IS-突き進め!変態紳士-   作:「旗戦士」

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一夏視点と彰久視点入れたらすごいボリュームに。


運命の先へ

<第三アリーナ・彰久視点>

 

 

 

俺とウーンドウォートの間を遮るようにグレイスは銃を奴に向け、俺を背に立つ。

恐怖心は一気に驚きへと変わり、不思議と全身の震えは止まっていた。

俺は立ち上がる。

シールドエネルギーの残量はおよそ300。

まだ……やれないことはない。

 

 

「すまない、少年。私が見張っていながら、彼女らを侵入させてしまうとは」

「見張っていた? ……あ、アンタまさか! 」

 

「君の察した通りだ。私は君と織斑一夏を保護するため更識家の次期後継者と話を合わせて貰い、"早乙女アルト"として学園に潜入したのさ」

「なるほどね……。どおりで聞き覚えのある声だと思ったよ」

 

 

ウーンドウォートに再び視線を向けると、表情こそ読み取れはしないが同じように驚いている。

その証拠にあの長大な銃剣を構えてはいるものの引き金を引けない様だ。

しかし普通、第三者が介入しただけでこんな驚くもんかね。

何か因縁でもあったりして。

 

 

「久しいな、ウーンドウォート。そのような色に変えたという事は、装備も強化したと見える。あの時は決着をつけられなかったが……少年と共に、討たせてもらうぞ」

「恨みで直情的になるのは嫌いだが……グレイス・エーカー、貴様は私の手で殺す」

 

「怖い顔だ。やれるか、少年? 」

「あ、当たり前だっつーの! もうビビッてたまるか! やいウーンドウォート! 必ずそのISを解除させて胸揉んでやるからな! 」

 

「草薙彰久……君は……」

「……噂には聞いていたが救いようのない変態だな、草薙彰久」

 

 

自分に発破を掛けるようにウーンドウォートを指差して俺は変態紳士お馴染みの胸揉み宣言をした。

二人して俺を見る目がなんだか残念なものを見るような目になっているが、これで俺の流れに引き込めた気がするので結果オーライとしよう。

 

 

「へへっ、調子出てきたぜ! 」

『……もう、呆れた子。エネルギー残量は500を切っているわ、注意してね』

 

「もうヘマはしないさ。グレイス、あんたが先行してくれ」

「了解した。油断はするなよ」

 

 

瞬間、グレイスのオーバーフラッグが手にするリニアライフルの光弾が長大な銃剣を構えるウーンドウォートに殺到する。

不意打ちとはいかなかったものの、相手の構えを強制的に解除させることは出来た。

それと同時に俺とグレイスは飛行形態へ変形し、奴を誘うように空中へ舞う。

舌打ちする声を共に、ウーンドウォートは変形して俺達との距離を詰めた。

 

 

「来るぞ! 真後ろ! 」

「上下に散開! 挟み撃ちだ! 」

 

 

グレイスと俺の間を抉るように割って入ってくるウーンドウォートのビームを上下別々に散開することにより、攻撃を回避すると同時に奴を前後で挟み撃ちにする。

直後ウーンドウォートの前方にいたグレイスが空中変形と共に青いビームサーベルで奴に近接戦闘を挑み、ウーンドウォートは急停止して鍔競り合った。

 

しかし、その隙を俺が逃すはずもない。

 

グレイスがサーベルを握る力を弱め、鍔競り合いから離脱した瞬間に俺はムーバブルシールドバインダーとロングブレードライフルから計3門のビームを放つ。

 

 

「ぐっ……!? 小癪なっ!! 」

「どこを見ている、ウーンドウォート! 」

「ほざけぇッ!! 」

 

 

先程のような冷静さは欠いており、あれほど正確だった射撃もしっかりと捉えていれば避ける事も可能なまでに腕が落ちていた。

内心、きっとウーンドウォートは焦っている。

グレイスが来てからこんなに心持ちが違うとは……。

つくづく彼女との差を感じさせられるぜ。

 

 

『彰久! 真っ正面から砲撃! 防御した後に反撃を! 』

「了解! グレイス! 奴を惹きつけてくれ! 」

「任せておけ! フラッグファイターの名にかけて! 」

 

 

エマさんの音声が響いた後、すぐさま極太のビームが俺に殺到する。

事前に両腕のシールドを構えていたおかげか、ダメージも少ない。

得意になった俺は照射ビームの充填を始めた。

 

生憎ウーンドウォートはグレイスとの格闘戦に夢中になっており、ビームをチャージしている俺の存在はすっかり視界に入っていない。

 

へへっ、お返しにかましてやるとすっか……!

