IS-突き進め!変態紳士-   作:「旗戦士」

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とりあえず今回で学園祭編もクライマックスでしょうか。


変態紳士、揉む

<保健室・グレイス視点>

 

 

草薙彰久が一瞬で寝たことを確認すると、私は保健室の内線を拝借して織斑千冬を呼ぶ。

未だにこのウーンドウォートのパイロットは眉ひとつ動かさずにベッドの上に座っていた。

 

"死ぬ覚悟がある"と言っていたが、どうやら彼女は本当にそのつもりのようだな。

草薙彰久らと同い年のように見えるのにも関わらず、そこまで達観していると大人としては悲しいものである。

 

「先生、すまない。いきなり事を荒立ててしまって」

「いいのよ。私は怪我を治すことしかできないから。それと、私には"花巻由衣子(はなまき ゆいこ)"っていう名前があるの。覚えておいてちょうだいね。グレイス・エーカー」

 

「ほう、私の名を知っているのか。光栄だな、由衣子」

「IS業界に携わってる以上、貴女の名前は嫌でも聞くわ」

 

心地よい静かな笑い声が少しだけ保健室に響くと、保健室の扉が開く音がした。

黒いスーツに身を包み、凛とした美貌を持つ女性、織斑千冬である。

 

 

「……本当に拘束に成功したようだな。草薙は? 」

「ぐっすりと眠っているよ。極度の緊張感で疲れたのだろう」

「むにゃむにゃ……。よっ、よせセシリア! お、俺の側に近づくなァーッ!! 」

 

 

「……おい、そこのお前。ここに侵入したからにはそう簡単に出れると思うなよ? 貴様らの組織について色々と聞きたい事がある」

「好きにするがいい。どうせ解放されても組織から見放されている身だ。というかこいつ半端なくうなされてるが大丈夫なのか? 」

 

 

彼女は草薙彰久の容態を聞くと安心したように口元を緩ませた。

当の本人は何かにうなされているようだが、まあ大丈夫だと信じたい。

千冬とて人間だ、教え子が無事なのは何よりもうれしいことなのだろう。

 

「ずいぶんと余裕そうだな。とりあえずこれからお前を独房へ連れて行く。尋問はそこからだ、いいな? 」

「んごー……。ふがっ!? やめるんだシャル! そんなおっきいの入らないから!! らめぇぇ! 」

 

「いや完全にこれまずいだろ。放置していていいのか」

「よし、来い。さっさと立て」

 

(えっなんなの? らめぇとか言ってんのに放置すんの? )

 

さすがの奴もこの異様な光景に困惑しているようだ。

無理もないな、私も既にどうしたらいいのか分からない。

千冬の方は聞かない様にしているみたいだが。

 

「由衣子先生、他の先生方と一緒にこの侵入者を連れて行って貰えないでしょうか? 私はこちらの協力者と話があるので」

「え、えぇ。大丈夫よ。他の先生はどちらにいらっしゃるのかしら? 」

 

「外で待機して貰っています。では先生、よろしくお願いします」

「分かったわ。さ、立って」

 

由衣子はエスコートするようにウーンドウォートの彼女を立ち上がらせ、保健室を出て行く。

寝ている草薙彰久とこちらを見つめる千冬と私だけになり、彼女はため息を吐きながら椅子に座った。

 

 

「……誰の差し金だ? 死んだと思ったら生きていたとはな……グレイス」

「落ち着け。君はもっとクールだ」

 

「あくまでも言わないつもりか。まぁいい、だいたいの察しはついている。お前はなぜここに来て、我々の手助けをした? 」

「……クライアントの指示、とでも言っておこうか」

 

「ふざけるなッ! 」

 

怒りを露わにしながら千冬は私の胸倉を掴む。

 

「すまん。今は生徒達を守るので手一杯なんだ。お前に当たるのは間違っていることなど承知の上……悪かった」

「気にしなくていい。モンド・グロッソからの付き合いだろう? 」

 

