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<昼、草薙家>
8月の上旬のことである。
母ちゃんから「一度家族に顔見せときなさい」というお言付けをもらったので、俺は一度実家へと帰ることにした。
学園には1週間弱の外泊許可を貰い、寮部屋の荷物を纏めた俺は早速家族の待つ家へと向かう。
というか久しぶりに母ちゃんと父ちゃんと兄貴に会う気がするなぁ。
みんな元気にやってるだろうか。
俺がISを使えるという事態が発覚してから、日本政府の人や色んな研究所の人が家を訪ねてきたが家族全員はそれに屈することなく俺をIS学園に入学させるという意見を貫き通してくれた。
以降家族と俺は離れ離れになってしまったが、みんなには本当に感謝の念が尽きない。
中学時代歩きとおした駅までの道を辿り、俺は家の前で立ち尽くす。
普通の一軒家だが、俺にとっては感慨深い大切な我が家だ。
インターホンを押し、俺は家にいる家族を呼ぶ。
その時であった。
「ごるぅあああああああ!!! またあんたはこんなにエロ本拾ってきてんのかぁぁぁ!!!」
「堪忍してくれ夏奈! 男にはそういう青春を思い出す時が……! ますらおッ!! 」
家の中から女性の怒号と男性の断末魔が聞こえ、俺はため息を吐く。
ほんと父ちゃんと母ちゃんはいい歳して何やってんだよ。
既に父ちゃんがフルボッコにされている光景が目に浮かぶが、気にせず俺はもう一度家のインターホンを押した。
「あら彰久、おかえりなさい。帰って来るなら連絡ちょうだいよ」
「ようアキ、帰ってきて早々で悪いけどママをどうにかしてくれないか? 」
「どう考えても敵わないから無理だよ父ちゃん」
「だよな……ぐぎぎぎぎ!! 痛い痛い!! 」
扉を開けて出迎えてくれたのは父ちゃんをヘッドロックした状態で現れた母ちゃんである。
なんかもう色んな意味で凄まじいが、大の男を普通に捻じ伏せることができる茶髪の女性が俺の母ちゃんである"草薙夏奈(くさなぎ かな)"だ。
一方完全に首を絞められているのが俺の父ちゃん、"草薙冬馬(くさなぎ とうま)"である。
どっちが主人なのか完全に分からない状況であるが、家ではこういう光景が日常茶飯事なのだ。
「まあいいわ、早く入って手洗いうがい済ませなさい。あ、春彦も帰ってきてるわよ」
「お、兄貴も帰って来てるのか。あとでお土産貰おうっと」
言われるがまま俺は久しぶりの我が家へと足を踏み入れ、荷物を自分の部屋へ置きに行く。
うーむ、やはり寮部屋もいいが自分の部屋というものは落ち着くな。
ただでさえ女の子の中に男子二人というありえない状況なのでこうして実家のありがたさを改めて実感させられる。
まあ俺の場合天国であることには変わりないのだが。
「おっす、おかえりアキ」
「兄貴! 出張から帰ってきたんだな! 」
「そんなとこ。ほい、これお土産」
「サンキュー。おお、これ美味いやつじゃん。ありがとな兄貴」
「気にすんなよ。それよりお前ともう一人以外全員女の子らしいじゃねえか? 詳しい話聞かせてくれよ」
「出た、兄貴の女の子探るやつ」
色々と懐かしい雰囲気に浸っていると俺の部屋の扉からスウェット姿の金髪長身男が顔を出してきた。
彼の名前は"草薙春彦(くさなぎ はるひこ)"。
俺の兄貴にあたる人間で、現在サラリーマンとして会社に勤務している。
こんなチャラそうな身なりだが結構同僚とかからの評判はいいらしい。
「いいじゃんかよー、どんな子がいたかぐらい聞かせてくれよー」
「しゃーねぇなー、後でじっくり聞かせるから着替えさせてくれって。な? 兄貴」
「オーケー、それで手を打ってやるよ」
「ったく、お土産くれたからって偉そうに」
部屋着に着替えようとした瞬間兄貴が肩を組んできたので、仕方なく俺はいなすようにIS学園のことを話すことにした。
兄貴のウザさは相変わらずだけどなんだか懐かしくて妙な感じである。
