卒業旅行にて更新が遅れてました。
申し訳ない。
<作戦区域内、彰久視点>
カタパルトで作戦区域内へと射出されてからおよそ10分後、上手く"銀の福音"の通る進路ポイントへ到達できた俺達は各々利き腕に武器を展開する。
俺の隣にはシャルが二挺銃を構えているが、この雰囲気は冗談を言っている時ではない。
「目標視認! これより作戦行動を開始する! 」
「行くぜみんな! 」
「あんまり調子乗らないようにね! 一夏! 」
「まっかせとけって! 」
"紅椿"の背中に掴まりつつ一夏は白式の"零落白夜"を起動させた。
まだ奴はこっちの存在に気づいていない。
絶好のチャンスである。
「頂くぜ……銀の福音ッ! 」
『ッ!? 』
右手に掲げた"雪片弐型"を横一文字に薙ぐが、"銀の福音"に間一髪のところで避けられてしまい、青い軌跡を描きながら二人との距離を取る"銀の福音"。
それを彼らは追撃するように後を追っていく。
「くっそっ! 箒、もう一回頼む! 」
「分かった! 掴まっていろっ! 」
『エネルギー反応二機、攻撃開始』
瞬間、"銀の福音"の両翼部から無数の青い弾丸が二人へと放たれ、その余波が彼らの後ろにいた俺達にも飛んできた。
飛行形態であった俺は難なく回避、他のみんなもどうにかしてその攻撃を防いだようである。
二人で固まっていた状態から左右に離れた一夏と箒ちゃんは、迫り来る弾丸をいなしつつ"銀の福音"との距離を詰めていった。
「箒! 左右から同時に奴を叩くぞ! 」
「了解! 」
「俺がビームライフルで"銀の福音"の気を引く。その隙にお前たちは攻撃しろ! 」
「援護しますわ彰久さん! 」
"銀の福音"とある程度の距離を取っていた俺は、ロングブレードライフルを奴に向けて3発撃つ。
続けざまに後衛のセシリアが"スターライトmkⅢ"で追撃すると、"銀の福音"はその攻撃に気を取られて左右にいる二人の存在に気付かない。
「……ッ!? まずいっ! 」
「一夏! 何してんだ!? 」
『彼の向かう先……なるほど、密漁船かしら』
「密漁船!? 海域は封鎖したんじゃないの!? 」
「くっ……この非常事態に!! 」
そのまま攻撃を加えるかと思いきや、急に一夏が戦線を離れて青い光弾を防いだ。
よく見ると彼の視線の先には船が進路を進めている光景がある。
この非常事態に密漁船が通るとはな……。
くそったれ、今回ばかりは恨むぜ?
『エネルギー反応、4機増加。12方位攻撃を開始』
「来るぞ! 捕捉されてない奴は流れ弾に当たるな! 」
「了解! 」
『こちらジム・クゥエル別働隊! 作戦ポイントに到達! 』
「頼むぞメリル! 」
どうやらメリルさん率いるジム・クゥエル隊も配置についたようである。
ハンナさんが指示を言った瞬間に幾多の光弾が俺達に殺到した。
セシリアや俺は元々高機動の装備を身につけている為避けられるが、他のみんなは大丈夫だろうか。
「箒! あたしが龍咆で牽制するわ! その間にお願い! 」
「分かっている! 一夏、彼らは犯罪者なのだ! 構う必要はない! 」
「犯罪者だからっつって見殺しには出来ねぇよ! くっそっ! 」
「一夏! 僕たちがあの人たちをカバーするからその間に――――うわっ!? 」
「シャルロット! 」
他のみんなも何とか防いだようだが、相変わらず一夏は密漁船へ向かう光弾を防いでばかりであった。
それを見かねた鈴ちゃんは自分が牽制役を買って出たが、シャルが光弾を食らってしまいそれすらも出来ない状況に陥る。
まずい、みんなに焦りが見えるな。
このままじゃ……いや、今は集中しろ。
「ッ!? しまった、エネルギーが! 」
「織斑君! ちっ、間に合え! 」
"雪片弐型"の水色のエネルギー刀身が消えて元の実体剣へと姿を変えた時、既に"銀の福音"の光弾が彼に殺到する。
付近にいたハンナさんやジム・クゥエル隊の人が一夏を庇おうと彼の前に躍り出ようとするが、あと一歩の所で追いつかない。
その時である。
彼とは反対方向にいた箒ちゃんがその光弾を防ぎ、一夏の方へ顔を向けたのであった。
「何をしているんだお前は! 奴らは犯罪者なんだぞ! 庇う必要はない! 」
