今回は小木曽さんがメイン。
こういった別視点も多めにしていきたいです。
<ラーク・メカニクス社内、社長室>
IS開発に名乗りを上げて早2年、地道な営業と度重なる研究によりラーク・メカニクス社は今や一流企業へと発展していた。
その社長を務めるのが現在満足げに葉巻を吹かしているこの男、"小木曽 孝典"である。
今日もいち早く会社に来ては、こうして一人で一服するのが彼のマイブームであった。
「社長、おはようございます」
「お、片桐くんか。やっはろー」
一口吸った葉巻を灰皿に置いた途端、社長室の扉からノックの音が聞こえ、ラーク・メカニクスの技術顧問である片桐恭弥が入室する。
彼もこのラーク・メカニクスにとっては欠かせない存在であり、彰久の"ギャプラン"を実用化したのもこの片桐であった。
「もうすぐ定例会議の時間です。お急ぎを」
「え? もうそんな時間? なんだぁ、この後ゴッドイーターしようと思ってたのに」
「なんで会社にVita持ってきているんですか。後で僕も混ぜて下さい」
「片桐君もノリノリじゃないか」
既に8時30分を差していた時計を一瞥すると、小木曽は掛けてあったスーツのジャケットを着て社長室を一足先に出て行く。
彼につられて、片桐も会議室へと向かうことにした。
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<ラーク・メカニクス社、会議室>
このラーク・メカニクスでは毎週こういった定例会議を開き、業績・今後の方針・新しい技術案件などさまざまな内容について話し合われている。
片桐のような技術顧問や小木曽のような会社のトップ、人事部長や営業部の人間などラーク・メカニクスにまつわる重要な役職に就いている人物がそこにはいた。
ゴッドイーターなどやってる暇もないのは当たり前である。
「社長、おはようございます! 」
「うん、おはよう。遅れてごめんね、早速会議を始めようか」
入室すると大勢の重役たちが立ち上がり、彼に向かって一斉に頭を下げた。
手を挙げて彼らの挨拶に応えると、再び重役たちは自分の座席に着く。
「では、まず今日の議題を。片桐くん、ホログラムに映してくれるかい? 」
「はい」
彼らの座る大きな机の真ん中にライフルの形をしたホログラムが現れ、重役たちは驚嘆の声を上げた。
これこそがギャプランの新武装、"ロング・ブレード・ライフル"である。
「今日はこの"ロング・ブレード・ライフル"を実用化するに当たって、みんなの意見を聞きたい。片桐くん、全体的な性能の説明を頼む」
「はい。今回我々技術班が開発したこの武器は、ギャプランの僅かな拡張領域を埋める為とエネルギー効率を更に向上させる為に製作しました」
「そのスペックはどうなんだ? 」
「内蔵エネルギーは約15発。ムーバブルシールドバインダーよりも少し装弾数が多く、威力も上がっています。ですが、着目すべき点はここではありません」
片桐がタブレットを操作すると、ホログラムに表示されたロングブレードライフルの銃身が縦に可動し剣のような形に変わった。
この際に銃床も量子化されており、剣形態として持ち易くなっているのもポイントである。
「ホログラムでお見せした通り、このロングブレードライフルは剣形態に移行します。これによってビームサーベル1本分のバッテリーが節約可能で、戦闘手段の幅が広がると予想しています」
ギャプランの問題点は"エネルギー効率の悪さ"と"万能型ISなので器用貧乏となる"という事だ。
すなわち片桐は武装を追加することによって上記の問題を解消する目論見である。
「ふむ。確かに、テストパイロットの草薙君から取れたデータを見る限りではエネルギーを浪費せざるを得ないようだな。私はこの武装の実装に賛成だ」
「片桐くん、ギャプランが可変した際にはそのロングブレードライフルはどうなるんだい? 」
重役の一人が配られた資料に目を通しつつ、"ロングブレードライフル"の実装に賛成の旨を片桐に伝えた。
もう一人の質問に対して彼は再びホログラムの映像を変えて説明を行う。
「現段階では可変機構にこの武装を組み込むことは不可能です。二次移行するか、ISコアを書き換える必要がありますが、初期化や暴走する恐れがあるためこの手段は極めて危険と言えるでしょう」
「そうか。ならばもう一度量子化する必要があるわけだね」
頷くことによって片桐は彼の質問に答え、ホログラムの映像を閉じた。
次第に会議室の電気が再び点灯し、片桐は重役たちに一礼してから自分の席へと戻る。
「というわけでこの"ロングブレードライフル"をギャプランに実装する、ということでいいかな? 賛成の者は挙手を、反対の者はそのままにしていてくれ」
小木曽がこの場にいる全員にそう告げると、一斉に重役たちの手が挙がった。
満場一致の賛成、ということになる。