兄貴を部屋の外に追いやってから着替えて下のリビングに降りると、キッチンでは母ちゃんが昼飯を作って待っていてくれた。
久々に母ちゃんの手料理が食えるとはツイてるなぁ。
「いっただきまーす! 」
「はいはい、そんなに慌てて食べないの」
今日の昼飯は母ちゃん特製の焼肉丼。
いつもは怒っていたのに今回は優しく注意だけで済んでいるのは、きっと母ちゃんも俺が久々に帰って来て嬉しい部分もあるのだろう。
意外とツンデレなんだな母ちゃん。
萌えはしないけど。
その時である。
家の玄関のインターホンが鳴り響き、飯を食っている俺の代わりに父ちゃんが出た。
驚きと喜びの混じった声が聞こえ、俺は玄関先へと視線を向ける。
「一夏くんじゃないか! 大きくなったなぁ! 」
「どうも、お久しぶりです。おじさん」
どうやら一夏が訪ねてきたようだ。
まあ中学時代よく来ていたしあいつが来るのも頷けるな。
俺としても暇だったからこの後遊んでもいいし。
「一夏、いらっs……あれ? 」
「ど、どうも! ぐ、偶然ですわね! 」
「あ、あれー? こ、ここって彰久のお家だったんだー、知らなかったー! 」
「ほ、ほんとやねぇ! ウチもビックリしてもうたよ、いきなり出てくるやもん! 」
「おうコラ白々しいぞ巨乳3人組」
そう思ったのも束の間、私服をバッチリ決め込んでいるセシリアと真琴ちゃんとシャルが口に手を当てながらなんとも分かり易いリアクションと共に現れた。
さすがに変態紳士といえどこれは誰でも腹立つ。
ガンジーでも助走付けて殴るレベルであろう。
「えーと、彰久? 彼女たちはどなた? 」
「学園の同級生だよ父ちゃん」
「おお! 君たちがそうか! 僕は草薙冬馬、彰久の父だよ。いつも息子がお世話になってるね」
「お義父さま!? 」
(こっ、こいつ! 先に自分で"もう許嫁ですよ"アピールをするとは……ッ! )
(完全に先を越された……。だが彰久の家に入れば十分にアピールポイントはあるでッ! )
(ふっ、これが初期ヒロインの貫禄というもの……。貴女方はどれくらいもつかしら? )
「ねえ父ちゃん、みんなの表情がデス〇ート調になってて俺すっごく怖い」
「きっとみんな生理が近いんだろう」
「なんつー返しだよアンタ」
いきなり「松田ぁ!! 」と叫ばん限りの悪い表情になる3人組。
突然画風が変わるのは変態紳士対応してないんで勘弁してほしい。
セシリア辺りが鳴れているのはさすがと言わんばかりの風格である。
「ちょうどお昼時だしご飯食べてくかい? 今夏奈の方に聞いてみるよ」
「えっ、そんな、悪いですよ! 」
「気にしなくていいさ。ちょうど僕と春彦で買い物へ行くところだったしね」
「それじゃ……お言葉に甘えて」
そう言うと父ちゃんは走って家の中へと戻っていく。
まあ母ちゃんの方も一夏がいると聞いたら確実にオーケーを出すだろうけどな。
父ちゃんの方が戻ってくるまでの間、俺はみんなに事情を聞くことにした。
「それで? なんで家に来た? 侵略か? それとも俺のエロ本が欲しくなったのか? 」
「どれも違うわ。今日の夜箒のとこでお祭りやるからお前も誘おうと思ってな」
「ほほう、夏祭りとな。ならば弾たちも誘おうではないか」
「あいつら誘ってみたけど俺達の聖戦がどうたらこうたら言ってたぞ」
「コミケかあいつら」
そういやクラさんと戦地へ赴くみたいなこと言ってたなあいつら。
俺も是非とも行きたかったが家族と会う約束をしていた為に断念した。
クラさんのコスプレ見たかったなぁ……。
まあ夏祭りに誘うために来てくれたのなら良しとしよう。
「大丈夫だそうだ。さ、みんな上がって上がって」
「お邪魔しまーす。彰久の家久しぶりだなぁ」
「結構中学の時来てたもんね。とりあえず彰久の部屋に荷物とか置いてくるといいよ」
「はい、ありがとうございます」
そう言いつつ彼らを家に上げると、早速俺は自分の部屋に案内する。
ふっ、草薙彰久はついに女の子を家に連れ込むことに成功したぞ!!