「……そうだな。お前の話せる範囲でいい、話してくれないか? 出来るなら情報が欲しい」

「まず私はクライアントに"織斑一夏と草薙彰久の護衛"を命ぜられた。学園祭を狙って例の連中が襲撃に来ることを予測していたからだ」

 

「亡国機業……通称"ファントム・タスク"だったか」

 

私は頷いた。

どうやら千冬の方もある程度は理解しているらしく、考え込むように顎に手を当てている。

 

「それで私は対暗部組織"更識"とのコンタクトを取り、楯無を協力者として引き込んでから学園へ"早乙女アルト"として潜入した。そして今に至る、という訳さ」

「ふむ、なるほど。お前は今後どうするつもりだ? 」

 

「どうするも何も、このまま学園を抜けて再びクライアントの指示を仰ぐ」

「……軍へ戻るつもりはないのか? 」

 

「黙秘させて貰おう」

 

その場を立ち去ろうとすると私の手を千冬が引き留めた。

彼女の顔は俯き、何か言いたげである。

 

 

「……千冬。私はもう、君の知る"グレイス・エーカー"ではない」

「……あぁ。分かっている。死ぬなよ、グレイス」

「お互いにな」

 

寂しそうな表情を包み隠し、彼女は私に別れを告げた。

 

「草薙彰久。君と共に戦えて光栄だった。私は君に敬意を表する」

「うへへへ……むにゃむにゃ……母ちゃーん……結婚相手連れてきたよー……」

 

幸せそうに眠る草薙彰久の頬にキスをしてから、私は保健室を出る。

柄にもない事をしてしまったが、気にせず私は束に通信を掛けた。

 

 

「こちらグレイス。草薙彰久と織斑一夏の保護及び亡国機業の人員をIS学園に拘束することに成功した。これより帰還する」

『はいはーい、おっつかれさまー! クーちゃんももう戻って来てるから指定したポイントにいてね』

 

「了解した。千冬の方も元気そうだったぞ、何か気疲れしているようではあったが」

『まぁ、しょうがないよ。今の立場はちーちゃんにとっては居づらいしね』

 

「……また、戻れるといいな。束」

『うん。その為に私は、こうしてるわけだし』

 

 

珍しく真面目な声を聞いた私は、驚いた拍子に通信を切ってしまう。

既に指定されたポイントは表示されている為、そのまま向かう事にした。

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<数時間後・保健室・彰久視点>

 

 

 「やっ、やめろ一夏! 俺とお前は男同士……アッー!! 」

 

セシリアにポイズンクッキングを顔面に食らわされ死に、シャルには"ゼータ"の飛行形態の時のシールドでケツを刺されて死に、そして一夏とはキスをして幸せに暮らして死ぬというなんとも悲惨過ぎる夢を見て俺は保健室のベッドから飛び起きる。

 

さ、最悪の目覚めだ……まさか自分の寝言で起きて尚且つホモエンドになるとは……。

くそう、俺はもう神様なんて信じないぞ!

 

「あれ、もう夜か……。確か俺はグレイスと一緒にここに来て、んで疲れたから寝て……ん? 」

「すぅ……すぅ……」

 

俺のすぐ隣に視線を落とすと、そこにはISスーツのままで寝ているセシリアの姿が。

 

(……落ち着け、落ち着くんだ俺。そうだ、こういう時は素数を数えるんだ……。2、4、6、8……あ、偶数だコレ)

「えっ? もしや俺やっちゃったの? 一夜の過ちを夕方に犯しちゃったの? 」

 

けど個人的にはラッキーと思っている自分がいる。

やっぱり神様っているんだね、俺信じてたよ。

セシリアは俺の隣で寝返りをうち、俺の方へ顔を向けた。

理性が崩壊しそうなのを抑えて俺は彼女の二の腕を触る。

 

 

「……んっ……ぅん……」

「おっふ、何今の声超エロい。そういや変態紳士wikiで二の腕の感触っておっぱいと同じって書いてたような……。はっ!! ま、待てよ……。ということは……」

 

 

"セシリアのおっぱいを触っているのと同様ッ!!"

