そろそろ戦闘描写に持ち込みたい。
<夕方、彰久・一夏の寮部屋>
「ただいまぁ」
「おっ、お帰り彰久。すげえ荷物だな」
「一夏、帰ってたのか」
「あぁ。今さっき整備が終わったよ。まだしばらく時間が掛かりそうだ」
俺の腕に幾つも絡まる買い物袋を降ろすと俺は私服を脱ぎ、寝間着へと着替える。
何やら一夏が神妙な顔つきになっているが、何かあったのだろうか。
「どうした、一夏? 」
「え、あ、いや、なんでもない」
「お前がそんな顔すると決まって何かあるんだよ。どうした、言ってみろ」
ため息を吐くと一夏は俺を見つめた。
「彰久。"ウーンドウォート"って何だ」
「……! 」
「また俺達に隠し事してたんだろ。なんだよ、教えてくれ」
「はぁーぁ。せっかく言うなって千冬さんに口止めされてたのに……。しょーがねぇ、教えるよ。学園祭の時に俺たちを襲ってきた3機の内の1機の名前だ」
整備を行う際に千冬さんからその名前を聞いたのだろう。
質問に答えると彼は驚いたような表情を見せる。
「お前が俺を逃がしてくれた時に、もう一機来たんだ。んで俺と戦ったのがウーンドウォート。こいつの事を聞いたのなら、グレイスと共闘した事は聞いてるか? 」
「な、なんだって!? けどその人は事故で亡くなったんじゃ……」
「あー、これは誰にも言うな。福音の時の襲撃機も、今回の正体不明の友軍機も全部グレイスの仕業だ。そして、裏である人物が糸を引いてる。憶測だが、篠ノ之束辺りだろうな」
改めて機密を知った一夏の表情は固い。
「束さんが……。けど俺も襲撃されたんだ。昨日の打ち上げでお前と交代した時、"サイレント・ゼフィルス"
っていう機体に」
「……なんだって? それでどうしたんだ」
「白式の操作が利かなくなって、ピンチって時にラウラと箒が助けてくれた。その拍子で、相手の仮面みたいな装備が外れたんだけど……。千冬姉そっくりだったんだ」
「ほほう……」
十中八九、一夏を襲った刺客とやらはウーンドウォートと仲間に違いない。
グレイスの言っていた"亡国機業"……。
「だから今日はお前が来れなかったわけだな。なるほど、納得した」
「あぁ。シャルにも後で謝っておくよ」
「だが、理由は絶対に本当の事は言うな。ラウラと箒ちゃんが知ってしまってる以上、彼女たちも狙われる危険性があるかもしれない」
頷くことで一夏は肯定する。
「俺と一夏自身が狙われている以上、彼女たちを巻き込みたくないのは同じだ。だが一夏、お前は今ISを持っていない。整備が完了するまで、なるべく外出は控えた方がいい」
「そ、そうだよな……」
「ま、どうしてもどっか行きたいって時は俺と一緒に行動しよう。それでいいだろ? 」
「お、おう! べ、別にどっか行きたいって気もないけどな! 」
ありがちなツンデレヒロインか、と心の中でツッコミを入れつつ俺は自分のベッドへ飛び込む。
そのまま俺の意識は睡魔へと誘われていった。
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<翌日・生徒会室>
翌日。
一夏に起こされた後にそのまま二人でゲームをしながら徹夜してしまい、委員会の定例会を睡魔と闘いながら出席する羽目となった。
事前に会長から連絡は来ていたんだがついうっかり八兵衛である。
「あぁ……ゾンビが……チャー〇ャーが俺を掴んでいる……! 」
「あ、彰久……救急キットがあるぞ……」
「うわー、あっきーとおりむーの目が充血して更に不審者っぽくなってるよ。二人とも昨日何してたの? 」
「一夏と朝までレフト〇デッドやってた」
「アホでしょ君たち」
今回は一夏も生徒会役員として一緒に定例会に出席していた。
一応こいつも保護の目的で会長に無理やり引っ張られてきたようである。
「ほーら、起きなさい二人とも。起きないと悪戯しちゃうぞ~? 」
「イェア!! カモンベイべ会長!! 」
「じゃあ全校生徒の前で熱湯風呂とかどうかしら? 」
「立場が危うくなりますそれ」
さすがにみんなの見世物になる気は俺にもない。
え、既に見世物になってるって?
お前泣くぞ。
「はいはい、冗談はここまでにして。早速、定例会を始めましょう。一夏君、文化祭の売上額と支出額の書類はある? 」
「あ、これですね。読み上げますか? 」
「お願いします」
眠気を一蹴するように彼は立ち上がり、ファイルから取り出した書類を読み上げていく。
ふむ、俺ほどではないが様になってるじゃないか一夏。
「……以上が、売上高と支出額の総額になります。何か質問はありますか? 」
「はい。売上のお金はどこにあるの? 」
「えー、慈善団体やユニセフ協会に寄付しました。真耶先生に確認済みです」
「わかったわ。書類に記入しておくね」
「続いて、学園祭のメインイベントの結果を先にお知らせしておきます。実行委員長、お願い」
「はい」
茶髪のおさげの子が席を立つ。
「今回のメインイベント"ドキッ! 男の子争奪戦"は、生徒会が織斑くんを、テニス部が草薙君を部員に引き入れる事に決定しました」
「わかりました。次に行われる全校集会で発表をお願いします」
元気に返事をすると、実行委員長の子は席に座る。
え、俺テニス部に入ることになったの?
