風邪辛い。
<翌日、第三アリーナ>
そうして迎えた翌日、ようやくIS使用禁止令が解除された俺は今までの鈍りを戻すべく一夏達と共に放課後アリーナを借りて訓練をしていた。
もうすぐ学年別トーナメントというのもあってかより一層アリーナの予約が殺到し、辛うじて取れたのが1時間だけというシビアな環境で訓練をしなければならない。
今回は射撃のみのトレーニングということで、主にセシリアやシャルが先導して俺達に教えてくれており、全員が二人の使用許可を得た射撃武器を手にしている。
「安全装置を外して、っと。狙い撃つぜ! 」
「さすが、ビーム兵器を使ってるだけあって基本動作はいい感じだな彰久。俺とか箒はさっぱりだよ」
「ま、狙撃の鬼と言われたセシリアに散々絞られたからな。基本動作なんて嫌でも学ぶさ」
「だって彰久さん、"もっと罵るように! ゴミを見るような目で教えてくれ!"なんて仰いますから……。本当はやりたくありませんのに、貴方の為を思ってやっていますのよ? 」
「ちょっと待ちなさい、アンタ達何やってんの」
「SMチック射撃訓練だ」
若干引かれたみたいだが、これが本当に上達の道へと進むのでやめるにやめられない。
もちろん快感の方が大きいので余計に俺の体質に合っているのだろう。
多分セシリアもノリノリだ。
「そ、そういう訓練の仕方もあるんだね……はは……」
「無理に相槌を打つ必要はないぞシャルル、あいつはアブノーマルだからな」
「アブノーマルとは失礼な箒ちゃん。俺は全世界の紳士の欲望を体現しているのだぞ! 」
「自分で欲望と認識してる辺りタチが悪いのだお前は! 」
「ええい! いくら箒ちゃんでも紳士フレンズのことをアブノーマルと言うのは許せん! 変態神拳奥義、紳士マドハンド! 」
「甘いッ!! 」
「ぱぴおんっ!! 」
いくら女の子といえど紳士達のことをアブノーマルだといわれるのは耐えられん。
仕返しに胸を揉む構えをとったが、相手は剣道有段者。
あっさり返り討ちに遭い、床を舐める羽目になった。
「はぁ……床冷てぇ……」
「もう彰久が倒れてる光景が日常茶飯事に思えてきたよ」
「大丈夫だ、俺なんか3年以上見てるからスルー出来る」
「スルーが一番ダメージデカいんだよ!! 」
変態紳士が一人、涙を流したという。
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<夕方、食堂>
そうして訓練を終えること1時間後、箒ちゃんが一夏に用があるみたいなので俺達は先に食堂へ行って彼らを待つ事に。
彼女が一夏に話を持ちかけた瞬間、鈴ちゃんが少し複雑そうな表情を見せたがセシリアの励ましによってなんとか修羅場は避けることに成功した。
「そういや鈴ちゃん、クラス対抗戦のあと一夏とはどうなったんだ? 」
「あー……うん、とりあえずあの"賭け"はなしになった。結局対抗戦も中止になっちゃったし、お互い公平にいこうって事でさ。……セシリアとか彰久、真琴には悪いことしちゃったかもって思ってずっと言い出しづらかったんだ」
「そんな悪いだなんて……。大丈夫ですわ鈴さん、気になさらないで? 」
「そうそう。むしろよく頑張ったって言いたいな」
「ありがとう、そう言ってくれるとあたしも有難いよ」
そうして席を確保すること数分、各々夕飯のプレートを持ってきて食べ始める俺達。
鈴ちゃんは俺や真琴ちゃん達のことを気に掛けてくれていたみたいで、申し訳なさそうに真実を告げる。
「ねぇねぇ、そういえばみんなは学年別トーナメントのタッグって決めた? 」
「そういえばもうすぐですわね。わたくしはまだ決めてませんわ」
「あたしはルームメイトの子と組んじゃったかなぁ。シャルルはどうなの? 」
「僕は一夏と組んだよ。男子同士組んだ方がいいと思うし」
辛気臭い雰囲気を一蹴するようにシャルが話題を変え、ここの座席は学年別トーナメントの話題で持ち切りとなった。
さすがシャル、人の気持ちや空気を読むのが得意なだけあるぜ。
「ちょうど俺とセシリアもフリーだし、ここでタッグ結成しとくか? 」
「えっ、あ、そ、そうですわね! そうしましょうか! ……先に誰かと組まれたら嫌ですし」
「ふふふ……今のデレはしっかり録音した。今日の夜のお供はこれで決まりだな」
『安心してセシリア。今遠隔操作で削除したから』
「オーマイガッ!! 鬼畜にも程があるぞ!! 」
「グッジョブエマさん」
ただでさえ女子の中に男子2人だけが放り込まれて辛い(性的な意味で)のに、夜のお供さえ制限されてしまったら一体俺は何を糧に生きていけばいいのか。
女の子の全裸とか?
