧の神族かもしれん。

 楽しみだ。

 楽しみで、仕方がない。

 早く動け、テロリスト。

 儂の知識を満たす為に。儂を楽しませるために。

 ――あの小僧を、更なる戦火の渦中へと誘え。

 オーフィスに邪魔された先……あの小僧の本質を儂に見せよ。

 

 

 

 #月R日

 

 つまらぬ。

 下らない会議ばかりで気が滅入る。

 このような些事はロスヴァイセに任せ、儂は人間界に遊びに行きたいものだ。

 上代徹の元へ行くのも良いし、おっぱいパブと言うのも体験したい。

 他にも面白い物が日本には多いと聞く――是非とも行ってみたい。

 ああ、退屈だ。

 ああ――つまらぬ。

 

 サーゼクスの小僧から、千の上級悪魔を屠れるか、と聞かれた。

 簡単だ。グングニルを50回も放れば、千程度…軽く滅ぼせる。

 それが答えだ。

 あの小僧がしたことは、儂ら神にとっては特別凄い事ではない。

 いまだ若い現魔王や、聖書の神を失った天使どもにとっては恐れるべき事だろうが、儂らにとってはまだ余裕がある。

 小僧は神如き力を振るうが、神以上の力ではない。

 ……今はまだ、だ。

 千の上級悪魔の生命力を得て行おうとした『何か』。

 その先次第では――儂ら神は、あの小僧を殺さねばなるまい。

 殺せないならば、厳重に厳重を重ねた、一つの世界を封印できるほどの力で、一人の人間を封印しなければなるまい。

 それを見極める為にも……テロリストどもには、もっと頑張ってもらわねばな。

 

 

 

 #月S日

 

 赤龍帝の小僧がぶっ倒れていた。なんでも『覇龍』の影響で、魂が傷ついてしまっているらしい。

 まぁその傷も、上代の小僧がほとんど治してしまっているようだが。

 時間を撒き戻せるというのは、何とも反則じみている。

 どれだけ大きな傷――魂の傷すら、治してしまえるのだから。

 厳密には治しているのではなく、元に戻している、が正しいのだが。

 

 時間の操作。

 その影響がどういうものか、あの小僧は気付いているのだろうか?

 あの小僧が力を使うたびに、未来は枝分かれしていく。

 いずれ世界は枝分かれした情報を処理できず、破綻する事だろう。

 ――時間の操作を行っているのが個人だという事で、今は影響はそれほどでもないだろうが…。

 並行世界。ありえたかもしれない可能性の未来。

 その辺りの処理も、どうにかして考えねばならぬな……面倒事が多すぎる。

 全部投げ捨てて、隠居したいものだ。

 

 

 

 #月T日

 

 結局、日本には行けんかった……はぁ。

 ゲイシャガール、ヤマトナデシコ……一目見たかったのぅ。

 今度は、連れて行く戦女神はもう少し考えるべきかもしれん。

 だが……うぅむ。悩む。

 初めて上代の小僧と会った時、あやつは確実にロスヴァイセに見惚れておった。

 長年神族の長に収まっていたのだ、その程度の機微には敏い自信がある。

 まぁ、今回は会わせてやれなんだが。

 どうするかのぅ……器量よし、実力もそれなりだが…お堅いのがなぁ。

 

 

 

 #月Z日

 

 やはり、世界樹の知識に上代の小僧の情報は無い。

 数日かけて儂の中の知識を調べ直したが、やはり上代の小僧が見せた『知らない魔法陣』は判らなかった。

 世界樹の知識に無い魔法。

 ――思いつくのは、一つだけ。

 異世界の魔法。

 その可能性は知っている。

 グレートレッドが揺蕩う『次元の狭間』の更に先。

 存在すらあやふやな世界――その世界の力。異なる世界の魔法。

 本当に、そうなのか?

 ……それを断言するには、情報が足りなさすぎる。

 やはり――上代の小僧に接触しなければならない。

 知りたいのだ……どうしようもなく。

 オーフィスに邪魔をされた、振るわれようとした『力』がどのようなモノなのか。

 世界を軋ませるほどの『力』で何を行おうとしたのか。

 儂は、知恵者だ。

 知る事が、儂の本質。

 どうしようもない――知りたがりなのだ。

 

 それにしても、腹が減った。

 頭を使うと、腹が減る。

 それは神も人間も変わらない。

 ……ロスヴァイセには、心配をかけたが。

 まぁ、明日からまた知識の海の沈み込むだろうが。

 はてさて、新しい『夢現』に有効そうな知識は何かないか――久しぶりに自分の知識に沈むのは、なかなか楽しい。

 自分の知識なのに新しい発見がある、というのも楽しい一因か。

 さて……次は何日沈もうか――。

 




主人公に肩書きを付けてみた。
『夢現』と『無間』、どっちにしようか迷った。

実はオーディン様が知らないこと、主人公の『神器』が『神滅具』ではない事は繋がってたのだ!!
……まぁ、結構な人は気付いてたかもしれないけど。
そろそろ、主人公(神器)の『能力』はともかく、どういう存在かは書きたいところ。

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