今回はあまり話が進まず、大きな展開になるための布石みたいなものでしょうか。
ちょっと地味です。
<月曜日、食堂>
いつものように迎えた週初めの月曜日。
だんだんと暑くなってきた日差しを一瞥して、俺は真琴ちゃんとラウラの3人でこの食堂へ来ていた。
何やらラウラがまた相談にのってほしいらしく、俺だけでは変なことを彼女にやりかねないという心配から真琴ちゃんもついて来て今に至る。
全く、俺を誰だと思っているんだろうな。
天下無敵の変態紳士だぞ、こんな所で女の子に手を出すわけがなかろう。
ラウラに手を出す代わりに真琴ちゃんの胸を揉むことを画策しつつ、俺は4人用の席に座る。
「毎度毎度すまんな、こうしては彰久たちに来てもらって」
「いいんだよ。女の子の役に立てるなら俺も本望だしな」
「そうそう、ウチはラウラの友達やし。そんな水くさいこと言わんといてや」
「そう言ってくれると有難い。まあ、食べながら話すとしよう」
少ししょぼくれた様子のラウラを元気づけてから、俺達は持ってきた昼飯の一口を食べることに。
俺がチャーハンの一口目を頬張った瞬間、彼女は話し始めた。
「織斑一夏に惚れてしまった。どうしたらいい」
「ぶぶぉっ!? 」
「うわっ、ちょっ!? 汚いで彰久! 」
「す、すまん……。つい驚いたもんで」
ラウラの口から放たれた衝撃のひと言に、思わず俺は口に含んでいたチャーハンの米粒を四方八方に飛ばしてしまう。
確かにあんなイケメンフェイスで助けられたら誰だって惚れるだろうな。
ええい、ますます複雑になってきたぞ。
「んで、その、惚れてしまった……と言うと? 」
「言葉の通りだ。織斑一夏を見るとどうにも……その……胸が苦しくなったり顔が火照ってくる。もしかしたら病気かと思って保健室の先生やクラリッサに聞いてみたんだが口を揃えて"恋の病です(キリッ"と言うのだ。あ、ちなみにクラリッサというのは私の部下だ」
「やべぇ、ツッコミ所があり過ぎてどこから言ったらいいのか分かんねぇ」
思わず関西弁の口調を忘れて真琴ちゃんはそう呟く。
例の一件からラウラはどうやら一夏に恋をしてしまったらしく、事前に保健室の先生や知り合いである"クラリッサ"という人物に相談を持ちかけたようだ。
彼の事を思い出してまた照れているラウラに目が行くが、正直言うと問題はそこではない。
……"クラリッサ"って名前、俺も聞き覚えがあるんだよなぁ……。
「ラウラの悩みは分かった。多分解決案を練れると思うし、俺も協力できる」
「ほ、本当か! もしや一夏を嫁に出来るのか!? 」
「段階飛ばし過ぎだって。あと一つ聞きたいことがあるんだけど……いいか? 」
「あ、あぁ。なんだ? 」
「その"クラリッサ"って人、フルネームは"クラリッサ・ハルフォーフ"って名前じゃ……」
「おお、その通り。なんで知っているんだ彰久? 」
早速間違った知識をここでブッ放すラウラは、俺の問いに頷いた。
普通逆だからね、多分それカップリングとか考えてる人辺りが口にする言葉だからね。
しかし嫌な予感というものは当たるものだ、まさかクラさんがラウラの所属する特殊部隊の部下に当たる人物とは驚きである。
S〇ypeで仕事のこととか聞いても「禁則事項です☆」とか言って教えてくれなかったし。
「いや……うん、その話はまた後ほどね。今は今後一夏とどう接するかを考えようか」
「そ、そうやね。やっぱり猛アタックした方がええと思うよ、一夏君って女子の間じゃすごく人気やし。現に整備科の子も結構イケメンって騒がれてるで」
「むむむ、やはりそうか……。一夏の部屋のカギをピッキングして裸で忍びこむという手もアリだな」
「どこのスカイリムだよ。それはそうとピッキングのやり方を俺に教えてくれ、セシリアとか真琴ちゃんの部屋に裸ネクタイで忍び込むから」
「ふっ、ドイツ特殊部隊直伝の方法を教えてやろう」
「さらっと犯罪予告してんじゃねーよアホ共」
ラウラにはチョップを、俺には拳骨を食らわす真琴ちゃん。
手加減ってものを彼女に覚えてほしいが、それをこの場で言ったら更に反撃されそうなのでやめておこう。
しかし裸であいつの部屋に忍び込もうとしたら、すぐに最強のセコム(千冬さん)が阿修羅をも凌駕する勢いで迫ってきそうだな。
朝から女の子の悲鳴を聞くのは少し目覚めが悪い。
「いたた……すまない彰久。ピッキングの方法はまた今度教える事にしよう。真琴が怖いからな」
「こんな変態にピッキングなんて覚えさせてもうたらアカン事になるで! みんなを守る為にも全力で阻止や! 」
「……俺だけなんで全力なんだろうか。地面に埋まるのって久しぶりだぜ」
