IS-突き進め!変態紳士-   作:「旗戦士」

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彰久覚醒回です。


フライルー

<作戦空域外、彰久視点>

 

 

 

青い刀身と灰色の実体剣が互いに火花を散らし、スパーク音を辺りに響かせていく。

俺とこの黒い機体のみが残され、夕日を背に鎬を削っていた。

 

みんなは撤退したか……。

あとはこいつをどう対処すればいいのかが問題である。

 

一つ一つの動きに無駄な動作がなく、とにかく速い。

使い手の腕は間違いなく向こうの方が上だ。

 

 

「聞こえてるんなら答えてくれよ! ドイツの軍事工場はアンタがやったのか? 」

『……答える義理はないと言わせて貰おう! 』

 

「そうかい! なら……力づくでもっ! 」

『そうだ! それでこそだ、少年! 』

 

 

互いに手にしたライフルを撃ち合い、俺達は再び距離を取る。

"少年"という呼び方……どこかで聞いた覚えが……。

 

その瞬間、俺の考えを遮るように黒い機体のライフルから無数の青い弾丸が殺到した。

迫り来る弾をシールドで防いでから、俺は飛行形態へと変形し、奴から遠ざかる。

 

 

「エマさん! あいつの機体をスキャンできるか!? 」

『待って頂戴……。出たわ、ISコアの登録表にはない機体のようね……』

 

「なら確定だ! あいつはドイツの軍事工場を襲った機体! よりあいつらの所へ行かせちゃいけないヤツってわけだな! 」

『ドッグファイトをお望みか……。ならッ! 』

 

 

 

黒い機体も同じように飛行形態へ移行し、俺の後を追ってきた。

縦横無尽に空中を駆けまわり、奴が放つ弾丸を躱す。

 

それを繰り返しているわけにもいかず、俺はその場で一回転しながら両腕のムーバブル・シールドバインダーを追ってくる黒い機体に向けた。

 

 

「いくぜ……ッ」

『人呼んで……ッ』

 

「アキヒサスペシャルッ!! 」

「グレイススペシャルッ!! 」

 

 

 

宙吊りになった状態から奴に向けてビームを放つも、同じように空中変形した黒い機体――――いや、グレイスは右手に青いビームサーベルを展開して斬りかかってくる。

 

グレイス……と言ったか、こいつ……?

まさか、"グレイス・エーカー"!?

 

 

「おいおい、まさかアンタグレイス・エーカーか!? 」

「バレてしまっては仕方ない、そうだともッ! 」

 

「ぐっ……! 生粋のアメリカ軍人がなんでこんな事をッ! 」

「軍人に戦う意味を問うとは……。ナンセンスだなぁッ! 」

 

 

グレイスのサーベルを握る力が弱まり、そのまま押し込むと思わず俺は体制を崩してしまった。

隙有りと言わんばかりに彼女の強烈な蹴りが俺の頭部に直撃する。

 

さすが特殊部隊の隊長だけあるぜ……。

今までの奴とは格が違う……。

 

揺れる視界と頭を押さえながら、俺は再びロングブレードライフルを構え直す。

"ギャプラン"のアラートが左方から鳴り、直感的に俺はビームサーベルを展開した。

 

 

「身持ちが固いな、ギャプラン! いや、草薙彰久! 」

 

「格闘戦はあんまり得意じゃなくてねっ! 」

 

「仕掛けてくるかッ! 」

 

 

左手に握るビームサーベルとグレイスの青いサーベルがスパーク音を立てて鍔競り合う。

 

俺はこの時を待っていた。

互いに鍔競り合った状況で"意識が逸れている"瞬間を。

 

狙うはここしかない……ッ!

 

 

「誘いには弱いみてーだな……! グレイス……ッ! 」

「どういうこと――――ッ!? 」

 

 

即座に右手に持っていたロングブレードライフルを銃形態へと変形させ、まだ俺と鍔競り合っている彼女へと銃口を向けた。

おそらくはロックオン警告で気付いたのだろうが、この距離は外さない。

 

俺は無我夢中でトリガーを引く。

およそ5発は撃っただろう。

 

煙が上がり、しばらくの間その空間に沈黙が広がった。

 

 

 

 

――――しかし。

 

 

 

 

煙が晴れると同時に、グレイスの右腕に備え付けられていたプロペラのようなものが回転し、彼女を覆っていた煙を払う。

そんな馬鹿な……!

