アニメ2期の本編へ突入。
<登校日、講堂>
そうして迎えた夏休み明け最初の登校日。
あの後一夏はげっそりとした顔で部屋へと帰って来て、代わりに顔がツルツルとなった千冬さんが彼を連れてきたのは驚いたもんである。
そして生徒会役員である俺は講堂での学年集会と共に、新たに加わった生徒会書記補佐として少しの間時間を使って一言喋ることになっていた。
まさか夏休みが終わる二日前に"彰久君、ちょっと講堂で喋ってもらうけどいい? 答えは聞いてない"と言われるとは思わないだろう普通。
まあ俺にとってこの全校生徒に注目されるのは至福の時。
何なら全裸になってもいいぞ。
「あらあら~? さすがの彰久君も緊張してるの? お姉さんが緊張ほぐしてあげましょうか? 」
「俺の股間をほぐしてくれるなら大歓迎ですよ会長! 」
「話聞いてたかお前」
普段のキャラを忘れて普通にツッコむ会長。
俺の股間をほぐしてほしいものだがこの後すぐに演説しなければならないので我慢しよう。
司会役の先生がまず最初に会長の名前を呼び、胸倉を掴んでいた手を離してそそくさと舞台へ走っていった。
「どうも、皆さん。生徒会長の更識楯無です。一年生の皆さんとはこれが初体面の人が多いでしょうけど、これからよろしくお願いしますね」
うむ、やはり会長の笑顔はいいものだ。
思わず俺の股間のビルドストライクもディスチャージである。
しかし会長は生徒たちから好かれてるんだなぁ、俺の中学時代の全校集会での生徒会なんてほぼ話が聞かれてなかったぞ。
「まあ自己紹介はこの辺にして、時間もあまりないので本題に入ろうと思います。今回こうして時間を取らせてもらったのは皆さんに今年の学園祭のテーマやメインイベントを知ってもらうため。そして、今回のメインイベントとは……」
既に見慣れた仕草である"学園祭"と書かれた扇子を広げ、会長は講堂のスクリーンを降ろす。
設置されたプロジェクターからホログラムが現れ、そこには"各部活男子生徒争奪戦"と大々的に表示されており、全校生徒は驚嘆の声を上げていた。
もちろんこれは一夏と俺の合意の上で企画している。
いくら女尊男卑の風潮と言えどさすがに人権無視はさすがにしないだろう。
まあ俺を巡って戦ってくれるなんて願ってもないことなんだがな。
俺を無事勝ち取ることができた部活の子たちには全員にキスと熱い抱擁と夜のお供を授けよう。
「ヴェェ!? 織斑くんと草薙くんを部に呼べるの!? 」
「認められないわ! ハラショー! 」
「部活に男子が二人……。熱い夏……。織×草のカップリング……」
「い、一夏を剣道部に……! よし、ここは一つ本気を出して飛〇御剣流を! 」
「ラクロス部なめんじゃないわよ! 流派東方〇敗をお見舞いしてやるわ! 」
「何ぃ!? ならば私はドイツ特殊部隊仕込みのゲ〇マン忍術をだな! 」
「おーい、もう俺どこからツッコんでいいのかわかんないぞー」
箒ちゃんたち三人が何やら人間技ではないような技術を獲得しているようだ。
しかもラウラのゲルマン〇術ってどこもドイツ要素ねーだろ。
普段常識人の立場にいる鈴ちゃんでさえもぶっ壊れたせいか一夏はお手上げ侍といったところである。
あとμ'〇の人達がいるみたいなんだけどいいのかな?
