ウーンドウォート初の戦闘回です。
<中東地区、グレイス視点>
フラッグを展開したその勢いのままウーンドウォートへと接近し、右手にプラズマソードを握りつつ奴を目掛けて横一文字に薙ぐ。
ウーンドウォートは右手に持った身の丈ほどあるビームキャノンで私の攻撃を受け止め、カウンターに回し蹴りを放ってきた。
だが簡単に反撃を食らう私ではあるまい、空中でしゃがむ事によって難なく避ける。
「接近戦もできるとはな! 聞いていないぞ、ウーンドウォートッ! 」
『言った覚えはないがな』
私が回し蹴りを避けるのを見切っていたのか、ウーンドウォートは右腕のビームキャノンから再び極太の照射ビームを放った。
あれほどの威力でチャージのタイムラグが存在していないとは……。
つくづく恐ろしい機体である。
「だがッ! ISの性能差が勝敗を分かつ絶対条件ではないッ! 」
『いいだろう。その力、試させてもらうぞ』
避けた状態で飛行形態へと変形し、私はウーンドウォートとの距離を取る。
見るからに奴の武装はあの右腕に限定されているな……。
どうにかして外すことが出来ればこちらにも勝算はあるはずだ。
もし右腕が近接ブレードの刀身とビームキャノンの混合した武装ならば、解除してしまえば太刀打ちはできないだろう。
そう考えている内に再びウーンドウォートからのビームキャノンが放たれる。
気が逸れていたせいか左ウイング部分に掠り、その衝撃に空中で制御を失った。
だがこれで落ちる私ではない。
こんな事で焦っていてはジム・クゥエル隊の隊長の名が泣く。
その場で旋回してから飛行形態でウーンドウォートと向き合い、牽制として無数のプラズマ弾を奴に向けて放った。
いとも簡単に避けるウーンドウォートはカウンターとして私にビームキャノンを向けて放つが、奴の真下を通り抜けてから遠回りをして空中変形の衝撃を殺し、その勢いと共に鍔競り合う。
掠りはしたもののあの高威力のキャノン砲には当たっていない。
『ッ! やるな! 』
「どれほどの性能差であろうと……ッ!! 」
プラズマソードの出力が奴の近接ブレードに押し負けていることを確認し、私は腹を括る勢いでもう片方の手にもプラズマソードを展開させた。
二刀流の形でウーンドウォートと鎬を削る事になった私は、一度奴の近接ブレードを弾き返してから左足で奴の右手を目掛けて蹴り上げる。
「今日の私はッ!! 」
『しまった!? シールドブースターが!? 』
その蹴りによって奴の右手にあったシールドブースターなる物は私たちの頭上で高く舞い上がり、その姿を露わにした。
使用許可が下りていない為にそのままキャッチして使うことは不可能だが、大きな隙は出来ている。
「阿修羅すら凌駕する存在だッ!!! 」
そのままプラズマソードをクロスさせてX字状に切り捨て、更に追撃として回し蹴りをウーンドウォートへお見舞いした。
どうやら奴のビームキャノンごと斬り捨てたらしく、爆発と共にウーンドウォートは撤退していく。
『ば、馬鹿な……! ちぃっ、撤退する! 』
私も無策で追うつもりはない。
丸腰で戦場を後にするウーンドウォートを一瞥した後、よろめきつつ地面へ膝を着いた。
「はぁ……はぁ……。っぐっう!? 」
唐突に猛烈な吐き気が襲い、手のひらで口元を抑えると手が血で真っ赤に染まる。
どうやらGに耐えられず吐血したみたいだ。
以前の草薙彰久ほどではないが、このウーンドウォートもなかなかのパイロットだな。
