やっとこさ学園祭編終了間近です。
<IS学園・ロッカールーム>
俺は思わず声を張り上げる。
俺は拘束され、会長も手出しすることが出来ないという絶望的な状況の中でシャルと箒が来てくれたのは声を出して喜ばざるを得ない。
今は二人が女神にみえるよ……。
「へぇっ、獲物が二人増えたのか。ちょうどいいなぁ、おいッ!! 」
「私たちにとっては獲物が一匹にしか見えないがな」
そう言いながら箒は二本の刀を両手に大きく前進する。
背中の展開装甲をビットとして浮遊させながら、彼女はオータムの多数の装甲脚と剣劇を始めた。
しかし、ビットが向かうのは俺たちの元。
エネルギービームを纏ったビットが俺を拘束していた糸を切り裂き、晴れて俺の身体は自由になる。
「箒……ビットを自在に……」
「訓練の成果、かしら。一夏君、立てる? 」
「はい! あいつに借りは返さないと! 」
疲れ切った体に発破をかけ、俺は雪片弐型を手に立ち上がった。
俺はいっつも他人の世話になってばかりだ。
箒……楯無さん……ありがとう。
今度は、俺が。
「――――今度は、俺がッ!! 」
「ッ! テメェ、まだ生きてやがったか! とっととくたばりやがれぇッ!! 」
「させないよ! 」
一刀のもと装甲脚を斬り捨て、俺は無理やり箒と奴を引きはがす。
「ちィッ! うざってぇっ!! 」
「行くよ、ゼータ! 」
シャルの声に反応するように"Z"の目が光り、彼女はビームライフルを3連射した後に腕に備え付けられたグレネードを二発オータムに向けた。
爆風が二人を覆うが、先に煙の中を脱出したのはシャルのZである。
後退しつつ、彼女は青い長大なライフルを煙の中に向けて放った。
「クソッたれぇっ!! 動けってんだよォッ!! 」
「今だよ一夏! 」
シャルが作ってくれた絶好のチャンスを俺は逃さない。
俺は行く手を阻む残った装甲脚を雪羅で切り裂き、オータムの腹部目掛けて突進する。
最大出力の瞬間加速に、為す術なく奴はアリーナ側の壁に叩きつけられた。
「ここから……ッ! ここから……ッ!! 出て行けぇぇぇぇぇぇッ!!! 」
壁にめり込むまで俺はオータムを押さえつける。
俺は思い出したんだ。
こいつが……こいつらが千冬姉の栄光を……!!
「白式ィッ!! 俺に力を貸せッ!! 」
俺の声に呼応するように白式の画面に"単一仕様能力"の使用可能の表示が表れた。
咆哮と共に俺は奴の腹を蹴り上げる。
ロッカールームの壁は崩れ、夕暮れの空が俺たちを覆う。
オータムは衝撃を殺しきれずにアリーナへと投げ出された。
「畜生! さっきまで劣勢だったはずだぞ!? 」
「お前だけは……落とすッ!! 」
怒りと興奮が俺の脳内を覆い、無我夢中で銃を向けるオータムとの距離を詰める。
奴が銃弾を吐き出すよりも早く俺は雪片弐型を振り降ろし、奴に袈裟斬りを浴びせた。
弱弱しく地面に落下し、俺も膝を着きながらなんとか地面に着地する。
「動け! 動けってんだよぉ! クソッたれぇッ!! 」
「終わりだ、オータム。大人しくしろ」
隣にいる彼女に俺は雪片弐型を突き付けた。
「……へっ、へへへへへ。はははははは!! 」
「様子が、おかしい……? 」
狂ったかのように倒れながら笑い声を上げるオータム。
警戒しながら楯無さんと箒とシャルが彼女を拘束する為に近づいて行く。
だが何か嫌な予感がした。
その直後の事である。
白式のアラートが上空を指し示し、俺は急いで顔をアリーナの上へ向けた。
オータムとはまた違った青と白のISを纏った奴がこの場にいる全員の視界へ入る。
瞬間、俺たちを包んだのは無数の紫色の光弾。
間違いない、オータムの組織の仲間だ。
「オータム。貴様は姿を晒し過ぎた。ここは退くぞ」
「……ちっ。今回ばかりは言う事聞いてやるよ。あのマヌケは? 」
「拘束された。今は離脱が最優先」
「使えねぇな」
先程の狂った様子とは打って変わって、オータムは冷静そのもの。
青いやつはビットのみで俺たちを捌き、悠長に会話している。
「あばよ、織斑一夏。代わりと言っちゃあなんだが置き土産だ」
「ふざけんなッ!! 逃がすわけねぇだろぉッ!! 」
無我夢中で俺は二人の元へ直進した。
しかし連中がそんな接近を許すはずもなく、その内にオータムは蜘蛛のような装甲脚を脱ぎ捨て、青い奴の両腕の中へ飛び込む。
