久々の戦闘シーン。
<2週間後、第一アリーナ>
そうして、2週間の月日が流れた。
タッグを組んだ俺とセシリアは連日のように訓練を行い、学年別トーナメントの本選に向けてコンビネーション技なんていうのも開発している。
元々学年別トーナメントは予選と本選の二つに分かれており、予選を勝ち抜いてきたタッグのみが今日催される本選に参加することができるのだ。
そして今、俺達は同じピット内で自分達のISの最終チェックを行なっている。
「うへぇ、なんか緊張してきたなぁ」
「あら、彰久さんが緊張なんて珍しいですのね」
「紳士は緊張に弱いのさ……あぁ、なんかムラムラしてきた」
「意味わかんねぇコイツ」
彼女のからのツッコミを受け流しつつ俺はセシリアの"ブルー・ティアーズ"を一瞥した。
訓練した時に聞いたが、セシリアにも追加武装が送られてきたらしい。
その名も「ティアーズ・イン・ヘヴン」。
ビット数を敢えて減らし機動力を向上、そして以前のような両手持ちのレーザーライフルではなく片手持ちのビームライフルを二挺装備している。
これは連結し一丁のライフルにすることも可能で、威力も飛躍的に上昇するのだ。
『まずは第一試合、草薙・オルコットペアvs鈴音・ハミルトンペアです。両者、ISを纏った状態でアリーナへ入場してください』
「そろそろ時間ですわね、行きましょうか」
「おっし、腹決めますか! 勝とうぜ、セシリア」
「はい! 」
アナウンスがピット内に響くと、俺達は互いに自身のISを纏う。
対戦相手は鈴ちゃんとティナちゃんという女の子のペアであった。
一度話したがかなり大人っぽく、セシリアと同じ金髪碧眼であってもまた違った魅力がある娘である。
使用ISはアメリカの第二世代だというが、ここの本選まで上がってきたということはかなりの実力を持っているのだろう。
油断はできない。
先に白と青のツートンカラーのISを纏ったセシリアがカタパルトから射出され、アリーナへと優雅に飛び立っていく。
一方、俺は変形した状態でカタパルトから射出された。
さあ、覚悟を決める時だ。
セシリアの為にも負けられない。
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<第一アリーナ、彰久視点>
変形したままアリーナへ飛び立つと、そこには既に3人の人影があった。
どうやら俺が最後だったみたいで、結果的に鈴ちゃん達を待たせてしまったようである。
改めて彼女らの方を見ると、なんともカラフルなISを纏っているものだ。
鈴ちゃんは以前見た赤と黒を基調としたカラーリングで、今回は手足がより刺々しく重厚感のある作りとなっている。
一方ティナちゃんの方は胴体部だけは紺色で、あとは全て白といったようなシンプルなツートンカラーであった。
頭部には紺色のバイザー状の装備を身につけ、その姿がまたなんとも言えない。
『さあいよいよ始まります、学年別トーナメント本選の第一試合! 最初からクライマックスだぜと言わんばかりに代表候補生と男性操縦者のカードが出そろいました! 実況はこの私、黛薫子と解説は山田真耶先生でお送りしたいと思います! 』
『皆さん、よろしくお願いします』
『今回第一試合の選手が使用するISは草薙選手が"ギャプラン"、オルコット選手が"ブルー・ティアーズ"に対して鈴音選手が"甲龍"、ハミルトン選手が"ジム・スナイパーⅡ"となっています』
『詳しい情報はありませんがそれぞれ新武装を追加してるとの事。楽しみですね』
本格的な実況をするのは前に俺達にインタビューをけしかけた新聞部の副部長である黛先輩。
あの人はほんとに何をやっても似合うものである。
なぜここまでの実況を催す羽目になったのかというと、世界中の政府の役人やIS関連企業の重役たちが学園の観客席に集結しているからであった。
無論その中にも小木曽さんと片桐さんも来ており、追加武装の実戦的な成果を採取する為にわざわざ来てくれたのである。
この学年別トーナメントは政府や所属する企業から送られてきた試験機のデータを取る、といった意味合いも強く、少なくともこの場にいる全員はそれに該当するだろう。
「では、改めて……。お手柔らかに頼むわ。草薙君、オルコットさん」
「手加減は無用よ! 全力で掛かってらっしゃい! 」
「言われなくても全力でお相手致しますわ! 」
「変なとこ触っても文句言うなよ! 」
『では山田先生、試合開始の合図を』
『はい……。ISファイトォ、レディーゴーッ!! 』
キャラ崩壊なんて気にしねぇと言わんばかりに真耶先生がマイク片手に試合開始の合図を告げる。
使い古したネタなのは言わずもがなだ。
「先手必勝! 」
その瞬間、いち早く変形した俺はティナちゃんに急接近した。
もし鈴ちゃんが前衛を務めるのなら、いち早く後衛であるティナちゃんを叩いた方が少しでも優位に立てると踏んだ結果である。
しかし。
「早いわね、さすが第三世代でトップクラスの速さを誇る"ギャプラン"……。けど! 」
「ちィッ! 」
「ご生憎様、遠距離だけだと思ってたかしら? 」
彼女は俺の突進攻撃を左手に展開したビームサーベルで易々と受け止め、鍔競り合った。
まずい、このままではセシリアが攻撃を受けてしまう。
「鈴! 」
「隙有り、ってね! 」
「彰久さん! アレを! 」
「……オーケー! 」
がら空きになったセシリアをカバーするように俺はすかさずティナちゃんとの距離を取り、変形してセシリアの元へと急いだ。
どうやら彼女はこうなる事を見越していたのか、敢えてビットはまだ展開させていなかったみたいである。
つくづくセシリアには助けられてばかりだ。
追撃や反撃を食らう恐れがあるものの、今回ばかりは気にしていられない。
「セシリア! 乗れッ!! 」
「はい! 」
変形した状態のギャプランは第三世代のISの中で最速を誇る。
このように一撃離脱も難しいことではなく、セシリアに迫っていた鈴ちゃんの"双天牙月"を避けることにも成功した。
『おお! 可変したギャプランの上にオルコット選手が乗りました! あのような事も可能なんですね、ギャプランは! 』
『構造上は可能ですが、バランスを保つのが難しいと思いますね。良い子の皆さんは真似したらいけませんよー? 』
激しい実況とゆるい解説がなぜか耳に残るが、今はそんなことを気にしている暇はない。
この状態を保つのは難しく、セシリアと練習した時も成功したのは僅か数回であった。
あぁ……セシリアが俺の上に……うっ!