久々に死を覚悟した。
「作戦終了。束、回収ポイントに移動ラボを頼む」
『了解。オーバーフラッグのGに耐えられなかったみたいだね』
「あぁ。この程度のGに、身体が耐えられんとは……」
『グーちゃんが頑丈すぎるだけだよ。さすがに天才科学者束さんも驚いたねぇ』
「頑丈だけなのが取り柄だからな。これより帰投する」
『はいはーい、待ってるよー』
相変わらずゆるい声と共に束の声が無線機越しに聞こえ、私は通信を切る。
この状態で身体に鞭を打つのはさすがに酷なので、IS形態のまま私は回収ポイントへ向かった。
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<同刻、篠ノ之神社・彰久視点>
約一時間に及ぶ移動時間を経て、俺達は色んな屋台に彩られている篠ノ之神社へと辿り着く。
よく弾たちと浴衣姿の女の子ウォッチング目的で夏祭りへ来ていたが、今回は女の子たちが同伴なのでまた今度にしておこう。
しかし普段の制服姿を見ているからか、より一層彼女たちの美しさが際立つ。
一夏が浴衣萌えになるのも分からなくもないな。
「あ、来た来た! おーい、こっちこっちー! 」
「待ちわびたぞ……ってセシリア達も浴衣を着てきたのか」
「ごめんごめん。彰久の家に行ってたら遅れちゃった」
「浴衣は彰久のお母さんから貰ったんやで! 」
「あたしも挨拶しとけばよかったかなぁ、久しぶりにおばさんに会いたいし」
「大丈夫だ鈴ちゃん。俺が相変わらずまな板だと伝えておこう」
その瞬間無表情でアイアンクローを俺に食らわす鈴ちゃん。
もはやツッコミもなしとはレベルアップしたようだな。
浴衣だからパンツ見えねぇ!
ふざけんなコノヤロウ!
「見事な腕前だ鈴。私と組手でもしてみるか? 」
「さすがにラウラには敵わないから遠慮しとくわ」
「すごい、彰久へのスルースキルがみんな上がってるぞ」
「この夏でわたくしたちも成長しましてよ」
「そんなとこに成長値に振るなら胸に振れよ貧乳!! 」
「ぶっ殺すぞてめぇ」
地面を舐めつつも俺は必死の抵抗を鈴ちゃんに繰り返す。
来て早々フルボッコなのはステータスである。
だが美少女に殴られるのもまた本望。
変態紳士は忙しいのだ。
「あーあー……余計なこと言うから……」
「瞬く間に彰久がフルボッコだな。大丈夫か? 彰久」
「ら、ラウラ……。出来れば肩を貸してほしい……」
「だが断る」
「使い方間違ってるぞラウラ」
しょぼくれる彼女はさて置き、さっそく俺達は神社の中へと進むことに。
お、わたあめあるじゃないか。
後で買っておこう。
「あ、射的あるやん。やろうやみんな! 」
「ふっ、ならばここはわたくしの出番ですわね! 」
「ならば次は私が行こう。軍人を舐めて貰っては困る」
お祭りの定番と言えば射的。
さっそく俺の見せ所を見つけてくれるとは真琴ちゃんさすがである。
屋台のおじさんにお金を払い、セシリアは射的の銃を構えた。
浴衣姿と言えど様になっているな。
軽い音と共に景品であるお菓子をゲットし、笑顔で戻って来るセシリア。
「この程度、わたくしには造作もないことですわ! 」
「甘いな、セシリア。私はあの大きな電化製品を狙う」
「けど、ああいうのって大抵重りとか入ってるわよね」
「大丈夫だ、私の愛銃に掛かればちょちょいのちょいだ」
自信満々の表情でそう言いつつ、ラウラは射的の屋台へと向かう。
……ん? なんか腰についてるけど……?
