今回は"なぜか"彰久がイケメン回です。
もうやだこの変態紳士。
<放課後、彰久とシャルルの寮部屋>
漫画のように鼻から尋常じゃないほど鼻血を吹き出して気絶した俺は、目を覚ますと寮部屋のベッドに寝かされていた。
あ……ありのまま今起こったことを話すぜ!
俺はシャルルくんと風呂場で裸の付き合いをしようとして扉を開けたが、シャルルくんは"女子"でそこには生の肉まん(※彰久の例えです)が目の前に広がっていた……。
何を言ってるのかわからねーと思うが、頭がどうにかなりそうだった……。
(へ、ヘルプミーエマさん! さすがの変態紳士もこの状況は体験したことないから非常に焦っているんだぜ! )
『正直私も手に負えないわ。任せたわ彰久』
(あっ、ちょっと!? おい亀〇ヘアー!! )
『後であなた十万ボルトね』
藁にもすがる勢いでエマさんに助言を求めると、彼女は呆れた様子を見せてスリープモードに入ってしまう。
〇頭ヘアーと言ったのは謝るが、この空気に放っておかれるのはなかなか辛いものがある。
変態紳士セクハラアタックをしたらだいたい攻撃が返ってくるのに対して、シャルルちゃんはただ赤くなって恥ずかしそうに俯いているだけであった。
「あー、その……シャルル? 」
「へっ!? あ、お……起きたんだね、彰久」
先程の光景もあってか、俺と彼女の間にはかなり気まずい雰囲気が流れている。
そりゃそうだ、裸を見られた男と会話なんて相当胆力がないとできる行動ではない。
俺の場合は死んでいいくらいの絶景だったのだが、この空気でそれをぶち撒けると更に悪化してしまうのは目に見えていた。
「よし! まずは落ち着いてお茶飲むぞお茶! 一旦事態を整理しよう」
「そ、そうだね! 僕お湯湧かしてくるよ! 」
「た、頼む! 俺は湯呑みとか用意しとくから! 」
お互いを意識してるのが第三者から見たらバレバレなのは確実だが、現段階でこの雰囲気を打開できるのはこうして気を紛らわせるぐらいしか浮かばなかったのである。
まずいぜ……何度もあの光景が思い浮かんできて息子がセカンドシフトしてるぜ……。
くっ……静まれ俺のマイサンよ……。
よそよそしく緑茶の準備を終えると、俺はキッチンに茶葉の入った急須を持っていく。
シャルルちゃんが既に電気ポッドでお湯を沸かしており、俺は蓋を開けてお茶を立てる。
もともと緑茶や急須を見るのが初めてなのか、急須を持つ俺の手にしがみつきその様子をじっと彼女は見つめていた。
あぁ……今腕に幸せな柔らかい感触が……。
やっぱり男の娘ではなく女の子が一番だなぁ……。
「……彰久? どうかした? 」
「はっ!? 違う違う違う! これは決してシャルルの胸の感触に浸ってたわけじゃ……あっ」
「……彰久のえっち」
「すまんシャルルちゃん、今の台詞もっかい頼む。今夜のオカズにすr」
『はい十万ボルト』
「あばbbbbbbbb」
上目遣いで赤面しながらそんな事を言うものだからついiPhoneを取り出して今彼女の放った台詞を録音しようとするものの、突如現れたエマさんの十万ボルトにより阻止された。
「見事に黒コゲだね彰久……」
「ノータッチで頼むシャルルちゃん。それより、本題に入ろう」
無事緑茶を入れてテーブルに置くと、俺達は椅子に向い合せに座ることに。
十万ボルトによって見事に黒コゲとなりアフロヘアとなった俺は、あまり真面目に話を聞く姿勢ではないように思われてしまうがそんなことはない。
「まず、どうしてシャルルちゃんは男としてこの学園に? 何らかの理由があるとしても、なぜ性別を偽る必要があったんだ? 」
「話すと長くなるけど、デュノア社って知ってるよね。僕はその社長と愛人の間に生まれた子供で、2年前に母さんが死んで本家の方へ引き取られたんだ。いわゆる妾の子ってやつだね」
「…! 」
「父さんは僕を迎えて勿論良くしてくれたよ、奥さんとの子供が出来なかったせいでね。けど、やっぱり妾の子というせいもあってか次第に距離を置くようになったんだ。ある日IS適正が高いことを知った僕は父さんにあることを持ちかけた」
平然と自分の過去を話す彼女だが、本当は辛いはずだ。
女の子にそんな辛い思いをさせていいはずがない。
「それが、"IS学園に男として入学する"ってことか」
「そうだよ。デュノア社はIS開発の遅れによって赤字が多発しててね、打開するにはもう一度世間の目を向ける必要があった。それに、一夏か彰久のISデータを回収する為でもある。何より、僕は父さんと母さんの役に立ちたかったんだ。あはは、哀れだよね……。両親に振り向いて貰おうという甘い考えで請け負ったんだからさ……」
哀しそうに笑顔を浮かべるシャルルちゃんを見て、俺はなんとも言えない複雑な心境に陥る。
俺は……目の前で女の子が苦しんでるのに何も出来ないのか……。
