IS-突き進め!変態紳士-   作:「旗戦士」

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銀の福音戦、いよいよ佳境です。


白き流星

<一夏視点>

 

 

目が覚めると俺は波音を立てる砂浜に立っていた。

あれ、おかしいな……。

確か俺、箒を庇って銀の福音に撃たれたはずじゃ……?

 

辺りを見回しながら俺はその砂浜を歩いていく。

すると、俺の視界には海辺に立つ白いワンピースを来た女の子が入ってきた。

 

 

「おーい! そんなとこにいちゃ危ないぞーっ! 」

「……行かなきゃ」

「あれ? いきなりいなくなっちゃったぞ」

 

 

俺の声に反応して振り向くと、その子は何かを呟いて消える。

疑問に思いつつもその場に佇むと、今度は別の方向から声が聞こえた。

 

 

「貴女は――――力を欲しますか? 」

「……え? 」

 

 

声が聞こえる方向に振り向くと、今度は白い鎧のようなものに身を包み、大きな剣を地面に突き刺してこちらを見る女の人が見える。

本当に俺おかしくなっちまったのかな……。

それとも夢なのか?

 

不思議と怖い感情はない。

むしろ安心感さえ覚えている。

 

 

「何の為に……貴方は力を欲しますか? 」

「なんの為に、か。そうだな……」

 

 

思えば俺はこの学園に来てからあまり目標というのがなかった。

ただ政府の命令でIS学園に入学し、彰久や箒や鈴と再会して、目の前の課題に全力で取り組んで……。

俺には将来の事とか、夢とかがうまく浮かんでいなかった。

 

 

分からない、何の為に学園に入ったのか。

分からない、何の為に力を欲しがるのか。

 

 

なら――――。

 

 

「大切な人、友達、恋人、それに家族を守る為かな。今までは守られてきたけど、今度は俺が守る版だと思うから」

 

「守る、為に……」

 

「あぁ。だからさっきもああして箒を庇った。そうしなくちゃいけないって、俺の心のどっかで思ってたんだ」

 

「――――そうですか。なら……」

 

 

行かなきゃ。

 

そう聞こえた気がして、俺は頷いた。

あの女の人を包んでいた光が次第に俺との距離を近づけていく。

そして、左手にはさっき消えたはずの女の子が俺の手を握っていた。

 

 

 

あれ、そういえばあの女の人……誰かに似ている。

もしかして、千――――。

 

そこで光が俺を包み込み、俺の意識を目覚めさせた。

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<作戦空域、彰久視点>

 

 

素早く俺達は作戦会議を済ませると、ギャプランの背中に箒ちゃんを乗せて俺は飛行形態へと移行する。

背中に彼女を乗せたまま俺はカタパルトによって射出され、空へと投げ出された。

 

 

「"紅椿"ほど速くないかもしれないが、我慢してくれよ? 」

「大丈夫だ、むしろ飛行形態の扱いはお前の方が慣れているから安心できる」

 

 

作戦の内容はこうだ。

「あらかじめ彰久と箒以外のメンバーをそれぞれの場所に配置し、二人が"銀の福音"と接触した後に一斉に攻撃を開始、その後捕縛」という内容である。

 

捕縛の方はジム・クゥエル隊の隊員たちに任せていいとの事で、本格的にハンナさんとメリルさんも遊撃班に参戦するらしい。

なんとも心強い助っ人である。

 

 

『目標捕捉。距離はおよそ1キロよ』

「オーケー、攻撃開始! 待たせたな、銀の福音さんよぉ! 」

 

 

"ギャプラン"のムーバブル・シールド・バインダーから二門のビーム砲が発射され、"銀の福音"はそれをもろに食らう。

不意打ちは趣味じゃないが、この際文句は言ってられない。

 

続けざまに空中変形して奴にビームサーベルで斬りかかるが、さすがに気づいていたのかその攻撃は避けられてしまい、"銀の福音"の両羽が俺に向いた。

 

だが奴は忘れている、背中に乗せた箒ちゃんの存在を。

 

 

「行くぞ、紅椿ッ! 」

 

 

横殴りに赤いエネルギー飛刃を受け、体制を崩す"銀の福音"。

そのまま気合いの声と共に二本の刀"雨月・空裂"を同時に交差させ、X字状に斬りつけた。

彼女を迎撃するように、奴は数発の光弾を放つ。

 

