IS-突き進め!変態紳士-   作:「旗戦士」

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臨海学校編も終わりです。
というか突き進め!変態紳士も第一部終了って感じかも。


変態紳士、帰還

<作戦空域外、グレイス視点>

 

 

 

乱れた呼吸を整え、私は草薙彰久の落ちていった海を一瞥する。

しまった……思わず彼と本気で戦ってしまった。

 

束から言い渡された任務は"ギャプランの二次移行を発動させろ"とのことであったが……。

これでは二次移行しても彼の命が危険に晒されているようなものだ。

 

 

「すまない、束。草薙彰久の姿をロストしてしまった」

『オーキードーキー♪ 大丈夫だよグーちゃん! 天才科学者の束さんはこういうことも見越してちゃんと計画を立ててあるのだー! 』

 

「さすがと言わせて貰おう。あとでお詫びに何か奢るとしようか」

『パフェがいいなー♪ 』

 

「了解した」

 

 

 

予想外の事態が起きても冷静に彼女は自我を崩すことなく計画を立てている。

さすが、天才科学者と呼ばれるだけあるな。

もっとも彼女の場合は焦りさえ感じていなさそうだが。

 

 

しかし草薙彰久との戦いは本当に心躍るものであった。

私に本気を出させるとは……。

このまま死なせるのは惜しい人間だ。

 

 

 

「敢えて言おう……。死ぬなよ、草薙彰久」

 

 

 

その時である。

 

 

"オーバーフラッグ"のアラートが突如鳴り響き、私はその方向へ視線を向けた。

視線の先は先程彼が落ちていった海である。

 

そうか……つくづく君は私を驚かせる人間のようだ……!

 

 

 

「ッ!? リニアライフルが!? 」

 

 

 

突然海面から三本のビームが私に迫り、身体こそは貫かれなかったものの左手に持っていたリニアライフルが撃ち抜かれ、空中で爆散する。

 

急いで予備のリニアライフルを展開するが、その同時に私の眼前に姿を変えた"ギャプラン"のモノアイが現れた。

 

幾多の戦いを生き抜いてきた私でさえも、その姿は身震いするほど恐ろしい。

肩部と腰部には拡張ユニットが装備され、カラーリングも以前の深緑一色から黒と白のツートンカラーへと変貌し、頭部にはV字型のアンテナが搭載されている。

 

 

なんだ、この威圧感は。

 

 

その問いに答えぬまま、彼は手にしたビームサーベルを振り下ろす。

 

 

 

「だが、ISの性能差が勝敗を分かつ絶対条件ではない! 」

「はぁッ!! 」

 

 

このままやられる私ではないさ!

破片の一つでも頂いていく!

 

左手に握ったリニアライフルを横殴りに叩き付け、追撃に蹴りを浴びせた。

よろめいた所にプラズマソードを……ッ!

 

 

「遅いぜッ! グレイス・エーカーッ! 」

「なっ、なんだと!? 」

 

 

腰から背中まで伸びたアームユニットが彼の手にしていたライフルを握り、その銃口を私に向けている。

 

馬鹿な……!

そんなものまで用意しているとは聞いてないぞ……ギャプランッ!

 

直後、ピンク色のビームが一直線に私の身体を貫く。

今までのダメージが蓄積していたのか、一撃食らっただけでシールドエネルギーが200を切っていた。

 

 

「がは……ッ!? 」

 

 

飛びそうになる意識を無理やり戻して、私はそのまま落ちていくフリをする。

私の目標は達成されたのだ、これ以上彼と戦う理由はない。

 

だが……如何せん口惜しい。

退き際を誤るほど私は愚かではないが、もっと彼と戦いたい気分ではあるのだ。

 

 

 

「ちっ、逃がすかッ! 」

「敢えて言おう、覚えておけ! 草薙彰久ッ! 」

 

 

 

 

そう言い捨て、私は海の中へわざと落ちる。

海中へ入ったことを確認すると、もう彼が追ってくることはなかった。

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<作戦空域外、彰久視点>

 

 

 

 

