前回に引き続き戦闘シーンです。
ですが原作とは違って一夏たちはラウラのAICについて知らされていないのがポイント。
黒い雨は降り止まない
<第一アリーナ、ピット内>
試合が終わってセシリアと二人でピットに戻ると、中で待機していた一夏とシャルの二人が出迎えてくれる。
二人は既に自前のISスーツに着替えており、準備万端といった様子だ。
ラブリーマイエンジェルのシャルきゅん(正確には女の子)も相変わらずの可愛さを誇っている。
やはり金髪美少女はいいものだねぇ。
「お疲れ二人とも! いい試合だったぜ! 」
「まずは初戦突破だね! おめでとう! 」
「ありがとうございます、お二人とも」
「そうだろうそうだろう? 今なら惚れてもいいんだぞ? 」
「十中八九それはない」
「真顔で否定すんなよ、泣くぞ」
その場にいた3人が一斉に死んだ目つきで否定するなんて普通の人じゃ崖から飛び下りるレベルの仕打ちである。
それなんて火曜サスペンスと言いたいが、生憎ブロークンマイハートしてしまったので、今は言えそうにもない。
『第二試合、織斑・デュノアペアvsボーデヴィッヒ・篠ノ之ペアです。選手は速やかに各ピットへと集合し、準備を行なってください』
「おっ、そろそろみたいだな。よし、気合い入れるか! 」
「勝とうね一夏! 」
「おう! さっき打ち合わせした作戦でいこう! 」
「頑張ってくださいね、わたくし達も応援していますわ。ほら彰久さん、立ってください」
「だって……真顔で否定されたし……」
「まだ気にしてたのか!? 」
変態紳士はめんどくさい。
過去何百回こうして落ち込んだかはわからない(数えてない)が、渋々俺は立ち上がった。
「おそらくラウラちゃんは相当強い。油断するなよ。一夏、シャル」
「……分かってる。あいつとのケリも着けたいしな」
「うん、全力で対処するよ」
以前訓練の場面を少しだけ目にしたことがあるのだが、箒ちゃんと共に訓練を行うラウラちゃんの腕は相当手練れたもので、素人の目にも彼女が強いということは十分に理解できる。
今回最も注意視していた人物の一人だ。
俺は彼らの真っ直ぐな目を見つつ、別れ際に一夏たちと拳を交わす。
ニヤッと口元を吊り上げると、一夏は自身の"白式"を展開した。
彼がカタパルトから射出されると、今度はオレンジ色のIS"ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ"を纏ったシャルがセットされる。
親指を俺達に立てると、間もなく彼女もアリーナへ飛び立っていった。
「さて、俺達も観戦しますか」
「はい。席は確保してありますの? 」
「もちろん。紳士は準備に抜かりないからな」
「ふふふ、有難いことですわ」
彼らを見送り、俺達も早速第二試合を観戦しようと観客席へと向かうことに。
勝敗の行方はわからない、俺はただ一夏の勝利を願うだけであった。
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<第一アリーナ、シャル視点>
彰久達に激励のエールを送られた僕たちは間もなくアリーナへと射出され、中にいたラウラと箒を見据える形で一夏の後ろに立つ。
ラウラのISは"シュヴァルツェア・レーゲン"、右肩に装備されている巨大な黒いレールカノンが特徴的な機体だ。
一方の箒の機体は"打鉄"、日本の第二世代IS。
武装は近接ブレードと実体シールドといった基本的な装備だけど、剣の腕が立つ箒が扱うから油断は出来ないと思う。
『次の対戦カードは織斑・デュノアペアvs篠ノ之・ボーデヴィッヒペアです! 連続で男性操縦者の試合が見れるなんて皆さんは幸せ者ですよ~? 山田先生、各選手が搭乗するISの説明をお願いします』
『織斑くんが白いISの"白式"、デュノアくんがオレンジ色の"ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ"ですね。それに対してボーデヴィッヒさんが"シュヴァルツェア・レーゲン"、篠ノ之さんが"打鉄"です。それぞれ突発した性能を持っていますが、この中で篠ノ之さんがどう立ち回るかが見所かと思います』
一応本選に出場する選手は使用するISの簡易的なデータを提出する規則になっている。
これは事前に調べて対策などを練られないようにするためだという。
あとは国家機密とかがあるから先生達の方で詳細データを保護するという名目もあるんだよね。
「……決着を着けよう。全力で来い」
「端っからそうするさ。負けねえぞ、絶対に」
「お手柔らかに、ね」
「いざ、尋常に! 勝負ッ! 」
各々利き手に近接ブレードやらを展開し、僕もアサルトカノン"ガルム"を構えた。
丁度良いタイミングで試合開始のアナウンスが流れる。
