学園祭編の目玉ともいえる戦闘シーン。
頑張ります。
<夕方・IS学園、アリーナ更衣室>
突如としてアリーナへ突入してきたお姫様たち(学年の女子ほぼ全員)の魔の手からなんとか逃げ切ることができた俺と一夏は、肩で息をしながら更衣室で休憩をとっていた。
最早劇という事を忘れて全力で逃げていたのは言わずもがな、捕まったら生命の危機に瀕するのは確実。
俺はまだ自分の息子の顔を見ないで死ぬわけにはいかない。
まず結婚できるのかが問題だけど。
「ややっ、二人ともお疲れ様~。迫真の演技だったわよぉ~? 」
「か、会長の鬼畜! ドS! 姉属性! おっぱい星人! そのSっ気で筆お〇ししてください! 」
「今は何言われても動じないけど最後だけ君の願望よね」
「さ、さすがにこれはキツイですよ楯無さん……。明日もこんなハードなんですか? 」
ニヤニヤした会長が"迫真の演技"と書かれた扇子を広げつつ俺達へと近づいてきた。
「今日はちょっとやりすぎたかもね。明日はもう少し優しいのにするわ」
「そうして貰えるとありがたいです……」
「もうみんな帰っちゃいました? 弾とかに挨拶しときたいんですけど」
「うん、彰久君と一夏君によろしく言っておいてほしいって。早乙女さんの方はまだ残ってるわ」
「そうですか、ありがとうございます」
学園祭が終わるまで待ってくれるとはなんと良心的な人だろうか。
まあ俺達の護衛と言っていたからそれが仕事なんだろうけど。
あとでお礼を言いに行かなきゃな。
「一夏、お前先に着替えてろよ。俺早乙女さんのとこに行って来るから」
「分かった、シャワーも先に浴びてるぜ」
「……もしかしてこの後二人はあつーい夜の過ごすのかしら? 」
「会長何言ってるんですか」
何度も言うが俺はホモじゃないんだ……。
男の娘はまだ辛うじていけるが断じて男が好きと言うわけではない。
一夏はわかんないけどね。
「……それで、いつまでそこに隠れているつもり? 」
いきなり会長の声音が変わる。
「あら、バレていましたのね。さすがはIS学園生徒会長、と言った所でしょうか」
穏やかな声音と共に現れたのはオレンジ色のロングヘアーを携えたスーツ姿の切れ目の女性だ。
学園祭の来場客はほとんど帰ったはず。
なぜ彼女はここにいるのだろうか。
「ま、巻紙さん!? 」
「知り合いか、一夏? 」
「あ、あぁ。確かIS装備開発企業"みつるぎ"の渉外担当の人だ。俺に白式の追加装備案を持ちかけてきたんだけど、断ったんだよな」
「そんな巻紙さんが、どうしてこんな所にいらっしゃるのかしら? 既に一夏君はあなたの申し出を断っているはず。ここにいる理由もないわ」
一気に更衣室内の空気が一変する。
「はい、この機会に白式を頂こうと思いまして」
だが巻紙さんは顔色一つ変える事なく、笑顔で言い放った。
一夏は唖然とし、俺と会長は身構える。
「……はっ? 」
「いいから……とっととよこしやがれよォッ!! 」
彼女の背中から金色の装甲脚が現れ、目標である一夏の眼前へと迫った。
すかさず会長が左腕とランスを部分展開し、その攻撃を防ぐ。
俺もロングブレードライフルのみを構え、銃口を巻紙さんに向けた。
「あ……あなたは!? 一体誰なんだ!? 」
「さしずめ、企業の人間に成りすました謎の美女ってとこかい? 惜しいなぁ、俺アンタの事結構タイプなんだが」
「そりゃあどうも。大人しく白式を渡したら胸でも揉ませてやるよ」
「…………一夏、ガントレットを」
「渡す訳ねーだろ!! なにちょっと迷ってんだお前!! 」
変態紳士は美女の誘惑というものに弱い。
胸揉ませてくれるんだぞ!? そりゃあちょっと考えちゃうだろ!!