海へと落ちていった"フラッグ"に手を延ばし、俺は虚空を握り締める。

どうやら逃がしたみたいだな。

 

悔しいが海中へ入られてしまっては装備が軽い向こうの方が有利だ、俺も周りが見えなくなって突っ込むほどの馬鹿じゃないさ。

 

 

『逃がしたようね、彰久』

「ああ、そうだな。ふぅーっ、一時はどうなるかと思ったぜ」

 

『まさかあのタイミングで"二次移行"するとは私も思わなかったわ。つくづくあなたも悪運の強い男ね』

「そりゃどうも。真耶先生へ無線通信出来るか? 」

 

『任せて』

 

 

 

深いため息を吐くと、いつも通りのエマさんの声が鳴り響く。

やっぱりこの声を聞かないと落ち着かないな。

 

"二次移行"を遂げた"ギャプラン TR-5[フライルー]"。

これが、俺の新しい相棒の姿。

 

感傷に浸っていると画面端に今も泣きそうな真耶先生の顔が映し出され、思わず仰天した。

え、もしかして俺死んだとか思われてたり?

 

 

『あ、あ、あ、あぎひざぐん……。よがっだぁ……』

「真耶先生!? なんかもう鼻水と涙で凄いことになってますって! 」

 

『だっで……だっでぇ~!! 』

『あーあ、泣かせたわね彰久』

 

「誤解だっつの!! 」

 

 

エマさんのジト目と真耶先生の泣き顔が画面に広がるというカオスな状況に、俺は焦るしかない。

心配されてたのは嬉しいけどまさか泣かせる羽目になるとは……。

というともしやみんなも方も……?

 

 

『ぐずっ、心配したよぉ……。彰久ぁ……』

「そ、その声はシャル? あ、あー、心配してくれてるのはありがたいけど、この通り俺はピンピンしてるから泣かずに……」

 

『うおおおおおおおおおおん!!! 彰久ぁぁぁぁぁぁ!!! 』

「うるせーよ一夏!! なんで男のお前が一番泣いてんだ! のび太くんか! 」

 

 

シャルのそそる泣き声と顔の間に、アニメみたいな涙を流す一夏の顔が表示される。

相変わらず暑苦しい奴だが、同時に安心感が込み上げてきた。

 

 

『……本当は馬鹿者と叱りたいところだがな。草薙、よく生きて帰ってきた。こいつらを守ってくれて、ありがとう』

「礼には及びませんって。それより千冬さん目がちょっと赤くないですか? 」

 

『目にゴミが入っただけだ。今すぐ帰って来い。みんな待っているぞ』

「言われなくてもそうします。んじゃ、通信切りますね」

 

 

生きて帰ってこれた。

実感がやっと胸の内に湧き、つい俺は涙を流す。

 

通信切っといてよかったぜ。

泣き顔を見られるわけにはいかないからな。

 

 

 

「……エマさんにだけ……泣き顔、見せちゃったな」

 

『大丈夫よ。みんなには言わないでおいてあげるから。よく頑張ったわね、彰久』

 

「あぁ……。ありがとうよ、エマさん」

 

そう言いつつ、俺は涙を拭う。

変態紳士は女の子の前で泣くことなどあってはならない。

 

夕日を背に、俺は飛行形態のフライルーを駆って花山荘を目指した。

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<花山荘、彰久視点>

 

 

 

夕日が暮れる頃、花山荘を目指していた俺はその近くの砂浜でポツンと立っているセシリアを見つける。

気になった俺は彼女にばれない様にギャプランを待機状態へ戻し、セシリアへと近づいた。

 

 

「……失礼ですがお嬢さん? 夕日を見つめてどうかしたのですか? 」

「えっ、ああ、ただ人を待ってい――――」

 

 

ニヤリと笑う俺の顔を見て彼女は笑うのかと思ったのだが、その目は見開かれていたままである。

え、だって俺死んでないことみんなに知れ渡ってるんじゃないの?

……もしかしてまずいことしちゃったかな。

 

 

「よ、ようセシリア。どうかし……ッ!? 」

「馬鹿っ!! 」

 

 

その瞬間、セシリアは目に涙を溜めながら俺に抱き付いてきた。

む、胸に柔らかく幸せな感覚がッ!!