「そうか、ありがとう。では、この件に関しての会議は終わりとしよう。各自、仕事に戻ってくれ」
彼の一言によって一斉に部屋を出る重役たち。
小木曽自身も部屋を出ようとしたその時、一人会議室に残った片桐に呼び止められた。
一体どうしたんだろうか。
「社長、実はISコアの解析を進めていたら興味深い情報が出てきたんです」
「解析を? 危険じゃないのか? 」
「いえ、解析自体は普段の研究で行なっていますので問題ありません。ISコアに記されている情報を書き換えることが危険なだけであって、我々もそのラインは守っています」
「ほう、そうなんだね。それで、興味深い情報っていうのは? 」
小木曽がそう彼に尋ねると、片桐は先程操作していたタブレットを小木曽に手渡した。
その画面には[Hrairoo]という謎の単語が記されており、彼は目を見張る。
「"フライルー"……? これは一体なんだい? 」
「僕らにもわかりません。ただ、ギャプランに関係した何かだとしか断定できません」
「そうだね……。君たちの身に危険が起こらない程度に研究を続けてほしい。何か分かったことがあったら私のところに来てくれ」
「はい、わかりました」
ギャプランに隠された"フライルー"の文字。
その言葉が、より一層謎を深まらせた。
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<ラーク・メカニクス社内、小木曽視点>
そうしていつものように業務をこなすこと数時間、私は一息入れる為に社長室に備え付けられてあるバリスタでコーヒーを淹れる。
砂糖とミルクを少量入れると、真っ黒だったカップの中の水面は白と混ざり合って絶妙な色を作りだした。
ギャプランに記された"フライルー"という文字……。
あれは一体何なのかは想像もつかない。
「あ、そうだ。彰久君に連絡をしておかなくちゃ」
この歳になると独り言も増え、改めて自分自身の老いを実感する。
もう47歳、彰久くんからしてみればお父さんの年齢だろう。
スーツのポケットからスマートフォンを取り出し、私は電話帳の中から彰久君の電話番号を選択し、彼に電話を掛けた。
『あっ、ちょっと待ってタンマ! 電話来たから! 』
「もしもし、彰久君? 今大丈夫かな? 」
『はい! 小木曽さんからかけてくるなんて珍しいですね、何かあったん……あっコラ真琴ちゃん!? 勝手に俺のターン進めないでよ!? 』
「あはは、ずいぶん賑やかだね」
数コールで呼び出しに出るものの、彰久君はなんだか取り込み中のようだ。
それもそうか、もう夜だしね。
『すいません小木曽さん、今ちょっとマリオパーティしてて他の友達が俺のターン進めるんで胸揉んで阻止してきました』
「そりゃまたなんとも強引なやり方だね……いいかい、もっと胸を揉む時には優しく触るんだ」
『彰久のエッチ! 変態! ドスケベ! なんでいつもそうセクハラすんねんアホ! 』
電話越しに聞こえてくる女の子の罵声と共に彰久君の断末魔が聞こえてくる。
どうやら彼は、私の学生時代と同じような生き方をしているようだ。
いつ聞いても女の子の関西弁はいいね。
『ぐ、ぐふっ……だが俺は変態紳士、ここで力尽きるような男ではない! 』
「あー、彰久君? 喋ってもいいかな? 」
『あっ、すいません小木曽さん。んで、どうして俺に電話を? 』
「今週の日曜日にギャプランの追加武装を搭載する為に、ギャプランをこっちに持ってきて欲しいんだ。もうすぐそっちでISを使ったイベントがあると聞いたからね、こちらとしても新兵器でデータを取っておきたいんだ」
『エマさんが言ってた"ロング・ブレード・ライフル"、ってやつですか。わかりました、今週の日曜日にラーク・メカニクスに行けばいいんですね? 』
「うん、そうだよ。あとIS学園でギャプランの整備をしてる子も連れて来てほしい」
これは片桐くんからのお願いで、今後ギャプランをこっちに持ってきて整備する手間を省きたいらしい。
確かにここからIS学園とは結構な距離だ、そうするのも無理はないだろう。
『了解です。彼女にあらかじめ伝えておきますね』
「頼んだよ。じゃあ、私はこれで」
『あ、そうだ! 前のお願いの件、もしかしたらそちらへ赴く時に伝えるかもしれません』
「分かった。よく考えておいてくれ」
そういえば彰久君にそんな約束を以前持ちかけていた。
彼に別れを告げると、私はポケットにスマートフォンを仕舞う。
一体どんなお願いかは想像もつかないけど、男に二言はない。
総力を上げて叶えると彼に約束したのだ、破るわけにもいかないだろう。
「さ、もう一踏ん張りしますか」
既に冷めたコーヒーを飲み干し、私は再び机に座りデスクワークを始めた。
小木曽さんも変態紳士の一人でした。
こうしてみると彰久くんの周りって割と碌な大人がいないね。