「では、メインイベントも分かった所で会計の方に詳細説明をしてもらいます。布仏さん、お願いしますね」
「はい。まずは概要から。学園祭では各クラスの他に部活でも催し物を出典していただき、来客者から投票を行って上位の部活に特別な部費を支給するという形です」
虚さんが概要を説明し出すと途端に騒がしくなる講堂。
確かにこれは燃えるな、隣の人と喋ってしまうのもわかる。
その気持ちを抑えて、千冬さんが一喝すると水を打ったように行動は静かになった。
さすが千冬さんといったところである。
ブラコンだけど。
「今年は男子生徒が二人もいるというので"男子生徒を部活に入部させたい"という声が生徒会に多数寄せられてきました。今回はその声をくみ取り、先生方からの許可も得られたためにこのような案が採用となりました。以上が今回のメインイベントの概要となります」
説明を終えると虚さんはお辞儀をしてその場を去り、拍手と共に俺達の所へと戻ってきた。
さて、プログラムだとこの後が俺の一言挨拶だったはずだが……。
「では次は生徒会の書記補佐となり、学園祭の主役の一人である草薙彰久君に一言挨拶してもらいましょう。彰久君、いいかしら? 」
「は、はい! 」
名前を呼ばれて少し俺は上ずった声で返事をしてしまい、講堂から失笑が漏れる。
ええい、変態紳士は前に出る事に慣れてないんだっつーの。
普段から制服を緩く着ているせいかきちんとした正装はどうにも息苦しい。
出来れば全裸にでもなりたいな。
「えっ!? あいつって今回も生徒会入ってたの!? 」
「わたくしも最近知りましたわ、全く似合わないと思いますけど……」
「せやなぁ、彰久自体が風紀を乱していると言っても過言ではないで」
「そこぉ! 聞こえているぞ! 」
「あ、バレた」
まったくもって失礼である。
あとで三人には乳揉みの刑(鈴ちゃんはないのでスカート捲り)だ。
千冬さんから"早く進めないとお前のエロゲーが熱処分になるぞ"との合図を受けたので早急に挨拶を済ますことにする。
あのエロゲだけは何としても死守するんだ、変態紳士の誇りにかけて。
「えーと、生徒会の新書記補佐兼みんなのアイドル兼みんなの賞品こと草薙彰久です。今回は僕と一夏を主役のメインイベントを企画してくださってありがとうございます。まだ一年生なので分からないこともたくさんありますけど、精一杯頑張るので応援して頂けたら幸いです」
「お、おぉ? なんかまともな事言ってるぞ彰久」
「あいつは昔から普通にしてればいいのになぁ。勿体無い事してるぜ」
そう言うと俺はお辞儀をし、先程の虚さんと同じように檀上を去って行く。
ふっ、変態紳士はクールに去るぜ……。
「はっはっは! 見ましたかあやつらの顔を! 俺が生徒会役員だと知らずに呆気にとられてましたぞ! 」
「彰久君、マイク入りっ放しだよ」
「あ」
変態紳士は最後まで締まらない。
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<その後、一年一組教室・LHR>
そうして迎えたロングホームルームの時間。
教室に一人遅れて帰ってきた途端に一夏と真琴ちゃんに笑われたので仕返しとして一夏にはあいつの携帯に入っている姉物のエロ画像を消去し、真琴ちゃんには巨乳を鷲掴みした。
さすがの一夏も膝から崩れ落ちて落ち込んでいる。
ちょっと可哀想なことしたのでこっそりあいつの携帯に俺の秘蔵フォルダ(ほとんどが女騎士モノ)を添付したメールを送っておくか。
「チャイムが鳴ったぞ、席につ……織斑? 何をしている? 」
「へ、へへへ……燃えちまったんですよ……真っ白にね……」
「いいから席に着け」
「ミネバッ!! 」
愛すべき弟を出席簿で叩くとは千冬さんも公私混同はしないだろう。
たまに暴走して一夏を連れだしたりするけど。
そんな彼女は凛々しい表情で教壇に立った。
「よし、ロングホームルームを始める。号令! 」
「起立、気をつけ、礼! 」
「よろしくお願いしまーす! 」
「今日は今朝の全校集会であった通り、学園祭での出し物を決める。グラウンドでの出店は3年生のみと決まっており、1・2年生は教室内に出店する形だ。出し物の制限はないが、無論のこと法に触れるものは却下とする」
ほほう、学園祭の出し物とな。
こういうのは考えるまでが難しいのだが、何かいい案はないだろうか。
ちなみに俺の中学時代では何故か喜劇をやることになり俺が女装するという悲劇に陥った。
「せんせー、わたしは休憩所がいいですー」
「進んで休憩所にしたがるんじゃない! 」
「はいはいはい! 正式に生徒会役員となったこの草薙彰久めにお任せ下さい千冬様! 」
「なんか物凄くウザいが草薙。何かいい案でも? 」
「コスプレ喫茶ですよ! ただの喫茶店じゃどっかと被るので敢えてコスプレするんです! 」
「コスプレ喫茶ぁ!? 」
思いの外評判はいまいちのようである。
実を言うと俺は女の子のコスプレ姿を見たいだけだが、もしや狙いがバレたのか?