いい匂いが俺の鼻にッ!!

 

間違いなく俺の顔は赤くなっていることだろう。

変態紳士は押しに弱いのである。

変な話だけど。

 

 

 

「どうしてあんな勝手な真似を!? 彰久さんの反応が消えた時、わたくしは……! わたくしは……ッ! 」

「い、いやぁ、その……悪かったって。言い訳するつもりもないからさ」

 

「――――このままでいさせてください。なら許してあげますわ」

「お、お安い御用だぜ」

 

 

 

わなわな手が震えつつも、俺もセシリアのことを抱きしめ返す。

こ、これはいけるんじゃないか……?

 

つーかセシリアいい匂いすぎるだろ!

なんで女の子ってみんなこんないい匂いがするんだ!

どうかしてるぜ!

 

 

 

「そ、その……落ち着いたか? セシリア? 」

「すぅ……すぅ……」

 

「あらま、いつの間にか寝ちゃってるし。いい雰囲気のままイケると思ったんだがな……。まあ仕方ないか、よっこいせっと」

『……きっと疲れてしまったのかもね。あなたの事を心配してたのと、今までの作戦の疲れもあったんでしょう』

 

「そりゃ悪いことしちゃったな。このまま部屋まで運んであげるとするかい」

『あら、さすがは紳士ね』

 

 

 

残念ながら彼女は俺の胸に顔をうずめるなり寝息を立ててすやすや眠ってしまったようだ。

ため息を吐きながらも、俺はセシリアを抱きかかえる。

 

エマさんに事の一部始終を聞かれてたみたいだな、これ。

ちょっと恥ずかしい。

 

 

「エマさん、少し席を外してもらっていいか? 」

『……あなた、セシリアに変な事するつもりじゃないでしょうね? 』

 

「ちげえよ! どんだけ信用ねえんだ俺は! 」

『はいはい。胸とか触っちゃダメよー』

 

 

母ちゃんみたいなことを言い残してエマさんはスリープモードに入った。

本当に余計なお世話ではあるが、ぶっちゃけこのまま夜のプロレスへと持ち込みたいのも事実。

もちろん責任はとるぞ!

 

 

「心配かけちまったな、セシリア。これはせめてものお詫びってやつだ」

 

 

 

そう呟いてから、彼女の頬に俺の唇は触れる。

少しキザすぎたか……。

まあこういうのもたまにはいいだろう。

 

 

頬にキスをしてからセシリアの顔が赤くなった気がしたが、俺は見て見ぬフリをしてそのまま花山荘へと歩き出す。

辺りは既に暗くなっており、夜空が俺を包んだ。

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<翌朝、花山荘前>

 

 

 

連戦のせいもあってかあの後俺は花山荘に帰るなりすぐに布団へと駆け込み、いびきを立てて寝てしまった。

セシリアを抱きかかえながら帰ってきたのでみんなにはずいぶんと驚かれたが、きちんと事情を説明して事なきを得る。

 

時は進み翌日の朝、いつもの起床時間に叩き起こされた俺は朝食を食ってから帰りの荷物の準備をさせられ、急いで部屋を出て今に至るわけだ。

 

 

帰って来るなりシャルと真琴ちゃんに抱き付かれたのはビックリしたな、主に腕にかかる幸せな感触的な意味で。

これで連日のオカズには困らなさそうである。

 

 

「よ、よお……彰久……ふわ~ぁっ」

「おう一夏。どうしたんだ? そんな眠そうな顔して」

 

「夜に箒に呼び出されてな、福音の件で謝られたのと誕生日プレゼント渡してたら千冬姉にバレて大目玉食らってさ。3時間ぐらいお説教されて寝たの1時過ぎなんだよ……」

「そりゃなんとも悲惨な……。まあお疲れさん。しかしお前が女の子の誕生日を覚えてるなんて驚きだぜ」

 