「箒……。そんな……そんな事言うなよ。寂しいよ、そんな風に言ったら……」
「っ! い、一夏……。わ、私は……」
密漁船の人たちを"犯罪者"と切り捨て、見殺しにするのか。
それとも、彼らを救うのか。
そんな余裕もないとは思うが、でもあの人たちを見殺しにしてしまったら俺達も一緒になってしまうことも否定できない。
だが生憎"銀の福音"はそんなことを考えさせてくれる暇も与えるはずもなく、無慈悲に光弾を発射した。
それは無論のこと背を向ける箒ちゃんも標的となっている。
「よそ見するな箒!! 光弾が……!! 」
「し、しまっ……!? 」
その時に悲劇は起きた。
箒ちゃんの一番近くにいたのは一夏であった為、彼は彼女を庇う為に大きく前進したのである。
それがいけなかった。
盾を持っている俺が行けばよかったものを、彼は何も持たず箒ちゃんの前へと躍り出た。
無我夢中で箒ちゃんを庇った一夏は数発の光弾が直撃し、爆炎に飲み込まれる。
しかも"零落白夜"によってシールドエネルギーが減少していたせいか、彼は一発で絶対防御が発動した形となってしまった。
「シャル!! ラウラ!! 」
「う、うん! 」
「分かっているッ! 」
衝動的に俺は共倒れになって落ちていく二人の元へと飛行形態で向かう。
そのまま彼らを乗せて撤退する為でもあったが、何よりも自分が怒りでどうにかなってしまいそうなのを紛らわせるためかもしれない。
畜生……!
よくも……よくもやりやがったな……!
「メリル! 一時撤退だ! 織斑君がやられた! 」
『何!? ……了解した、専用機持ちの作戦区域離脱を援護する! 』
「助かる! 全員一時撤退だ! 退け、退けーっ!! 」
その場にいた全員に撤退命令が下されると、俺はそのまま二人を乗せて花山荘へと向かう。
二人分の重力がのしかかる為に機動力は低下しているが、セシリアが箒ちゃんを背負ってくれた為に多少は軽くなった。
ジム・クゥエル隊の隊員たちが退路を確保してくれており、さすがの手腕を見せつけた。
……俺達とは違う、コンビネーションも、何もかも。
『彰久。気持ちは分かるけど、落ち着いて』
「……んなことは分かってる。今は二人を安静な場所へ連れてくことが先決だ」
自分に言い聞かせるように、俺はいち早く花山荘へと戻る。
こうして、作戦は失敗に終わったのであった。
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<花山荘、臨時病室>
その後一夏は臨時で作られた病室に運び込まれ、医者以外の人間はしばらく待機命令が出された。
帰ってきた時の千冬さんの顔が衝撃に駆られたあの表情が今も脳裏に焼き付いている。
だがそうなるのも頷ける。
たった一人の家族があんな悲惨な目に遭ってしまっていては、誰だってパニックに陥るだろう。
あそこで冷静になる千冬さんが凄いのだ。
「あ、あの……草薙君? 大丈夫ですか? 」
「……すいません、大丈夫ですから今は一人にしてください。お願いします」
「は、はい……」
通りかかった真耶先生に声を掛けられるが、俺は無表情であしらってしまう。
彼女には悪いが、今は本当に一人になりたい。
……前にもこんな事あったな、小学生の時だったか。
まあ俺のことはいい。
一夏を、箒ちゃんを、守れなかった。
それだけが俺の頭の中で渦巻き、俺を混乱させる。
思わず俺は拳を壁に叩きつけた。
右の拳から痛みを感じ、俺は壁から拳を離す。
あれから数時間後。
一夏と箒ちゃんはまだ目覚めない。
頭が真っ白だ。
箒ちゃんの方は庇われていたおかげでダメージは少ないのだが、問題は一夏の方である。
シールドエネルギーも少ない状態で突っ込んで行った為、余計に身体の損傷が大きかったらしく、光弾をもろに食らってしまい大火傷を体の数か所に負っているという。
もうどうしようもない。
一夏が戦線離脱した今、為す術は……。
「……彰久」
「真琴ちゃんか。悪いが一人にして――――」
「ギャプラン、整備しといたから。ここに置いとくで」
「…………」
「それだけや。ウチは何も言わない。彰久がどんな気持ちでいるのか、ウチには分からん。ただ、やれるだけのことはやっただけや」