 

あの距離でビームを撃たれて無事なはずがない!

 

 

まさか、あのプロペラで防御したっていうのか……?

 

 

 

「よくもッ、私のフラッグをッ!! 」

「ちぃっ!! このしつこさ、尋常じゃねぇぞ!! 」

 

 

 

思わず彼女にたじろいでしまった俺は、背を向けて飛行形態に移行しつつグレイスから逃げ出す。

敵わない、力量が違いすぎる。

 

反応速度が異常すぎるし、何より全てにおいて向こうの方が上だ。

まずい、やられる。

 

このままでは、確実に。

 

 

 

「エマさん! どうすりゃいい! 」

『……次の行動を読むしか……手だてはないわ』

 

「冗談キツイぜ!? あんなのどう相手にしろっていうんだ!? 」

『救援を送ってみるわ! それまで時間を稼いで! 』

 

「逃がしはしないぞ! 草薙彰久ッ!! 」

「ぐゥッ!? 」

 

 

 

飛行形態のまま"フラッグ"のライフルが"ギャプラン"の腹部に直撃し、えもいわれぬ吐き気に襲われる。

久しぶりに味わう苦痛に、思わず俺は顔をしかめた。

Mっ気はあるけどこういうのはあまり好きじゃないんだぜ……!

 

 

残り500を切ったシールドエネルギーを横目に、俺は二度目の空中変形を行う。

再び体にのしかかる重力と蓄積されたダメージで気を失いそうになるが、それでも俺はロングブレードライフルを構えた。

 

 

グレイスも同じように直前で空中変形を行い、ライフルを俺に向ける。

気を持ち直す時間もあってか、銃口を向けたのは同時のように見えた。

 

 

 

西部劇の決闘のような雰囲気で俺はトリガーを引く。

"フラッグ"のライフルから発射される青い閃光。

 

 

だがそれは先程のような弾丸の大きさではなく、太いビーム状の弾であった。

空中変形してからすぐに撃ったせいか互いに放ったビームは肩口や横腹を掠るだけだが、それはフェイクである。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉッ!!! 」

「はぁぁぁぁぁぁッ!!! 」

 

 

気迫の声と共に、互いのサーベルと何度も打ち付けた。

どこが壊れようとも知らず、ただ一心に相手を殺す勢いで。

 

何合打ち合ったか分からない頃、鍔競り合っていたグレイスのサーベルの力が弱まるのを俺は見極める。

絶好のチャンスだ、逃すわけにはいかない。

 

しかしそれが仇となった。

彼女が"敢えてサーベルの出力を切った"とも知らず、俺は闇雲に踏み込んだのである。

 

 

その瞬間、前のめりになった俺の身体を、爆風が包む。

何が起こったのか分からない。

 

 

『彰久!? 応答して、彰久!! 』

 

 

"脛の部分に隠し持っていたミサイルが直撃した"と判断する頃には、既に俺は制御を失い、海へと真っ逆さまに落ちようとしていた。

ギャプランは絶対防御が発動しており、シールドエネルギーが0になっていることは明らかである。

 

 

落ちていくまでの瞬間がとてもスローモーションのように思えた。

今まで過ごしてきた記憶が脳裏をよぎり、一夏や箒ちゃん、鈴ちゃんやラウラ、真琴ちゃんやシャル、弾や熊吉、そして母ちゃんやセシリアの姿がやけに目に焼き付く。

 

 

悪い。

俺、ダメみたいだ――――。

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<同刻、大広間・一夏視点>

 

 

 

"銀の福音"を無事捕獲し、護送できた俺達は廊下を駆ける。

目指すは先生達の待つ大広間、目的は彰久の無事を確認するため。

 

可能であるならあの場所に戻ってあいつを助けに行くためでもあった。

俺が先頭となり、大広間に続く扉を開ける。

 