後で弾に報告しよう、自慢ついでに。
今度会ったら思いっ切り殴られそうだけど。
「ここが俺の部屋だ。ま、荷物はそこら辺に置いといてくれ」
「彰久さんの部屋、意外と綺麗ですのね」
「そうだね、普段の行動とは掛け離れてるほど片付いてるよ」
「なんでそんなに酷評なの君たち」
部屋に来た瞬間姑の如く酷評をかます彼女たち。
お前ら人んちにいきなり押しかけてきた態度じゃねーだろそれ。
まあ可愛いからいいけど。
「そんじゃあリビング行くとしますか。ちょうど母ちゃんも料理出来たっぽいし」
「彰久のお母さんにもご挨拶しないけどいけないしね」
(次はウチが先にいったる! このままやられっぱなしはアカンで! )
(ふっ……今回は頂きだよ! )
「だから画風変えんのやめろって」
"計画通り"と言わんばかりの顔で階段を下りるのはさすがに怖い。
いつまでこのネタを引っ張るのだろうか。
連れてきた当の本人は我が家の懐かしい記憶を思い出すのに忙しいようだ。
そんなわけでいよいよ母ちゃんと対面した彼女たち。
母ちゃんは母ちゃんで初体面のみんなをどう見るのだろうか。
「あら、あなた達が彰久のお友達? よろしくね、あたしは彰久の母です。いつもこいつが世話になってるわね」
「い、いえ! そんなことないです! ウチは八神真琴って言います! 」
「セシリア・オルコットです。よろしくお願いしますね、お母様」
「よろしくお願いします。シャルロットです」
なんとも普通に自己紹介を交わしたようである。
ぎこちない真琴ちゃんがなんともかわいい。
「それで、あなた達はもう彰久にセクハラされてるの? 」
「胸揉まれてます」
「スカート捲られましたわ」
「お風呂を覗かれました」
「彰久、アンタ後でコブラツイストね」
「俺に矛先が向いてる!? 」
どこぞの少年探偵も「あれれー? おっかしいなぁー? 」と言わんばかりの方向転換だ。
確かに君たちの気持ちも分かるけどいきなりコブラツイストはダメだと思う。
母ちゃんは昔名を馳せていた元レディースの総長だったらしく、この家では誰も逆らえない。
父ちゃんがどうやって母ちゃんを落としたのかが草薙家七不思議の一つである。
「まあいいわ。ちょうどお昼も出来たし食べてって」
「すいません、わざわざありがとうございます。いきなり押しかけて申し訳ないですわ」
「気にしないでよ。彰久が中学の頃からこういう事慣れてるからさ」
「それじゃ、いただきまーす! 」
お言葉に甘えてというわけなのか真琴ちゃんが一斉に母ちゃんの料理をかき込みだした。
人の好意は全力で受けるというのが彼女らしい。
「んで彰久。アンタ今日お祭り行くんだってね」
「そうだよ、一夏の幼馴染がやってる神社であるらしいんだ」
「へぇ、そんじゃあちょっと待ってなさい。浴衣出してくるわ」
「えっ!? さすがに悪いですよ! 」
「いいのよ。どうせ使わないしね」
ほぼ昼飯を食べ終えたのを見計らって、母ちゃんが今日の夕方にある夏祭りについて俺に尋ねてくる。
どうやら母ちゃんの昔来ていた浴衣を出してくれるらしい。
元レディースが浴衣を着るなんて想像できないが。
「はい。ちょっと古臭いかもしれないけど」
「いえいえ! 全然綺麗やないですか! 」
母ちゃんが取り出してきたのはちょうど3着ある色鮮やかな浴衣であった。
それぞれ青・黄色・水色と彼女たちにピッタリの色である。
浴衣というのは色褪せないものだと実感させられた。
「さっそく着てみる? あたしが手伝うから」
「いいんですか? お願いします」
「浴衣なんて久しぶりに着るわぁ……」
「というわけで彰久。あんたは覗いちゃダメよ」
「なんで俺にしか言わねーんだよ! 」
「一夏君がそんなことするわけないでしょ! 」
完全に論破されて俺は少し凹む。
確かにそうだけどなんだか不公平だ。
そうして膝を着いて落ち込むこと数十分、浴衣を纏った3人の姿で一気に俺はマイサンと共にビルドアップする。
女の子の浴衣姿なんてレアだからな。
「おお! 似合ってるじゃないか! 」
「え、えへへ……。そうかな」
「浴衣なんて初めて着ましたから少し歩きにくいですが……。ジャパニーズスタイルにあやかるのもいいですわね」
「ちょっと胸がきついけどまあいけるやろー」
「彰久。俺は今非常に歓喜している」
「一夏……。お前浴衣萌えだったのか……」
確かに浴衣に萌える気持ちも分からなくもない。
だが俺は浴衣を着る事によって女の子が髪型を変えるその瞬間が最も燃えると思っている。
ポニーテールとかな!
