まあ特別授業のテストなんで仕方ないかもね。
<水曜日、昼休み>
専用機開発をしてくれている企業見学を終え、ここ数日俺たちは刻一刻と迫るクラス代表決定戦に備えて千冬さんが主催する特別授業を真面目に受けていた。
やはり「ブリュンヒルデ」の名は伊達じゃないのか、IS知識の何から何まで素人だった俺と一夏を徹底的に基礎から教え、鍛え上げてくれた。
今ではISの基本動作や応用技術までも理解を深めることができ、教えてくれた千冬さんには勿論、彼女の代役を請負ってくれた他の先生方にも感謝の念が尽きない。
「なあ彰久、ISを起動した時に気をつけることってなんだっけ? 」
「"自身のISとシンクロさせて、ハイパーセンサーとコア・ネットワークが正常に稼働してるかを確認する"だったか」
「あ、そっか! サンキュー彰久、やっぱ頼りになるな」
「お互いさまだろ、一夏」
現在俺たちは昼飯を早めに食べた後、急いで教室に戻ってから特別授業の復習を行なっている。
今日の放課後にその特別授業の試験があるので、このように休み時間の合間を縫っては一夏と勉強を繰り返していた。
「わぁ、二人とも真面目に勉強してるね」
「なんか真剣に何かやってる織斑くんと草薙くんって、カッコいいかも……」
「こ、こら! 抜け駆けは許さんぞ相川! 」
「あ、そっかぁ。もっぴーっておりむーかあっきーのどっちか好きなんだよね~」
「ち、違う! 私は一夏の事なんて……はっ!? 」
「むふふ……詳しく聞かせて貰いましょうか篠ノ之さん? 」
俺たちが騒いでないことをいいことに向こうでは絶賛箒ちゃんたちがラブコメ中である。
すごく気が散るというかあの輪の中に入りたいというか、どちらにせよ気になるのには変わりない。
普段真面目な静寐ちゃんの意地悪そうな顔とかもう写真に10枚程収めたい気分だ。
「箒たち、ずいぶん打ち解けてるみたいだな。うんうん、幼馴染として心配だったが良かったなぁ」
「一夏、その発言はガンジーでも助走つけて殴るレベルだぞ」
「なんで!? というかガンジー2の話は忘れろよ! 」
「うるせーやい! この鈍感フラグ一級建築士! 耐震偽装バレちまえ! 」
特別授業を受けてISに関する知識を得ても、一夏の鈍感は相変わらず治っていないようである。
千冬さんにも相談してみたが彼女曰く"あの鈍感は死んでも治らん"とか言っちゃってる始末。
あとあの赤い髪の相川清香ちゃんがカッコいいと言ってくれたので紳士アイテム"褒め言葉レコーダー"で録音しておいた。
「なんだとー! 言いやがったな! この変態紳士め! 」
「誤解を招く言い方はやめろって言ってんだよ! 」
「ふっ、俺はお前と中学3年間一緒のクラス……。お前の黒歴史の一つや二つぐらい知ってるんだぜ? それをここでバラせば……」
「お願いしますそれだけは勘弁して下さい」
そうだった、一夏とは3年間一緒だったから黒歴史を知られてしまっている……。
というかクラスの女子のみんな、"3年間一緒"のところに敏感に反応しないでくれ。
どっちが受けか攻めかだなんてそれ以前の問題だから。
「今更謝っても遅いぜ! お前が女の子に告白しようとした時に――」
「ほう。その話は気になるがもう始業時間だ」
そういった風に夢中で口論していると5時間目を知らせるチャイムなど耳に入らないもんで、千冬さんが教室に入るまで余裕で一夏と小競り合いを繰り広げていた。
最後の最後まで、俺たちは出席簿でシバかれる羽目になったのである。
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<放課後、第一アリーナ>
5・6時間目の授業を経て、いよいよ俺達は「特別授業修了試験」の時間を迎えることとなった。
帰りのホームルームを終える頃には既に緊張と不安で千冬さんの連絡事項が聞こえなくなるほどであったが、一夏に発破をかけられたおかげでなんとか乗り切ることに成功する。
「あっきー、おりむー、応援してるからね! 頑張ってよ! 」
「任せろってのほほんさん、軽く乗り越えてみせるぜ! 」
「ふっ、本音ちゃんの笑顔で不安が消し飛んだぞい」
その後第一アリーナへと到着した俺達は、訓練機が格納されているピットへと案内された。
中には本音ちゃんと真耶先生がおり、どうやら訓練機の最終確認をしてくれていたようである。
「まずは織斑、お前から試験を開始する。訓練機に乗り込め」
「はい! 」
管制室にはマイクを持った千冬さんがこちらを見据えており、一夏の名前を呼んだ。
もう覚悟が決まっているのか、特別授業で教わった通りに彼は訓練機へと乗り込む。
……俺も、覚悟を決めないとな。
「そのままカタパルトまで歩行しろ。着いたならアリーナへと射出し、訓練用ドローンと戦闘を行なって貰う。草薙も同様に、だ」
「よっ、と。こんな感じか? 」
入学試験後に動かすにしてはスムーズにカタパルトまで移動し、脚部を射出部分へ固定した。
