というわけでついに変態紳士が海外へ進出。
だからどうってわけでもありません。
<昼、パリ・シャルル・ド・ゴール国際空港>
約12時間のフライトを経て、俺は辺りを見渡す。
来た、ついに来た。
変態紳士が海外へと進出した。
弾、熊吉……俺は今、猛烈にワクワクしているッ!
どんなフランス美女が待ち受けているのだろうか……!
「彰久君。行くよ」
「あ、はい」
そんな興奮の束の間、一人がに股で気合を入れていた俺は冷静な小木曽さんによって優しく現実へと引き戻された。
月曜日の授業から4日間経った今日、俺は小木曽さんに連れられてデュノア社の本社があるパリへと来ている。
無論のこと学園の方には小木曽さん同伴で説明しており、公欠届けも出しているので安心してフランスへと出発することができた。
私服やら下着やらを詰め込んだキャリーバッグを引き、俺達はデュノア社まで案内してくれるというガイドと待ち合わせしている場所まで向かう。
「ようこそパリへ。小木曽さんと草薙さんですね? 」
「ええ。今日はよろしくお願いします」
綺麗なスーツを着込んだ金髪の男性が俺達を見つけると歩み寄り、流暢な日本語で話しかけてきた。
笑顔で応えると、俺はこの男性と握手を交わす。
さすが、本場の紳士はレベルが違う。
「こちらの車にお乗りになって下さい。社長がお待ちです」
「わかりました。歓迎して頂きありがとうございます」
案内する彼の後ろをついて行くと、その先には黒いセダンタイプの車が停まっている。
一流企業はやはりすごいな、ここまでおもてなしが豪華だとは思わなかったぜ。
今回のフランス渡航は会社の経費でなんとかなると小木曽さんは言っていたが正直かなりお金が掛かってそうで怖い。
いくら俺が第二の男性操縦者と言えど、ウチはごく普通の家庭だ。
もしかしてこの後莫大な請求とか来るんじゃないだろうな……。
「お、小木曽さん……本当にこれって会社の経費で落ちるんですよね……? 」
「ふふふ……。もしかしたらこの後君に身体で稼いで貰うかもね」
「い、嫌っ!? 私に変な事するんでしょ! エロ同人みたいに! 」
「クリ〇ゾン並の名台詞を頼むよ」
(この人達は何を言っているんだろう)
運転手の人が怪訝そうに俺達を見るが、それを気にすることなく猥談を続けていく。
普段の生活では見られない町の景色を横目に、俺達を乗せた車はパリの街へと消えていった。
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<デュノア社、社長室>
パリ市内を車で進み続けること約30分、ビジネス街に身を置くデュノア社の大きなビルが目に入り、思わず俺達は感嘆の声を上げる。
エントランスはフランス古来の良さを活かした綺麗なシャンデリアが飾られており、現代と中世ヨーロッパのインテリアが混ざり合った景観であった。
そのまま案内係の男性に連れられて、俺達は関係者以外立ち入り禁止のエリアに進むエレベーターに乗り込む。
エレベーターの表示するフロアは最上階、廊下を進むと看板には英語で社長室と書いてあった。
近年のフランスでは英語もある程度は普及し始めており、中2の頃に行っていた某駅前留学英会話がまさか役立つ日が来るとは思わなかったなぁ。
母ちゃんが「アンタ英語習って話せればモテるよ」とか言うもんだからつい口車に乗せられて契約させられたのはいい思い出である。
「失礼します、ミスターデュノア」
「入ってくれ」
茶色の扉をノックすると、中から低いトーンの声が聞こえた。
どうやら日本語も喋れるようで、ホッと俺は息を吐く。
社長室にはパリを一望できる窓と多くのアンティーク家具が目を惹き、この部屋の中だけでも美術館のようであった。
一番奥の机には髭を生やしたダンディな男性が手を組んで座っている。
その男性は手を広げて俺達を歓迎し、来客用のソファへと招いた。
「よく来てくれた、ミスター小木曽、それに草薙君。フランスまでの旅路は大変だったろう。今紅茶を淹れるから、ゆっくりしていてくれ」
「お言葉に甘えて、頂きます」
「あっ、えっと……すいません、いただきます」
飛行機でぐっすり眠れてはいたのだが、まだ疲れがとれていないのも事実。
デュノアさんの気遣いを有難く頂くことにした。
すると彼は横の棚に置いてあったポットに給油機でお湯を淹れ、慣れた手つきで三つのティーカップに紅茶を淹れていく。
独特な香りが鼻を刺激し、俺は紅茶を口に含んだ。
「ご存知かもしれないが、改めて自己紹介しておこう。私はこのデュノア社の社長、アルフレッド・デュノアだ。今日はよろしく頼む」
「ご丁寧にどうも。ラーク・メカニクス社代表取締役の小木曽孝則です」
「ラーク・メカニクス社所属、"ギャプラン"のテストパイロットの草薙彰久です。よろしくお願いします」
一度ソファから立ち上がって互いに握手を交わすと、デュノアさんは先程とは打って変わって真剣な面持ちになる。
そんな彼の姿を見て察したのか、小木曽さんは手にした鞄から一束の資料を取り出した。
「ふむ……これが貴方の言っていた件か。今回はなぜこのような案を我が社に持ち込んできたのだ? 我が社の他にも一流IS企業は幾多も存在しているはずだが」
「御社ではないといけないんですよ。この"Zガンダム"の最大限の性能を引き出すには、ね」
「というと? 」
「まずは装備の項目を見て下さい。我々のギャプランでは変形機構の多くの容量を有している為武装が比較的少なく成っていますが、Zの場合は"ビームライフル"、"ハイパーメガランチャー"、"2連装グレネードランチャー"、"ビームサーベル"、"シールド"と多種多様な装備になっています」
「なるほど、その装備を有する為に我が社の売りである"大容量拡張領域"に目を付けた訳か。御社の"変形機構"と我が社の"大容量拡張領域"……。それを組み合わせた機体がZガンダム、と」
「はい」
資料のページをめくりつつ、彼らは商談を続ける。
シャルの事……いつ言おう……。
流石に今はタイミングが悪すぎるが……。
「分かった。直ちに会議して検討しよう。答えは明日にでも出るはずだ。このような企画を持ち込んで頂き、感謝する」
「いえいえ。私共もフランスへ来た甲斐があります。今後とも、ラーク・メカニクス社をよろしくお願いします」
「あぁ。こちらこそよろしく頼む」
「では、これで失礼します」
「あっ、ちょっ、ちょっと待ってください! 」
「ん? どうかしたのかね? 」
話が終わってしまいそうだったのでつい俺はデュノアさんを呼び止めてしまう。
こうなりゃヤケだ! 今言うしかない!
