ちょっと進展がないんで進められたらいいなぁ。
<夜、IS学園ロッカールーム>
千冬さんとの話が済み、まだISスーツ姿のままであった俺はロッカールームに向かい着替えを取りに行く事にした。
その道中で保健室から出てきたセシリア達と鉢合わせになり、数十分のお説教を食らい今に至る。
「うへぇ……。まさかあんなに怒られるとは思ってなかったよ」
『さすがに無茶し過ぎたわね。私は彰久がたかが自爆された程度で死ぬとは思っていないけれど』
「はっはっは、変態紳士は不滅だからな。俺の最期は美少女に囲まれて圧死するのが似合っているのだ! 」
『それかなり悲惨な死に方よ』
本当は美少女と(自主規制)をして真っ白に果てるのが本望なのだが、ここで発言したら問答無用でエマさんの十万ボルトを食らう羽目になるのでやめておこう。
実際のところお説教をしたのはセシリアで、彼女にはかなりきつく怒られた。
「そんな彰久さん、修正してやるッ! 」と泣きながら殴られたのは驚いたもんである。
まさかZネタを知っているとは。
「まあ今回の件は俺が悪かったんだ。美少女がそう言うんだからそれで正しい」
『……あなた、いつか痛い目見るわよ』
「ふふ、可愛いは正義だからな! この言葉は俺の座右の銘でもある」
『聞いてません』
ひとまず制服の上着を着終えてズボンを履こうとした俺は近くにあったベンチに"ギャプラン"のバックルが付いたベルトを置き、白い制服に足を通していく。
着替え終わったあとにISスーツを片付け、俺はギャプランのベルトを腰に巻き付けた。
「よっ、彰久」
「一夏! 目が覚めたんだな! 」
「おかげさまでな。お前の方も元気そうで安心したよ。ほら、これ差し入れだ」
「サンキュー。おっ、ドクターペッパーとは俺の好みを分かってるな」
背後から声をかけられ、振り向くとそこには缶ジュースを手にした一夏の姿が。
彼は俺に缶を手渡すとベンチに座り込んだ。
「……お前には、本当に世話になりっぱなしだ。今回の事件だってお前が俺を庇ってこんな目に……」
「おいおい、急にどうした? 気にすんなよ、俺とお前の仲だろ」
「いや、お前だって危ない目に遭った。何より俺のせいで彰久が……」
「俺はあの方法が最善策だと思って行動した、それだけの事だ」
そう一夏に告げると彼はまだ納得がいってないのか、不服そうな表情を見せる。
心配してくれるのはありがたいことなのだが、そんな顔をされてはこちらも困ってしまう。
「あのなあ、一夏。お前がそんなに気負うことはないんだって。俺も無事だったし、これについてはもうお互い言い合いっこなしでいこう」
「……分かった。けどお礼くらいは言わせてくれ。ありがとう、本当に」
「へっ、こちらこそだよ。ジュース、ありがとな」
俺に頭を下げて礼を言う一夏の肩を叩きつつ、一気に缶ジュースを飲み干して彼の側に置いた。
一夏は顔を上げると驚きの表情から笑顔に代わり、彼も立ち上がる。
「さーて、辛気臭いのはなしにして飯でも行くか」
「そうだな。俺もう腹減ってしょうがないや」
最後に伸びをしてから俺達はロッカールームを出た。
もう、一夏が謝ってくることはなかった。
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<彰久、本音の寮部屋>
一夏と夕飯を食い終えた俺は、思い出したようにスマホを取り出し片桐さんの電話番号をコールする。
先程千冬さんから言い渡されたラーク・メカニクスへのコンタクトを取るためだ。
しかしいくら電話に出るのを待っても、片桐さんは出ない。
やはり夜遅くに電話をかけるのが非常識であったのだろう。
『もしもし? ごめんね彰久君、今シャワー浴びてたところなんだ』
「いえ、こちらこそ夜分遅くにすみませんでした。今大丈夫ですか? 」
『うん、寝間着に着替えたし大丈夫だよ。何かあったのかい? それともギャプラン関連の事で何か? 』
「いえ、ちょっとしたお願いがあって」
どうやら彼は風呂に入っていたらしく、大急ぎで電話に出てくれたようである。
謝るのは後にしておいて、今は用件を先に済ませてしまおう。
『お願い? 』
「はい。片桐さん、ラーク・メカニクスの社長とお話しさせて頂けませんか? うちの学園の織斑先生がお会いしたいと言っているので」
『ああ、いいよ』
「返事軽っ!? ほんとにいいんですか? 」
『むしろブリュンヒルデに来てもらえるなんて有難い限りさ。それで、話の内容は? 』
「"ヅダ"に関しての事です」
『……何だって? 』
意外とあっさり要望を受け入れられてしまったが、ヅダの名前を聞くと途端に声音が変わった。
確かにラーク・メカニクスの過去を知らない俺がヅダの名を知っているのには疑問が浮かんだのであろう。
だが証言はとれている。
追及する権利は俺達にあるはずだ。