その中では立ち尽くす千冬姉と、口を開けて呆然としている山田先生の姿が目に入った。

 

 

「先生! 彰久は!? 」

「あ……お、織斑君……それに皆さんも……」

 

「……戻ってきたか。全員、ご苦労だった」

「そんなことはいい! 彰久は!? 彰久はどうなったんですか!? もしまだ戦っているなら助けに――」

 

 

千冬姉は首を振る。

なんだよ、そんな顔しないでくれよ。

 

嘘だ。

絶対にありえない、あいつが――――。

 

 

「……たった今、草薙のISから絶対防御が発動した反応が検出された」

「…………えっ? 」

 

「う、嘘です。あ、彰久さんに限ってそんなこと……」

「……残念だが、本当だ。これより教師陣が彼の捜索・及び正体不明機の撃墜を行う。お前達はもう、休んでいろ」

 

 

力が抜けたようにシャルがへなへなと座り込んだ。

メリルさんやハンナさんは唇を噛みしめ、壁に拳をぶつけている。

 

なんで、あいつが。

俺達を庇って残ったのにあいつがこんな目に遭わなきゃならないんだ。

 

おかしい。

神様って奴がいるのなら、俺はあんたを恨む。

 

 

 

「あの馬鹿……。最後までカッコつけるんじゃないわよぉ……。なんで、なんで一緒に……ッ! 」

「……い、嫌だ……。嘘だよね? 彰久? ねぇ……返事してよ……彰久ぁ……」

 

「先生、俺だけでも助けに行きます。行かせてください。じゃないと俺、一生後悔するから」

「……ダメだ。お前達までも危険な目に遭わせる訳には……ッ! 」

 

 

 

悔しさを噛みしめつつあくまでも教師としての判断を下す千冬姉。

分かってる、分かっているけど。

 

このまま引き下がれってのか。

そんなことあってたまるかよ、なぁ。

 

 

 

 

「……この反応、は? 」

「山田先生、何か? 」

 

 

「あ、彰久君の落下ポイントから、正体不明機がもう一機介入しました! この名前は……"フライルー"? 」

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<彰久視点>

 

 

 

海へと落ちた俺の意識は、不思議と鮮明になっていた。

むしろ先程とはまるで違う、何かの重みが外れたみたいである。

 

俺は、死んだのか?

けど死んだにしちゃやけに体が軽いな。

 

気分は悪くない。

むしろすがすがしいくらいだぜ。

 

 

 

――――――よう、"相棒"。お前は俺にそう言ったよな、彰久。

 

 

 

突然響いた声に、俺は驚く。

やめてくれよ、本当におかしくなっちまったのか?

 

声は俺のことを"相棒"と呼んだ。

まさかとは思うが、この声の主は"ギャプラン"じゃないよな?

 

 

 

――――――その通りだぜ。だが自己紹介してるヒマもないんだ。

 

 

 

どうやら本当に"ギャプラン"らしい。

俺の目の前には男のようなシルエットが映るが、どうせなら女の子がよかった。

まあ今更文句を言っても仕方がない。

 

 

 

 

――――――お前は今、死ぬ瀬戸際の所まできている。だが、それと同時にある事も起こった。

 

 

 

 

脳裏に言葉が浮かぶ。

"二次移行"。

 

 

 

 

――――――そうだ。名は"フライルー"。さあ、選べ。戦うか、死ぬか。

 

 

 

 

"フライルー"……。

確か小木曽さんや片桐さんが言っていた、謎の言葉のことか。

 

こんなとこで出てくるとはな。

笑えるぜ。

 

答えは決まってる。

 

まだ生きてやるさ。

俺には――――ハーレムを作るっていう目標があるんだからな。

 

 

 

――――――――よく言った。それでこそ俺の相棒だ。じゃあ、一発かましてやろうぜ。

 

 

 

そうだな、"フライルー"。

あいつに、お返ししなきゃな。






まあわかってたようなもんですがギャプランの二次移行はTR-5[フライルー]となりました。
あともう少し長くするつもりだったんですがバグなのか4631文字以降から編集できなくなるという事態に。

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