タイトル詐欺です。
<日曜日、ラーク・メカニクス社入り口>
セシリアにこってりと絞られた翌日、現在俺は千冬さんと前々から約束していたラーク・メカニクス社への訪問に向かっている。
あらかじめIS学園で千冬さんと待ち合わせをした後で車で向かうこと約30分、俺達は大きなビルの入り口へと立ち、その頂上を臨んだ。
「着いたな、草薙」
「はい。……織斑先生、マジでやるんですね? 」
「ああ。その名前を聞いたらシチュエーション的にかなり合っていたのでな。やらざるを得ない」
「ですよねぇ……。まさか社長さんの名前が"小木曽さん"とは思いませんでしたよ」
そう、このラーク・メカニクス社の社長の名前を知ったのはつい先日のこと。
話す上で相手のことを多少なりとも理解はしておくべきだと千冬さんが言うので、あらかじめググってみると社長さんの名前は"小木曽 孝典(おぎそ たかのり)"だという。
既にこの時点でお分かりの人もいるだろうが、千冬さんは一世を風靡したあの"〇沢直樹の倍返し"をリアルにやろうとしているのだ。
さすがに千冬さんキャラ崩壊しすぎでしょう。
片桐さんにはあらかじめ、社長に倍返しする旨を伝えると彼もノリノリでOKを出してくれたらしい。
改めて思うと俺の周りにはほとんど碌な大人がいないと思う。
ぶっちゃけ小木曽さんはかなり性格が良いらしく、なんだか気が進まない。
「ふふふ……。今日の私は織斑千冬改め、半沢千冬だ。覚えておくといい」
「そろそろTBS辺りからマジギレされるんで止めときましょうか千冬さん」
本当に大丈夫なんだろうか。
そう思いつつ、俺達はビルの中へと歩みを進めた。
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<ラーク・メカニクス社内、社長室>
インフォメーションの女性に社長と会う約束をしていたことを伝えると、彼女は本来社員しか通行できないところを特別に通して貰い、エレベーターで社長室のある階へと上がる。
最上階に社長室と書かれた小奇麗な看板が見え、その扉を俺がノックした。
「はい、どうぞ」
「失礼します」
扉を開けると中にはガラス張りの洒落た空間となっており、真ん中のアンティーク調の机に座る初老の男性がにこやかに俺達を出迎えてくれる。
側には片桐さんが立っており、俺は彼らに一礼してから部屋の中へと入った。
「今日はお時間を取らせてしまって申し訳ありません。IS学園教員の織斑千冬です」
「これはご丁寧にありがとうございます。ラーク・メカニクス社頭取の小木曽孝典です」
「えっと、ここの試作ISのテストパイロットをしている草薙彰久です。よろしくお願いします」
「君の話は常々聞いているよ。草薙君には感謝が尽きないね」
小木曽さんが椅子に座るよう俺達に促すと、千冬さんから自己紹介を行う。
それにつられて俺も彼に挨拶を済まし、小木曽さんは微笑みながら挨拶を返してくれた。
「それで今日は"ヅダ"に関しての事でお話しがあると聞いたのですが、まさかIS学園に何か影響でもあったんですか? 」
「ええ、こちらの写真をご覧ください」
さっそく小木曽さんが今日の本題について千冬さんに尋ねると、彼女は彼の目の前にこの前IS学園を襲った"ヅダ"の写真を現像させる。
驚いたように小木曽さんは目を見開き、そして彼は申し訳なさそうに顔を俯かせた。
「……その表情から察するに、何かご存知のようですね。説明を要求する権利はこちらにあります。ご説明を願えますか? 」
千冬さんがそう言うと、彼女は俺にアイコンタクトを送ってくる。
あのBGMを流せということなのだろう。
申し訳ないが社長さん。
変態紳士は女性の頼みを断れないのだ、どうか許してほしい。
俺はポケットの携帯を取り出し、メモリーに入れてある例のBGMを流した。
その瞬間小木曽さんの表情に焦りが見え、明らかに反応に困っているようである。
後ろでは片桐さんが笑いを堪えており、なんとも罪悪感でいっぱいだ。
(ね、ねぇねぇ片桐くん? もしやこのBGMって……)
(はい、半沢〇樹です)
(えぇー……? 確かに私小木曽って名前で何度も社員に"小木曽ォ!!"って呼び捨てにされたけどさ……。しかも何なの? なんで無駄にドヤ顔してんのブリュンヒルデ? 完璧中身残念じゃん。テレビとかではもっと凛々しくてネットでエロ画像検索とかしたのに)
(社長、ここはノっておくべきです。あとファミチキ下さい)
(唐突にファミチキ要求しないでよ。下にファミマあるから後で買ってきなよ)
真面目な話から一転して微妙な空気が社長室に流れる。
計画した本人に至っては自信満々にドヤ顔しているので余計に彼女の残念っぷりが露わに。
まあこうなるよね。
社長さんめっちゃ困ってるじゃねーかよ。
「し、証拠はあるんですか!? 証拠を見せてくださいよぉ! 」
(の、ノった!? 社長さん倍返しさせられちゃうよ!? いいの!? )