「コスプレ、か……。以前クラリッサがやっているのを見たが面白そうだったな……」
「ち、ちょっとわたくしも興味あるかなー……なんて」
「ほら! この通り賛成意見もあるんですよ! 真耶先生、織斑先生! ここは一つコスプレ喫茶を項目の一つに加えましょう! 」
「……ふむ、いいだろう。しかし衣装はどうする? 手作りにしても購入するにしてもおそらくは金が足りなくなるぞ? 」
「あ、知り合いにコスプレ女装癖の奴いるんでそいつから借ります」
「なんつー知り合いだよ」
ともあれ問題は一つ解決しているし、あとはみんなの許可を得られればいいだけ。
ふっ、この変態紳士の策略に既に嵌っているようだな……!
「というわけで! 俺はクラス代表である織斑一夏くんに選択を託します! 」
「お、俺かよ彰久!? 」
「ああそうだよ! このままいけば千冬さんやら箒ちゃんやらのエロエロで破廉恥なコスプレが見れるかもしれないんだぞ……? 」
「ち、千冬姉のコスプレ……」
一夏と肩を組んで俺は耳元に囁くと、彼は悶々とした表情を見せた。
想像しただけで痛さと残念さが溢れ返って来るが持ち前の妄想力でなんとかカバー。
さすが千冬さん、俺たちに出来ないことを平然とやってのける。
けどちょっとさすがに憧れはしないかな。
「先生、俺はクラス代表としてコスプレ喫茶を推します」
「そうか。他の者は何か意見は? 」
「さすがにきわどい衣装はちょっとアレだけど私は賛成です! 」
「わたしもー! なんか楽しそう! 」
結構IS学園ってサブカルチャーに寛大な子ばっかりだから意外とすんなり受け入れるようだ。
よし、変態紳士の策略がどんどん浸透していく……!
まさか一夏もノってくるとは思わなかったから少し驚きだ。
恐るべしシスコンの力。
「それで、あと一つ補足を」
「ん? なんだ? 」
「山田先生と織斑先生にもコスプレをして頂きたい」
「……は? 」
「えっ!? 」
呆気にとられる先生たちとざわつく教室。
だは一夏は揺らぐことなく、その姉譲りの凛とした目をそらさずに二人を見つめる。
まっ、まさか……一夏は……"女教師萌え"なのか……?
「……理由を説明しろ。場合によっては制裁だがな」
「教師とは本来、生徒の上の立場にある人間です。先生たちが拒否するのも分かるし、権利もあります。――――しかし」
彼は一呼吸をおいて目を見開いた。
輝いてる……お前は今最高に輝いてるぜ……一夏……。
「普段はそういった娯楽に興味がないようにみせて、大きなイベントでは生徒と共に楽しむ……。最高のギャップではないですか? 」
「……織斑、後で職員室に来い」
「えぇっ!? 」
「織斑くん……さすがにそれはちょっと……」
結果的に失敗して千冬さんに制裁を食らわされる羽目となった一夏。
ふっ、まだあいつは変態紳士としては未熟のようだな。
だが俺達の元へ来るというのなら驚異的な身体能力と共に膨大な知識を授けるというのに。
「よし。という訳で一年一組はコスプレ喫茶改め"仮装喫茶"として案を提出する。異論はないな」
「はーい! 」
落ち込む彼を差し置いて千冬さんは一旦場を仕切り直した。
仮装喫茶か、確かにコスプレ喫茶よりかは聞こえがいいな。
話も終わったところで終業のチャイムが鳴り、号令を済ませてから彼女は教室を出る。
「しかしまあ本当にコスプレ喫茶が通るとはな……。俺でも驚きだぜ」
「一夏! なぜあんなことを口走った!? おかしくなったのか!? 」
「確かに今回一夏さんのキャラ崩壊がひどかったですわね」
「キャラ崩壊とか言うな。せめて精神崩壊と言おう」
「なんかそれ"ここからいなくなれーっ!"とかその内言い出しそうだね」
意気消沈する一夏を箒ちゃんが近づいて彼の肩を揺さぶるが、一夏は唖然としているだけで何も言おうとしない。
まあセシリアとかが焦るのも無理はないよな。
いきなりこいつキャラ崩壊し出したし。
「お、俺は……」
「どうした一夏!? 具合でも悪いのか!? 」
「千冬姉のコスプレが……ッ!! 見たかったのに……ッ!! 」
「!? 」
この後一夏が保健室に連れてかれたのは言うまでもない。
実を言うと俺も焦った。
ついに一夏も変態紳士の仲間入りする可能性が微レ存。
やべぇ。