ムラムラしてんのに上に乗るとかさすがセシリア、天然ドSなだけあるぜ。
「このまま巡航するぞ! しっかり捕まってろ!! 」
「くっ……なかなかGがきますわね……! 」
「ティナ! あたしが追跡するから後ろから援護をお願い! 」
「了解! 」
セシリアを背中に乗せつつ下方の方を見ると赤いISを纏った鈴ちゃんがこちらの後ろを追うのとティナちゃんが大型のスナイパーライフルを構えるのが見えた。
「今だ!! 飛べッ!! 」
言われた通りにセシリアが俺の背中から飛び立ち、向かう先はティナちゃんの元。
狙いはあの二人を引き離し、火力で勝るセシリアにティナちゃんを、機動力で勝る俺に鈴ちゃんを戦わせることであった。
そして俺はその速さのまま空中変形し、全身に強烈なGがのしかかる。
「ぐうぅぅぅぅぅ……ッ!! やぁってやるぜ、アキヒサ・スペシャルッ!! 」
「きゃっ!? ……相変わらず、むちゃくちゃなことやるじゃないっ!! 」
空中変形の圧力を軽減する為にその場で一回転をした後、その勢いのまま向かってくる鈴ちゃんに膝蹴りをお見舞いした。
相当な衝撃だったのか彼女は体制を崩し、大きく隙を露わにする。
その隙を逃さんと俺は右手に"ロング・ブレード・ライフル"を展開し、鈴ちゃんに向けた。
ピンク色のレーザーが数発彼女に殺到し、手足を貫いていく。
まさか命中するとは思わなかった……。
「エマさん! セシリアの方は? 」
『今映像に映すわ』
サイドカメラで映しているせいか画質が悪く見えにくい。
辛うじて分かるのはセシリアがビットを展開していることぐらいだろうか。
彼女が動けない今、鈴ちゃんにそれを悟られたらまずいことになるだろう。
何としても俺が止めないとな……。
「やったわね彰久! 」
「うおっ!? 近いっ!? 」
意外にも復帰が早かった鈴ちゃんは連結した"双天牙月"を振りかぶってきており、その刃は今にも俺を切り裂かんと唸りを上げている。
ビームサーベルを展開している暇はない。
だから……こいつがあるんだ。
「ちょっ!? 変形するのソレ!? 」
「見りゃわかんだろっ!! 」
グリップのボタンを押して"ロング・ブレード・ライフル"を剣形態に変形させると、間一髪で"双天牙月"を受け止めることに成功する。
この機能がなければ今頃大幅にシールドエネルギーが削られていただろう。
危ない危ない。
彼女の青龍刀を弾き返すと、今度は仕返しとしてそのまま剣を突き出した。
だが鈴ちゃんの反応速度は凄まじく、見事俺の攻撃を受け止めてみせたのである。
さすが中国の代表候補生と言われるだけあるな。
「うおぉぉぉぉぉぉぉッ!! 」
「でやぁぁぁぁぁぁぁッ!! 」
激しいの一言に尽きる俺達の剣舞に沸き起こる観客席。
だが確実に俺のシールドエネルギーは減らされており、少なくとも良い状況とは言えない。
鈴ちゃんは連結した"双天牙月"を二刀流に戻し、俺はビームサーベルと"ロング・ブレード・ライフル"でそれを防ぎつつ反撃に持ち込むという繰り返しなのだ。
迫る彼女の"双天牙月"を受け止めようとした、その時である。
「ごあ……ッ!? 」
突如腹部に強い衝撃が襲い、肺に溜まっていた酸素が吐き出された。
身体をくの字に曲げたままの俺の視界に入ったのは鈴ちゃんの脚部である。
「武器を持ってる相手が格闘しないなんて誰が言ったのよッ!! 」
「ぐっ……ぉッ! 」
なぜ試合開始の時に気付かなかったのだろうか。
彼女が肩に付けていた衝撃砲を外し、手足に強化ユニットを装着していたかを。
至近距離こそ格闘戦が最も活きる間合いなのは千冬さんに散々教えられたのにな。
だがこのまま引き下がる俺ではない。
格闘から逃れるには距離を取れば良いのだが、鈴ちゃんがぴったりとくっついて来るためにそんな簡単な事も出来ないでいる。
剣形態の"ロング・ブレード・ライフル"を反撃として彼女に振りかざすが易々と左腕で防がれ、横から強い衝撃を受けた俺はそのまま吹っ飛ばされた。
