IS-突き進め!変態紳士-   作:「旗戦士」

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完全に変態紳士の出る幕はなしかも。
まあIS壊れてるしね。


断ち切る鎖

<IS学園管制室、千冬視点>

 

 

「何だ……アレは」

 

思わず管制室で私はそう呟く。

デュノアがパイルバンカーでラウラを吹き飛ばしたあと、彼女はアリーナの壁に叩きつけられて試合に敗北したはず。

 

 

なのに何故……あいつは姿形を変えたISを纏っているんだ。

草薙の"ギャプラン"のように変形機構は持っていないはず。

 

それに全身装甲を纏うまでの間、装備していたISが液状化してラウラの身体へ"強制的に"装備していたようにも見える。

 

まさか……"VTシステム"か……。

奴らもつくづく腐りきった真似をする。

 

"VTシステム"とは、過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘データを再現・実行し、搭乗者の意思に反してダメージレベルが一定水準に達した場合発動するものだ。

 

これは現段階でいかなる国家・企業での開発等の行為は世界IS委員会(略称:WIC)で禁止されているが……。

 

おそらくラウラ自身は関与していないはず。

秘密裏に何者かが組み込んだのであろう。

 

 

「会場の皆さん、落ち着いてください。観客席は強化特殊シールドで覆われていますので、どうか慌てずにその場で待機をお願いします。学園職員が事態の収拾に当たりますので、どうかご安心ください」

 

 

管制室で映像や音声の管理をしていた生徒からマイクを貸して貰い、アリーナにいる全員へとなるべく不安を感じさせないように言い放った。

 

瞬く間に観客席は静まり、他の先生方が観客を空いている席へ誘導する映像を一瞥すると私も管制室を出ようと出口に急ぐ。

 

 

「織斑先生! どこへ行くんですか!? 」

「決まっている。アリーナだ。生徒を危険に晒すわけにはいかない。それと、ここに来ているドイツ政府の役人に用があると伝えておけ」

「は、はいっ! 」

 

 

管制室にいる生徒に伝言を伝えると、私は単身第一アリーナへと向かった。

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<第一アリーナ、一夏視点>

 

 

 

"白式"のシールドエネルギーも切れ掛かり、やっと試合が終わったと思った直後のことだった。

シャルによってアリーナの壁に叩きつけられたボーデヴィッヒが急に苦痛な叫び声を上げ、辺りに緊張感が張り詰められる。

 

土煙から出てきたのは先程の黒いISとは打って変わって、今度は全身装甲の銀のISを身に纏っていた。

右手に刀を一本だけ持って、俺達の方に歩み寄って来ている。

 

 

あの刀……"雪片"!?

なんであいつが千冬姉の刀を……!

 

 

「この……野郎……ッ!! 」

「い、一夏? 」

 

「そいつは……そいつは"お前のもの"じゃないッ!! 」

「な、何をしてるんだ! 逃げろ一夏! 」

 

 

 

箒とシャルの制止を振り切って俺は銀のISへと一気に距離を詰めた。

シールドエネルギーなぞ気にしていられない。

あのふざけた野郎をこの手で、ぶっ飛ばしてやる……!

 

そんな俺の一撃を奴は易々と受け止め、弾き返した所を返す刀で反撃した。

中段の逆袈裟斬り……なら次はッ!

 

 

予想通り銀のISは俺の喉元を狙った神速の突きを繰り出す。

 

忘れるはずもない……。

この太刀筋は千冬姉のものだ。

 

 

「一夏ぁっ!? 」

 

 

だが頭で分かっていてもその突きを避けることは無理に等しい。

まさしくその速さは神速。

一挙一動がスローモーションに見え、"雪片"の切っ先が俺の眼前に迫り、箒の悲鳴が聞こえる。

 

 

やられる――――そう確信した時であった。

 

 

ぶつかり合う激しい金属音が俺の耳を刺激し、おそるおそる目を開けるとそこには両腕だけを部分展開したリクルートスーツの女性が奴の"雪片"をIS専用の刀で受け止めていた。

こんなとこまで、来てくれるとはな……千冬姉。

 