「あ、貴方の娘さんのことでお話しがあります! 」
「……娘? 何の事だ? 私にいるのは息子だが」
「違う。貴方には娘がいらっしゃるはず。名前は"シャルロット・デュノア"、髪の色は貴方と同じ金髪で、着やせしてる分隠れ巨乳な子です! 」
「なんで隠れ巨乳なの知っているんだ!……って、あっ」
「今、ご自分で認めましたね。貴方には娘さんがいらっしゃいます。そして、僕も彼女の事を知っています。IS学園で、全てを話してくれました」
「……」
これぞ草薙彰久の誘導作戦。
血の繋がった親を相手に隠れ巨乳だと言うのは若干気まずかったが、デュノアさんもそれを知っていたようだ。
息子がいるというのにも関わらず、隠れ巨乳だと知っているのは矛盾が生じる。
シャルには悪いけどな。
もう逃げる術がないと思ったのか、深く息を吐いた後に彼は再びソファに座り直した。
先程のような鋭い視線はなくなり、優しく俺を見つめる。
「そうか……。バレてしまったか」
「はい。シャルロットさんはどうして自分がIS学園に男として送り込まれたのか、その経緯を話してくれました」
「はは……。良かった、本当に良かった。バレてしまって」
「……えっ? 」
「本当は、あの子にこんな事をさせたくはなかったんだ。いくら私の愛人の子と言えど、私の血を引いた大事な大事な娘なんだ。妻もあの子の事を大切に思っている、父として出来る限りの事をしようと思ったが、その時はもう……距離を取られていた」
「なら、どうしてあんな事を? 」
隣で小木曽さんが焦ったように俺を見るが、話を続けた。
だがここで止めてはならない。
もしデュノアさんが"シャルを男として学園に向かわせた事"を悔いているなら、これは大きなチャンスとなる。
なんとしても、ここで説得できないだろうか。
「私にはシャルを止める資格がないと思ったからさ。血の繋がっている子なのにも関わらず、何一つ父親らしいことをしてやれなかった。あの子が会社のプロモーション活動を申し出た時は、思わず承諾してしまったよ。ダメな父親だ、本当に……本当に」
「なら、バレてしまった以上、いずれ他の生徒にも女の子だと判明してしまうかもしれません。デュノアさん、今ならまだ間に合います。シャルロットさんを、普通の女の子としてIS学園に通わせてあげてくれませんか? 」
第三者である俺がこんなことを言うのもおかしいとは思うが、性別を偽って学園に在籍するという事は到底の人間には出来ないことだ。
あの時俺に見せた涙は、絶対に無視していいものではない。
「あぁ、そうだな。君の言う通りだ。今すぐあの子をうちに連れ戻して、家族で話し合おうと思うよ。ありがとう、きっかけをくれてね」
「…! ありがとうございます! 」
「それはさておき……なんで君はうちの娘が隠れ巨乳だと知っているんだ? 」
「え、あの……それは……」
安心してホッと息を吐いたのも束の間、デュノアさんは手を組んで俺を見つめだした。
くそっ、場の雰囲気で流せたと思ってたのに!
さすが一流企業の社長は伊達じゃないということか……!
「す、すいません! まだ男だと思ってた頃に一緒に風呂入ろうとしたら…………見ちゃいましたっ! ほんとごめんなさい! 他意はないんです! 許してください! 」
「見ちゃいましたじゃない! ずるいぞ! 私だって見たかったのに! 」
「し、社長!? キャラ崩壊が凄まじい勢いですけど!? 」
「構うものか! 愛と怒りと悲しみのブレーンバスターを喰らえィッ!! 」
「えっ、ちょっ、こんなアクティブなんて聞いてな……うわぁぁぁぁぁっ!? 」
確かに怒って当然だがキレてその必殺技がブレーンバスターって渋すぎるだろ。
しかもそれシャイニングフィンガーだし。
だがそんなツッコミも時既に遅し、デュノア社の本社ビルには俺の絶叫が響き渡った。
ちょっと今回は強引すぎたかなと反省。
さすがにこのままのシャルの設定だと無理があるので、次回辺りで改変しようかと思っています。