真実が明かされ、大きな決意をした日から一夜明けて。
ナルトとクラマは朝食を食べていた。マツモは何やらいろいろ準備があると言って昨日のうちに帰った。その時の笑顔に嫌な予感がしたことを、ナルトとクラマは忘れなかった。ナルトにとっては一日しか会っていない人間だったが、マツモがどれだけ厄介な性格をしているかはその一日で理解していた。「おれ、あのひとししょうにしてよかったんだってば?」とクラマに問えば、「ま、まあ大丈夫、じゃろう…たぶん」という何とも心もとない答えが返ってきた。ナルトはすっごい不安になった。
しかし今はまだ朝起きたばかり。クラマはともかくナルトはまだ寝ぼけ眼で、ごはんを食べながら寝てしまいそうだった。まあ昨日あれだけ頭を使ったから仕方ないかとクラマは苦笑しながらナルトの世話をせっせとしていた。ちなみにごはんは例の保母さんに作ってもらいました。幻術ってすげー。
とにかくここまでは静かな朝の光景だった。ナルトが好きな卵焼きを口に入れようとするまでは。
「おっはよう‼今日もいい天気だね‼絶好のお出かけ日和だよ‼」
とてつもないテンションと共に開かれた扉と発せられた声。思わずナルトは卵焼きを口から吹き出した。
「なんだってば、マツモにいちゃん‼びっくりしてたまごやきたべれなかったってばよ‼」
「いやごめんね、もう昨日からワクワクしちゃってね、寝れなかったんだよ」
「子供かお主は…いや、子供か」
ナルトの非難の視線もクラマの冷たい視線もものともしないマツモは、相変わらずニコニコ笑いながら一枚の紙を出した。
「いや、本当は準備のせいだったんだけどね。大変だったんだから」
「にいちゃん、これなんだってば?」
「これ、ナルト君の養子縁組許諾書」
ようしえんぐみきょだくしょ?とナルトが首をかしげる横でクラマが覗き込んだ。そして固まる。
「お主、マツモ、ひとつ聞いてよいか?」
「何?」
「これはいったいどうやって手に入れたんじゃ?」
クラマが震える手で指をさした場所には、達筆な字で「猿飛ヒルゼン」のサインと印鑑が押されている。
「それが一番大変だったんだよね。火影様のサイン入り書類を盗んで偽造するの」
「書類を盗んだのか!しかもそれで偽造したのか!どこの詐欺集団じゃ!」
「冗談だよ」
「冗談か!」
「本当は火影様が寝てるところ行って幻術かけて、サインしないと永遠に悪夢を見せるぞ、って脅しただけだよ」
「もっとたちが悪かったー‼」
「なに?こいつ火影に勝てる実力持ってんの?しかも誰にもばれないように火影の寝室に入れるとか、隠形すごくね?っていうか簡単に火影に近づけるなよ木ノ葉の忍者」とかなんとかぶつぶつとつぶやき始めてしまったクラマにナルトはぽかんとしてしまった。しかしマツモはそれを無視して説明を始める。
「これはね、ナルト君の保護者が誰に変わりますか、っていう書類なの」
「うん」
「で、ほら、もともとナルト君の保護者って火影様だったから、
この元保護者のところにも書いてあるでしょ?猿飛ヒルゼンって」
「うん」
「で、こっちの新保護者となるほうには俺の名前が書いてある、ということは?」
「マツモにいちゃんがおれのほごしゃになる」
「大正解!」
よくできました、と頭を撫でられナルトは思わず笑顔になってしまう。
「よし、じゃあごはん食べたら行こうか!」
「え、どこに?」
「もちろん、
俺たちの新しい家に、だよ」
「すっげええええぇぇぇぇ‼ひろいっっってばよおおおおぉぉぉぉ‼」
ナルトが大声で叫ぶ。しかしそれでもこの場所の全体には声が届いていないだろう。
ここは第30演習場。忍者たちの訓練に欠かせない演習場の一つであるのだが、なぜナルトがここにきているのかといえば。
「ほら、あれが家だよ」
その入り口近くにポツンと木造住宅二階建てがあり、演習場が完全に「家の庭」状態になっていたからだ。第30演習場は更地と森、山、川、果てには泉まである万能演習場の一つだ。といっても演習場としては全体で見ればそこまで広いというわけでもない。広さで言うなら第44演習所・通称『死の森』のほうが広いであろう。だが、明らかに家一軒の庭にするには広すぎである。
「お主、これもまさか…」
「もちろん土地の権利書は譲ってもらったよ」
紙をぺらぺらと見せるマツモに、ため息しか出なかったクラマ。確かにナルトの目的を考えれば、誰にも邪魔されずあらゆる状況を想定した訓練ができる演習場は最適な場所だろう。しかし、誰でも思いついたところでそれを里からもらおうなどとは考えない。いろいろ理由はあるが、一番は里が手放すことなどありえないこと。公共の場を私物化するなと怒鳴られるだろう。それを実現させてしまうとは、どれだけ常識破りなのか。
「あとあの家はどうした」
「昨日建てました」
「お主木遁を使えるのか?」
「やだなークラマ、木遁ぐらい使えなくてナルトの師匠名乗れないよ」
はははと右手を振りながらさらっと言うマツモに、クラマは冷や汗が止まらなかった。
――この男、底が見えん!
しかしその実力はこれで
「おーい、ナルト君‼戻っておいで‼」
そんなクラマを放置し、マツモはナルトを呼んだ。元・演習場、現・庭を走り回っていたナルトは、「わかったってばー‼」と大声で返すと、一目散にマツモのもとに走ってきた。
「気に入ってくれたかな?」
「す、すごい、ってば、よ」
「それはなにより」
息が荒くとぎれとぎれだが目を輝かせて答えるナルトに、マツモは頷いて言った。
「よし、じゃあナルト君―――いや、ナルト!」
「!」
「今日から家族になるからね、『君』はなしだ」
マツモはいつもの笑顔ではなく、優しい笑顔で言った。
「晴れて今日からナルトの保護者になる、みずくさマツモだ。
よろしく!」
「うずまきナルトだってば!よろしく、マツモにいちゃん!」
「そして同じく家族になるクラマ!今日からよろしく!」
「…ふん、まあよろしくしておいてやるわ」
二人と一匹は右手を重ね合わせた。
ナルトも、マツモも、先ほどまで頭を抱えていたクラマも、皆が笑顔だった。
そこには新たに絆が生まれ、それを暖かく見守る太陽と優しい風が祝福していた。
ナルトとクラマは、新しい家族と家(超広大な庭付)を手に入れた!
ということで、何とか8月終わる前に土台を完成させることができました。
正直この後の展開はどうしようか悩んでいて、割と土台と設定がしっかりしているので後はどう料理しようがいいのかな、と思ったりしています。
もちろん自爆はしないように気を付けますが。
今後はここまで早いペースで更新することはできません。
一週間に一話できたらいいほうだと自分で考えています。
それだけ忙しいんです。すみません(汗)
まあ二人と一匹が頭の中で勝手に動いてくれるので話自体はどんどん出てくると思います。
あとはそれをまとめて書ける時間さえあれば大丈夫です。
ひとまずここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
「面白い」と思ってくださった方は続きを楽しみにしていてください。
では、いったんさようなら。