「デュノア! 篠ノ之を安全な所へ連れていけ! 織斑! 一旦下がれ! 」

「は、はい! 箒、こっちだよ! 」

「あ、あぁ! すまない! 」

 

 

千冬姉の言う通りに従い、俺は銀のISとの距離を取る。

シャルも箒をピットの中へ連れて行ってから、再びアリーナに戻ってきていた。

 

今のところ奴が動き出す様子はなく、依然として睨み合いが続くばかり。

どうやら銀のISの狙いは俺のようで、"雪片"の切っ先を俺に向けたまま動かないでいる。

 

 

「織斑。ここの処理は私たち教師が行う。お前たちも早くピットに戻れ」

「……その指示は、聞けません」

 

「何? 」

「あいつだけは……あいつだけは許せないんです。大切な姉の、千冬姉の真似事をしたあいつだけはッ!! 」

 

「お前……」

「頼む千冬姉。一度だけでいい。俺に……チャンスをくれ」

 

"先生"と呼ぶことさえ忘れ、俺は千冬姉の目をじっと見つめた。

もう守られるだけの俺じゃない……。

 

 

「……シールドエネルギーはどうする? お前の"白式"は既に切れ掛かっているが」

「それは、僕に任せてください。コア・バイパスでシールドエネルギーを受け渡せるはずです」

 

「けど、シャルのシールドエネルギーだって……」

「いいんだ。このままでいても僕は何もできない、だったらせめてシールドエネルギーだけでも渡させてほしい」

 

「デュノア。受け渡したとしてどれくらいのエネルギーを回復出来る? 」

「おそらく……両腕と"雪片弐型"だけしか……」

 

「……織斑。あれだけ豪語したんだ、やってみろ。後の事は私達に任せて、全身全霊を以て勝つんだ。いいな? 」

「……はい! 」

 

 

シャルルが俺の"白式"にケーブルを繋ぎ、およそ150程度のシールドエネルギーが補充される。

千冬姉は念のためにISを纏った他の先生たちに武器を構えさせ、俺と奴の様子を固唾を呑んで見つめていた。

 

 

お前は俺のISなんだろ、"白式"。

なら、一度でいい。

 

 

 

俺に……俺に力を貸せッ!!

 

 

 

「よう、待たせたな」

「…………」

 

 

両腕の装甲と"雪片弐型"だけを展開させ、俺は中段に刀を構える。

銀のISも同じように"雪片"を構え、お互いに睨み合う形となった。

 

構え方も、太刀筋も、何から何まで千冬姉にそっくりだ。

けど……それは、ただのデータに過ぎない。

 

 

俺が走り出すのと同時に、奴も距離を詰め始める。

互いの刀が鍔競り合い、俺は奴の刀を押し返した。

 

相手の戻りが早い……この構えは上段!

既に見切っていた俺は、"雪片弐型"を横にして奴の"雪片"を受け止める。

 

 

「データ如きに……ッ! 負けるわけねぇだろぉぉぉぉぉぉぉッ!!! 」

 

 

そのまま素早く懐に入り込み、俺は"雪片弐型"を奴の胴体目掛けて振り上げた。

綺麗な斜めの切れ目から、ISスーツ姿のボーデヴィッヒが露わになる。

 

俺はそっと彼女の身体を受け止め、急いで銀のISから離れた。

もし爆発とかしたら大変だしな。

 

 

「……ぁ……お、織……斑……」

「しばらく寝てろよ。疲れたろ」

 

 

そう優しく言葉を掛けるとボーデヴィッヒは安心したように気を失い、俺にもたれかかる。

緊張の糸が解けた俺は、その場で意識が途切れてしまった。

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<放課後、IS学園応接室>

 

 

一夏が意識を失った後、学年別トーナメントは明日以降に延期となり、今日試合する予定であった生徒達は一度寮で自室待機という対策が取られた。

 

観客席にいた政府の役人や企業の重役達も事態の一部始終を見ていたが、IS学園理事長の働きかけにより今日のことは口外禁止と念を押されることに。

 

