今回は原作と同じような一夏とセシリアの試合です。
ただ一つ違うのは二人とも和解が済んでいるってことでしょうか。
<翌日、放課後>
一夏とセシリアが和解した翌日、いつものように授業を過ごしてからそのまま放課後へと突入し、彼らを激励しようと俺はピット内へ足を運んでいた。
ピットの出口付近からは多くのざわめきが聞こえ、一夏は顔を緊張で強張らせている。
クラス代表決定戦も大詰め、観客席には昨日より多くの生徒が二人の試合に胸を弾ませていた。
それもそのはず、一夏は正式にニュースや新聞で取り上げられた"世界初の男性IS操縦者"であり、後からひっそりと出てきた俺よりも遥かに知名度は高い。
今学園中が一夏に注目してると言っても過言ではないだろう。
「おう一夏、今の心境はどうだ? 」
「さ、さすがに緊張してる……。彰久、お前は大丈夫だったのかよ? 」
「はっはっは、俺は人前に出慣れてるからな。基本的に晒し者だけど」
「中学でもそうだったもんな、お前」
紺のISスーツに身を包む彼の肩を叩き、不安そうな表情を俺に向けてくる一夏。
昔の話をして気を紛らわせようとするが、未だに彼の表情は変わらない。
すると隣にいた箒ちゃんが一夏へと近付き、彼の手を握った。
これは告白でもするのかと思う俺だが、茶化すと千冬さんの出席簿が飛んできそうなのでやめておこう。
ちなみになんで中学時代に晒し者になったのかは水泳の授業時に女子更衣室へ侵入を計ろうとしたら体育の先生に見つかったせいである。
あの屈辱は今でも忘れん、思わず切腹しそうになったのは苦い経験であった。
「ほ、箒? 」
「大丈夫だ、一夏。お前ならやれる。1週間という短い期間でも、お前はあんなに訓練したり勉強していたではないか。絶対に失敗などしないさ」
「……そうだな。ありがとう、箒。お前がいつも付き添って訓練してくれたんだ、俺も覚悟を決めて行ってくるよ。感謝してる」
「ああ。行って来い、一夏」
そう箒ちゃんの言葉を聞いた一夏は、ニヤッと頬を吊り上げ笑顔を俺たちに向けてみせる。
実を言うと俺もひっそりと彼の訓練を見ていたのだが、激しさを極めていた動きであったと思う。
特別授業で教わった事を一つ一つ咀嚼しながら、昨日も遅くまで訓練を続けていたようだ。
セシリアという相手が才能を持つ天才なら、一夏は努力の天才だと俺は確信している。
『織斑、準備はいいか? もうすぐ試合を開始する』
「はい、大丈夫です」
真剣な表情で一夏は既に一次移行を済ませた自身の専用機"白式(びゃくしき)"に乗り込み、特徴的な白い翼を展開した。
白で統一されたその機体は歩みを進め、ピット内のカタパルトへとセットされた。
どうやら昨日の夕方には届いていたらしく、訓練にて一次移行形態に進化したのだろう。
「よし、行くぜ!! 」
自分に発破をかけるように声を上げると、一夏はアリーナへと射出されていった。
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<アリーナ内、一夏視点>
白式が届いて僅か一日、俺は万全な状態で彼女に挑もうと考え、昨日の訓練で一次移行へとこいつを変形させた。
最初は銀色だったのに対して一次移行をした途端に白い立派な翼を携えたのには驚いたものである。
アリーナ内へ射出された先には青い専用機に乗り込むセシリアの姿が目に入った。
背中には4枚の展開羽が生え、とても優雅な姿で俺を見据えている。
「それが貴方のIS、ですのね」
「あぁ、そうだ。セシリア、いくら和解したとは言え手加減なんてする必要はない。正々堂々、お互いに全力でいこう」
「無論、そうさせて頂きますわ。よろしくお願いしますわ、一夏さん」
既に名前で呼ぶ仲になったセシリアは、昨日の内に箒やのほほんさん達とも打ち解けていた。
元々社交的な性格なようで、俺とも普通に話している。
だが、専用機を纏った彼女はどうだろうか。
昨日の彰久との試合を観戦していたが、セシリアのISは遠距離型仕様だ。
近距離戦を得意とする白式とはかなり相性が悪い。
「試合開始。両者、武器を展開しろ」
アリーナ内に千冬姉のアナウンスが鳴り響き、俺とセシリアは互いの武器を利き手に展開させた。
"雪片弐型"、それがこの刀の銘である。
俺はそれを剣道で言う"中段"で構え、同時に彼女も大きな狙撃銃を構えた。
「……」
「……」
沈黙。
重く、そして静かな空間に、不思議とアリーナは静まり返っている。