『それでは第二試合、ISファイトォ……レディーッ! ゴーッ!! 』
その合図と共に一夏がラウラへと瞬時加速。
うん、ちゃんとさっき打ち合わせた作戦通りに行動してるね。
だがその突進はラウラが右手を突き出したことによって無理やり制止される。
「なっ、なんだこりゃ!? 」
「読んでいたぞ、今の攻撃」
同時に彼女の右肩に装備されていたレールカノンの銃口が一夏に向けられ、今にも彼を撃ち落さんとシリンダーの回転音が周囲に響いた。
やらせるわけにはいかない。
反射的に身体がアサルトカノンをラウラに向けさせ、レールカノンの砲身目掛けて一発放つ。
銃弾が命中し、放たれた砲弾は間一髪で一夏の頭上を通っていった。
思わず冷や汗をかく一夏を一瞥してその動作のまま僕は左手にアサルトショットガンを展開し、彼女へと散弾を吐き出させる。
"高速切替《ラピッドスイッチ》"、僕のISの最大の武器。
大容量の拡張領域を使って事前に武装を呼び出すことなく、戦闘と同時進行中にもう一個武装を呼び出すことのできる僕の特技であり最大の強みだ。
「くっ……さすがだな。だが! 」
「私も忘れるなよ! 」
一旦右手の装置で拘束していた一夏を離して後退することによって、ラウラは僕の散弾を見事に避けきった。その隙を突くように彼女の横から箒が打鉄の近接ブレードを僕に突き立てる。
僕は敢えて箒に近付き、打鉄の刀が当たる直前の所でしゃがんだ。
頭上を一夏が飛び、箒と鍔競り合う形になる。
今の一夏の攻撃を間一髪で止めるとは、さすが剣道有段者の勘の良さは違うなぁ。
「あの時の剣道の借り、ここで返すぜ! 」
「借した覚えはないがな! 」
箒の剣を弾き返すと、一夏は彼女に向けて袈裟斬りを浴びせた。
そのまま連撃として横一文字に"雪片弐型"を振るうが、箒の剣腹によって防がれてしまう。
"雪片弐型"を受け止められたまま彼女は一夏にタックルを食らわせ、大きく彼はよろめいた。
この間僅か数十秒、彼らの剣舞を目で追いつくのが精一杯である。
隙を見せた一夏を追撃するように箒が後を追うが、すかさず僕はアサルトショットガンで彼女を迎撃した。
だが待ってましたと言わんばかりに箒は後ろに下がり、僕の眼前には紫色のプラズマ手刀を構えるラウラの姿が見える。
「させるかよっ! 」
「くっ……復帰が早い……! 」
そんな僕をカバーするように一夏が前に躍り出た。
渾身の突きを食らったラウラは大きくよろめき、一回転して体制を立て直す。
その後一夏の"雪片弐型"と鍔競り合う形となり、二人は格闘戦へと突入した。
一夏とラウラの間に入ろうとする箒を、僕はアサルトカノンで攻撃する。
「頼んだよ、一夏! 」
「任しとけ! 」
「そこを退いて貰おう! シャルル! 」
「生憎、行かせるわけにはいかないんだ! 」
"ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ"が最も得意とする中距離戦を主軸に、僕は箒と対峙した。
彼女は近接ブレードしか攻撃の手段を持たないために距離を詰めるが、ショットガンとアサルトカノンの弾幕により近づけさせない。
「う……ぁッ!? 」
しかし、横殴りに僕を襲ったのは衝撃。
辛うじて確認できたのはラウラの纏うISのリアアーマーから射出されるワイヤーブレードが僕を攻撃したぐらいであった。
まさか、一夏と格闘しながら今の攻撃をしたっていうの……!?
「隙ありッ!! 」
「ッ!? 」
体制を崩した僕を追撃するように箒は上段で縦に刀を振り下ろしてくるが、そのまま攻撃を受ける僕ではない。
即座に右手にあったアサルトカノンを持ち替え、近接ブレードである"ブレッド・スライサー"で彼女の懐に潜り込んだ。
この"ブレッド・スライサー"は刀身の長さは打鉄の近接ブレードに劣るものの、安心した威力を提供してくれるデュノア社の一品である。
つくづく感謝が尽きない。
箒の腹部を"ブレッド・スライサー"で突き、すかさず距離を離してショットガンで追撃。
そしてよろめいた所を再び近接ブレードで斬りつけた。
「なっ……!? 負けた……!? 」
「さっき一夏と斬り合ったダメージが蓄積してたみたいだね! 」
そうしたところで打鉄のシールドエネルギーが尽き、強制的に膝を着かされた箒。
悔しそうに拳を握りしめる姿を見た後、僕は一夏とラウラの方に視線を向ける。
その瞬間だった。
「うわっ!? ワイヤーブレード!? 」
「よそ見をしている暇はないぞッ!! 」
展開した4本のうちの1本のワイヤーブレードが僕の隙を突くように眼前に現れ、僕の横っ腹を掠める。
どうやら一夏はかなり苦戦しているらしく、プラズマ手刀の正確な格闘術とワイヤーブレードを交えた多角攻撃によって確実にシールドエネルギーを減らされているみたいだ。
まずい、ラウラのレールカノンが一夏を撃ち落とそうとしてる!