自力で地面に埋まった頭部をなんとか元に戻すと、辺りのテーブルにはコンクリートの小粒がパラパラと舞っている。
やだこの子怖い。
地面に埋まったのは中学時代に剣道部の女の子の胸を揉んだ時以来で、なんだかとても懐かしい。
割とトラウマだけど。
「猛アタックの例としては、出会い頭にいきなりキスなんてどうや? 一気に距離が縮まるし、何より他のライバルにも優位に立てると思うんやけど」
「きっ、きききキスか……。出来るかな……」
「あ、箒ちゃんと鈴ちゃんの前ではしない方がいい。マジで俺と一夏の胃がストレスでマッハになる」
「そうやねぇ……。あの二人も随分長く一夏君のこと好きやし……」
「出来ればあの二人とも仲良くなったまま一夏にアタックできないだろうか……」
「うむむ……難しいな……」
そんな時である。
突然俺たちの座る席のすぐ横を一夏が通り抜け、無論のこと彼を呼び止めた。
現在一夏は一人で食堂に来ており、これは正直チャンスなのではないだろうか。
「ほら、今がチャンスやで! ラウラ! 」
「え、ちょっ!? まだ心の準備がっ!? 」
「おーい、一夏。ラウラがなんか話あるらしいぞー」
「ラウラが? どうしたんだ? 」
俺と真琴ちゃんで無理やり一夏とラウラを鉢合わせにすると、恥ずかしそうに俯きながら彼女はおそるおそるあいつの顔を見始める。
だが何も知らない一夏はそんなラウラに首を傾げるばかり。
お前の前で赤くなってんだから何かあるに決まっておろうに。
「ん? ラウラ? 顔赤いぞ? ちょっとおでこ貸してみー」
「ひえっ!? か、かかか顔近っ……!? 」
「うーん、熱はないみたいだな」
「い、一夏の額が……私の額に……ふしゅーっ……」
なんという判断力だろうか、ラウラが赤くなっているのは熱のせいだと勘違いした一夏はあろうことか彼女の額に自分の額をくっつけて熱がないことを確かめたのだ。
当然二人の顔の距離は急接近し、そのまま近づけていけばキスまでできてしまいそうな程に彼らの距離は詰められていく。
実を言うと彼はイケメンにのみ許されるこの"おでこ体温計"で中学時代何人もの女の子を虜にしてきた。
狙ってやっているのかと問いただしたところ、どうにも一夏は天然でやっているらしい。
お前もうバン〇ィのクローに貫かれてしまえ。
「さ、さすが一夏君! ウチ達に出来ないことを平然とやってのけるゥッ! そこに痺れる憧れるゥッ! 」
「んなことはどうでいい! 大丈夫かラウラーっ!? 」
「ら、ラウラ!? どうしたんだ頭から煙なんて噴いて!? 」
「だいたいお前のせいだよこの一級フラグ建築士! 」
かわいい呻き声を上げつつその場に座り込んで失神したラウラ。
どさくさに紛れて胸をちょっと揉んだのは紳士との秘密だが、辺りは軽い騒動である。
こんなタイミングで箒ちゃんや鈴ちゃんが来たら非常にまずい……。
確実にこの食堂は昼ドラ特有のドロドロ修羅場と化してしまうッ!
セシリア辺りが喜びそうな光景だが。
「む、なんだこの騒然とした空気は。何かあったのか? 」
「まーた彰久がなんかやらかしたの? 」
「オーマイゴット!? なんて絶妙なタイミングなんだ箒ちゃんに鈴ちゃん!? 真琴ちゃん、ラウラをそこの座席に寝かしといてくれ! 」
「あ、アイアイサー! 」
「あっ!? ちょっと、ラウラ気絶しちゃってるじゃない! 今度は何やらかしたってのよ! 」
「ラウラ……お前までもが彰久の歯牙にかかってしまったか……」
目を回してソファー席で横になっているラウラを見て真っ先に俺を疑う二人。
そりゃ普段の言動や行動から疑われてしまうのは自他共に認めるが、今回ばかりは俺じゃない。
どさくさに紛れて胸揉んだけど。
いい感じの微乳だったよ、いやほんとに。
「俺じゃないって! 今回ばかりは本当に! 俺のマイサン賭けてもいいから! 」
「そんなものを賭けられても困る! まあいい、一夏。一体何があったんだ? 」
「お、おぉ箒。いやあさ、突然ラウラが顔を赤くしながら俺の前に現れたもんだから熱あるかと思っておでこで計ったらこんな事に……」
「…………」
「ほ、箒? 」
他の人間に事情を聞くのが手っ取り早いと思ったのか、箒ちゃんはその場にいた一夏に話しかける。
当たり前のように先程の行動を答えた一夏は、不穏な空気を醸し出す箒ちゃんに若干の焦りを感じていた。
そうする事数秒、彼女は一夏の肩を掴む。
「こーの鈍感野郎☆ ファ〇ク☆ 」
「箒顔笑ってない!? 」
初めて箒ちゃんがキャラ崩壊した瞬間であった。
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<夕方、彰久の寮部屋>