余裕だな。
「あー、もうほらほら。男が簡単な事で泣くんじゃないわよ。つーかアンタも悪いんだからね」
「反省してまーす」
「うわぁ、見るからに反省してねぇコイツ。しかも今さらスノボーの国〇ネタ持ってきちゃうのかよ」
「もはや懐かしく感じるね」
地面に膝を着いて涙を流す俺に仕方なく鈴ちゃんが手を差し伸べる。
今日俺は何回涙を流せばいいんだろうか。
ひとまずタッグを組み終えた俺達はその後普通に夕食を取り終え、各々寮部屋へと戻っていく。
待っていた一夏たちの姿は見えずにどこか不安が募るばかりだった。
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<同刻、箒視点>
彼らと別れて数分後、私は一夏に"ある話"を持ちかけていた。
それは、"今度の学年別トーナメントで優勝したら、話を聞いてほしい"と。
我ながら愚かな考えだとは思うが、これだけの生徒がいていつ彼に告白するのかは予測できない。
"思い立ったが吉日"とはよく言ったものだ。
だが一夏は一体どんな捉え方をしたのだろうか。
唐変木のあいつのことだ、重要視はしていない可能性だってある。
そう道端で考え込んでいると、背後から私の名前を呼ぶ声がした。
「すまない。篠ノ之、少しいいか? 」
「お前は……ボーデヴィッヒ、だな」
なんとも意外な人物が話しかけてきた、と私は密かにそう思う。
IS実習の時に少し話したぐらいで、それからは疎遠になっていた。
だが分け隔てなく女子とは接するらしく、教室でもよくISのテクニックについて質問されてるのを見かける。
なぜ一夏には当たりが強いのだろうか。
「少し、話がある。聞いて貰えないだろうか? 」
「構わない。どうしたんだ? 」
「実は……今度の学年別トーナメント、どうやらタッグで出場するみたいでな。私の知り合いはもう組んでしまった人間が多く、それに篠ノ之は剣の腕が立つと聞いた。もし嫌なら断ってくれても構わないが、私とタッグを組んで貰えないだろうか」
「え、あぁ。私なんかでいいのか? IS操縦もまだまだ素人同前だし、剣道をやっていたとしても距離の詰め方などは分からない。確実にボーデヴィッヒの足を引っ張ってしまうと思うが……」
「それは私が教える。このままでは学年別トーナメントに出られなくなってしまうんだ、頼む。この通りだ」
「あ、頭を上げてくれ! 私は全然いいから! 」
驚いた。
まさかここまでボーデヴィッヒが素直な人間とは思わず、つい私は彼女に返答できないでいた。
クラスの人間に慕われている理由がなんとなく分かった気がする。
「私も組む人を探していてな、ちょうど良かった。よろしくな、ラウラ」
「あ、あぁ! こちらこそよろしく頼むぞ、篠ノ之! 」
「ふふ、箒でいい」
子供のように笑顔を作り喜ぶ姿を見ると、なぜか私まで気持ちが明るくなってきた。
うむ、ラウラの為にも私の為にも頑張ればいけないな。
こうして、私とラウラは一夏たちに内緒でタッグを結成した。
来週はいよいよ学年別トーナメント、どんな結果が待っているのだろうか。
というわけでこの回自体微妙な感じになりました。
まあ学年別トーナメントの仕込みみたいな回なので。
次回はギャプランの新武装回になりそう。