「やれる、だけのこと……」
俺は彼女の置いたギャプランのバックルに視線を落とす。
まだやれること……か。
おそらく真琴ちゃんたちもだいたいのことは理解しているだろう。
それでいて尚、彼女は自分に出来る事を探して行動した。
俺は腰のベルトにギャプランのバックルを取り付ける。
落ち込んでいる暇はない。
俺は変態紳士だ、女の子に発破を掛けられて落ち込んだままじゃいられないぜ。
「エマさん、"銀の福音"の状況は? 」
『先程の作戦区域内から約50キロ離れた上空に留まっているわ。ちょうどいいわね』
「オーケー。……ありがとな、真琴ちゃん」
「ウチは何もしとらんよ。ただ、無事に帰ってきてな」
「任しとけ。変態紳士は殺しても死なねえよ」
「ふふ、そうやったね。それじゃ彰久、いってらっしゃい」
「おう、いってきます」
俺は真琴ちゃんと別れると、他のみんなを大広間に集まるようメールで指示した。
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<大広間、彰久視点>
大広間に入るとそこには千冬さんと真耶先生、それにジム・クゥエル隊の全員が神妙な顔つきでホログラムのモニターを見つめており、緊迫した空気が張り詰めていた。
俺が扉を開けると全員が驚いた表情を見せる。
まさかここに来るとは思っていなかったんだろう。
「何をしている、草薙。他の専用機持ちは待機と言ったはずだ」
「決まっています。もう一度"銀の福音"と接触して捕縛するんですよ。その為に他の専用機持ちもここに集めました」
「勝手なことをするな。これからは我々が奴を捕らえるんだ」
「織斑先生、私は賛成です」
「ですが……」
「我々ジム・クゥエル隊は確かにエリート揃いの部隊です。ですが、第三世代や第四世代の性能には勝てませんよ」
千冬さんは無論のこと反対の意思を見せるが、それをメリルさんは制止した。
第二世代であそこまで"銀の福音"と戦えるのは相当な手腕だ。
まさに"機体性能が勝敗を分かつ絶対条件ではない"ということを体現しているが、もしや彼女は俺の気持ちを汲んでくれたのだろうか。
「教官、私からもお願いします。専用機持ちとして、このまま引き下がる訳には行きません」
「お前までもか、ボーデヴィッヒ」
いきなり大広間に入ってきたラウラ達はこの会話を聞いていたらしく、入室するなりいきなり千冬さんに頭を下げた。
鈴ちゃんの姿が見当たらないようだが、何かあったのだろうか。
「……やれやれ、お前達は大馬鹿者だな。そこまで言うなら行って来い。最も、止めても行きそうな雰囲気だったがな」
「あ、あはは……バレていらっしゃったんですわね……」
「考える事なんてお見通しだ。それより、篠ノ之と凰が見当たらないが? 」
「あ、二人は後から来ます」
首を振りつつ苦笑すると、千冬さんは許可を下してくれた。
確かに反対されても行く覚悟はあったのだが、それをも見切られているとはさすがである。
すると廊下に走る音が響き、一気に全員の視線を集めた。
おそらく鈴ちゃんと箒ちゃんだろう。
「すいませーん! 遅れましたー! 」
「ご心配をおかけしました、すいません」
「意識が戻ったようだな、篠ノ之。容態の方はもう大丈夫なのか? 」
「はい。それに、このままではいきませんから」
廊下を走る様子から箒ちゃんもだいぶ回復したみたいだ。
表情から察するに、鈴ちゃんが発破を掛けていたのだろう。
先程とはまるで顔つきが違う。
「時間がない。これより、専用機持ちを含めた作戦会議を行う」
待ってろ、銀の福音。
必ずこの借りは返す。
「待たせたな、銀の福音! 」
「今度は逃がさねぇぇぇぇぇぇぇッ!! 」
「行くぞ、紅椿」
「いけません……これは、"セカンドシフト"!? 」
「何してんのアンタ!? 正気なの!? 」
「嫌だ! 彰久! 止めてッ!! 」
「会いたかった……会いたかったぞ!! 」
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ちょっと次回予告もプラスしてみました。
雰囲気的にエンジェルビーツっぽい感じですね。