そう心の中で俺は確信し、静かにガッツポーズをとった。

まさかこんな簡単におっぱい(仮)を触れるとはな……。

 

 

「ふっふっふ、セシリアよ。普段君があんなおっきい希望の塊を胸に詰めているからいけないんだぞ……。さあ、存分に揉ませて――――」

「彰久ー? 起きたんか……って、え? 」

 

「あっ」

「…………」

 

 

吐き気を催す邪悪のような顔をした俺の視界に真琴ちゃんが入る。

なんという絶妙なタイミング。

狙ってるの? 俺に一皮向けさせてくれないの神様? ねぇ?

 

真琴ちゃんの目からハイライトが消え、尚且つその背後には黒いオーラを纏っているように見えた。

一体いつからこの子はこんな風になってしまったんだろう。

あ、俺と仲良くなってからじゃん。

なんか複雑。

 

「き、き、今日という今日は黙っちゃいられへんで! な、な、ななななんで彰久とセシリアが保健室のベッドで一緒に寝てんのや! どう考えてもおかしいやろ! 」

「いやぁ、俺ちょっと侵入者と戦闘してて疲れたからここで寝てたのよ。見ての通り、俺頭とか怪我してるっしょ? 」

 

「あ、ほんとだ……。ご、ごめんなぁ彰久」

「うむ。次からは間違えないでくれよ。じゃあ俺は寝るから」

 

「うん。おやすみなー」

 

そう言って真琴ちゃんは保健室を立ち去る。

 

「ってんなわけあるかィ!! 何ノリツッコミさせてんねんドアホ!! 」

「おぉ。さすが真琴ちゃん。やっぱ天才技術者は違うなー」

 

「えぇー? ほんとにぃー? そんな褒めんといてよーもう! ……だからちゃうわ!! 」

「今の完全に自分のせいでしょ!? 」

 

「うるさくうるさーい! きちんと訳を話してもらうまでウチは動かんで!! 」

 

 

顔を真っ赤にしたり照れたり怒ったり忙しいものだ。

まるで俺のマイサンのようだな真琴ちゃん。

そんな彼女は俺のベッドの前にドカッと座りこみ、あぐらを掻いた。

 

 

「いやマジで起きたら隣でセシリアが寝ててビックリしたんだって。俺だって侵入者を倒した後にすぐ保健室に来たし、セシリアを連れ込めるほど元気残っちゃいないって」

「むー……。そうやっていつも嘘つくのは誰やったんかなー? 」

 

「うっ……。日頃怒られてるせいか信用がない……」

「だ、だいたい! 彰久がそうやって女の子に対して分け隔てなくエッチな事するから信用無くすんや! 自業自得やで! 」

 

「はい……その、なんというか調子こいててすいませんでした」

 

 

まさか保健室まで来てお説教を食らうとは思わなかったぜ。

まあ暴力を食らわないだけましかな、今怪我してるし。

それを気遣ってお説教をセレクトした真琴ちゃんはさすがである。

ついでに鞭で叩いて欲しい気分だ。

 

「ちょっと! 彰久、聞いてるんか!? 」

「あ、ごめんごめん。今真琴ちゃんの裸想像してた」

 

「……反省してないならこのスパナを彰久の頭に」

「すいませんそれマジ勘弁してください。さすがに痛みで死ぬわ」

 

「で、ですよね……」

 

なんか逆に申し訳ないような気持ちになる俺。

もう真琴ちゃんマジでかわいい結婚したい。

 

「……んぅ? あれぇ……? あきひささぁん……? 」

「あ、起きた。おはよーセシリアー」

 

「え……えぇっ!? わたくしもしかして彰久さんと……うぇぇっ!? 」

「落ち着けセシリア。一応言うけど俺は手だしてないからね? 」

 

かわいい声を上げながらベッドから起き上がるセシリア。

思わず本気でそのままベッドインしたくなったが、目の前の真琴ちゃんがスパナをちらつかせたので自重することにした。

 