そして現在応接室にいるのはIS学園に観戦しに来ていたドイツ政府の役人で、織斑千冬の呼び出しによりこの部屋で待機しているように言われたのである。

千冬曰く「用がある」ということらしい。

 

 

「やはり……あの事だろうか? ラウラ・ボーデヴィッヒが発動した"VTシステム"……」

「十中八九そうだろうな。だが臆することはない、ミスター・アドルフ。彼女には我々を問う権利などないはずだ」

「そう余裕が何度も続いていればいいのだがな……」

 

 

怯えたように同僚の男性に問いかけるアドルフという男性、実は以前千冬がドイツを訪れた時に彼女の恐ろしさというのを嫌というほど教えられたのである。

 

そうして気を紛らわすこと数分、応接室の扉からノック音が聞こえ、リクルートスーツに身を包んだ織斑千冬が入室してきた。

 

 

「まずはこのような時間をとらせて頂いたことにお詫び申し上げます。ドイツからはるばる来て頂いたのにも関わらず、このような事態に……」

「手短に済まそう、ミス千冬。我々をここに読んだ理由はなんだ? 」

 

 

「……既にお分かりだと思いますが、本校の生徒であるラウラ・ボーデヴィッヒの搭乗IS"シュヴァルツェア・レーゲン"にWICで禁止されている"VTシステム"が組み込まれていました。失礼ではありますが、何か知っていないかと貴方がたにご質問させていただくためです」

 

「答える義務はない。我々はこれで帰らせて――――」

 

「そうですか。ならばもっとはっきり申し上げましょう。……何か知っているなら、さっさと吐け」

 

「なんだと? 」

 

 

応接室の空気が一変するのに、アドルフは気付く。

思い出したのだ、あの時の織斑千冬という人物の恐ろしさを。

だが同僚の男はいざ知らず、彼女に食って掛かる気が満々である。

なんと愚かなことか。

 

 

「答える義務はない? ふざけるなよ、"問う権利"がこちらにはある。あれだけの事態を引き起こしておいて、今更黙秘するなど言語道断だ。調子に乗るのもいい加減にしろ」

 

「調子に乗っているのはそちらだろう! いくら自分の所の教え子があんな事態を引き起こしたからと言って、我々を責めるのは筋違いだ! 以前の第二回モンド・グロッソの事実を公表してもいいんだぞ! 」

 

「……ならば、敢えて言おう。ラウラが暴走するまでの貴様らの会話、全て録音させてもらった。今の発言も私に対する脅迫とみて録音した。公表しても構わん、だがその代わり国際裁判で貴様らの裏を公表するぞ? 」

 

「なっ……!? あそこにいた生徒は、その為か……!? 」

 

 

彼が言うのは、役人をもてなした生徒会の役員たちのことである。

生徒会長である"更識 楯無(さらしき たてなし)"が彼らの応対をし、密かに録音していたのだ。

 

「……わ、分かった」

「アドルフ!? 」

 

「だが、我々もそう情報を知っているわけではない。日を改めて、文面で――――」

 

「今この場で答えろッ!!! 」

 

千冬の大喝が、応接室に響く。

"目には目を、歯に歯を"という言葉があるがこの場合"脅迫には脅迫を"という表現が正しいのかもしれない。

だが、国際的に禁止されているシステムを秘密裏に導入したのも事実。

聞く権利は確かにIS学園側にある。

 

 

「……ドイツ軍のIS開発局だ、そうとしか聞かされていない。これ以上喋ったら、政府に消されるんだ……。頼む、勘弁してくれ」

 

「そうですか。情報提供感謝します。話は以上です、お帰りになって頂いて構いません」

 

 

 

そう千冬が告げるとアドルフたちは一斉に応接室の出口へと向かった。

彼女の恐ろしさに怯え、足元がおぼつかない。

 

情けない男だ、と千冬は彼らを一瞥する。

 

 

 

 

 

 

 

 

先程の彼女の大喝は、学園全体に響いたとか。

ますます彼氏ができない、と千冬は落胆した。





実を言うと一夏にこの台詞を言わせて見たかっただけという。
やっぱりバナージのイメージが強いです。

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