 

充填時間はおよそ30秒。

フライルーに二次移行してからエネルギー残量も増えてチャージ時間も若干短縮されたが、相変わらず隙が大きいのが最大の難点だ。

 

 

「逃がしはしないぞ、草薙彰久! 」

「うげっ!? やっぱバレてた! 」

 

 

充填をキャンセルして俺はすかさずロングブレードライフルを数発放つ。

だがそれも当たらず、ウーンドウォートに接近を許した。

俺の左手にあるビームサーベルと奴の銃剣がスパーク音を立てる。

 

 

「ウーンドウォートォォォォォォォォォッ!!! 」

「フライルーゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!! 」

 

 

互いの名を咆哮しつつ俺はウーンドウォートの腹に蹴りを見舞うと、両手にあった武器を量子化し、ムーバブルシールドバインダーを構えた。

だが奴も同じように銃口を向けており、ほぼ同時ともいえるタイミングで発射する。

 

エネルギーの塊がぶつかり合い、小規模の爆発を起こした。

なりふり構わず、俺は再びロングブレードライフルを展開させる。

 

 

「不思議だな! 今貴様の行動が手に取る様に分かるものとは! 」

「出来ればお付き合い願えないかねぇっ!? 」

 

「否! グレイス・エーカーを殺し、貴様を誘拐する! それこそ私の生きる証! 」

「ちっ、これでフラれた回数にまた記録をつけなきゃいけねぇな!! 」

 

 

鋼の交わる音と共に、火花が周囲に散った。

奇妙なことに、俺の恐怖心は消えてむしろ笑いがこみ上げてくるくらいに俺は頬を吊り上げる。

面白ぇ、やってやろうじゃねぇか。

いくらシールドエネルギーが減ろうが、絶対防御が発動しようが関係ねぇ。

 

 

「グレイス! 今だ! 」

「ッ!? しかしそれでは少年が! 」

「ごちゃごちゃ言ってる場合か! いいからやれ!! 」

「……武運を祈る! 」

 

 

プライベートチャンネルでグレイスのみに通信を送ると、俺はすかさず鍔競り合っているウーンドウォートの腕を掴む。

 

奴は空いている左腕で何度も俺を殴る事で抵抗するが、生憎俺は離すつもりなど毛頭ない。

今度は蹴りも食らわしてきた。

思わず呻き声が漏れるが、必死に俺は耐える。

 

直後、グレイスが飛行形態で俺達のいる場所へ急行してきた。

距離の差はどんどん近づいて来るが、彼女は速度を緩める事さえせずに直進している。

もしこいつが何か情報を持っているのならウーンドウォートを強制解除して拘束する必要がある、そう踏んだ俺は自分の身体を囮にしてグレイスにトドメを刺すという作戦を実行した。

 

最初は猛反対されたが、些か手段を選ばずにはいられない。

俺はグレイスの手腕の良さを信じて実行に走ったんだ。

 

 

「ま、まさか……!? 貴様も巻き込まれるぞ!! いいのか!? 」

「上等!! 最初っから狙いはアンタの拘束なんだよ!! 」

「くそっ! 離せ! これ以上失敗したら、私は……!! 」

 

 

そう言いかけたが最後、ウーンドウォートの体に空中変形の勢いで威力が増したグレイスの膝蹴りが炸裂する。

同時にオーバーフラッグの脛の装甲がパージし、ミサイルが発射された。

爆風が俺とウーンドウォートを包み、俺は途切れそうな意識の中奴の腕を掴んでいた左手を離す。

 