静寂を破ったのは、セシリアだった。
腰の砲台から二基のミサイルが発射され、俺と撃墜せんと高速で迫り来る。
「はァッ!! 」
だが俺はその二基のミサイルを読んでおり、"雪片弐型"で斬り捨てた。
真っ二つになったミサイルは四方に飛び散り、やがて爆発する。
爆風が来る事を予測して、あらかじめ上空高く飛び上がった俺は動かないセシリア目掛けて一気にブーストを吹かして距離を詰めた。
「――――そこですわ! 」
しかし。
その動きを読んでいたかのように彼女は狙撃銃"スターライトmkⅢ"を俺に向け、正確に白式の胴体部を撃ち抜く。
大きな衝撃に声にならない呻き声を上げ、更にあの4枚羽から"ビット"が射出されるのを俺は見逃さない。
(やばい……。今の状況を考えると必ずセシリアはビットを俺の周りに配置したはず……。この範囲から逃れられなければ俺に勝機はない……! )
(さて……ここからどう動くかが肝心。もしビットの範囲から逃れるならば、わたくしは移動をしなければなりませんわね)
お互いの思考戦が繰り広げられる中、俺はビットの範囲から逃れようとセシリア目掛けて急降下を始めた。
案の定背後からビットの繰り出すビームが俺を襲い、白式のシールドエネルギーを多少ではあるものの削っていく。
だが白式の速度を殺しきれずにセシリアは俺の接近を許し、少し焦った様子で近接ブレードを展開させた。
「しまった……! 」
「うおおおおおッ!! 」
近距離戦へ持ち込めたのは大きなチャンスだ、叩くなら今しかない。
鍔競りあったブレードを押し返して袈裟斬りを彼女に叩き込んだ後、更に追撃として横一文字に刀を振りかざした。
だがその刀は空を斬り、避けられたと把握した頃には幾つもの青い閃光が俺を襲っており、土煙を挙げながら地面に叩きつけられる。
「ぐあッ……!? 」
「こちらもなかなか……減らされましたわ……」
白式のシールドエネルギーは残り150を切っており、このまま行けば普通に負けてしまう。
何か策はないか、と考えていたその時であった。
『単一仕様能力、"零落白夜"使用可能』
「ワンオフ、アビリティーだって……? 」
突然白式の画面上にそんな情報が表示され、困惑した様子を見せると"雪片弐型"が変形して青いビーム状の刀となる。
確か千冬姉の特別授業で「単一仕様能力は搭乗者とISの相性が最高状態になった瞬間発動する」ということ聞いたが……。
「チャンスはこれしかない、か」
手にした雪片弐型を一瞥し、土煙が晴れていく中俺は上空高く銃を構えるセシリアに再び急接近しようと試み、軌道を読ませないようにアリーナ内を縦横無尽に駆け巡った。
「軌道を読ませないつもりですわね……。ならば! 」
「……今だッ! 」
当然のようにセシリアはビットを射出させ、俺を追うように命令したのか再び背後を閃光が掠める。
今しかない、ビットを「操ることに集中して動けない」今がチャンスだ。
「そこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!! 」
「……!? まさか、イグニッションブースト!? 」
そう、俺は昨日ある事を千冬姉から秘密で教わっていた。
シールドエネルギーを使用して一気に相手との距離を詰めるテクニック、"瞬間加速(イグニッションブースト)"というものを。
現在シールドエネルギーは切れ掛かっていて使うには適さない状況ではあるが、もう後戻りは出来ない。
当てる、この"零落白夜"を当てて勝ってみせる。
だが。
『試合終了! 勝者、セシリア・オルコット! 』
「えっ!? 」
「ど、どうしてですの……? 」
近距離へ持ち込もうとした瞬間に試合終了のブザー音がアリーナに鳴り響き、戸惑いながらもセシリアと俺は互いに顔を見合わせた。
彼女は撃っていない。ビットの攻撃も当たってはいない。
「まさか、この"零落白夜"はシールドエネルギーを使うのか……? 」
『何をしている、両者共早くピットに戻れ』
「は、はい! 」
一人そう呟くと、千冬姉のアナウンスが俺たちがピットへ戻るよう催促された。
多くの疑問を抱えつつも、俺はピット内へと戻る。
結果として、俺は彼女に負けたのであった。
というわけでちょっと原作改変してセシリア戦をお届けしました。
昨日のうちに一夏の専用機も届いているので、一次移行を済ませた状態で負けてしまったためセシリアの実力がよく現れていれば幸いです。
ちなみに一夏とセシリアの関係は良きライバルみたいな感じ。