「詳しい内容は当日お話しします。ただ、織斑先生が相当キレているんで注意して下さいね」
『……分かった。社長にも伝えておくよ。日曜日の午後からでいいかい? 』
「ええ、大丈夫です。それでは」
『うん、またね』
直後電話は切れ、スマホの画面はさっき撮ったセシリアの寝顔の待ち受けに変わる。
実を言うと寝顔があまりにも可愛かったせいで思わず無音カメラで撮影しておいたのだ。
数十分ものお説教をした彼女への反撃でもあるが。
「ただいまあっきー。誰とお話ししてたの? 」
「おっ、おかえり本音ちゃん。ふっ、秘密結社の一員と話してたのさ」
「えぇ~? 話してたこと言っちゃ秘密じゃないし、まずこんなとこにいるのに電話掛けたりしないよ~」
「人のボケを説明されるほど辛いものってないから止めて欲しいな」
部屋に帰ってきた途端俺のメンタルを削りに来る本音ちゃん。
ちなみに中学の時もこんな事を好きな子にやられて3日寝込んだ記憶がある。
「ふふん、心配させたお返しだよ~♪」
「ほ~う? 俺のモットーは"やられたらやり返す(手段は問わない)"なんでな……。倍返しだ! というわけでそのパジャマに包まれたビッグマウンテンを今日こそ我が手中に収めてやるぅッ! 」
「大声あげるよ? 」
「ごめんなさいそれだけは勘弁してください」
気絶しても変態紳士は相変わらず締まらなかった。
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<同刻、IS学園某所>
生徒達や職員が出払ったIS学園の暗闇の一室で、一台のパソコンの画面が煌々を辺りを照らす。
誰がパソコンを操作しているのは分からないが、どうやらここの職員のようだ。
マウスのクリック音がその部屋に響き、画面には世界初の男性IS操縦者である織斑一夏の画像が映し出されている。
「あぁ……私の愛しいラブリーマイ一夏きゅん……出来ることなら姉弟という事など無視して結婚してしまいたいぞ……」
パソコンの操作主は織斑千冬。
世界最強の称号である"ブリュンヒルデ"の名を授けられた女性で、そして彼女は重度のブラコンであった。
普段の凛々しい表情とは違い、今は完全に恋する乙女(2×歳)の表情である。
主に彰久が喜んで吐血しそうな絵面だ。
画面は織斑一夏の画像で埋め尽くされ、ISを纏った姿、尻餅をついて苦笑いを浮かべる姿など種類は多種多様である。
「初めて一夏に恋(笑)をしたのはあいつが10歳の時……。ホラー映画を見て夜眠れなくなったのか照れた表情で私の部屋に来た時だった……。うひゃあああああああ!! ショタ一夏たまんねえええええ!! 」
暗闇の一室で悶える織斑千冬、今の彼女にはブリュンヒルデという言葉は似合わない。
ただの"ブラコン"というのが正しいのだろう。
「ただでさえ一夏きゅんと会えない毎日……。こうして本性を偽って癒されるのはなんとも背徳感があるな……。誰かに見られてないといいが」
「お、織斑先生……? 」
「あっ」
振り向くとそこには千冬の受け持つクラスの副担任である山田真耶の姿が。
驚愕の表情で彼女を見つめ、両者共に固まったままである。
「……山田先生、どこから聞いてました? 」
「ええと、"ラブリーマイ一夏きゅん"のところからd」
「最初からじゃないですかぁぁぁぁぁ!!! 」
「きゃぁぁぁぁぁ!? お、落ち着いて下さい織斑先生!? 」
その沈黙を破ったのは千冬。
どうやら一夏の画像に夢中で真耶の存在に気付かなかったようであり、最初から聞かれていたようだ。
現在千冬は錯乱状態に陥り、真耶の肩を掴みながら自己嫌悪に陥っている。
「なんですか! 姉が弟の画像で癒されてたらいけないっていうんですか! こちとらISとか色んな事で忙しくて学生時代にまともに恋愛しとらんのじゃい! というか世界最強とかいう称号のせいで全く男が寄り付かなくなってんじゃボケ!! 」
「織斑先生キャラ崩壊が凄まじいですよ!? 」
「この際キャラなんか知るかコンチキショー!! 」
「ああもうダメだこの人!? 」
さすがの真耶も手が出ないのか、自分の肩を掴む千冬の手を離そうとするが、生憎の馬鹿力で彼女の手はビクともしない。
なおかつ錯乱状態なので、余計に力が強まっているのだ。
「ふっふっふ……。離しませんよ山田先生……。私の秘密を知ってしまったからにはそれ相応の代償が必要となるんです……」
「うわっちょっ!? や、やめて下さい織斑先生! 」
「証拠隠滅じゃぁぁぁぁ!!! 」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!? 」
その夜、IS学園に女性の悲鳴が響いたという。
やっぱり千冬姉はキャラ崩壊させると楽しいよね。
彰久並の残念キャラになっちゃったけど、変態淑女としての命を全うしてくれるはずです。