IS-突き進め!変態紳士-   作:「旗戦士」

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留学先での初投稿。
今後ともよろしくお願いします。


変態紳士、夏休み

<夏休み、IS学園・彰久の部屋>

 

なんとか無事テストを回避する事が出来た俺達は、そのまま1学期の終業式を終えてから2,3日が経っていた。

 

寮の部屋も一夏と一緒になった為、正直テンションが下がりつつも俺は今後の予定を計画している。

 

せっかくIS学園という立場に置かれているのだから、さすがに女の子と遊ばない他はないな、ふふふ。

ここはシャルとかセシリアを誘うべきだろうが、例の一件があってから正直彼女の顔を直視できない。

 

変態紳士は意外とシャイなのである。

 

 

「なあ彰久、お前夏休みどうするんだ? 」

「とりあえず実家に帰ってから……そうだな、久しぶりに弾とか熊吉誘って遊ぶか」

 

「よし、俺もそうしよう。遊ぶのはいつにする? 」

「とりあえず7月の下旬辺りが妥当かもな。一夏はダメな日とかあるのか? 」

 

 

俺がそう尋ねると彼は呆れたように首を振った。

なんだろう、すごく馬鹿にされたような気がする。

 

「この通り全く予定がないぜ。やっぱり俺はもてないんだろうな、あははは」

「よろしい、ならば戦争だ」

 

「ちょっ、なんで腕振り上げてんだよ!? 」

「黙れィッ! 貴様は全世界の同志諸君を敵に回したのだッ!! 」

 

「何言ってんだよ!? 危ねえっ!? 」

「くたばれこの鈍感野郎! 」

 

しかし相手は元剣道有段者、素人の拳など難なく避けられ、俺はベッドに叩き付けられた。

おのれ一夏め、最近箒ちゃんといい雰囲気だからって調子乗りおって……。

 

「ぐぬぬ……隙有りだ一夏! 」

「おわぁっ!? 」

 

お返しに背後から彼の脇腹を掴むと、変な声をあげて一夏は俺の方へ倒れ込んでくる。

あいつの筋肉によって押し潰された俺は、うめき声をあげつつ彼の肩を叩いた。

 

 

「うげげげ……。い、一夏……。ぎ、ギブ……」

「あ、彰久!? すまん! 」

 

「彰久くーん? ちょっといいかなー……って、あ」

「か、会長!? 」

 

 

その瞬間、俺達の部屋のドアからひょっこりと顔を出した会長が入ってくる。

この光景を見るなりニヤニヤしながら彼女は俺達の元へと近付いて来た。

 

「あっ……君たちもしかして本当にカップルだったの。うふふ、ごめんなさい。お邪魔しちゃったわね」

「違いますッ!!! 」

 

 

自分でも驚くほど声を張り上げ、ニヤニヤしながら部屋を出る会長を引き留める。

こいつとカップルなんて噂されたら俺の変態紳士ライフが終わってしまう!

 

「お前……まさか本当に……」

「だから違うって言ってんだろ!? 」

 

その後全力で事情を説明してなんとか事無きを得た。

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<同刻、家庭科室>

 

 

彰久たちが楯無に全力で弁解している頃、家庭科室にはせっせと料理を行う女子生徒が二人。

一人はエプロンをつけながら一生懸命に暗黒物質を作り出し、もう一人はそれを見守りながら鼻をつまんでいる。

 

 

「り、りっ、鈴さん!? なんだか凄まじい物質が出来ているのですが!? 」

「ちょっ、あんた何をどうしたらこうなったのよ!? ああもう、一旦火止めて! 」

 

「は、はい! 」

「うわあ……ほんとこの世の物とは思えないわコレ」

 

 

セシリアは慌ててコンロの火を止めると、黒いオーラを放つ鍋を一旦台所に置いた。

恐る恐る鈴が鍋の中を覗き込むと、異臭に彼女は顔をしかめる。

 

 

「よくあいつはこんなの食えたわね……。ほんと身体だけは丈夫なんだから」

「こ、こんなのって言わないでください! わたくしだって一生懸命やって……! 」

 

「カレーにそのまま砂糖入れるとかどこが一生懸命なのよ!? 」

「う、うぅ……」

 

既に危ない色へと変貌しているカレーだったものは、鍋の中で泡を立てながらその存在感を際限なく放っていた。

このようなものを食べられた際には物理的に心臓を持っていくだろう。

 

さすがの彰久もこれには抵抗があるはずだ。

そう思った彼女は鍋の中身を急いで捨てる。

 

 

「まずはレシピ通りに料理を作る事が大切なのよ。アレンジとか隠し味とかは、ちゃんとその料理が作れるようになってからが一番いいわ」

「レシピ通りに……ですか」

 

「そうそう。そうすりゃ今のムドオンカレーなんてできないはずよ」

「いや、個人的にはザラキーマですわ」

 

「何無駄にレベルアップしてんのよ」

 