 

まもなくして俺とウーンドウォートは地面に叩きつけられた。

ISを展開している為痛みや怪我は少ないが、それでも身体のどこかから血が流れている。

 

 

「は、ははは……。やった……」

「少年! 無事か! 」

「な、なんとかな……。ギャプランの絶対防御のおかげで致命傷はないみたいだけど……」

 

ギャプランを解除して立ち上がろうとした瞬間、思わず俺はよろめいた。

すぐ俺の隣にやって来たグレイスによって倒れることはなかったが、座り込むこととなる。

 

 

「無理をするな。血を流し過ぎているようだ」

「あ、あぁ。多分ウーンドウォートに殴られた時だと思う。……って、そうだ! こんなとこで休んでいる暇ないんだった! 」

 

「他の専用機持ちや織斑一夏の事か? それについては問題ない、私がちふ……織斑先生に救援を依頼しておいた。今頃制圧されている事だろう」

「な、なんだ……良かった……」

 

 

グレイスはフラッグを解除して露出度の高いISスーツの姿となり、俺の顔を覗き込んだ。

ウェーブがかった美しい金髪に凛とした目。

アメリカ人特有の高い鼻とマッチして、より一層の美貌を生み出している。

 

俺はこんな美人と戦ってたのか……。

くそっ! 初めて襲撃された時事故と偽って胸揉んでおけばよかった!

 

 

「……初めてアンタの素顔を見たよ。美人なんだな」

「君も噂よりハンサムだ。変態っぷりも噂以上だが」

「そりゃあ褒め言葉だっての……。保健室について来て貰ってもいいか? 」

「構わない。ウーンドウォートの彼女もついでに連れて行こう」

 

 

こんな美人に手伝わせてしまうのは気が退けるが、そんな事は言ってられない。

俺達はゆっくりながらも保健室へ進むことにした。

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<同刻、IS学園・ロッカールーム・一夏視点>

 

 

 

「……ちっ、あのヤロー。使えねぇな」

「よそ見するんじゃねぇよっ! 」

「うおっ……やるじゃあねぇか、ガキぃッ!! 」

 

彰久を逃がしてから約10分後の事だった。

今やこの巻紙礼子という人は、全身装甲のISを纏い"オータム"として俺たちの敵となっている。

それも蜘蛛のような下半身を携えて、縦横無尽に動き回ると言う厄介なタイプのISだ。

 

楯無さんがいることは頼もしいが、あの人はあの人で本来の"ミステリアス・レイディ"の強さを活かせていないみたいで、戦況は膠着したままである。

 

 

「あら? 私がいる事も忘れなくてよ? 」

「はっ! テメェのISが最大限に使えねぇ事ぐらい分かってんだよぉッ!! 」

「そんな安っぽい挑発じゃお姉さん熱くならないわ」

 

 

8本もある装甲脚をランスのみで捌く彼女を前に、奴は舌打ちした。

俺は左腕の"雪羅"を起動させ、二人の間に割って入る。

 

楯無さんは気配を察したのか一足早く後退し、そのまま俺は左腕を振りかざす。

ランスと鎬を削っていた装甲脚は切り裂かれ、その場に音を立てて落ちた。

 

 

「ガキが調子に乗ってんじゃあねぇよぉ!! あぁ!? 」

「別の装甲脚!? のわっ!! 」

「一夏くん! ……くっ! 」

 

 

斬った感触がありながらも、別の装甲脚で俺と会長を蹴り飛ばすオータム。

なんとか空中で一回転しながら勢いを殺すが、着地した時点で奴の顔は俺の目の前まで来ていた。

振り下ろされる装甲脚を俺は雪片弐型で受け止める。

 

 

「簡単に引っかかるとはなぁ。甘ぇんだよォ!! ガキぃッ!! 」

「ッ!? 」

「させない! 」

「近づいてくんじゃねーよ、クソッたれ」

 

 

