「でもさ、なんでおれがあんなにきらわれてるの?
おれとクラマがちがうってじっちゃんいったんだよね?」
「あのもうろくジジイは噂を知らなかったに違いない」
「うわさって?」
「『火影様が九尾の妖狐をかばっている』っていうやつと
『九尾の妖狐は金髪で両頬にひっかき傷のような三本線が入ってる』ってやつだね」
「ナルトとわしが混同されるような悪質な噂じゃ。
しかもじじいがナルトをどれだけ庇っても、この噂のせいで完全逆効果になっておる」
うわ、なにそれ、とナルトが嫌そうな声を出した。ナルトにとってヒルゼンは信頼できる数少ない、というか唯一の人間だったので、自分のせいで変な噂を立てられてしまっていることに罪悪感を覚えた。
クラマが大泣きした後、一度落ち着こうかと二人と一匹はお茶を飲んでいた。ついでに青年が買ってきたという数種類の饅頭を食べ、「む、こちらは少ししょっぱめの味付けじゃな」「これいいかおりがするってば」「それは桜のやつだね」と批評しながら先ほどの話の補足を行っていた。
「じっちゃんだいじょうぶかな?」
「心配しなくても大丈夫だよ。
三代目の人気がなくなったわけじゃないからね」
「まあ、元火影になるほどの忍者。
信頼がなければおかしいの」
不安そうに言うナルトに青年とクラマが問題ないと言った。ナルトが思うよりヒルゼンという人物はすごいのだと言うと、ナルトは思わず首を傾げた。何しろナルトが見たことあるヒルゼンの姿とは、自分を撫でてしわしわの顔の目じりをだらしなく下げているところだけであったからだ。なかなか信じられないナルトに、思わず苦笑してしまう青年とクラマ。そのころ火影執務室では部屋の主のくしゃみが響きわたっていた。
「にいちゃんもクラマもなにわらってるってば?」
「い、いや、何でもない」
「そ、そうじゃ、どうもしないぞ…っく!」
それが聞こえてしまった一人と一匹はなかなか復活できなかったとさ。
「あれ?なにかわすれてない?」
不意にナルトが視線を宙にさまよわせる。
「どうした、他にも何か疑問があったか?」
「んっと…って、すっかりわすれてたってばよ!」
笑顔で尋ねる青年を見て、やっとナルトは思い出した。
そう、この謎の青年だ。
「けっきょく、にいちゃんだれだってば!」
「…そういえばわしも名は聞いていなかった気がする」
「え?あれ?そうだっけ?」
今度は青年が首を傾げた。俺言ったよーと言わんばかりの反応だったが、ナルトはさすがに騙されなかった。
「そっか、言ってなかったか」
「そうだってば」
「そうじゃな」
「えっと、そうだな…んーどうするか」
急に唸りだす青年にナルトとクラマがきょとんとする。
「…まさか自分の名が思い出せないわけではなかろうな」
「いや、大丈夫、ちゃんと覚えてるけど…」
「けど?」
額に人差し指を当てて考えていた青年はしばらくしてぽん、と手を打った。
「よし、俺の名前は『みずくさ マツモ』にしよう」
ビタン、という音と共に一人と一匹が倒れる。机の下から起き上がったナルトは真っ先に抗議した。
「しよう、てなんだってば!
