専用機を使用して負けてしまった彰久くん。
一夏とセシリア戦も書いていこうと考察中。
変態紳士、和解する
<夕方、保健室>
「……ん、ここは……? 」
「ようやく目が覚めたか。気分や体調はどうだ? 一応聞くがまさか記憶を失っているというわけではないだろうな? 」
「うーむ、とりあえずあなたの穿いている黒ストを被らせてくれたら記憶が戻る気がします」
「お、ちょうどここに程良い注射器があるな」
「はっはっは! この通り私不肖草薙彰久はピンピンしております織斑先生! ついでにマイサンも元気です! 」
「そのデリンジャーをしまえ馬鹿者」
時は進み、試合が終了して代表決定戦が終わりを告げた頃である。
セシリア様を庇って地面に落下した俺はどうやら気を失っていたらしく、この保健室でずっと寝かされていたという。
「やれやれ、心配をかけおって……」
起きて一番に千冬さんの黒ストが目に入った辺り、調子も戻っているようだ。
前回真面目になりすぎていたと思う。
「まあ俺のマイサンはデザートイーグル並だとして、俺がここまで連れて来られるまで何がありました? 一応俺が負けたのは分かってますけど」
「そうだな、まず織斑とオルコットの試合が明日へ延期になった。いくらシールドエネルギーが残っていたとは言え、結構な損傷があるらしく、点検と修理が必要なそうだ」
「あらま、俺がグラウンドまでセシリア様を連れて行ってちゃったせいですか。後で謝っておかないと、顔を真っ赤にして怒鳴られそうだなぁ」
その様子が思い浮かんだのか、少しだけ千冬さんは笑った。
「それと、お前の専用機も整備させておいてある。まだ時間が掛かるらしく、早くても明日には返却されると整備班の奴が言っていた」
「ほうほう。後でお礼を言いに行かなければ」
一通りの事後報告が終わると千冬さんは立ち上がり、一言「安静にしておけ」と残して保健室を出て行った。
自分のクラスの生徒だからというのもあって、やはりどこか心配していた面もあるのだろう。
そのギャップにますます萌えます、千冬さん。
「あーあ、専用機貰っておいてこの有様かー。変態紳士の好感度ガタ落ちだろうなー」
しかし安静にすると言っても、もうすぐ夕飯時だ。
本音ちゃんや一夏たちはどうしているのだろうか。
ふとそんな事を考えていると、保健室のドアからノックの音が聞こえる。
一夏か箒ちゃん辺りだろうと入室を快諾すると、その先には意外な人物が立っていた。
「あの……草薙さん? 容態の方は……」
「お、お、オルコット様だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! あぁ、なんて麗しいのだろうか!? もう愛を超えて憎しみをも超越して宿命になりそうだッ!!! 」
「……その様子だと大丈夫そうですわね」
なんとセシリア様がわざわざ俺の見舞いに来てくれ、思わず俺は彼女に五体投地をしてしまう。
安静しろと言われて僅か数秒、早くも忠告を破っているのは言わずもがなだ。
呆れたように耳を塞ぐセシリア様は、椅子を出して俺が寝かされてあるベッドの近くへと座る。
そして、何をするのかと思いきやいきなり俺に頭を下げてきたのだ。
「ごめんなさい。今までのわたくしの言動や立ち振る舞い、さぞ不愉快だった事でしょう。頭を下げるだけでは許してもらえるとは思っていませんが、謝らせてください」
「へ、へっ? いきなりどうしたのさセシリア様? そんな謝られても困っちゃうよ」
「……いえ、わたくしの認識が間違っていたんです。それを貴方と戦って気づきました。本当に、ごめんなさい」
以前とは全く違った様子であり、彼女は自分の今までの行いを振り返ってこうして俺の元へと来ているらしい。
確かに昼食を誘って断られたのは結構ショックであったが、何回も断られているので別段そこまで俺は気にしていなかったのだが……。
「……顔を上げて、セシリアさま」
「は、はい」
「俺は全然気にしていないし、これからその事についても言及するつもりもない。むしろ俺は一種の考え方として捉えていたんだ。人のことを最初から否定するよりかは、肯定してた方がお互いに気持ちがいいでしょ? 」
「草薙さん……貴方は……」
「そんな顔しないでって。勝ったのは君なんだから、もっと胸を張ってよ。あ、つーか奴隷になるって話は俺大歓迎なんだぜい」
暗い雰囲気を壊すように軽い下ネタをぶち込むと、意外にも彼女は顔を上げて俺に微笑む。
正直その笑顔にドキッとしたのは紳士の秘密だが、セシリア様が笑ってくれたようで何よりである。
「ふふ、そうでしたわね。貴方がそう言うなら、わたくしもそうさせて頂きますわ」
「ちなみに鞭で叩いたり蝋燭垂らしたりするのも大歓迎なんだぜ! 靴も余裕で舐めるよ! 」
「そ、それは流石に気が退けますの……」
「えぇー。むしろそっち方面だと期待してたのにー」
そう言うと、セシリア様は顔を赤くしながら咳払いをした。
下ネタには慣れていないようだが、仲良くしてくれる以上容赦はしないぜ!