よし、読み通り。
敢えて強い攻撃を食らうことによってその間合いから離れることに成功した。
大きくシールドエネルギーを減らされたな、もう無茶は出来無さそうである。
「…! しまった!? 」
その事に気付いたのか、鈴ちゃんは吹き飛ばしたギャプランに詰め寄ろうとブーストを吹かす。
しかし時既に遅し、俺は変形しており一直線にセシリアと交戦するティナちゃんの元へと向かっていた。
セシリアに向けてアサルトライフルを射撃する彼女は、いち早く迫る俺の姿に気付く。
すかさずティナちゃんは俺に使い捨てのミサイルを迎撃として発射した。
俺に向けて発射されたミサイルを射ち落としたが眼前に煙が立ち込め、俺の視界を塞ぐ。
もしや彼女は視界を奪うことが目的だったのか?
「狙い撃ちますわっ! 」
「そう来ると思ってた。鈴! 」
「任せなさいっ! 」
「え……きゃあっ!? 」
「セシリア!! 」
ティナちゃんがセシリアの攻撃を受けそうになった瞬間、絶妙なタイミングで鈴ちゃんが割り込んできた。
背後から攻撃を受けたセシリアはそのまま地面へと叩き付けられる。
だが、これはある意味チャンスかもしれない。
次の攻撃までのタイムラグが存在するのなら、狙うのはそこだ。
俺が先に狙ったのは鈴ちゃん。
今後の試合を有利にするなら、ギャプランに近接戦闘で勝る"甲龍"を優先して倒した方が良いだろう。
先程のミサイルの煙が晴れると真っ先に鈴ちゃん目掛けて両腕のシールドビームライフルを放ち、絶え間なく"ロング・ブレード・ライフル"で撃ち続ける。
「あ、ちょっ、やばっ!? 」
何発も命中しているのか、焦りの声が聞こえた。
ビームサーベルを持って俺に迫るティナちゃんと地面に膝を着く鈴ちゃんの姿が視界に入る。
彼女のビームサーベルはギャプランの"ムーバブルシールドバインダー"を貫き、腕部に直撃するとシールドエネルギーが大幅に減少していった。
左腕だけで済むなら安いものである。
片桐さんとか真琴ちゃん辺りが悲鳴を上げてそうだが。
「ぐっ……うおぉぉぉぉッ!! 」
「なっ……!? 何ですって!? 」
本能的に剣形態へと移行し、そのまま至近距離のティナちゃん目掛けて縦に振り下ろす。
「肉を切らせて骨を切る」、とはこの事を言うのだろう。
肉じゃなくて盾だけど。
彼女の"ジム・スナイパーⅡ"からシールドエネルギーが切れた警告音が鳴り、俺は攻撃を止める。
試合終了のブザー音が鳴り響き、一斉に観客席から歓声が沸き起こった。
『勝者、草薙・オルコットペア! 』
無我夢中で戦っていた俺は、アナウンスによって自分達が勝ったことをようやく知ったのである。
なんか途中マンネリ化してました。
タッグで試合する場面って描くのすごく難しいですね。
それとここで鈴ちゃん、セシリア、ティナちゃんの武装説明です。
<ティアーズ・イン・ヘヴン>
イギリスの第三世代IS"ブルー・ティアーズ"専用のパッケージ。
本来のビットの数を減らし、腰部分にマウントすることによってそこからレールガンを放てたり、機動力を確保するためのスラスターに使用できる追加武装。
また巨大特殊レーザー長銃の"スターライトmkⅢ"から二挺の自動レーザー小銃"パニッシャー"に主力武装が変更されている。
<甲牙>
中国の第三世代IS"甲龍"専用の追加パッケージ。
衝撃砲"龍咆"を外す代わりに近接戦闘を主とした武装になり、手足に超小型の近接ブレードが幾つも装備されるため素手での格闘戦も行える。
この追加武装を装備することによって近接攻撃力が劇的に上昇するが、遠距離攻撃が行えないために相手に近付くまでが困難という諸刃の剣。
<ジム・スナイパーⅡ>
アメリカの第二世代型IS"ジム"の遠距離特化型。
スナイパーライフルの他に中距離戦用にアサルトライフル、近距離戦用にビームサーベルが搭載。
この機体の他に近接特化型の"ジム・ストライカー"などが存在し、戦況によって幅広い機体セレクトが行える。