やはり知識を頭に叩き込んでおいたことが幸いしたのか、動かす事自体はあいつにとって容易なことなのだろう。
試験はアリーナへと射出された後、敵ISを模した訓練用ドローンを相手にする形式らしい。
どうやら攻撃も行うので、特別授業で学んだ事を活かすのには最適と言える。
「織斑先生、準備オッケーです」
「よし、カタパルト起動するぞ」
そう千冬さんの声が聞こえたが直後、一夏は外のアリーナへと射出されていった。
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<第一アリーナ、一夏視点>
カタパルトで射出された俺の眼前にはまだ明るい空と太陽が視界に入り、ISを駆使して空を飛んだことを実感させる。
まだ多少の違和感はあるものの、ほぼ最適化は済んでいるみたいだな。
「千冬n……織斑先生、アリーナへ無事射出されました。いつでも始めて大丈夫です」
「分かった。これより、織斑一夏の"特別授業修了試験"を開始する。構えろ」
コア・ネットワーク、ハイパーセンサー、どっちも正常に稼働……。
千冬姉の声が直接IS自体に響いており、そして俺の目の前には武器を構えた訓練用ドローンが数体現れた。
「よし、来やがれッ!! 」
ISの画面に「ロックオン警告」が表れるとすぐさまドローンがアサルトライフルを構え、俺に銃弾(厳密には非殺傷の)を吐き出させる。
その行動を読んでいた俺は、軌道を予測させないようにまずはアサルトライフルを撃ってきたドローンへと近づいた。
「来い、ブレードッ! 」
確か熟練者は頭の中で考えただけで武装を展開出来ると聞いたが、俺の腕ではまだその域に達していない為こんな風に声に出して展開しなければいけない。
……ちょっと恥ずかしいけど、戦闘中は気にしていられないよな。
「! 」
「遅ぇっ! 」
俺の声を聞いたドローンがすぐに反応して銃を構えるが、時すでに遅し、俺の持つ刀によって斬り捨てられた。
「よし、次! 」
斬り捨てられた銃のドローンは消え、今度は近接ブレードを持った奴が俺を目掛けて武器を振り下ろしている。
辛うじて回避出来たはいいが、その剣のドローンの背後にいたもう一人のドローンが銃を構えているのが目に入った。
「やべっ!? 」
だが先程の奴とは違ってレーザー型の狙撃銃だったのか、銃声が聞こえたと思った直後に俺のISに直撃する。
外傷は負わないものの、搭乗者の衝撃はかなり大きい。
思わず俺は体制を崩し、まだ2体残っているドローンたちに隙を見せてしまった。
「ぐあ……ッ!! この……野郎ッ! 」
体制を崩した俺を更に追撃しようと、剣のドローンが瞬く間に距離を詰めてきた。
再び手にした剣を振りかざし、俺に大きなダメージを与えようとしている。
だが俺の脳裏には最初行なった箒との剣道の鍛錬が浮かび、頭上に振られた剣を素早く受け止め、剣のドローンの胴に刀を叩き込んだ。
「そこだッ! 」
剣道で言う"返し胴"という技術のひとつが、まさかここで役に立つとは。
後で箒に感謝しないとな。
「あと1体……! うおぉぉぉぉぉぉッ!! 」
最後の狙撃のドローンを見据えると、俺は"打鉄"に最大限のブーストを掛けて奴へと突っ込んだ。
無論近づかせまいと銃を引っ切り無しに放ってくるが、腕や脚に掠るだけで俺の前進を止めることには至らない。
「届けぇぇぇぇぇッ!! 」
そのまま無我夢中で前進を続け、気がついた頃には狙撃のドローンは俺の刀に貫かれて消えていた。
「織斑、試験は終了だ。ピットに戻ってこい」
「は、はい! 」
呆然としているなかアリーナに千冬姉の声が響き渡り、言われるがまま俺はピットへと戻る。
次は彰久の番だ。
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<ピット内、彰久視点>
一夏がドローンと戦うところを見たが、やはりあいつは凄い奴だと俺は思った。
あまり慣れていない状態で動かしたのにも関わらず、敵の攻撃を受け流して反撃に出ることなど、そうそう出来はしない。
「次は草薙、お前だ。準備しろ」
「は、はい」
一夏がISから降りる前に千冬さんから命令され、俺は一夏のとは違った"ラファール・リヴァイヴ"という機体に乗り込んだ。
ネイビーカラーの四枚羽が瞬く間展開され、俺はカタパルトまで歩みを進める。
武器はアサルトライフルにハンドガン、ナイフにグレネードと種類は一夏の使った"打鉄"とは違って豊富であった。
「彰久! 落ち着いていけ、お前ならやれるさ! 」
「……へっ、偉そうに言うなよ! 任せな! 」
おそらく一夏なりの励まし方なのだろう、俺に親指を立てて笑顔を見せる。
いいぜ、やってやろうじゃねーか。
「草薙彰久、ラファール。リヴァイヴ! 行きます! 」
そう覚悟を決めたが直後、俺はアリーナへと射出された。
テスト回に2話分使いそうですね。
セシリア戦はもう少しです。