取り残された装甲脚は遠隔操作で俺たちの方へ直進してきていた。
独特なアラームを奏でながら。
「ッ!? みんな、急いで離れて!! 」
「くっ、まずい! 」
会長の警告は少し遅く、一番装甲脚と距離が近いのはシャル。
そんな彼女を箒が突き飛ばし、少しでも遠く引き離す。
「箒ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!! 」
俺はなりふり構わず瞬間加速で箒の元へ直進した。
もう、"福音"の時のようにはいかない。
俺には"雪羅"がある。
みんなを守る、力が。
装甲脚が自爆する僅か数秒前、俺は雪羅を展開した。
爆風が俺たちを包む。
「ぐっ……おぉぉぉぉぉぉッ!! 」
衝撃と爆風で吹き飛びそうになるが、俺は必死に雪羅を構え続ける。
辺りが晴れるまでの数秒間が、俺にとってはとてつもなく長く感じられた。
「…………あれ? 」
「箒、良かった……無事で」
「ば、馬鹿者!! どうしてあんな無茶をした!! 下手をすれば"福音"の時と同じように……! 」
「もう俺のせいで誰かが傷付くのは見てられなかった。それに、今度は俺は守るって誓ったから」
どっと疲れが俺の身体を襲うが、彼女を安心させようと俺は無理やり笑顔を向ける。
当の本人は顔を赤くして俯くばかりだ。
……もしかしてちょっとカッコつけ過ぎたかな?
「ずるいぞ……本当にお前ばっかり。私だって……」
「私だって……なんだ? 」
「はいはいは~い。この場でイチャラブしたいのは分かるけど、先生に報告が先よ? 事後処理はお姉さんがしておくから、三人は織斑先生の所へ行きなさいな」
「す、すいません。楯無さん……」
正気に戻った俺達はお互いに顔を赤くしつつそっぽを向く。
一気に恥ずかしさが込み上げ、箒の顔を直視できなくなったからだ。
楯無さんやシャルはその様子を見てくすくす笑い始める。
「二人を見てるとなんだかキュンとしますね、会長」
「ふふ、そうね。お姉さんいたずらしたくなっちゃうわ」
「……聞こえてますよ、会長」
「あらー? なんの事かしら? ほらほら、早く行かないと織斑先生激おこぷんぷん丸だよぉー? 」
悪戯に笑う楯無さんに、箒はため息を吐く。
そんな当たり前の光景を取り戻せた俺は、満足げに千冬姉のところへ向かう事にした。
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<同刻・保健室・彰久視点>
「失礼。保健室の先生とお見受けする。二人分ベットを借りてもいいだろうか? 」
「え、あ、あなたは!? それとその子はどうしたの!? 」
「ごめん、先生。説明は後にしてほしいんだ」
ようやく保健室へたどり着いた俺達は保健室の先生に断りを入れてからウーンドウォートの彼女をベッドに寝かせる。
俺はその場でへなへなとへたり込んだ。
や、やっと安心できるぜ……。
今にも起きて暴れ出さないか心配だったんだよな……。
「っ!? 」
「少年、無理をするな。君がこの中で一番疲弊している。何せ君が一番に戦ったのだ、そう腰が抜けるのも無理はない」
「出来ればこんな形で腰は抜かしたくなかったよ」
「ほう? それはどういう意味かね? 」
「もっと性的な理由で腰を抜かしたかった……!! 」
「少年、やっぱりベッドで休まなくていいな」
「ごめんなさい嘘です」
疲れ切った体から力を振り絞ってグレイスに土下座をする。
瞬時に土下座をする体力があるのになんで疲れ切ってるのという質問は厳禁だ。
「け、けどまあ俺まずは怪我の手当てしないとな。ちょっと擦り傷とか切り傷があるし。ウーンドウォートの人の方は大丈夫? 」
「そうだったな、目的を忘れていた。先生、お願いできますでしょうか? 」
「治療をするのは構わないけど、事情はしっかり話してもらうわ。草薙君、傷を見せて」
「えーと、こことここと……後ここです」
グレイスに手伝ってもらいながら俺は立ち上がり、先生の元までなんとか座る。
言われるがまま俺は肘と二の腕、それに頭の傷を見せた。
まさか頭を打って血を流す羽目になるとは思わなかったぜ。
改めて自分の頑丈さには驚かされる。
「頭から血出てるじゃない! ちょっと草薙君、本当に大丈夫なの? 」
「え、えぇ。まだなんとか意識とかはあります。……結構大きい病院とか行かなきゃいけないですか? 今そんな余裕はないんですけど……」