ぎめいにしてもいまきめたみたいないいかたしてどうするんだってば!」
「どういうことじゃお主!わしらの秘密は聞いておいて自分の本名は隠す気か!」
「いやいや、俺としても偽名は名乗りたくないんだけどね。
めんどくさいし」
「「ならなのるな!」」
きれいなツッコミが入り、おお、こいつらやっぱいいコンビだ、と感心している青年―自称『みずくさ マツモ』にナルトとクラマは顔を見合わせた。
「クラマ、おれ、すっごいつかれたってば」
「ナルト、奇遇じゃな、わしもじゃ」
「おーい二人とも戻ってこーい」
ぺちぺちと二人の頬を叩くマツモに殺意がわく。三歳児うずまきナルト。今なら人殺せます。
「いや、まあ本名はね、ちょっとまずいんだ。
だからごめんね?」
「…最初からそういえばよかろうに」
「そういうものなの?クラマ」
「…まあ、忍者とはそういうものじゃよ、ナルト」
ふーんととりあえず納得するナルト。クラマはクラマで、何かしらの事情があるのだろうと察知しそれ以上の追及はやめた。
「あ、俺忍者じゃないから」
「「もうおまえだまれ‼」」
「さて、漫才も楽しんだことですし、本題に入ろうか」
こっちはすっごい疲れたわ、という視線を無視してマツモが言った。
「ナルト君は九尾の妖狐であるクラマから真実を知ったね」
「う、うん」
「それを踏まえた上での相談だよ」
真剣な声にナルトとクラマが姿勢を正す。
「あの誕生日の事件で、ナルト君は知った。
この里にいることで安全に暮らせるわけではないと」
「そしてそれがなぜかも知った。
まだナルト君には表面しかわからないかもしれないけど、
これはすぐに解決する問題じゃない」
「時間をかけてもうまく解決しないかもしれない。
さて、そこで問題だ。
君が安全に暮らすにはどうしたらいいかな?」
唐突な問題にナルトは動揺した。必死に考え始めたナルトに助言する形で、クラマはマツモに問うた。
「この里から出ればよいのではないか?」
「それはまずい。
ナルト君が里から出てしまうと、世界中から狙われることになる。
今木ノ葉の住民以外に狙われていないのは、木ノ葉に住んでいるからなんだよ」
里の外にでるのはむしろ危険だと聞き、ナルトはさらに考え始めた。クラマもそれ以降は口出しはしない。ナルトが自分で考え、自分で結論を出すことが大切なのだ。それに、ナルトなら間違った結論は出さないと、クラマは信じていた。
秒針が一周したところで、ナルトは口を開いた。
「おれが、つよくなればいい」
その答えにマツモもクラマもにやりと笑った。
「おれが、なぐられてもなぐりかえせるくらいつよくなればいい。
そもそも、なぐられないくらいつよくなればいい」
「その通りだよ、ナルト君」
マツモはナルトの頭を優しく撫でた。
マツモに撫でられるのは初めてだったので、ナルトはちょっと照れていた。
「ナルト君に必要なのは力だ。
どんなことにも対応できる力だ。
自分が望まない状況を生み出さない力だ。
自分を守ることができる力だ。
そして、自分が大切に思う存在を守ることのできる力だ」
最後の言葉に、ナルトは反射的にクラマを見た。クラマもナルト見て、笑っていた。
「わしの封印を解けば、ナルトのことを一生守ってやることもできるぞ?」
「いやだ」
そうだろうな、とクラマはうなずいた。
「お主は籠の中の鳥で終わる器ではない。
その才能はお主の両親から受け継がれておる。
お主ならこの世で一番強くなれるといっても過言ではないと、わしは確信しておる」
クラマから太鼓判を押され、ナルトの目に強い意志が宿る。
その目は、クラマがあの日見たナルトの両親の目そのままで、クラマはより大きく笑った。
「ナルト君」
マツモがナルトと目を合わせる。
「もし君がそんな力を望むなら、俺が師匠となろう」
「俺が君を導いてみせる」
「君が俺のことを信用してくれるなら」
「この手をとってくれないか」
ナルトはしばらく、差し出された右手を見つめた。
しかし、その時間は決して悩んだ時間ではない。
ナルトの答えはとっくに決まっていた。
「おれは、つよくなるんだってばよ!」
ナルトの右手が、力強くマツモの手を握った――
「いい顔して寝てるね」
ナルトは話疲れたのか、もう一度布団に横になっていた。栄養もとり血色のよくなった顔を満足そうに眺めるマツモに、クラマが言った。
「ナルトがお主を信用したのは、少なくともわしがお主を信用したからじゃ」
「…」
「わしの目も節穴になっとるかもしれぬ。
もしナルトを裏切ろうとする節があれば」
「裏切らないよ」
マツモが遮った。
「これから家族になる子供を裏切れるわけ、ないだろう?」
クラマはマツモを見つめた。
そこに浮かぶ笑顔を見て、クラマはうなずいた。
「よかろう。ただ、家族となるなら、お主の秘密もいつか話してほしいものだの」
「はは、それはナルトが強くなったら、考えようかな」
「その時が楽しみじゃ」
「まったくだね」
「ああ、もちろんクラマも家族になるからね?大切にするよ~」
「な!そ、そ、そ、そうかって尻尾を触るな!」
「え~いいじゃん減るもんじゃなし」
「減る!」
「何が!?」
やっぱり楽しい話は書いてて楽しいです。
オリキャラの名前もだすことができてほっと一安心です。
…ええ、偽名ですが、なにか?
実は度忘れしていたのは、オリキャラの名前でした。
偽名はその途中で出てきたアイディアでしたが、それにしても適当すぎですね。
しかし、マツモの性格をよく表しています。
彼に振り回されるナルトとクラマは大変でしょう。
すでに被害が出てますしね。
クラマ、信用するのは時期尚早だったのでは…?