「証拠ならあります。エマさんから証言を頂きました。"ヅダ"が御社の製作したISだと。録音テープもございますが、一応聞いておきますか? 」
「……いや、いい。分かりました、全てをお話ししましょう」
このボケた空気のまま話が進むのかと思いきや、今度は再び真面目な雰囲気に逆戻りである。
正直追い付いていけないのでやめてほしい。
急いで俺は例のBGMを切り、携帯をポケットに仕舞った。
「確かに"ヅダ"は、我が社で開発した初めてのISです。型番は第二世代、ラファール・リヴァイヴや打鉄と一緒と考えてもらっていい。だが、ある欠点が"ヅダ"にはありました」
「欠点……? 」
「はい。それは"機体自体の速度が極限まで高まると、装甲が空中分解する"という点です。速度は第二世代の中でトップクラスに速い、しかしパイロットを危険に晒す可能性が大幅にあることから"ヅダ"は他社の競争に負け、その影は次第に薄まっていきました……」
「確かに"速ければ良い"ということではありませんからね。汎用性が高いラファール・リヴァイヴや打鉄に軍配が挙がるのには理解できます」
なるほど、"ヅダ"が一夏に突っ込んできた時は自爆ではなく空中分解だったのか。
道理で足や腕がバラバラになっていたはずだ。
それに戦闘機形態のギャプランに追いつくのにも理解ができる。
「もうダメかと諦めかけたその時でした。彼女が、篠ノ之 束が私の元を訪れたのです。嘘かもしれませんが、確かに彼女はそう名乗っていました」
「束が……!? なぜ? 」
「私にも分かりません。ただ、束さんは"ヅダの設計図を貸してほしい。代わりに第三世代の設計案と初期化したISコアを渡す"と告げて去っていったのです」
「それが、彰久の"ギャプラン"ですか」
小木曽さんは頷いた。
貸してほしい、とは言われても相手は世界を股にかける最高峰の技術者だ、断ることは不可能に近い。
だが、篠ノ之束は俺とは関わりがないはず……。
まさかギャプランが俺の手に渡ると彼女は分かっていたのか……?
「彼女の発想は目を疑うものばかりでした。IS初の可変機を構成する技術を創り上げてしまうのですから。今回のIS学園襲撃に関しては、以下の話のように一概に関わっていないとは言えません。仮定として、もし束さんがIS学園を襲撃するように"ヅダ"をプログラミングしたのなら……我々にも責任はあります」
「……まだ断定できたわけではありません。今回は直接的に御社が関わっていないと分かっただけでも十分です。ですが、今回の事件で我々は痛手を負わされました。その支援をお願いしたいのです」
「なるほど、本題はそれでしたか。いいでしょう、ぜひ支援をさせて頂きたい。それに彰久くんにも謝罪をしなければいけないね」
「えっ、俺ですか? 」
どうやら本題はIS学園の支援をラーク・メカニクス社に申し出ることだったらしく、小木曽さんはその申し出を快諾した。
関わるメリットとしてはニュースになることによって株価の上昇や、開発に関する知識などが考えられる。
千冬さんとの話が済むと、今度は俺に視線を向けた。
「すまなかった、彰久くん。うちの"ヅダ"が君に危うく大怪我を負わせることだったらしいね。お詫びとして困ったことがあったら私たちに言ってほしい。我が社が総力を上げて対処しよう」
「い、いやそんな……。謝らないでください、俺も無事でしたし。けど、本当に困ったときは小木曽さんにお電話するかもしれません」
「ああ。これからもラーク・メカニクス社共々、よろしくしてくれると有難い」
「こちらこそです」
小木曽さんは明らかに自分が上なのにも関わらず俺に頭を下げる。
これから困ったことがあったら頼ってほしいとの事だが、逆にこちらが萎縮してしまう。
だがこの先、俺一人の力では無理な時もあるかもしれない。
その時は本当に小木曽さんを頼ろうと思った。
「では、支援の件に関しては後日改めて連絡を致します。今日はお時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、こちらこそ。わざわざご足労頂きありがとうございました」
話が全て終わったところで、千冬さんが立ち上がり彼にお辞儀をする。
お互いに握手を交わし、俺達は社長室を出た。
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<夕方、ラーク・メカニクス社入り口前>
外に出ると既にもう夕日が昇っており、その眩しさに思わず目を細める。
しかし途中の半沢直樹ネタは何だったのだろうか、小木曽さんも不問にしてたけど。
「……草薙」
「はい? どうかしました? 」
「倍返し、できたな」
「出来てねーよ」
俺は思わずそう言ってしまった。
Q,これがやりたかっただけだろ?
A,はい(ドヤ顔)
というわけで社長が出てきました。
今回は本気でT〇S怒られそうな気がします。