「いくぞ! USP! 」
「実銃はボッシュートです! 」
「そ、そんな!? 」
某世界不思議発見番組のお馴染みのSEとともに投げ捨てられる黒い塊。
一体彼女は何発この日本でぶっ放せば気が済むんだろうか。
危うく夏祭りが崩壊するところであった。
「もう! 何度言ったら分かるのラウラは! 」
「す、すまんシャルロット……」
「罰として今夜プリン抜きだからね! 」
「ッ!? お願いだ、それだけはやめてくれぇーっ!! 」
数十分によるお説教と共に正座させられるラウラ。
普段は冷静な彼女がプリン一つでこんなに慌てている所を見たらきっとクラさん辺りが鼻血を出しまくって救急車で搬送させられるだろうな。
「ぷ、プリンが……。今日の私の最後の楽しみが……」
「シャル、ラウラすっげぇヘコんでんだけど」
「ダメだよ。いくら日本に慣れてないとは言ってもさすがに実銃ぶっ放すのはどうあがいても逮捕されちゃうからね」
「どの国でもアウトだけどね。あ、輪投げやりたいからいい? 」
「俺もやろうではないか鈴ちゃん。何を狙う? 」
「そうね……。狙いやすいのはあそこのぬいぐるみ辺りじゃないかしら」
「任せておけ。俺が取ってみせようぞ」
今度彼女が見つけたのは輪投げ。
さほどポピュラーでもないが投げるのには少し自信があるのでやってみるとしよう。
屋台のおばちゃんになけなしの200円を払い、俺は三つの輪っかを貰った。
"なんかよく分かんないけど回転する奴"と呼ばれたこの俺の実力、とくと目に焼き付けろ!
「いくぜ! 変態神拳奥義、"銭っぽいもの投げ"! 」
得意のアドリブで必殺技を叫ぶと、一つ目の輪っかは大きめのお菓子セットの所へと落ちる。
続いて二つ目、ぬいぐるみの近くへと落下した。
ぬぬう、このままでは豪語したけどそこまでなんかいいものゲットしてない奴という微妙なレッテルを貼られる……。
ええい、ままよ!
「行けよファングゥッ!! 」
振りかぶって最後の輪を投げると、アーチを描いて飛んでいくものの、目当てのぬいぐるみへは行かず、その隣の木の板へ落ちた。
何が起こったのかわからずあっけらかんとしていると、屋台のおばちゃんが笑いながら説明してきた。
「あら、これ最高級の木で作られたまな板よ。よかったわねぇ、お母さんに持っていってあげなさい」
「あ、そうなんですか。ありがとうございます」
「というわけだ鈴ちゃん、あげr」
「なあ狙ってたろ? 正直狙ってたろ? なあ言えよ? な? 」
不穏な空気と共に鈴ちゃんが俺の胸倉を掴みつつ威圧してくる。
正直言うと狙ってたんだ、ごめんよ鈴ちゃん。
「だ、大丈夫だ鈴! こんな脂肪の塊など無価値に等しい! 」
「そ、そうやで! むしろスレンダーな鈴が羨ましいわ! 」
「同情するなら胸をくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!! 」
彼女の悲痛な胸の内(72)が夕暮れの空にこだました。
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<亡国機業、IS格納庫・エリア視点>
あの後、なんとか無事に帰還できた私は焦りと恐怖を感じつつ格納庫にあるベンチで項垂れながら休んでいた。
新型のISに搭乗したのにも関わらず、あのような正体不明機などに遅れを取って任務を失敗するなどあってはならないことなのだ。
あの黒い可変機……。
ドイツの軍事工場を襲撃した機体だろう。
「エリア、お疲れ様」
「……スコールか。どうした? 」
「災難だったわね、まさかあのような機体が介入してくるなんて」
「本当にな。もう私は組織にいらない人間だろう。殺すなり消すなり好きにしろ」
「いえ、それはないわよ。組織はまだあなたを必要としている」
そう吐き捨てる私を一瞥し、スコールはただ淡々と述べる。
"まだ必要"……か。
「……了解した。上の方には申し訳ないと伝えておいてくれ。それで、次の任務は? 」
「まだよ。ウーンドウォートに追加パッケージを搭載するから、それまでお預け。けど、襲撃場所は判明しているわ」
「場所だけ判明しているとは、またなんとも不思議だな。それで? 」
私がそう尋ねると、彼女は妖艶に微笑む。
心を読ませない、なんとも不気味な微笑みだ。
「――――IS学園、よ」
グレイスとエリアが激闘してるのに主人公たちは何してるんでしょうか、って感じです。
鈴ちゃんごめんね。