「だめだ、これ以上いかねぇ」
ナルトはどうにかして水を川の向こう側へ届かせようと試行錯誤したが、しかしどうやっても対岸以上まで水が届くことはなく、完全に行き詰ってしまった。マツモも「もしできたら呼んでね」とどこかへ行ってしまい、ヒントは先ほど一回見せてもらった実演だけであった。ナルトは水鉄砲をにらみつけ、思わず投げてしまいそうになる自分の手を必死に抑えていた。
「でも、これどうやって水を出してんだ?」
それは割と最初からある疑問だった。何も押すものなしに出る水、握る力である程度調整できる噴出力。とても不思議な道具であるこの水鉄砲の仕組みを理解しなければいけないのだろうと、ナルトは改めて筒を調べてみた。
しかし、そのわずか三十秒後、何も調べるところのない筒に何かが切れたナルトは、水鉄砲を己の出せる最大限の力で握った。
「こうなったら水出しまくってやるってばよ!」
やけになりとにかく水を飛ばすナルト。的に届かず余計にイライラするという悪循環の中連続で四回ほど補給しながら水を出し続けた。
その時、何かがナルトの感覚をかすめる。先ほどまで感じなかった何かが、水鉄砲を握った時に発生していることに気づいた。しかし具体的にどんな感覚なのかを捉える前に水が出きってしまう。これが糸口かもしれないとナルトは急いで水を補充し、もう一度水鉄砲を握った。感覚を研ぎ澄ますために目を閉じ、何かの正体を探る。
「これ、なんだ…?」
その感覚は水鉄砲を握る手を中心に感じ取れた。手の平が少しむずがゆく、手の中で液体のようなものが動いているようにナルトは感じた。よくよくたどってみるとその液体は腕から手に移動しているようであり、そこより前はもやもやしてわからなかった。特に指のほうに液体は集中している気がして、その指からどこかに伝っている。指が接しているのは、水鉄砲――――
と、そこで水が終わっていまい、するとその感覚もなくなってしまった。どうやらこれは水を出している時でないと分からない感覚なようで、ナルトはこれこそが水を出すための動力源ではないかと推測した。この水鉄砲はナルトの体から何かを吸収して水を出しているようなのだ。ナルトはそこまで考え、新たな発見に喜び勇んで次の水を汲もうとした、のだが。
「あ、あれ、と、とととと、うわっ!?いってぇ…」
すてん、と尻餅をついてしまう。一歩踏み出そうとしたとき目の前がくらっとし、さらに足に力が入らなくなってしまった。何とか前に倒れるのは防いだが、妙に体全体がだるい。額を拭ってみるとひどく汗をかいていた。しかもお腹も鳴り出す始末。
(無理はしないように)
きっとマツモはこうなることを分かっていたのだ。なぜここまで自分が疲れているのかわからず首を捻るナルトだったが、座っていても良くならないし、なにより集中して気づかなかったがもう夕方になっていた。ナルトは茜色の空をぼんやり見上げて、もう今日はやめたほうがよさそうだ、と考えた後で、この川から家に割と距離があることを思い出しげんなりした。
―――課題二日目
今日は午前中から修行を始めることにしていた。昨日家に帰って夕ご飯を食べた後、あの感覚について自分なりに調べてみたのだ。マツモからの課題である以上、クラマに聞くのはルール違反だ。しかし、ナルトはその感覚と倒れた時の症状が書かれた文章をどこかで読んだ記憶があり、今まで読んだ本で探した結果目的のものを見つけられた。謎が解けたとき、ナルトの目はキラキラと輝いていた。
「よし、やるってばよ!」
気合十分だったが、しかしナルトは水鉄砲を脇に置き両手の平を合わせた。目を閉じ、深呼吸をして、肩の力を抜き、体の中心に意識を向ける。その状態が数分続いた後やっと目を開けたナルトは水鉄砲を持ち、今まで一度も届かなかった十メートルの的に照準を合わせた。そして―――