一度鍋を洗ってから、鈴はもう一度レシピ本をセシリアに見せた。

当の本人は顎に手を当てて考えているようだが、本当に大丈夫なんだろうか。

 

 

そうして挑戦すること10回目。

先程とは打って変わって綺麗な茶色をしたカレーが鍋に入っており、二人は感嘆の声を上げた。

 

「おおー! やれば出来るじゃないセシリア! 」

「ふふん、まあわたくしの手に掛かればこんなものですわ。さあ、早速試食しましょ」

 

 

皿にご飯とカレーを盛り付け、二人はコンロの火を止めてから出来上がったカレーを早速頂くことにした。

 

スプーンで一口頬張り、咀嚼する。

 

 

 

「まっずい!! 」

「まっずいですわコレ!! 」

 

まだまだ彼女の上達は望めなさそうだ。

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<束の移動ラボ、グレイス視点>

 

 

草薙彰久との戦闘で海へと落下した私は、その後束によって回収されて2,3日寝込む羽目となっていた。

本来ISは水中で使用するものではない為、かなりの無茶をしたと見える。

 

それほど草薙彰久は心躍る相手だったという訳だ。

実に面白い。

 

 

「グレイスさん……大丈夫? 」

「あ、ああ……。すまない、少し考え事をしていた。大丈夫だよ、クロエ」

 

「本当に心配したんだよ? 本当にグレイスさんが死んじゃうかと思って……」

「そうだな、心配をかけて本当にすまなかった」

 

 

思慮に耽っていると今にも泣き出しそうなクロエが私を見つめていたので、彼女の頭を撫でてやると少し安心したような顔を見せる。

 

……少し行動を改めなければならないな。

クロエに寂しい思いはさせたくない。

 

「そうだよグーちゃん? 天才の束さんがいたから良かったもののねぇ? 」

「……分かっている。今度パフェを奢るのだろう? 」

 

「クロちゃんの分もね! 」

「その旨を良しとする」

 

家族を持つという事は、おそらくこういうことなのだろう。

どことなく安心を感じる。

 

溜息と共に、私は寝かされていたベッドから立ち上がった。

私を見上げるクロエの頭を再び撫でてから、オーバーフラッグの整備を行う束の元へと歩み寄る。

 

「……”フライルー”のデータは取れているかね? 」

「ばっちりだよー。グーちゃんが頑張ってくれたおかげで隅から隅まで取得出来てるね」

 

「そうか、ならば身体を張った意味があるというものだ」

「普通は死んでてもおかしくないのにグーちゃんは特別頑丈だよねー、今度色々調べさせて! 」

 

「断固辞退するっ! 」

「あっ! 逃げた! 」

 

 

手をいやらしく動かしながら私に迫る束を躱し、その足で自分の部屋へ逃げ込む。

年甲斐もなく追いかけっこなどしたのは久しぶりだが、自然と恥ずかしさは薄れていた。

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<夜、都内某所>

 

日も暮れて次第に夜の帳が街を包み込む中、今一人の女性が小洒落たバーに入っていく。

 

リクルートスーツの上着とトートバッグをカウンター席に置くと、女性はバーの店員に酒を注文した。

 

 

(はぁ……彼氏欲しい……)

 

 

彼女の名は織斑千冬。

かつて世界最強の称号”ブリュンヒルデ”の名を冠し、ISの頂点に立った女性である。

 

運ばれてきたグラスのウイスキーを手の中で回しつつ、彼女は口に含む。

すーっと熱さが鼻を抜けて身体へと浸透し、心地良い感触が千冬を包んだ。

 

 

(今ごろ一夏たちは同級生と一緒に楽しんでる頃だろう……。はぁ……いいなぁ……。男と一緒にキャッキャウフフしたいなぁ……)

 

しかしいくら世界最強と言えど彼女も女性。

色恋沙汰に興味がないわけではないし、むしろ今の状況は飢えていると言っても過言ではない。

 

 

「すいません、遅れました」

「いえ、私も今来たとこですから。まあ、座ってください」

 

遅れてやって来たのは同じクラスの副担任である山田真耶である。

仕事帰りで飲もうと約束していたのだが、仕事が終わらない為先に千冬が待っていたのだ。

 

「それじゃ、乾杯」

「はい、乾杯」

 

互いのグラスを打ち合わせ、共に酒を口に含む。

本来ならもう異性と飲んでいてもおかしくないのだが、自分の取り付いたイメージというものがそれを阻んだ。

 

「はぁー……。私の脳内ではこの年で既に彼氏いるはずだと思ってたのになぁ…… 」

「……織斑先生? 」

 

「なんれすかー? 」

「あっ……ダメだコレ私送るの確定だ……」

 

 

まさかこんなにも酒に弱いとは思わずつい飲み過ぎてしまったらしく、既に彼女の顔は赤く火照っている。

 

なんとも言えない絶望感に浸りながら、今夜一人の女性の静かな悲鳴が響いたという。






なんというかいわゆるほのぼの回。
千冬さんが残念なのは相変わらずです。

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