しかし"銀の福音"を襲うのは横殴りの砲撃。

奴が砲撃に気を取られている隙に箒ちゃんは既に離脱していた。

 

 

「命中! 続けて砲撃を行うぞ! 」

『敵エネルギー反応3。18方位攻撃開始。目標、砲撃主』

 

「来るか……だが! 」

 

その攻撃の主は追加パッケージ"パンツァー・カノニーア"を搭載したシュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラである。

"銀の福音"からおよそ4キロ離れた小さな孤島で彼女は左右の肩部分にレールカノンを装備し、前方にはラウラを覆うように4枚のシールドが設置されていた。

 

機動力を殺してこういった砲撃が可能な訳だが、存在が気付かれてしまっては元も子もない。

案の定"銀の福音"はラウラへと超音速で迫る。

二人の距離が100メートルを切っても、彼女はニヤリと笑い続けたままであった。

 

 

「やらせねえよ! 」

「やらせませんわ! 」

 

 

直後青とピンクのビームが"銀の福音"を襲い、ラウラへの攻撃を阻む。

一発目、二発目と立て続けに俺とセシリアは互いのライフルを連射し、彼女の援護へ徹した。

 

すると今度はこちらに光弾を放って来る福音。

俺はセシリアの前に立ち塞がり、左手のシールドで防ぎつつ"ロングブレードライフル"で応戦する。

 

 

「今だ! やれッ! 」

 

「シャル! 行くわよッ! 」

「任せて! 鈴! 」

 

 

福音の背後に現れたのは四門の衝撃砲を備えた"甲龍"と、両手にアサルトショットガンを構えた"ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ"の姿が見えた。

 

だがそう何度も奇襲を食らう"銀の福音"でもあるまい、放たれた衝撃砲と散弾を華麗に避け、カウンターに2人目掛けて無数の光弾を放つ。

 

ちなみにこの"甲龍"と"ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ"にも追加パッケージが届いており、甲龍には衝撃砲の威力を上げる代わりに不可視の弾丸を捨てた"崩山"、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡには実体・エネルギーシールドを2枚ずつ搭載して防御力を上げた"ガーデン・カーテン"である。

 

 

その"ガーデン・カーテン"を即座に展開してシャルは鈴ごと迫り来る光弾を防ぎ、見事防御に成功した。

得意の全方位攻撃が防がれた事により"銀の福音"に若干の焦りが見える。

 

 

『敵エネルギー反応6、作戦行動に支障を来す為離脱を最優先』

「逃がすかァッ!! 」

 

 

逃げることを真っ先に察知した俺は飛行形態へ変形してから最大速度で距離を取ろうとする"銀の福音"を単身追う。

 

ここで逃がしてはいけない。

何としても。

チャンスは……一度だけだ。

 

 

『彰久! 無茶よ! 』

「分かってるさ! 無茶だからやるんだろッ! 」

 

 

殺到する光弾を無理やり旋回させて避け、反撃として二門のビームをムーバブル・シールドバインダーから"銀の福音"目掛けて放つ。

だが奴には当たらない。

 

――――なら!

 

「近づくまでだあぁぁぁぁぁッ!! 」

『なんて無茶を……! ああもう、彰久! そのまま"銀の福音"との距離を詰めなさい! 』

 

 

そのまま加速し、"ギャプラン"は"銀の福音"と機体を並べた。

空中変形の後、右手に"ロングブレードライフル"の剣形態で奴に斬りかかる。

 

勢いに任せて縦に振り抜くがその寸前に腕を掴まれてしまい、固定された。

左腕にビームサーベルを展開させるも案の定封じられる。

 

 

まずい、このままでは両羽に兵器を持つ奴にとって圧倒的に有利だ。

いや……退けば、死ぬ。

だったら方法は一つ。

 

 

「その手を……離せッ!! 」

『ッ!? 』

 

 

俺の手を掴む福音の腕を蹴り上げ、再びロングブレードライフルを手に振り抜く。

今度はそのまま斬る事ができ、"銀の福音"のシールドエネルギーを大幅に減らした。

まだ追撃が必要だと感じた俺は、拘束がとれた左腕も奴の羽目掛けて振るう。

両羽さえ壊してしまえば攻撃が出来ないと読んだ為である。

 

