IS-突き進め!変態紳士-   作:「旗戦士」

52 / 91


あまり進まない回。
とりあえず銀の福音戦突入ですね。


変態紳士、作戦会議

<花山荘、大広間>

 

 

 

全員が新装備のテストを終えた事を確認すると、千冬さんから今度は花山荘の大広間に集合するように無線で言い渡された。

俺は制服に着替えると大広間へ続く廊下を走り、襖を開けた。

 

 

そこは即席ではあるものの本格的なブリーフィングルームと化しており、作戦区域内のホログラムを表示する機械や各々のIS反応を傍受するレーダー、無線を行うための通信装置等々、言いあげたらキリがない。

 

早朝に学園から届いたのか元々持ってきていたのかは知らないが、ここまで本格的な設備が揃っているとなると自然と緊張が高まる。

 

 

「来たな、草薙。お前待ちだ」

「え、あぁ、すいません」

「まぁいい。話を進めるぞ」

 

 

どうやらみんな既に着替え終えていたようで、大広間には他の専用機持ち達が集められていた。

ちょっと悪いことしちゃったな。

 

千冬さんがホログラムに向かって操作を行うと、モニターに世界地図と銀色の羽を持ったISが表示され、その場にいた全員の注目を集める。

 

 

「2時間前、試験稼働中であった高機動IS"銀の福音"が制御下を離れて暴走、試験空域を離脱したとの報告がアメリカから通達された」

 

画面にはアメリカとイスラエルの国旗が映し出され、表示された矢印は日本国土へ向かっていた。

つまりはこの"銀の福音"という機体がこの付近を通過、もしくは通過したという事だろう。

 

「その後アメリカによる追跡調査の結果、"銀の福音"はこの付近の空域を通過する事が判明した。時間はおよそ1時間後。我々はこれを捕獲、止むを得ない場合は撃墜せよと学園上層部から通達を受けた。我々は専用機持ちと職員を総動員してこの作戦に当たり、アメリカ軍のIS部隊"ジム・クゥエル隊"と協力してこの作戦を完遂させる」

 

「ジム・クゥエル隊……確かグレイス・エーカーが隊長だった部隊だな」

「"だった"? 」

 

「あぁ。作戦中に部下を庇って、彼女のISが撃墜されたらしくてな。軍による捜索が続けられていたそうだが、つい先日MIA(作戦行動中行方不明者)と認定されたそうだ」

「そんな事があったんだね……」

 

軍が介入するほどの作戦を俺達がこなせるのだろうか。

本来ならばアメリカ軍だけで解決するような問題をなぜ俺達をも巻き込んだのかは疑問だが、言い渡された以上やるしかないだろう。

 

グレイス・エーカーか……。

テレビで行方不明になったことを聞いたが、本当に残念だと思う。

なんだか慕われているみたいだったし。

 

 

「話を戻すぞ。今回はアメリカ軍の"ジム・クゥエル隊"も協力するということで、代表として副隊長のメリル・ダッジ少尉と副隊長補佐のハンナ・メイスン曹長に来ていただいた」

「"ジム・クゥエル隊"の副隊長、現隊長代理のメリル・ダッジ少尉です」

「同じく"ジム・クゥエル隊"隊長代理補佐、ハンナ・メイスン曹長です」

 

 

「ドイツ軍IS配備特殊部隊"シュヴァルツェ・ハーゼ"現隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐です。今作戦は"ジム・クゥエル隊"と合同で行えると聞いて光栄です」

「シュヴァルツェ・ハーゼの……。こちらこそ光栄であります、少佐殿」

 

 

そういや忘れてたけどラウラって軍人なんだよな、それもかなり上位の。

大の軍人相手に怖じ気づくこともなく、やっぱり頼りになる。

 

メリルさんという人は女性の割に背が高く、生粋のアメリカ軍人といったような女性だ。

一方ハンナさんは短い茶髪に眼鏡をかけており、メリルさんとは違ってインテリ系のような雰囲気を感じさせる。

 

うん、やっぱりアメリカの美女はいいな……。

 

 

「よし、揃ったところで作戦会議を始めるとしよう」

 

 

メリルさんたちとの自己紹介をあらかた済ませると、ちょうどいい頃合いで千冬さんが作戦会議を始める。

二人も話の中に加わり、一気に人数が増えた。

 

 

「まずは御礼と謝罪を。今回は我々のミスによって生じた事態です。本当に、皆さんには感謝の念と申し訳ない気持ちで一杯だ」

「お気になさらず。今はどう対処するかを考えましょう」

 

「その"銀の福音"の性能は分かりますか? 目標の詳細を知らないよりかは確実に良くなると思うので把握しておきたいんですが」

 

 

「情報開示の許可は得ていますので、この場で報告を。"銀の福音"はイギリスの"ブルー・ティアーズ"と同じ射撃型のISです。アメリカ・イスラエルの両国間の手によって作られた広域殲滅を主体とした軍用ISで、高機動と全方位攻撃を兼ね備えています」

 

「その他に注意事項は? 」

 

「格闘戦も可能な機体なので、全方位攻撃に気を取られていると思わぬダメージを食らう恐れがあるかと。十分に気を付けて作戦に挑むべきだと思います。それと銀の福音は最高速度がおよそ時速2300km、現段階ではおよそ2000kmの速度で進行中ですね」

 

「なるほど……。つまり接触は一回が限度と見た方がいいかもしれないわね」

 

 

鈴ちゃんが腕を組みつつホログラムの画面に目をやると、全員は頷いた。

接触が一回のみということならば切り札は彼しかいないだろう。

 

 