「幸い、ここの保健室は大学病院並の設備が整ってるからなんとかなるわ。あまり秘密裏の団体が国の組織と関わるものじゃないしね。深刻な病気や怪我なら大学病院へ診てもらうことになるけど」
「なるほど。やはり学園としては部外者とかかわりを持ちたくないわけだな」
「いっ! 痛ててっ! もう少し優しくしてくれないですか!? 」
「これでも優しく消毒してるわ。包帯巻くから、頭出してじっとしててね」
俺は先生の方へ頭を向け、何かが巻きつけられる感触がするのを感じた。
顔を伝っていた血も拭ってくれて、ようやく治療が完了する。
「うっ、ううん……? 」
「……眠り姫がお目覚めのようだな。ここが分かるか、ウーンドウォート? 」
どうやらウーンドウォートの人も目が覚めたようで、寝ぼけ眼ながらに周囲を確認していた。
一瞬で状況が察知できたのか上体を起こして腕を構えようとするものの、両腕が拘束されてしまっているため身動きが取れない。
「貴様……私を生かしておいてどうするつもりだ。なぜこんな所に連れてきた」
「さあ、何故だろうな。もっとも聞かれても答えるつもりはないが」
「ウーンドウォートの人、こっち来てくれ。アンタも怪我してるだろ? 今治療するから」
「……草薙彰久、貴様は馬鹿なのか? 身動きが取れない敵を治療して何になる? 」
「ほらほら、御託はいいから。女の子がいつまでも怪我を治さずにしてるもんじゃない」
「い、いきなり腕を掴むな! 」
案の定抵抗の意思を見せる彼女を俺は無理やり引き寄せ、先生の前へと座らせる。
反抗しても無駄だと思ったのか、仕方なく彼女は怪我を負っている部分を見せた。
ふっ、女の子に無理やり何かするというのは性に合わないがなんだか興奮するな。
しかもこの「くっ…殺せ」の状態……。
もしかしたらもしかして薄い本的な展開も有り得るかもしれない……!
「そうと決まったらまずはこの変態紳士委員会特注の"姫騎士アーマーセット"を彼女に着せるしか……しかしどう着せればいいんだろうか……」
「……何か言っているようだが? 」
「無視して頂いて結構だ。それより、傷の状況は? 」
「貴様に知らせる義理などない」
何か今二人の俺への評価がまた落ちた気がするが、気にせずに俺はウーンドウォートの彼女の方へ顔を向けた。
見かけによらず強情のようで、口を開く様子はない。
むむぅ、ならば禁忌と呼ばれた変態紳士エロエロ尋問で嫌にでも口を開かせようか迷うが女の子に乱暴するのは些か気が進まないのでやめておく。
「もうすぐ織斑先生が来る。そこから本格的な尋問が始まるだろうけど、本当にそのままでいるつもりかい? 多分キレてるあの人を目の前にしたらちびるだろうけどなぁ」
「……元より敵に捕まった時点でお終いさ。死ぬ覚悟なんてとうの昔に出来ている」
「そう簡単に女の子が死ぬなんて言わないでほしい。悲しいもんだぜ? 美少女が絶望して死んじゃうっつーのはさ」
「つくづく馬鹿馬鹿しい。好きにしろ。私はここを動かん」
「頑固だな。年頃の娘は難しい」
「……ねぇ、草薙君? 話が見えないんだけど? 」
ウーンドウォートの彼女の治療を終えたところで、保健室の先生が俺に耳打ちしてきた。
「すいません、先生。実はベッドで寝ている彼女は侵入者なんですよ。それで傍に立っているグレイスさんと二人で無力化したわけで、今から侵入者を織斑先生に引き渡す所っつーわけです」
「なるほどね。しかしまぁ……侵入者を治療させるなんて正気なの? 」
「目の前で女の子が傷付いたままじゃ目覚めが悪いでしょう? 」
「……ふふ、やっぱりあなたって悪い男ね。草薙君」
「はっはっは、何の事ですかな? 俺はハーレム王国を築く為にこうして行動しているわけですぞ」
「丸聞こえじゃ意味ないけどね」
痛いところを突かれ、俺は何も言えなくなる。
背後から澄ましたような笑い声が聞こえ、俺は赤面した。
「っと。そろそろ俺は休ませて貰いますよ。いいですか、先生、グレイス? 」
「私の許可はいらないわ。お疲れ様」
「構わない。存分に休んでくれ」
そう返答が聞こえたかと思うと、俺はものの数秒で眠りに落ちる。
やっと得られた安心感を噛みしめながら。
ちょーっと調子に乗り過ぎたせいか成績不振しちゃいました。
勉強するのでもしかしたら更新が更に遅れてしまうかもしれません。