先程の装甲脚による攻撃がフェイクと気付く頃、俺の眼前には禍々しい形をしたアサルトライフルの銃口が向けられ、何度もオレンジ色の銃弾が身体に突き刺さった。

楯無さんが援護に回ろうとするが、オータムは俺を固定していない装甲脚で彼女をあしらう。

シールドエネルギーが減少していき、アラーム音が俺の耳にこだまする。

 

 

「ハッハァ!! 機体の性能が良くても、パイロットはイマイチってかぁっ!? えぇ!? 織斑一夏さんよぉッ!! 」

「このッ……まま終わるかよォッ!! 」

「ぐォッ!? 」

「隙有り! 」

 

 

背中のスラスターを最大限にまで吹かし、辺りを煙で包むと俺は銃口を蹴り上げて後方にそのまま身を投げ出した。

続けざまに雪片弐型と雪羅を同時に起動し、俺はオータムに斬りかかる。

背後では楯無さんが蛇腹剣で8つあるうちの一つの装甲脚を両断していた。

1合、2合と奴の装甲脚と雪片弐型が打ち合う。

 

その間に俺は楯無さんとアイコンタクトを交わし、なぎ倒されたロッカーの影へと逃げ込んだ。

 

 

「けっ、ちょこまかと逃げやがって! どうせ殺されるんだから堪忍しろってのォッ!! 」

 

 

俺たちの姿を手探りで探す様にアサルトライフルを乱射するオータム。

ここまで全て俺の狙い通りだ。

 

周囲の状況を見回しながら一点だけを見つめる……。

この手段は人間の本来の能力を以てして行う事は不可能だ。

しかし、ISという兵器があるのなら話は別。

PICによる周囲の把握が出来る為、こういった人間の限界でさえも超える事ができる。

 

楯無さんはそれを俺に教えてくれた。

ならば、活かさない理由はない。

 

奴の放つ銃弾がロッカールームのブレーカーを貫き、暗かった周囲が完全に暗闇に包まれる。

その直後、非常用電力が供給され青い光がロッカールームを照らした。

 

 

 

「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!! 」

「しまっ……!? ――――――とぉころがギッチョン!! 」

「だめっ!! 一夏君離れてっ!! 」

 

 

イグニッションブーストを起動し、最大加速で俺はオータムに斬りかかる。

一瞬戸惑った様子を見せたが、またあの濁った眼で笑う彼女を見て俺は違和感を覚えた。

楯無さんの制止も虚しく、俺は奴の手から放たれた糸のような装置で拘束される。

 

全部……全部嵌められてたってのか……!?

 

 

「おいおい、動くなよ? この男が殺されたくなきゃテメェはそこで指咥えて見てな」

「くっ……! 」

「楯無さん!! 俺のことは構わないで!! 早く!! 」

「うるせぇんだよ。ごちゃごちゃ騒ぐな」

 

 

瞬く間に俺は手足を糸のような装置で縛られ、オータムの前に体を晒す羽目となった。

腹部に強い衝撃が走り、俺は危うく吐きかける。

 

ニヤリと歪んだ表情を見せ、奴は六角形状の何かを取り出した。

角からは触手のようなものが蠢き、俺は戦慄する。

 

あれは千冬姉の特別授業で学んだ"剥離剤(リムーバー)"。

ISを強制的に解除させる装置で、その際に強烈な痛みが走るという代物だ。

 

 

「くそっ!! やめろ、離せ!! 」

「いいねぇ、その表情。たまんねぇや」

「お願い……! 間に合って……! 」

 

 

 

 

俺の胸に"剥離剤"が付けられた。

目を閉じ、痛みを堪えようと唇を噛む。

 

――――痛みを感じない。

何故だ? 誰か来てくれたのか?

 

俺は恐る恐る目を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

「無事か、一夏? 」

「ごめん、待たせたね」

「箒! シャル! 」

 

 

 

 

視界に入ったのは、見覚えのある黒いポニーテールとトリコロールの装甲だった。






同じような展開だと書いてて気づきました。
オータムは女版サーシェスと思ってくれれば幸いです。

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