「彰久君。ここは私と一夏君が食い止めるわ。先生たちか専用機持ちの子たちを連れてきて」
「了解。頼みましたよ、会長」
「へっ、敵を前にして逃げるってのか。第二の男性操縦者が聞いて呆れるぜ」
「その見下した目もっとお願いしていい? 今夜の肴にするから」
「早く行け変態」
「すいません」
緊張感を解こうとするもどうやら無駄だったらしい。
会長に怒られてしまったので俺は即座に更衣室の出口へ向かった。
「まあ、行かせるわけもねーんだがな」
背後からの殺気を感じ、俺は本能的に振り向く。
先程の装甲脚が今度は俺に迫っており、そうすんなりと行かせてくれはなさそうだ。
「俺が行かせる! 早く行け、彰久! 」
しかし眼前には白い装甲を纏った一夏が現れ、その装甲脚を"雪片弐型"で弾く。
「……サンキュー、一夏! 」
「はっ、待ってたぜぇッ! そいつを使うのをよォッ!! 」
俺は鋼がぶつかり合う音を背に、更衣室を出た。
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<第三アリーナ内・彰久視点>
既に劇の為の舞台やセットは片付けられており、いつも通りの殺風景なアリーナ内へと入っていく。
更衣室から別の場所へ向かうのには必ずアリーナの中を通り抜けて行かなければならないので、走り続けている俺に少々の息切れが生じた。
しかし心配なのは他の子たちだ。
もし先程の巻紙さんに仲間がいたとしたら、無関係な生徒たちまで巻き込んでしまう恐れがある。
そんな嫌な予感を脳裏に浮かべつつ、俺はアリーナの出口へと急いだ。
しかし。
「おわぁっ!? 」
「見つけたぞ。草薙彰久」
突然スーツ姿の女性が俺の眼前へと降りてくる。
しかもかなりの高さから落ちてきたというのに、傷一つない状況だ。
それもそのはず、彼女は足に紺と紫のIS装甲を展開している。
この女性が一体誰なのか、どこの組織から来たのかは分からない。
ただ分かるのは……この人は敵だという事だ。
「美女に追いかけられるのは嬉しいけど……相手が殺す気満々じゃあね……」
「大人しくギャプランを渡してくれればこちらも悪いようにはしない。さあ、バックルを早く」
「生憎相棒をみすみす渡すわけにはいかないんだ。そこを退いてくれ」
「断る。不本意ながらこれが任務なものでな」
互いににらみ合いが続く。
この人……俺が勝てる相手なのか?
「"フライルー"ッ! 」
「既に二次移行を遂げた"ギャプラン"……。その力、私に見せてもらおう」
掛け声と共にフライルーを展開し、俺の目にはギャプランのシステム画面と紫色の全身装甲のISを展開した姿が視界に入った。
右手には身の丈ほどある銃剣を持っており、目に見える武装はあれだけである。
まるで西部劇の決闘ような緊張感だ。
だが向こうは取り回しの悪い両手持ちのライフル、こっちは片手でも撃てるロングブレードライフル。
けど油断するな草薙彰久……いくら手数で勝っていても、会長やグレイスのような化物じみた強さの人間はうじゃうじゃいる……。
「ッ! 速いッ!? 」
そんなことを考えている内にシステム画面からロック警告が鳴り響き、ピンク色の極太のビームが真っ正面に俺に殺到した。
急いで俺は両腕のムーバブルシールドバインダーを構え、腕に掛かる圧力と衝撃に耐えながら俺は空中に離脱する。
あんな威力の砲撃を食らったら一発でシールドエネルギーが御陀仏だ……。
冷や汗を掻きながら俺はその場で変形する。
『砲撃! 11時の方向! 』
「何ィっ!? チャージのタイムラグなし!? 」
『いいから早く! 』
立て続けに鳴り響く警告を横目に腰部にビームが掠った。
さすがのエマさんも処理が追い付かなかったのか、掠っただけでも100ぐらいのエネルギーを削られる。