「……彰久さん、その、責任とってくださいね? 」

「だからしてねーって言ってんだろ!? ふざけんな紛らわしい事言ってんじゃねぇ! 今すぐ既成事実作りたいとこだけど目の前の人が今すぐスパナ振りかざそうとしてんだよ! 」

 

「本音漏れて何が何だかわからなくなってますわよ」

「いっけなーい☆ 変態紳士自重☆」

 

「果てしなくウザい」

 

悪くなっていく雰囲気を良くしようと思ったが逆効果だったようである。

 

「だ、だいたい! セシリアもセシリアでなんで彰久の隣で寝てんのや! 女の子がそういうこと簡単にしちゃアカンやろ! 」

「その……魔が差しまして」

 

「魔が差したやない! 今日はとことんお説教や!! 」

「俺もう食らったじゃん!? 」

 

 

 

そんな抵抗も虚しく、真琴ちゃんはまた俺たちを正座させてがみがみと怒り出す。

このお説教は夜まで続き、真琴ちゃんが眠くなって終わりを告げた。

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<同刻・亡国機業>

 

 

 

無事帰還したMとオータムの二名は内心不安がりながらも任務の失敗をスコールへと告げる為、亡国機業のアジト内になるスコールの私室を訪ねる。

扉を開けるとバスローブ姿のスコールが現れ、二人を部屋の中に入れた。

 

「……その様子だと、任務は失敗したみたいね? 」

「私のデータ解析とハッキングは遂行した。しかしオータムとエリアの両名が織斑一夏と草薙彰久のISの奪還に失敗し、結果としてエリアがIS学園に拘束された」

 

「あ、あたしはまだやれた! こいつが余計な真似をしなきゃ今頃……! 」

「分かっているわ、オータム。M、あなたもお疲れ様。次の指示があるまでゆっくりして頂戴」

 

その妖艶な美貌を存分に振りまきながら、彼女はソファに座り結果報告を受け取る。

結果は最悪だった。

まだ白式やギャプランとの戦闘データやIS学園の情報を引き出せたからいいものの、最重要課題であるISの奪還に失敗し、尚且つメンバーを拘束されてしまうという事態。

 

あの余裕そうな表情を崩さないオータムでさえも、焦りが顔に出ている。

しかし、スコールから出たのは凶悪な笑みだった。

 

 

「ふふっ、ふふふ……。面白くなってきたじゃない。まさか……"グレイス・エーカー"と"草薙彰久"が協力関係を結ぶだなんて。ドイツの軍事工場を襲った国際指名手配犯とまだ公表されていない第二の男性IS操縦者……。この情報をリークしたらどうなるのかしら? 」

 

「す、スコール……。その、悪い。全然、良い結果は得られなかった……。け、けど! 次は! 次こそは完遂してみせるから! 」

「大丈夫よ、オータム。これからまだまだ面白くなりそうだから。あなたは休んでて」

 

「…………分かった。じゃあな、スコール」

「ええ。おやすみ」

 

 

申し訳なさそうに謝る彼女を部屋に帰らせて、スコールはMの方へと視線を向けた。

フードを外し、織斑千冬と瓜二つなその姿を露わにする。

 

「M。あなたにはエリアの奪還の任務に就いてもらうわ。内容は追って知らせる。オータムがあんな様子じゃ、任務も捗らないでしょう」

「了解。これより待機行動に移る」

 

 

一人残された彼女はスコールに挨拶をしてから、自分の部屋へ戻った。

彼女の部屋はベッドとタンスしかない質素なもので、Mはベッドの上に座り込む。

しかし、妙に彼女は満足感に浸っていた。

 

 

「やっと……やっと会えるね……"姉さん"……」

 

 

黒ずくめの服の胸元から金色のペンダントを取り出し、彼女はボタンを押して蓋を開ける。

そこには織斑千冬の写真が入っており、不気味にMは笑う。

 

 

「やっと私の復讐が……できるよ……。姉さん……ふふっ、ふふふ……」

 

 

殺風景な部屋に少女の静かな笑い声が響いた。





次回はどうしようか迷い中。
また日常ほのぼの回で攻めようかな。

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