変態紳士、何かいい案は……。
「……もういい。もういいんだ。それ以上話さなくていい」
「あ、彰久? 」
それは、彼女を優しく抱きしめることであった。
普段の言動から通報されてもおかしくはないが、シャルルちゃんは抵抗せずに俺を受け入れる。
「……ねぇ、彰久? 少しだけ、このままでもいいかな? 」
「俺の胸でいいなら、幾らでも貸してやる」
「うん……。十分だよ。なんだか、あったかいから」
その後、彼女は声を殺して泣いていた。
誰にも悟られないように、ただ己の孤独さを悲しんで。
空気を読んだのかこの時ばかりはエマさんも何も口出しはしなかった。
シャルルちゃんの話を聞いていたのもあるだろう。
「……うん、少し落ち着いた。ありがと、彰久」
「そっか、そいつは良かった。しかし、これからどうするんだ? 」
「彰久に女である事がバレちゃったし、フランスから強制送還命令が下るかもしれない。あとは一夏のデータが残っているけど、いずれは彼にもバレるだろうしね。父さんの会社は、もう元には戻らないかもしれない」
「……いや、待ってくれ。まだ方法はあるぞ」
彼女が泣き止むのを待ち続けること数分、シャルルちゃんは俺の身体から離れて赤くなった目をこすった。
どうやらデュノア社から与えられた任務に失敗した為に、故郷であるフランスに無理やり帰らさられると予想しているらしい。
だが、ある方法が思い浮かんだ。
以前千冬さんと共にラーク・メカニクス社を訪れた(倍返しした)時、小木曽さんが"何かお願いがあったら本社が総力を挙げて協力する"と約束してくれたはずである。
「俺のギャプランを開発した会社に心辺りがある。ラーク・メカニクスだ、彼らはIS開発自体が初の試みだと思うからきっとデュノア社の技術やキャリアに興味があるはず……」
「そ、そこまでしてもらう訳にはいかないよ! 彰久達を騙してたのに……どうしてそこまで……? 」
「友達が学校をやめそうなほど困ってるのに、黙って見過ごす奴はいないよ。まあ任しとけ、どうにかなるさ」
「友だち……だから……」
「あとな、これを見てみろ。"学園は如何なる国家にも属さず、企業や政府は干渉できない"、これはシャルルちゃんにとって大きな切り札だ。確かにこの規約は有名無実化しているが、本人が干渉を拒んだらこれが適用されるはず。それにまだ3年間という時間がある、ラーク・メカニクスに掛け合っている間の時間でもお釣りが来るほどさ」
そして決め手はIS学園の規則にあった。
この規約がなければ今やマスコミが押し寄せ、生徒達に危険が及ぶ可能性もあるだろう。
これらの手から守る為に決定されたのである。
「ま、俺が出せる答えとしてはこんなとこだ。とりあえず安心してくれ。君が女の子ってバラす事はしないし、これからもデュノア社の任務を続ける体でいてほしい。ラーク・メカニクスから返事が来るまでの間だけどな」
「うん、分かった。でも、今の"シャルルちゃん"って呼び方じゃ疑われる可能性もあるね…… 」
「そういえばそうだな。本当の名前はなんて言うんだ? 」
「シャルロット、だよ」
ほほう、となると以前名乗っていた偽名と本名が被っている部分で呼んでみようか。
我ながらいい案を考えたものだ。
「じゃ、今後は"シャル"って呼び方でどうだ? ちょっと簡単過ぎるけど」
「いやすっごくいいよそれ! ふふふ、"シャル"かぁ……」
「気に入ってくれたようで何よりだ。一夏とかにも伝えておくぜ、疑われないようにな」
「うん、ありがとう! 嬉しいよ! 」
あだ名を付けられたのが初めてなのかシャルルちゃん、もといシャルは嬉しそうに頬に手を当てる。
中学時代には「赤い変態の再来」とか「変態の風ウインド」とかなんとも不名誉なあだ名が女子から付けられたものだが、今となってはいいトラウマだ。
「さて、話も済んだし俺風呂に入ってくるわ。さっきみたいに覗くなよ? 」
「覗いたの彰久でしょ! なんで私が覗いた感じになってるの! 」
「ふふふ、恥ずかしがることはない。さあシャル、風呂場に飛び込んでおいで! 」
「絶対嫌だよ!! エマさんやっちゃって! 」
『さっきの仕返しだ、股間がデリンジャー野郎ぉぉぉぉぉ!!!』
「だから俺のマイサンはアンチマテリアルライフルだと……あばbbbbb」
彼女を迎えるように腕を広げるが、シャルはそれを拒み更にエマさんに再び十万ボルトを命じる。
ええい、今日何度俺は十万ボルトを食らえばいいんだ……!
教えてくれギャプラン……エマさんは何も教えてくれない……。
『笑えばいいと思うよ』
「喋った!? 」
というわけで前の倍返し回の会話はここで使われました。
原作とは違ってシャルはデュノア社の任務を進んで遂行しようとしてるので、両親とは多少和解してます。
なんかシャルのサブストーリーだけ異常に長くなりそう…。