「お前は俺をなんだと思ってるんだよ……。幼馴染の誕生日くらい覚えてるぞ」

「へいへい。とりあえず玄関行こうぜ」

 

 

お互いの荷物を持ちつつ、俺達は玄関へと向かう。

ほとんどの人は既にバスへ乗っており、みんなの注目が一気に集った。

 

そんな中、一列に並んだジム・クゥエル隊の全員が俺達の前へと現れ、一斉に敬礼し出したのである。

思わず俺達は顔を見合わせた。

 

 

「草薙彰久! 織斑一夏! 私たちは君たち両名に敬意を表する! 」

「全員、敬礼! 」

 

「お、おお……。ありがとうございます……? 」

「礼には及びません。こちらこそありがとうございました」

 

 

俺達も不慣れな手つきで敬礼を返すと、ジム・クゥエル隊の中から笑いが起きる。

ちょっと恥ずかしくなって顔を赤くしていると、ハンナさんとメリルさん、それともう一人金髪の女性が隊員の中から出てきた。

 

 

「君たちが、織斑くんと草薙くん? 」

 

「そうです、どうかしましたかマドモアゼル? 」

「少し自重しろ彰久」

 

「私はナターシャ・ファイルス。"銀の福音"のテストパイロットよ。今回の一件、君たちを含めた専用機持ちの子たちには本当に助けられたわ。ありがとう、この子と私を救ってくれて」

 

「ああ、銀の福音の。無事で良かったです」

「あ、そっか……。福音は試験機なんだっけか……」

 

 

彼女が言い放った名前に一夏は困惑し、少し戸惑っている。

それもそうか、あんな激戦を繰り広げた相手がこうして出てきてるんだもんな。

しかし、この後のナターシャちゃんの行動にも驚いたが。

 

 

「これはお礼よ、二人のナイトさん」

「ふぉっ!? 」

「……えっ? 」

 

「ふふ、可愛いわね。それじゃ、また会いましょ」

 

 

なんと彼女は俺達に近づいて、頬にキスをしてくれたのである。

無論のこと俺は嬉しすぎてマイサンが反応し変な声を上げてしまうが、対して一夏は何が起こったのか分からずに素っ頓狂な声を出した。

 

その場から彼女は手を振って立ち去り、バスの中にいるみんなにもウインクを飛ばしつつ別れを告げる。

ハンナさんとメリルさんは苦笑したままだ。

 

そして何よりも俺達を襲ったのは背中から来る凄まじい重圧感。

恐る恐る振り返るとみんながトレーニングを開始しており、今にも俺達を八つ裂きにせんという雰囲気が醸し出ている。

 

 

死ぬ。

このままじゃ、確実に。

 

 

「い、一夏……。分かってると思うが席は隣にしようぜ……」

「お、おう……。俺もそう思ってた……。あと千冬姉の後ろにしよう……」

 

 

冷や汗を流しつつも俺達はバスという名の死地へと向かう。

っと、その前にハンナさんとメリルさんに伝えておくことがあるんだった。

 

 

「ハンナさん、メリルさん。俺が戦った正体不明機のことなんだが……」

「ん? それがどうかしたのか? 」

 

 

「"グレイス・エーカー"……って、言ってた」

「――――なに? グレイス・エーカーだと? しかし隊長はMIAのはず……」

 

 

「俺も詳しくは知らないけど、もしかしたらドイツの軍事工場を襲ったのもそのグレイスさんかもしれない。使っていた機体が似ているんだ。もし探すならその情報をアテにした方がいいかも」

「……分かった、ありがとう。情報提供に感謝する」

 

「いや、こちらこそ俺の話を聞いてくれてありがとう。それじゃあ、また」

「ああ。君の武運を願っているよ」

 

 

 

二人に別れを告げ、俺が荷物を置いた後にバスへと乗り込む。

過ごしたのは三日間だけであったが、なんとも濃い内容の臨海学校であったと思う。

 

 

 

 

 

あと案の定、ナターシャちゃんにキスをされた事に関して小一時間セシリアやシャルに問い詰められたのは秘密。






これもしかしてセシリアメインじゃね?と思ったあなた、正解です。

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