斬鉄剣振ってる脳筋じゃないんだよ。
そんな神様が知らない、という事がフラグだったのさ(イミフ
#月O日
さて――何を、どう書くべきか。
あの小僧…上代徹。書き残すとしたら、あの小僧の事だろう。
千の上級悪魔を倒し、『覇龍』へと至った赤龍帝を従え、『無限の龍神』を動かした小僧。
……はたして、あの小僧は何者なのか。久方振りの戦闘の熱も引いた今――儂の思考にあるのは、あの小僧への知的好奇心のみ。
知りたい。
あの小僧が何者なのか。
持っている『神器』はどういうものなのか。
なぜ、その力を隠そうとするのか。
――その力を、思いのままに振るわないのか。
そして……どうして、何も望まないのか。
ミーミルの泉に左目を捧げ、儂は知識を得た。この世の、ありとあらゆる知識をだ。
その知識の中に――あの小僧のような存在は、無い。
力を得た人間は、良くも悪くも、変わる。変わってしまう。
力を恐れて自滅する者も居れば、力を悪用して滅ぼされる者も居る。
力を良き事に使おうとして利用される者も居れば、魔王殺しの勇者へと至る者も居る。
その逆に、悪用して魔王へ至るものもまた、力を得た者だ。
だが、あの小僧はそのどれでもない。
力を得ながら力を隠し、普通の人間を演じておる。
演じようとしておる。
流石に、異質すぎる力は世界の目から逃れられぬようだが。
儂然り、オーフィス然り、冥界然り、天界然り――。
結局、あの小僧がしようとした事は、ひどく単純な事だ。
何かしらの大掛かりな『力』を発動するために、不足している分を周囲の上級悪魔から掻き集めた。それでも足らなかったのか、周辺の大地の命も奪った。千の上級悪魔を無力化し、大地を塵へと変える異能。
それだけでも脅威だと言うのに、それはただ――足らなかった力を補充する為だけのものでしかないと言うのだ。
ただそれだけだ。
――ただそれだけで、戦いは終わってしまったが。
その何かしらの――儂の知識に無い『力』も、発動する前にオーフィスに潰された。
見てみたかったが、もしかしたら……オーフィスがあの小僧を殺さなければ、儂が殺していたかもしれん。
それほどまでに、圧倒的な『力』だった。未知の魔方陣に、世界を軋ませるほどの『力』。
北欧の主神が、オリンポスの神が、帝釈天の仏が、僅かばかり恐怖するほどの『力』だ。
何故赤龍帝があの小僧に従ったのか。
何故今まで裏に隠れていたオーフィスがその身を晒してまであの小僧を殺したのか。
判らぬことが多い。
……だからこそ、楽しみだ。
楽しみで、楽しみで――愉快でたまらない。
ミーミルの泉に左目を捧げ、世界の知識を得た。
だが、まだまだ儂の知らない知識が世界にはあったのだ。
これを喜ばずして、何を喜ぼう。
これ以上の退屈凌ぎ――これ以上の幸せなど、在りはしない。
ああ、ああ――ノルニルの真似事をする人間。
時間を操り、支配し、変質させる神如き者。
お前はあの時、オーフィスから殺されなければ何をしようとしていた?
気になる。
……知りたい。
オーフィスに殺されて尚死なぬ人間。
最強の一角である『無限』ですら殺せぬ人間。
名付けるなら――『夢現』か。
確かにそこに存在している最弱の人間なのに、最強も、悪魔も、天使も、堕天使も、神も、殺せない。
悪夢のような存在。だと言うのに、確かに存在している。
夢現。
言い得て妙、と言うのはこういう事か。
『無限』と『夢幻』。オーフィスとグレートレッド。
そして『夢現』――殺せない人間、上代徹。
世界が変わるな。
いや……それすらも、あの小僧の思い通りなのやもしれぬな。
『ムゲン』に名を連ねるなら、もう誰も、あの小僧には手出しは出来ぬ。
力の本質は見せず、だが力を示した。
――どうしようもなく、興味が湧いた。
#月P日
あの小僧は、今日は力を使い過ぎて倒れている。
今なら、殺せるだろうか?