「おいおい! なんだよあれ! さすがに勘弁してくれって! 」
「変形したか。試してみるとしよう、変形機構とやらをな」
『あの機体……"フライルー"と同じ形式番号!? 』
「どおりで似てると思ったぜッ! 」
俺の眼前には"TR-6"という文字が表示され、機体の名前である"ウーンドウォート"が変形して俺の眼前まで迫ってきた。
出会ったのは偶然か、はたまた必然であったかは分からない。
ただ、この"ウーンドウォート"を見るとギャプランのような心地良ささえ覚える。
「アンタ……俺のギャプランパクリやがったな!? 」
「さぁ、どうだか。詳しくは私の上司にでも聞いてくれ」
「よく言うぜッ! 」
三門のビームを牽制としてウーンドウォートに放ち、カウンターとして放ってくる極大な砲撃を俺はギリギリで躱す。
空中変形をした勢いのまま俺は奴との距離を詰め、ロングブレードライフルと銃剣は鍔競り合った。
同じような武器を持ち、同じような変形機構、そして同じ機体の型番号。
グレイスの言い方を真似るなら"戦う運命にあった"かな。
俺は一度剣を握る力を緩めたまま左手にビームサーベルを展開する。
ウーンドウォートは体制を崩すと地面に銃剣を突き立て、なんとか体制をその場に保って俺のビームサーベルの攻撃を防御し、銃剣を引き抜く。
「せァッ!! 」
カウンターとして突き出された銃剣をロングブレードライフルで受け止め、左手にビームサーベルを握ったまま距離を詰めた。
「近接戦は得意なようだな、草薙彰久」
「生憎、戦闘バカなもんでね」
再び火花を散らす銃剣。
向こうの方が長さと重さがあるのか、次第に俺が押されていく。
「うおッ!? こいつは……なかなか……!? 」
「手数だけがすべてと思うなよ」
重い斬撃が無数に俺へと殺到し、ジリジリとシールドエネルギーを減らしていった。
近接戦で勝てないと見込んだ俺は急いでその場を離脱し、空中で変形する。
しかし、それはこのウーンドウォート相手に一番やってはいけない事だった。
「判断を見誤ったな、草薙彰久! 」
「しまっ――――たわらばッ!? 」
先程の砲撃が今度は直撃し、飛行形態のまま地面へと落下する。
『彰久! 返事をして! 』
意識が遠のく中、エマさんの声が俺の頭に響いた。
少しして俺の身体は地面に叩きつけられ、衝撃に顔を歪めた。
身体の全身が痛い。
立ち上がろうとするも、節々が悲鳴を上げて膝を着くことしか出来ない。
『動けるの!? またあの砲撃が来るわよ! 』
「わかっ……てる……ッ! くそ……! 」
俺はまんまと奴の策略に嵌ったわけか……。
身体は震え出し、ゆっくりと俺との距離を詰めるウーンドウォートしか視界に入らない。
嫌だ、死にたくない。
俺にはまだやりたい事がいっぱいあるんだ。
頼む、誰でもいい。
「……震えが止まらないようだな。安心しろ、殺しはしない。この"剥離剤(リムーバー)"を使って貴様のギャプランを回収するだけだ」
「や、やめろ……! 来るな……! 来るなっ!! 」
ついに俺の眼前に紫色の装甲脚が現れ、我ながら情けない声を上げている。
本能のままに俺は声を上げ、ウーンドウォートを寄せ付けまいと必死だ。
奴の銃口が俺に向く。
大人しくさせるためにトドメを刺すのだろう。
「さらばだ。しばらく眠っているといい」
俺は目を瞑った。
「少年ッ!!! 」
「何!? 」
ウーンドウォートでない、他の誰かの声が聞こえる。
直後に機械音と爆発音が耳を遮り、座り込む俺の前に誰かが立っていた。
それは――――。
「あ、アンタは……! グレイス・エーカー……! 」
俺を殺しかけた、黒い機体だった。
出来れば一夏・会長サイドと専用機持ちサイドも描写したいです。