「編成は一夏を元にしたフォーメーションでいこう。前衛は鈴ちゃん、箒ちゃん、一夏、中衛は俺とシャル、後衛はセシリアとラウラってな感じで。"ジム・クゥエル隊"の皆さんは? 」

 

「我々は"銀の福音"を捕獲する為に別の場所で待機、及び君たちの援護へ参加させてもらう。その編成でいくならハンナと隊員数名を前・中衛に参加させよう」

「了解しました。"銀の福音"へはどう接触する? 」

 

「わたくしの追加パッケージ"ストライク・ガンナー"であれば高機動戦闘でも対応は可能ですわ。その間編成を崩してしまう恐れがありますけど……」

「いや、俺が飛行形態で一夏を乗せる。そっちの方が弾幕を貼りつつ奴に接近できるはずだ」

 

 

突然自分の名前が話題に上がったので驚く一夏だが、話の内容を理解し始めた彼は必死に作戦の詳細を聞こうと真剣な表情をしながら耳を傾ける。

"ギャプラン"の飛行形態は第三世代の中で最速……。

そして前衛をカバーしながら動く中衛にとっては絶好の役割ではなかろうか。

 

だが、それに異論を唱える人間が一人。

 

 

「それなら、箒ちゃんの"紅椿"が最適だよ」

「し、篠ノ之博士!? なぜここに!? 」

 

「軍人如きが私を捕まえようとしても無駄だよ。それより今はやることがあるでしょ? 」

「……くっ、了解。それで、その案とは? 」

 

 

天井の板を外して颯爽と登場したのは束さんだった。

現在世界各国で追われる人物となっている彼女が軍人であるハンナさんとメリルさんの目の前に現れるとはまったく驚きであったが、そんな二人を一蹴して束さんは話を続ける。

自分の興味ないものは容赦なく切り捨てる性格だと聞いたが噂通りの人だ。

 

 

「まずはこれを見て。紅椿はブルー・ティアーズやギャプランのように追加パッケージや変形しなくても高機動戦闘が可能なんだ。ま、本当にすごいのはこれを作った束さんなんだけどね」

「……それで? お前の事はどうでもいいから話を進めてくれ」

 

 

「んもぅ、ちーちゃんったらひどいんだから。まあいいや、この高機動戦闘の要となるのが紅椿に装備された"展開装甲"だよ。これは変形させて剣にもできるし盾にもできるし、こういった風にスラスターになって

機体の機動力を格段に上げることが出来るんだ」

 

 

「それで第四世代……おそらくスペックは第三世代最速を誇るギャプランの飛行形態以上の速さということで紅椿を推すということですね」

「そーいうこと。理解してくれた? 」

 

 

悔しいがスペックで第三世代が第四世代に敵わないことは確かだ。

束さんが紅椿を推す理由も分かる。

ただ……俺はどうしてもあのエマさんの言葉がやけに引っかかるんだよな。

 

 

「彰久。出来る限り私もやってみる。ここは任せてくれないか? 」

「……そう頼まれちゃ引き下がるしかないな。分かった、くれぐれも注意してくれ」

 

「決まりだな。束、その紅椿のセットアップにどれくらい時間がかかる? 」

「およそ5分だね。ちょっと長くなっちゃう可能性もあるけどいい? 」

 

「構わない。では解散、先程練った作戦により我々は動く。専用機持ち、ジム・クゥエル隊はISの最終チェックを、その他の職員は海域の封鎖と民間船の誘導を頼む」

 

「了解! 」

 

 

千冬さんの言葉により俺達は一斉に大広間を出る。

やけに不安な感覚が胸についたが、気にせず俺はIS専用のカタパルトへ向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<花山荘付近、射出カタパルト地点・彰久視点>

 

 

 

箒ちゃん以外のメンバーは作戦実行時間まで待機ということになり、俺はとりあえず母ちゃんに電話することに。

俺の身に何があってからじゃ遅いと思うので、こういう風に電話している訳である。

 

 

『もしもし? 彰久? あんたどうかしたの? 』

「おう母ちゃん、ちょっと言いたいことがあるんだ」

 

『何よ急に改まって』

「今から専用機持ちに任務が課せられる。もしかしたら俺、死ぬかもしれないし生き残るかもしれない」

 

『……あんた、それであたしに電話したわけね。そう……』

「母ちゃん、急にこんな事言ってごめん。けど俺、やらなくちゃいけないんだ」

 

 

俺の真剣な口調から冗談で言っているわけではないと察した母ちゃん。

息子が突然死ぬとか生き残るとか言い出したら誰だって慌てるだろう。

ごめん母ちゃん。

 

 

『大丈夫、あんたは死なないわ。いつも女の子にボッコボコにされて死にそうになってたアンタが死ぬとは思えないし、何より彰久はあたしの息子じゃない。 胸張って行きなさいよ』

 

「……ありがとう、母ちゃん。お土産買って夏休み帰ってくるよ」

『酒のつまみ期待してるわ。気を付けていってらっしゃい』

 

とは言いつつも母ちゃんは俺を送り出してくれた。

本当に敵わないな。

そう思うと、俺は電話を切る。

 

 

『……いいお母さんね』

「あぁ。自慢の母ちゃんだ。さてと、そろそろ時間だな」

 

 

エマさんの問いに答えながら俺は射出カタパルトのある場所へと踵を返していた。

死ぬわけにはいかない。

俺の夢と、母ちゃんのためにも。

 

 

 

 

 

 

「行くぜ、"相棒"」

『ええ。見せてやりましょ、私たちの力』

 






彰久の母ちゃんも登場。
名前はまだ公開してませんので今後出てくる可能性ありです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。