「では、貴方に最初の命令を。わたくしと、"友達"になって下さい。"彰久さん"」
「――――喜んで。よろしくな、"セシリア"」
気を取り直してからセシリアは俺の方を見つめ、笑顔でそう言った。
なんだが命令ってのも変な話だが、こんな美少女に「友達になってくれ」なんて言われたら快諾する他ないだろう。
差し出された彼女の手を握ってから、俺はベッドから立ち上がり、大きく伸びをした。
セシリアの方も俺に合わせ、椅子を片付ける。
「よっし! 記念ついでにパーッと飯でも食いに行きますか! 一夏たちにも謝るいい機会だしな」
「あ、忘れてました……。彼らにもお詫びを申し上げませんと……」
「そんな心配そうな顔すんなって。大丈夫、一夏たちも分かってくれるさ。俺からも言うから安心してくれ」
「は、はい。そうだといいですわね……」
保健室の先生に一声かけてから保健室を出ようとすると、またもやセシリアの表情が沈んでいくのが目に見えて分かる。
よく顔に出るタイプなのであろう、彼女を励ました俺はセシリアを連れて颯爽と食堂へと向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<夜、食堂>
今夜も大盛況のIS学園食堂、台所のおばちゃんたちがせっせと他の生徒たちの注文を受け取ったり料理を作っている中、俺とセシリアは一夏のいる座席へと向かっている。
どうやら彼は今一人で夕食を食べているらしく、箒ちゃんや清香ちゃんなどクラスメートの姿が一夏の周りに見当たらない。
「うおっ、珍しい組み合わせだな」
俺とセシリアの組み合わせを見た一夏は一度驚いてみせたが、和気藹々とセシリアと会話する俺を見て自分の席へと招いてきた。
「……んで、一体これはどういう事なんだ? 彰久。さっきまでいがみ合ってたんじゃないのか? 」
「いやぁ、和解したのよ。それで今夕飯一緒に食べに来てんのさ」
「和解って……お前……」
「それでよ、一夏。お前にも話があるんだとさ。聞いてやってくれないか? 」
案の定理由を尋ねる一夏を、心配そうにセシリアは見つめていた。
そりゃそうだ、今までいがみ合っていた相手の話を聞いてくれなんて現実じゃ拒否されるのがほとんどである。
「……ふぅ、分かった。彰久に免じて聞くよ。どうしたんだ、オルコットさん」
気まずそうに一夏は承諾すると、彼女の表情が途端に明るく移り変わった。
本当に分かり易いが、根は素直な子であったのだろう。
「今までの言動や行動、全て謝らせて下さい。貴方がたの祖国を侮辱したのはわたくしが先ですから、あの時反論されるのは当たり前でした。本当に、ごめんなさい」
「あっ……。そういう事だったのか……。それは俺も悪かったよ、あんな言われ方したら誰だって怒って当然だしな。けどオルコットさんも謝ってくれたし、この話は終わりにしようぜ。せっかく食堂に来たんだ、一緒に夕飯でも食べながら仲直りだ」
「……はい! 」
やはり一夏はイケメンである。
セシリアの話を聞いてだいたいの事は想像がついたのか、一夏も頭を下げて彼女に謝っていた。
その後誠実に謝った甲斐があったのだろう、彼は一緒に食べようとセシリアを夕食に誘ったのである。
「うむうむ、さすが一夏だ。こうも簡単に女の子と仲直り出来るとはイケメンであるな」
「お前の場合はちょっかい出して一方的に嫌われるばっかりだったろ。イケメンは余計だよ」
「やっぱり彰久さんはそういう事ばっかりしてますのね……」
「そうなんだよ。聞く? 中学の時のこいつの黒歴史」
「てめぇそれ言わない約束だろうが!? 」
親しげにセシリアに話しかける一夏を見て、ふたりの仲直りが成立したと俺は改めて実感する。
ちなみに俺の黒歴史は墓場まで持って行くので、この学園の誰一人として知られるわけにはいかない。
「言うのならば貴様の死を以て償って貰う! 喰らえ! 変態神拳奥義"紳士ビンタ"! 」
「ちょっ、痛ぇ!? 」
こうして、俺たちは騒がしい夕食の時を過ごした。
明日は一夏とセシリアの試合である。
というわけで少し後日談を書いてみました。
一夏も彰久もただのイケメンで本当タイトル無視してるよね。
敢えて言うならば彰久はセシリアルートあります。
フラグ立ってますぜ。