 

「ジム・クゥエル隊! お願いします! 」

「了解! 」

 

 

両羽を捥がれ落ちていく"銀の福音"を捕獲する為、専用の装置を奴に近づけるジム・クゥエル隊の隊員。

しかし、"ギャプラン"のレーダーにある反応が映った。

 

 

その単語は、最も映し出されてはならないもの。

――――"二次移行"。

 

 

「全員逃げてくれ!! そいつはまだ"二次移行"を残している!! 」

「なっ……!? 」

 

 

 

時すでに遅し。

"銀の福音"を捕まえていたジム・クゥエル隊の隊員が吹っ飛ばされ、先程と比べものにならない大きさの光弾が彼女らを襲っていた。

俺もその光弾の標的になっていたが、辛うじて避けることができ、周囲の状況を確認する。

 

 

 

辺りは悲惨の一言に尽きた。

 

 

 

近くにいたジム・クゥエル隊の隊員のほとんど全員が絶対防御を発動した状態で岸に流れ着いており、その中にはラウラ・ハンナさん・鈴ちゃんの姿も見える。

 

こいつは……こいつは一体あとどれだけの犠牲を払えば……!!

 

 

 

「みんな! 無事か!? 」

「あ、あたしはなんとか……。ただ……ハンナさんが……! 」

「だ、大丈夫だ……。私たちに構うな……落とせ……! やむを得ん……! 」

 

 

どうやらハンナさんは二人を庇って多くのダメージを受けたらしく、無線通信の声も弱弱しい。

悔しいが、今は彼女の言う通りにしなければ俺達もやられる。

 

 

「私が奴の注意を惹く! その間に叩いてくれ! 」

「援護します! 」

 

 

"ジム・クゥエル"を纏ったメリルさんと、ショットガンからアサルトカノンに持ち替えたシャルが新しい翼を手に入れた"銀の福音"へ向かって行く。

だがその攻撃を易々と避け、反撃にメリルさんを青い翼で包み込むと、数秒後には彼女のISもボロボロに朽ち果てていた。

 

おそらく、あの翼に包まれたら高確率で一撃必殺と思った方がいい。

あの軍人のメリルさんでさえ反応出来なかったほどだ、相当な速度だろう。

 

 

「メリルさん!! 」

「よそ見するな、シャル!! 」

 

「ッ!? 」

「シャルロットッ!! 」

 

 

海へと落ちていくメリルさんに気を取られていたのか、急接近した"銀の福音"に気付かないシャルは、直後青い光弾によって撃ち抜かれる。

一気に二人も戦線離脱とは……。

 

俺の額に焦りが生じた。

 

今度は箒ちゃんを襲おうとする"銀の福音"。

やらせない、彼女だけでも。

 

 

「さぁせぇるぅかぁぁぁぁぁぁッ!!!! 」

「ッ!? 彰久!! 」

 

 

空中変形からの膝蹴りをお見舞いし、奴の腹部に右腕のムーバブル・シールドバインダーをねじ込んでから無我夢中でトリガーを引く。

だが、ビームは出ない。

 

ここで、弾切れ。

 

 

まずい……。

俺が……残弾確認を怠ったせいか……。

 

 

はは、悪い。

母ちゃん、真琴ちゃん。

 

約束、守れそうに――――。

 

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<作戦空域、箒視点>

 

 

 

私を庇うようにして突撃していった彰久も、遂にあの"銀の福音"の歯牙に掛かってやられてしまった。

そんな……そんな……私は……また……ッ!!

 

 

怒りと悲しみが込み上げ、"雨月"と"空裂"の握る力が強まる。

不思議と痛みを感じない。

 

 

だが、私が見たのは黒い爆煙の中から現れた体制を崩す"銀の福音"の姿。

な、なぜ奴が……?

 

彰久がやったのか……?

 

 

 

煙が晴れ、そこにいた人物に私は目を疑った。

私が恋焦がれ、憧れて、そして今は昏睡状態にいたはずの男。

 

 

 

「い、い、一夏ぁっ!! 」

 

 

 

「よお、待たせたな」




絶望を乗り越えた先には、再び絶望が待っている。
終わらない戦い。

越えなければいけない、壁。


次回、「雪羅」

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中二チックな次回予告をば。
こういうの楽しいですねw

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