IS-突き進め!変態紳士-   作:「旗戦士」

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変態紳士、準備する


<IS学園・校門前、一夏視点>

 

 

 

買い出しを任されて近くのスーパーへ歩くこと数分。

俺は工作具やら入った買い物袋を引っ提げて、箒と二人で歩いている。

なんだかこういうことを彼女とするのは久しぶりな気がするなぁ。

夏休みは千冬姉にばっか連れ回されたし。しかもラブホ。

 

 

「なんかこうして歩くのも久しぶりだな、箒」

「へっ!? あ、あぁ! そうだな一夏! 」

 

「何変な声出してるんだよ、お前らしくない」

「す、すまない……」

 

「ほら、早く行こうぜ」

 

 

珍しいなぁ、箒がよそ見をしてて気を取られるなんて。

もしかして荷物が重いのか?

 

 

「箒、それ貸してくれ」

「えっ? でもお前の荷物が多くなって……」

 

「いいんだよ。女の子が重い荷物を持つもんじゃない。 ほら、貸してって」

「あ、ありがどう……一夏」

 

「気にすんなって。俺と箒の仲だろ? 」

 

 

笑顔を彼女に向けると再び箒は驚いたように赤くなる。

なんで赤くなってるんだろう、俺なんかしちゃったのかな……。

彰久に貸してもらった「大人になった異性の幼馴染との付き合い方」に載ってたことは全部やったはずなのに……。

うーん、何が足りなかった?

 

 

「なぁ、箒。どうしたんだ? 俺と買い出しに来てからずっとそんな様子じゃないか。……もしかして俺と一緒に来たのが嫌だったのか? 」

「そ、そんなことあるわけないだろう! むしろ嬉しい! ……って、あ」

 

「う、嬉しいか……。ちょっと照れるな」

「い、いいい今のは本心というか言葉のあやというか!? とっ、とにかく忘れてくれ! 」

 

「あはは、あたふたしてる箒なんて久しぶりに見たよ」

「うっ、うるさい! 」

 

 

雰囲気を明るくするように箒をおちょくってみる。

正直顔を赤くして慌てる彼女のことを可愛いと思ったのは秘密だ。

もう唐変木とは言わせないぜ!

 

 

「……でも、楽しかったのは本当だからな。一夏、私はこのままこうして――」

「ん? 何か言ったか? 」

 

「――――なんでもない。ほらっ、早く行くぞ一夏! 」

「う、うわぁっ!? 急に肩に掴まるなって!? 」

 

 

気が変わったように俺の肩に飛びかかり、箒をおぶったような体制になる。

背中に当たる幸せな感触に顔を赤くしながら、俺たちはなんとか学園へ到着した。

 

 

 

――――そうだな、箒。俺も……お前と――――。

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<同刻、彰久視点>

 

 

 

一夏たちが買い出しに行っている頃、俺は真耶先生と共にある知人の元へと向かっている。

俺の中学時代の友人であり、性癖がコスプレとかいうとてつもなくアブノーマルな奴なんだが、果たして元気でやっているんだろうか。

しかしコスプレしている女の子が可愛く見えてしまうのは必然的だ。

そのまま夜の撮影会と洒落込みたいところだが、普通に捕まるのでNGである。

 

 

「えーと、草薙君のお友達の家ってここなのかな? 見たところ普通のお家だけど……」

「はい、そうですよ。まあどんな奴かは会ってからのお楽しみというわけで」

 

 

そう言って俺はインターホンのボタンを押した。

さて、今日はどんな格好でくるのだろうか。

 

 

「俺を呼ぶ声がするッ!!! とうッ!!! 」

 

 

数秒後、二階建ての家の窓からフリフリの衣装を着た大男が飛び出し、3回転ぐらいしながら華麗に俺たちの前へと着地した。

こいつこそが俺がコスプレ喫茶の衣装をアテにしていた人物、"風見原代悟(かざみはら だいご)"である。

筋肉隆々、爽やかな顔をことごとく台無しにしているのがこのコスプレ衣装。

さすがに自分を貫き通しているっていうレベルじゃない。

 

 

「よー、代悟。久しぶりだな」

「むう!? その声は彰久! 久しいな、中学の卒業式以来だ! 」

 

「あわわわわわ……。とてつもない変態が………」

「がっはっはっは! "変態"か! かつてそう呼ばれたこともあったが、もうすでに近所の人や周りの人達には認められているぞ! というわけで合法だ! 」

 

「合法を決めるのはお前じゃないからな」

「こまけぇこたぁいいんだよ! 」

 

「どこが細かいことなんですか! 思いっ切りはみ出ててるじゃないですか! 」

 

 

真耶先生が怖がるようにその場でうずくまり、身体を震えさせている。

震えながらも的確にツッコめる真耶先生はやはりさすがだな。

まあ確かに初対面の人はビビってもしょうがない気がする。

だってこんなでけえコスプレイヤー見たことねぇもん。

 

 

「んじゃまぁとりあえず本題に入ろうか。代悟、今日お前の家を訪ねたのは他でもない。お前のコスプレ衣装を貸してほしいんだ」

「俺の衣装をか? なぜ? 」

 

「こっちの学園祭でコスプレ喫茶ならぬ仮装喫茶をやることになってな。経費があんまりないもんで、衣装を買うことができなくなったんだ。そこで幾多の衣装を持っているお前に連絡した、っつーわけ」

「ほほう。いきなり電話をかけてきたのはそのせいか。はるばるここまでやって来たというのに手ぶらで帰すのもアレだからな、存分に使ってくれ」

 