昼休みのラウラ事変が偶然その場に立ち寄った千冬さんによって収拾されると、俺たちは休み時間を終えて午後の授業へと臨んだ。
小難しいIS用語や苦手な教科に悪戦苦闘し、頭がパンクしそうになった俺達はそのまま放課後を迎える。
特に部活にも入っていないし学年別トーナメントの方の試合も既に終えているのでこれといった用事はなく、授業が終わると適当に雑談しつつ寮部屋へと戻るのが日常となっていた。
部屋の中に入った俺はまず洗面所へと向かい、手洗いうがいを済ませた後に制服の上着だけを脱いでベッドに腰掛ける。
シャルはこの時既に部屋におり、机に向かって今日の授業の復習を行なっていた。
「さすがシャル。やっぱ優等生は違うなぁ」
「ふふ、そうかな? 勉強だけできたって彰久の頭の切れの良さには敵わないと思うよ」
「はっはっは、やっぱりシャルもそう思うかね。俺って頭も切れるし二枚目だし女の子にモテてもおかしくはないよな! 」
「うん、その性格がすべてを台無しにしてる事を気づいていない辺り彰久は流石だよね」
「そう褒めるなよ。照れる」
「褒めてねーよ!? 」
このくだりは金曜日の夜のテレ朝でよく見るやつだな。
さすがに番組名を出してしまうと本格的に怒られるのでやめておく。
そんな風にシャルと会話していると、俺のポケットに仕舞ってある携帯が鳴り響いた。
彼女に一言断ってから、俺はスマートフォンの通話ボタンを押す。
『もしもし? 小木曽だよ。今大丈夫かい、彰久君? 』
「あぁ、はい。どうかしたんですか? 」
『前に君が言っていた"お願い"の件さ。今週の金曜日にフランスへ発つことになった。もし君が来れるならと思って連絡させて貰ったんだが……』
「お、どうやら上手く行ってるみたいですね。多分学校の授業が終わってからになると思うんですが、大丈夫ですか? 」
『いや、彰久君が来る場合は我が社が個人的に呼んだとして事にして公欠にしてもらおうと思うんだ。私から織斑先生に連絡しておくから、君の方からも話を通しておいてくれ。フランスとの時差があるからね、朝早くのフライトで向かいたい』
「なるほど、わかりました。千冬さんに掛け合ってみます」
電話の主は小木曽さんで、どうやら以前話していた"デュノア社と友好的な関係を結ぶ"という俺のお願いについて進展があったらしく、それを知らせる為に電話をかけてきてくれたようだ。
今週の金曜日の早朝に日本を発つらしく、2泊3日でフランスに滞在するという。
個人的にはもっと観光地巡りなどしてみたいが、生憎そんな余裕はなさそうである。
シャルはこの事を知っているのだろうか。
通話を終えて電話を切ると、先程机に向かっていた彼女の姿はベッドに移っており、休憩も兼ねてシャルにこの事を話す事にした。
「あっ、彰久。電話はもう終わったの? 」
「おう、俺の所属する会社の社長さんからでな。今週の金曜にはフランスへ向かうらしくて、俺も多分それについて行く事になる」
「……まさか、デュノア社の関係? 」
「ま、そんなとこだ。商談に持ち込むから実物を見せたいんだとさ」
「ほ、本当に彰久……君って人は……」
「そんな悲しそうな顔するなよ。俺の意思でやった事だ」
おそらくはこれでデュノア社の社長の方も納得するはずだ。
俺の計画としてはその社長さんにシャルが女の子だということを知っている旨を伝え、そこから更に交渉に持ち込む。
多分向こう側としてもシャルが女の子だと第三者にバレた事は脅威なはず、その弱みにつけこむ作戦だ。
あまりこういうやり方は好まないが、これもシャルの為。
手段を選んじゃいられない。
俺が穢れて彼女が幸せになるのなら、俺は喜んで汚れ役を引き受けよう。
「けど成功するっていう確証はあまりない。正直言って賭けだ。もし失敗してしまった時は、俺が責任を持って何か別の方法を見つける」
「う、うん。その……ありがと。僕の為に……」
「気にすんなって。ま、大船に乗った気持ちで俺に任せとけ! 」
「分かった。彰久がそこまで言うなら僕も君に託すよ! 」
不安そうに俯く彼女の肩を励ますように俺は叩く。
女の子がそんな表情をするもんじゃない、笑っていた方がいいに決まってる。
少し顔を赤くしながら満面の笑みを俺に見せ、シャルと握手を交わした。
さあ、いっちょやってやりますか。
変態紳士として、何よりも女の子を守る男として。
というわけでここで原作改変。
本来ならここら辺でラウラが一夏にズキュゥゥゥゥゥンしてるとこをカットして食堂での騒動にしてみました。
シャルもまだ女の子とは周囲にバレていないので、少しシャルがメインの回が増えるかも。