多世界の物語 ~NARUTO~   作:瀧音

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砦は内側から崩れる

 さらに二年が過ぎ、合わせて九尾襲来の日から三年がたった。もちろん、ナルトは三歳になっていた。あれから九尾はナルトを守り、またあやし、食事を与えた。正しい子育ての仕方をあのナルトを殺しかけた保母さんの記憶から読み取っていたので、ナルトが泣き出しても正しい対処をとることができた。保母さんは買い出しをしてもらわなければいけないので、九尾としては本当に仕方なく生かしたままにしておき、幻術をかけたままにしておいた。そうでなくとも、外の情報を得るのに保母さんは重要な駒であった。

 

 ナルトはすくすくと成長していた。初めて言葉を発した時など、九尾は狂喜乱舞していた。すぐにでも自分の名前を呼んでほしく、九尾はナルトに言葉を教え始めた。ナルトは同時期の赤子よりとてつもないスピードで発音できるようになり、やがて九尾の願いはかなった。

 

 「くーらーまー」

 

 笑顔と共に名前を呼ばれた九尾―改めクラマは、あまりの嬉しさに意識を失った。昇天したとも言う。ナルトはそんなクラマの尻尾を玩具にしてキャッキャと笑っていた。

 

 そして三歳になったナルトはかなりはっきりと言葉を話すようになった。言葉で自分の意思を伝えることを覚え、一日中クラマと話していた。そのうち文字にも興味を持ち始め、そちらはまだゆっくりであるが簡単な読み物なら読めるようになっていた。もちろんクラマが感動でむせび泣いたことは言うまでもない。

 

 しかし、うれしいことばかりではなかった。ナルトは興味を持ったのは文字だけでなく、部屋の外に対してもだった。

 

 子供はいろんなものに興味を持つ。保護者ならその興味を大切にしてあげることが必要だったが、ナルトの場合外に関する興味だけは例外だった。クラマはいつかその日がくるだろうとは覚悟していたが、それでもできるだけ他のものに注意を向けさせようと必死になった。しかし、その興味を持たせようとするものもやはり「外」からやってくるわけで、むしろナルトの外への興味を増加させるだけだった。

 

 そして三歳になった今日、クラマにとって恐れていたことが起こってしまう。それも、最悪の形で。

 

 

 

 「くらま」

 「…だめじゃ」

 

 いつもは笑顔しか見せてこなかったクラマがこの時ばかりは真剣な顔を見せていた。ナルトはその前で今にも泣きそうな顔をしていた。

 

 「なんでだめなの?ナルト、そとにでたいの」

 「それだけはだめじゃ」

 「どうして!」

 

 ナルトがその小さな体から信じられないくらい大きな声を出す。しかし、クラマは全く動揺することはなかった。

 

 「のう、ナルトや。面白いものは保母さんがもってきてくれているじゃろ?

  それではだめなのかの?」

 「やだ!ナルトそとにでたい!」

 「何もずーっと外にでてはだめとは言わん。

  せめて…あと二年。あと二回誕生日が来た後ならわしも許そう」

 「ナルトは、いまでたいの!

  きょうだってナルトのたんじょうびだよ?

  なんできょうはだめでつぎのつぎのたんじょうびならいいの?」

 

 クラマはどうしたものかと心の中で頭を抱えた。まだ自分がこの里を蹂躙して三年しかたっていない状態で、ナルトを外に出したら何が待っているか、想像は容易かった。せめて五年たてば、ということと、ナルトが五歳まで大きくなって頭も体も成長すれば何とかなるだろうと考えていた。クラマから見ても天才といえるナルトならあと二年でどれだけ成長できるか予想がつかなかった。

 

 しかし、今はだめであった。ナルトはまだまだ知らないことが多すぎ、自制心もないことは明白であった。外にでるにしても里人に見つからないようにするべきだと思っていたクラマは、見つかってしまうリスクをできるだけ小さくしたかった。

 

 すべてはナルトのため。ナルトが不必要な傷を負わないため。自分が蒔いた種だからこそその責任は負わなければいけないと、クラマは考えていた。もちろん目に入れても痛くないぐらい可愛がっているナルトだからこそだったが。

 

 

 クラマは完全に見誤っていた。ナルトがどれだけ天才であったかを。ナルトの才能は学の習得だけでなく、感覚の繊細さ、そしてその再現性にもあったことに気づかなかった。

 

 

 「もういい!クラマしまっちゃう!」

 

 クラマがその意図を問う前に、その意識は檻の中に戻っていた。そして驚いている間に尾獣を封じる鎖が四肢を拘束、さらにはナルトにチャクラを送れるようになったあの術式がその効果を閉ざしていた。

 

 「な!ナルト!何をする!今すぐ出すのじゃ!」

 「やだ!クラマはそこではんせーしてればいいんだよ!」

 「ナルト!」

 

 反省の使い方が違うなどとは言ってられなかった。なんとナルトは普段クラマが自身の体から出入りする時の感覚から、どんなふうにクラマが出てきているのか、そしてどうすればクラマが出てこれなくなるのかを理解し、実行してみせてしまったのだ。母親や先祖代々器の役割を遂行したうずまき一族の誰もが苦労して獲得した封印術を、ナルトは感覚だけで会得してみせてしまった。

 

 「くつをはいて、えっと、でんきはけして」

 

 もはやクラマの声もナルトには届いていなかった。今保母さんは外に買い出しに行ってしまっている。邪魔者は誰もいなかった。うきうきと外に出る準備をし、最後にどきどきしながら部屋の扉を開ける。それが自分を守る最大の砦であることを知らずに。

 

 「じゃあ、いってきますってばよ!」

 

 誰もいない部屋にナルトの声が響く。時々でる母親譲りの口癖がナルトの興奮度合を示していた。そして、自分が知らない世界へと飛び出していった。




次回、次々回はまだシリアスの予定です。
自分が思った以上に最初からシリアス続きで、唯一かけた楽し気な話は前回のクラマだけ。
あと二話でなんとかシリアスを脱却します!
あれ?もしかしてその前に8月が終わってしまうのでは…(汗)

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