「恩に着るぜ! どれが持っていっていいやつなんだ? 」

「好きなの持っていけ。お前ならきっと似合う子たちの衣装を見つけられるさ」

 

 

 

さすが代悟、太っ腹なのは高校生になっても変わらないな。

高校に入ってから女子生徒の制服を男でも着られるようにしてほしいと理事長と校長先生に直談判してツイッターのニュースに上がっていたのにはお茶を噴きざるを得なかったぜ。

 

代悟のご両親に挨拶してから家に上がらせてもらい、事情を説明すると彼の母親は快諾してくれた。

太っ腹なのは親子の血というわけか。

 

 

「す、すごい量の衣装ですね……」

「知ってます? これ全部あいつの手作りなんですよ」

 

「えぇ!? 見かけによらずすごく器用なんだね……。ありがたく拝借していきましょう」

「お、な〇はのは〇てちゃんコスあるじゃん。真琴ちゃんに着てもらおっと」

 

 

30着ぐらいを手に取り、綺麗に折りたたんでから持ってきたコストコのトートバッグに入れると、俺たちは代悟のクローゼットを出る。

彼のお母さんに礼を述べると、俺は代悟の元へ向かった。

 

 

「ありがとうな代悟。30着ぐらい借りさせてもらったよ」

「気にしなくていい。俺とお前の仲ではないか」

 

「ありがとうございました。代悟くん……でいいのかな? 」

「いえいえ、こちらこそわざわざ来ていただいてすいません。存分に使ってやってください」

 

 

彼のルックス自体はとてもいいんだが着ているフリフリの服が如何せん真面目な雰囲気をスターライトブレイカーしている。

普通にしていればこいつただのマッチョイケメンなんだけどなぁ。

というかなんで俺の周りって変わってる奴が多いの?

 

 

衣装を詰め込んだトートバッグを真耶先生の車のトランクに乗せ、俺は助手席に乗り込む。

車が走り出すと、代悟は大きく手を振って見送ってくれた。

 

 

 

「その……真耶先生 」

「はい、どうかしました? 」

 

「このでじこのコスプレを是非お願いs」

「絶対に嫌です」

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<日本・とある高級レストラン、グレイス視点>

 

 

 

夕暮れが差し掛かる頃、私は久しぶりにスーツに袖を通して束とクロエと共にある人物に呼ばれて高級レストランの地下個室にいる。

束こそは普段と変わらない様子で座っているが、クロエや私は常に周囲を警戒していた。

 

何か嫌な雰囲気というのを本能的に察知していたのだろう。

念の為に銃を携帯しておいてよかったな。

 

 

そして待つこと数分後、我々をここに招待した張本人が現れた。

長身な身体つき、ウェーブがかった美しい金髪、そして妖しい美貌。

だが只者ではないことを私の脳が意識的に警鐘を発している。

 

 

「ここまでご足労していただいた事に感謝しますわ、篠ノ之博士。私の名前は"スコール・ミューゼル"。以後お見知り置きを」

「ん、別に。それで、私に話って何なのかなー? くだらない事だったら束さん怒っちゃうよ」

 

「おや、早速本題に入られますか。食事でもしながらお話しようと思っていましたのに」

「私はあなたなんかに興味ないよ。美味しいものだけ食べれると聞いてやって来ただけだし。どうでもいい話はさっさと片付けたいからね」

 

「そうですか。ここに来て頂いたのは他でもありません。貴方に新造ISを提供していただきたいのです」

「理由は? 」

 

「……それは言えない約束ですので」

「なら無理だね。私にメリットがないもん」

 

 

ここまで臆せずにものが言える束を私は尊敬しよう。

私もある程度空気の読めない人間だが、彼女は究極に空気が読めないようだ。

即答されて狼狽えるスコールを横目に、束とクロエは運ばれてきた料理を食べている。

 

 

「もちろん、ただでとは言いません。高額な報酬と研究施設、及び製作費は全てこちらの組織の方で持ちます。それでどうでしょうか? 」

「追加で偽装できる身分証明書を3つと安全を確保できる場所を用意すること。あとは私の好物のパフェもないとなー」

 

 

余裕の表情を保っているが、おそらく彼女のはらわたは煮えくり返っていることだろう。

そこでウェイターが新しく料理を追加してきた。

 

……怪しいな。

この料理には手を出さないでおこう。

 

クロエや束にも注意を促そうとするが、疑う素振りを見せてしまっては奴らにも勘付かれる可能性がある。

どうにかして伝える方法は……。

 

 

「ま、用意できるなら考えてあげなくもないけどねー。束さん優しいからさー」

「……そうですか。おや、クロエさん。どうかされたのですか? 」

 

「ぅうん……? 何か……眠く……」

「あらあら。大丈夫ですか? もし寝られるようでしたらお連れしましょうか? 」

 

「いや、結構。私が連れて行こう。"もしそのまま人質にでも取られたら"、こちらもまずいのでな」

「……滅相もない」

 

 

予想は的中のようだ。

睡眠薬を仕込んで人質に取ろうとはな。

悪党の考え付くことは大体決まっている。

私はクロエを抱え上げ、束の耳にささやいた。

 

 

「"公平に"、商談を済ませるといい」

「心配ご無用♪ 」

 

 

 

……どうやら大丈夫そうだな。

ウェイターに一言告げ、私は高級レストランの地下個室を出た。






グレイスさんのイケメン回。
というかまたオリジナルキャラが出てしまいましたが、多分登場は今回きりです。

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