「しかしもうこんな時間か。もうそろそろ出ないと混んじゃうかもな」
「それじゃこのまま行きませんか? 服は荷物に入れておきますので」
「そうしよか。すいません、これ頂いてもええでしょうか? 」
「だから大丈夫だって。忘れ物ないようにね」
「はい、ありがとうございます! 」
既に時間は15時過ぎ。
俺の最寄り駅から篠ノ之神社まで確か結構時間かかるから今出てしまうのが得策だろう。
ちょうど夏祭りシーズンなので浴衣着てても違和感ないし。
「そんじゃ母ちゃん、俺今日晩飯向こうで食べてくるよ」
「はいはい。楽しんで来なさいね」
「お邪魔しました。今日は本当にありがとうございます」
「いいっていいって。また来てちょうだいね」
家を出る時にセシリアたちに最後何かを呟く母ちゃん。
その一言で一気に彼女たちの顔が赤くなる。
母ちゃん、余計なことはしないでくれよ?
俺はもう決めているんだからな、ハーレムを作ると。
というわけで俺達は我が家を後にし、夏祭りが開催される篠ノ之神社へと向かうことに。
どんなイベントが待っているんだろうか。
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<中東地区市街、グレイス視点>
市街上空。
束の次の指令は中東に存在する反政府組織と政府軍の紛争に介入し、私の存在を世界に公表することであった。
既にドイツの秘密軍事基地を破壊した際に知られているようだが、だがその事実も最近薄れてきている。
ちょうどいい機会だ。
土と硝煙のにおいが充満するこの雰囲気、私はどうにも好き好まない。
だがそうとも言っていられないな。
作戦ポイントに到達した時、私は妙な胸騒ぎを覚えた。
静かすぎるのだ、戦闘が起こっているにしては。
まさかもう終わってしまったのか?
いや、そんなはずはない。
事前に確認はしているはず。
もう少し詳細を確認しようと、私は飛行形態からIS形態へ移行し近くの地面へと着陸した。
このままではかなり目立つので、ISを待機状態へ戻してから私は壁に隠れる。
携帯していた銃を構えながら、壁を乗り越える。
そこには凄惨極まりない光景が私の目に映った。
政府軍・反政府組織共々ほぼ全員殺されている。
誰がやった?
ISか?
それとも別の組織か?
「ぐっ……あああぁあぁぁあ……」
「……まだ生きているのか! どうした、何があった! 」
「あ、悪魔が……白い……悪魔が……俺達を……」
「悪魔だと? なんだそいつは! 」
「に、逃げろ……俺達じゃ……敵わない……」
「おい! しっかりしろ! 答えてくれ! 」
うめき声が聞こえたので、その声の主へと素早く近づいた。
この傷は深すぎる、もう彼は助からないだろう。
ただ彼は"悪魔"と呟いて絶命する。
私は悔しさに唇を噛みながら彼の目を閉じさせた。
その時である。
『新たな目標確認。排除する』
「ッ!? 」
背後から殺気と共に女の声が聞こえ、振り向くと同時に私は右腕を部分展開した。
間一髪で右腕のディフェンスロッドにより奴の攻撃を防げたが、そのまま後方へと吹っ飛ばされる。
こいつがこの凄惨な光景を生み出した原因か。
同じ第三者だったとはいえ、私もここまでするつもりはなかった。
吹っ飛ばされるまでの僅か数秒間で私はフラッグを展開し、なんとか体制を立て直す。
左手のリニアライフル"トライデントストライカー"の左右の銃口からプラズマ弾を絶え間なく放つと、それを難なく避けて右手の巨大なビームキャノンを反撃として撃ってきた。
"白い悪魔"と呼ばれるには華奢すぎる身体であり、両脚部には足がなく全体的に丸みを帯びたフォルムである。
それこそ草薙彰久のギャプランとは程遠い。
「そうか……。面白いッ! 受けて立つぞ、"ウーンドウォート"ッ!! 」
私はその機体の名前を知っていた。
ガンダム[TR-6]"ウーンドウォート"。
"亡国機業"が創り上げた、悪魔である。
個人的にはライバルVS第三者の戦いは大好きな描写です。