確かそこにはセシリアがいたはず……。
「テニス部だってよ。やったな彰久」
「ふふ、天はこの俺に味方しているぜ。まずそこの女の子たちでハーレム形成だ」
「以上が定例会の内容です。皆さん、お疲れさまでした」
約一時間ほどで終わりを告げた定例会。
他の女の子たちは一斉に立ち上がり生徒会室を出て行く。
「彰久くん、発言内容はちゃんとメモしてある? 」
「この草薙彰久、時間に遅刻しようとも女の子のスリーサイズと仕事内容は忘れない質なんですよ。はい、これです会長」
「ありがと。みんなも今日はお疲れさま、上がってもいいわよ。あ、彰久くんと一夏くんは残ってくれる? 少し今後の事で話があるのよ」
「ま、まさか生徒会室で3〇をしようなんて話じゃ……! 」
「……」
「無言で殴らないで! 痛い!! 」
どうやら冗談を言える雰囲気ではないようだ。
気を取り直して会長は生徒会長の机の上に座る。
「今度、生徒会主催の専用機持ちだけで模擬戦トーナメントを行おうと思うの。今までの訓練の成果と、皆に専用機持ちの能力を見てもらうためにね。試合形式は二人一組で、先に相手のエネルギーを0にした方が勝ち。単純で分かりやすいでしょ」
「あ、そういう事でしたか。日にちとか決まってるんですか? 」
「いや、まだ計画中。学校行事の合間を縫ってやるから、ちょっと忙しくなるかもね」
「俺達は大丈夫ですよ。どんな仕事でも任せてください! 」
「ふふ、頼もしいわね」
会長は扇子を口元へ持っていく。
「ま、今日はもう終わりだから二人とも休んでちょうだい。彰久君はテニス部へ顔を出しておくこと。いいわね? 」
「はーい! それじゃ失礼しまーす! 」
俺達は会長に別れを告げると、生徒会室を出る。
さっそく俺はテニスコートへ向かう事になり、一夏とも別れた。
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<夕方、IS学園廊下>
テニス部に顔を出して練習に参加させてもらったところ、俺は自分の体力の低下っぷりに絶望する羽目となった。
中学時代は色々と追いかけ回されていたので、スタミナはあるつもりだったんだけど……。
「お疲れ様でした、彰久さん」
「はぁ……はぁ……お疲れ……」
「んもう、殿方がそんな風では情けなくてよ? 」
「いやー、中学の時には体力あったんだけどねぇ……。走り込み始めるかな」
今はお互いに着替えてセシリアと食堂へ向かう最中である。
あんなに走ったのに息一つ切らしていないセシリアを尊敬するぜ……。
「あ、そうだ。彰久さん、今度一緒にテニスラケットとか見に行きませんか? いつまでも部室の物を使っていても伸びるものも伸びませんわ」
「うーん……確かにそうだな。来週の土曜日なんてどうだ? 」
「わたくしも丁度その日が空いてますの! 楽しみにしていますわ! 」
シャルとデートした後はセシリアとデートするなんてな。
ふっ、モテる紳士も辛いものだ。
「そうだ! なら他の方も一緒に……って、あら? 」
「どうした、セシリア? 」
「あれは……簪さんに会長? 一体何を……」
ふとセシリアが二人の名前を口にすると、俺たちは壁に身を潜める。
どうやら口論しているようだ。
「もう知らない! 姉さんのバカっ! 」
「あ……簪! 待ちなさい! 」
簪ちゃんが振り返って俺達の方向へ走って来る。
その瞬間、俺は彼女と目が合ってしまった。
「……あ、彰久……それにオルコットさんも……」
「よ、簪ちゃん」
「大丈夫ですか? 簪さん」
簪ちゃんは目に浮かべた涙を振り払うように俺達の元を走り去る。
「……何も、無ければいいんですが」
「そうだな。それに会長との関係は、俺達が口を出していい問題じゃない。俺達には見守るか相談に乗ってやることしか出来ない」
「そう、ですわね……」
悲しそうに表情を暗くする会長を見て、俺達は静かにその場を後にした。
「……隠れてるのバレバレよ、二人とも。分かってるわ、分かってるのよ……」
苦し紛れの静かな悲鳴を、俺達は受け止める。
自然と、歩く方向は簪ちゃんの後を追っていた。
今回は簪ちゃん&会長和解の段取りでした。
これに一夏も絡んでくるので複雑になります。