さて――興味はあるが、試す気は無い。
少なくとも、今は殺さない。それでは、儂の知的欲求を満たす事は出来ぬだろう。あの男がどうやって死ぬか――それは最後に知り得る情報だ。
いずれ殺すかもしれぬが――それはあの男の全部を知ってからだ。
儂の知らぬ力を持つ存在。
今度、折を見てロスヴァイセ…望むならば、女神を数人与えても良い。
情報が欲しい。
知識が欲しい。
儂は知りたい。
儂が知らぬ全てを。
#月Q日
サーゼクスの小僧から、あの小僧が目を覚ました事を知らされた。
会いに行こうとしたが、ロスヴァイセのヤツに止められた。
こういう時、主神などという肩書は邪魔で仕方がない。
人間一人に会いに行くには、どうにも儂は目立ち過ぎてしまう。そして、それは魔王も然り、だ。
サーゼクスの小僧もセラフォルーの嬢ちゃんも、あの小僧には会いに行けないようだ。儂すらいけないのだ、我慢する事だ、若造ども。
オーフィスが動いた。テロリストどもも本格的に動き始めるだろう。
次はどの陣営が狙われるか? 冥界か、天界か、『神の子を見張る者』か……儂ら、北欧の神族かもしれん。
楽しみだ。
楽しみで、仕方がない。
早く動け、テロリスト。
儂の知識を満たす為に。儂を楽しませるために。
――あの小僧を、更なる戦火の渦中へと誘え。
オーフィスに邪魔された先……あの小僧の本質を儂に見せよ。
#月R日
つまらぬ。
下らない会議ばかりで気が滅入る。
このような些事はロスヴァイセに任せ、儂は人間界に遊びに行きたいものだ。
上代徹の元へ行くのも良いし、おっぱいパブと言うのも体験したい。
他にも面白い物が日本には多いと聞く――是非とも行ってみたい。
ああ、退屈だ。
ああ――つまらぬ。
サーゼクスの小僧から、千の上級悪魔を屠れるか、と聞かれた。
簡単だ。グングニルを50回も放れば、千程度…軽く滅ぼせる。
それが答えだ。
あの小僧がしたことは、儂ら神にとっては特別凄い事ではない。
いまだ若い現魔王や、聖書の神を失った天使どもにとっては恐れるべき事だろうが、儂らにとってはまだ余裕がある。
小僧は神如き力を振るうが、神以上の力ではない。
……今はまだ、だ。
千の上級悪魔の生命力を得て行おうとした『何か』。
その先次第では――儂ら神は、あの小僧を殺さねばなるまい。
殺せないならば、厳重に厳重を重ねた、一つの世界を封印できるほどの力で、一人の人間を封印しなければなるまい。
それを見極める為にも……テロリストどもには、もっと頑張ってもらわねばな。
#月S日
赤龍帝の小僧がぶっ倒れていた。なんでも『覇龍』の影響で、魂が傷ついてしまっているらしい。
まぁその傷も、上代の小僧がほとんど治してしまっているようだが。
時間を撒き戻せるというのは、何とも反則じみている。
どれだけ大きな傷――魂の傷すら、治してしまえるのだから。
厳密には治しているのではなく、元に戻している、が正しいのだが。
時間の操作。
その影響がどういうものか、あの小僧は気付いているのだろうか?
あの小僧が力を使うたびに、未来は枝分かれしていく。
いずれ世界は枝分かれした情報を処理できず、破綻する事だろう。
――時間の操作を行っているのが個人だという事で、今は影響はそれほどでもないだろうが…。
並行世界。ありえたかもしれない可能性の未来。
その辺りの処理も、どうにかして考えねばならぬな……面倒事が多すぎる。
全部投げ捨てて、隠居したいものだ。
#月T日
結局、日本には行けんかった……はぁ。
ゲイシャガール、ヤマトナデシコ……一目見たかったのぅ。
今度は、連れて行く戦女神はもう少し考えるべきかもしれん。
だが……うぅむ。悩む。
初めて上代の小僧と会った時、あやつは確実にロスヴァイセに見惚れておった。
長年神族の長に収まっていたのだ、その程度の機微には敏い自信がある。
まぁ、今回は会わせてやれなんだが。
どうするかのぅ……器量よし、実力もそれなりだが…お堅いのがなぁ。
#月Z日
やはり、世界樹の知識に上代の小僧の情報は無い。
数日かけて儂の中の知識を調べ直したが、やはり上代の小僧が見せた『知らない魔法陣』は判らなかった。
世界樹の知識に無い魔法。
――思いつくのは、一つだけ。
異世界の魔法。
その可能性は知っている。
グレートレッドが揺蕩う『次元の狭間』の更に先。
存在すらあやふやな世界――その世界の力。異なる世界の魔法。
本当に、そうなのか?
……それを断言するには、情報が足りなさすぎる。
やはり――上代の小僧に接触しなければならない。
知りたいのだ……どうしようもなく。
オーフィスに邪魔をされた、振るわれようとした『力』がどのようなモノなのか。
世界を軋ませるほどの『力』で何を行おうとしたのか。
儂は、知恵者だ。
知る事が、儂の本質。
どうしようもない――知りたがりなのだ。
それにしても、腹が減った。
頭を使うと、腹が減る。
それは神も人間も変わらない。
……ロスヴァイセには、心配をかけたが。
まぁ、明日からまた知識の海の沈み込むだろうが。
はてさて、新しい『夢現』に有効そうな知識は何かないか――久しぶりに自分の知識に沈むのは、なかなか楽しい。
自分の知識なのに新しい発見がある、というのも楽しい一因か。
さて……次は何日沈もうか――。
主人公に肩書きを付けてみた。
『夢現』と『無間』、どっちにしようか迷った。
実はオーディン様が知らないこと、主人公の『神器』が『神滅具』ではない事は繋がってたのだ!!
……まぁ、結構な人は気付いてたかもしれないけど。
そろそろ、主人公(神器)の『能力』はともかく、どういう存在かは書きたいところ。