僕は無我夢中で彼の前に立ちふさがり、展開したシールドによってレールカノンの砲弾をなんとか防ぐことに成功した。
「しまった……! 箒ッ! 」
「すまない、やられてしまった……くっ! 」
互いに謝りつつもラウラは僕達への攻撃をやめない。
箒の為にも負けられないと思ったのだろう、ますます激しさを増していった。
「助かったぜ、シャル! 」
「ギリギリセーフだね、状況は? 」
「良いとは言えない。ラウラにずいぶん減らされた」
「まあ、ここから切り返しといこうか! 」
しばらくの睨み合いが続く。
その沈黙を破ったのは、一夏だった。
「零落白夜ッ!! 」
彼がそう叫んだ瞬間、一夏の持つ刀から青いビームの刃が形成され、凄まじい速さでラウラに接近していく。
しかし、それを読めない彼女ではあるまい。
「見えている! 」
すかさず右手の装置によって一夏の動きを止め、左手のプラズマ手刀で彼を貫かんとする。
僕はこの瞬間を待っていた。
ラウラが「右手の装置を使い、一夏を拘束して動けない」瞬間を。
おそらくあの装置は拘束する対象に意識を集中していなければ使用できない。
当たってくれ、僕の読み。
「へっ、使ったな! その装置を! シャル!」
「分かってる! 」
すかさずアサルトショットガンを彼女に数発連射し、すぐに捨ててアサルトカノンに持ち替えた後に絶え間なく銃弾を吐き出す。
大きく後退したラウラは拘束していた装置を止め、一夏が地面に伏した。
やはりあの拘束装置は片方に意識を注いでいないと使用できない難点があるみたい。
「……停止結界を見破るとはさすがだな。だがッ!! 」
「くっ……!? 」
今度は僕との距離を詰め、二本のプラズマ手刀で僕の身体を切り裂いていく。
瞬く間にシールドエネルギーが減少し、僕は焦りを感じた。
しかし、その攻撃もすぐに止んだ。
なぜなら一夏が先程僕が捨てたショットガンを拾ってラウラを攻撃したからである。
使用許可をしておいて良かった、やっぱり一夏は気づいてくれたみたいだね。
何も一夏は近接戦だけしか出来ないわけではない。
完全にこれは最後の策だったけど、ラウラの虚を突くことはできたようだ。
そして、狙いはここから。
「ようやく、近づいてきてくれたね」
「な、なにっ!? は、離せ! 」
僕はラウラの懐に素早く入り込み、彼女の腕を掴んでがっしりと固定する。
右手に展開したのは、先程レールカノンの砲弾を防いだ盾。
その装甲がパージし、"パイルバンカー・グレースケール"が露わになった。
「"盾殺し"……!? 」
「この距離なら、外さないよッ!! 」
右腕を突き出し、彼女はその腕を停止結界によって防ごうとする。
間に合うか……?
「いっけぇぇぇぇぇぇぇッ!!! 」
命中。
僕の方がラウラより一歩早く、腹部に直撃してシールドエネルギーを食らっていった。
「が……っ……はっ!! 」
その衝撃に大きくラウラは揺れ、体制を崩す。
パイルバンカーを命中させたまま一気に殴り抜けると、彼女はアリーナの壁に叩き付けられた。
ち、ちょっとやり過ぎたかな……?
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<ラウラ視点>
負けた。
シャルル・デュノアに、織斑一夏に――――負けた。
これで良かったのかもしれない。
今の今まで私はずっと"織斑一夏"と戦い、奴に勝つことだけを望んできた。
だが私は色んな人間に出会い、接し、この日を迎えている。
布仏、草薙、篠ノ之、デュノア、そして、織斑一夏……。
――――"ケリをつける"と言ったのはお前だ。最後まで付き合って貰う。
何? 誰だ、お前は?
――――この力を使って織斑一夏に勝て。これは、命令だ。
『"Valkyrie Trace System"set up.』
それは有無を言わせずに強制的に起動する。
このシステムは……まさかっ!?
"シュヴァルツェア・レーゲン"の画面にそう表示された瞬間、私の意識は途切れた。
ここではVTシステムが強制的に起動した体でいきたいと思います。
既に一夏以外の人間とは和解済みなので、ラウラは不本意ながら起動してしまったという感じ。
シャルえげつない。