「チャンスは一回。できなければ今日はもうテストを受け付けないからね」
「オッス!」
「じゃあ、まずは一番手前の的から」
昼下がりの川岸にはナルトとマツモの姿があった。マツモが的を指さすと、ナルトは水鉄砲を構える。間もなく水鉄砲から水が噴き出し、水はきれいに的に命中した。
「次、一つ奥の的」
マツモの声にナルトはすぐ水を出すのをやめ、次の的へ照準を合わせる。やはり間をおかずに命中した。
「さあここから、もう一つ奥の的だ」
つい昨日届かなかった的への挑戦。しかしナルトは特に気負いせずに的を狙う。それこそ本当に狙ったのかわからないぐらいすぐに水を出し、見事に命中させた。
「最後」
マツモは短く告げる。しかしその顔はナルトの成長を喜び、また次に起こる光景を確信して笑みを浮かべていた。ナルトはそんな師の様子に気づかず、ただ自分と水鉄砲と的に意識を集中させている。今までより少し間が空き、そして―――
―――噴き出した水は、吸い込まれるように的の中央に当たった
「おめでとうナルト、課題は合格!」
「…よっしゃー‼」
マツモがナルトに拍手を送る。ナルトは真剣な顔を崩し、両手を上げて喜んだ。その後ガッツポーズをして駆け寄るナルトを、マツモは頭を撫でて迎えた。
「さて、ここからは答え合わせをするよ。
この水鉄砲は何をもとに水を出している?」
突然の問だったが、ナルトは全く動揺せず、考え込むことなく即答した。
「これチャクラを使って水飛ばしてたんだってば」
「うん、じゃあチャクラとは何のことかな、ナルト?」
「チャクラは主に忍術を使うときに必要とされるエネルギー。
生命の身体エネルギーと精神エネルギーから練られてできる。
手を合わせると練りやすい。って『忍術入門書』に書いてあったってば」
「身体エネルギーと精神エネルギーの違いは?」
「身体エネルギーは体力のことで、精神エネルギーは心の強さのこと。
だから歳をとって成長すると練れるチャクラが増えていくってば」
「うん、大正解だ」
質問に答えられて得意げなナルトの頭をマツモはもう一度撫でた。
ナルトが調べたのは何度も読み返していた本の一つである『忍術入門書』。そこに書いてあった文を思い出したのだ。「チャクラを使いすぎチャクラ切れになると体が思うように動かない、眩暈がする、人によってはお腹がすくなどの症状が出る」。つまり昨日のナルトはチャクラ切れの状態だったのだ。
マツモはナルトから水鉄砲を受け取る。
「これは俺特製の水鉄砲で、チャクラを吸収して蓄える珍しい竹からできてる。
実は中に板が入ってて、チャクラでそれが動くから水が出るんだ。
そしてチャクラの量によって板の押す力が変わる。
だからチャクラを多く注げば水が勢いよく出るってわけだ」
その解説にナルトは納得する。全部ナルトが考えた通りだった。しかし一つ疑問があったことを思い出す。
「でも兄ちゃん、俺最初チャクラ流すつもりじゃなかったけど水出てきたよ?」
「この竹の面白い特性でね。
触れている生物からチャクラを吸収しようとして、無理矢理チャクラを練らせるんだ。
それこそ、まだチャクラを練ったこともない子供でもね。
だからこれを使えばすぐにチャクラを練る感覚をつかめると思ったんだ」
「なるほどな。確かに俺チャクラ練れるようになったってば」
そしてナルトはマツモを期待した目で見る。
「兄ちゃん、チャクラのこと教えてくれたってことは…」
「うん、次からは忍術の修行に入るよ」
「ぃやったああああぁぁぁぁ‼」
課題に合格したときより喜ぶナルト。今まで知識でしか知らなかった忍術、憧れの忍術を実践することができるのだ。本を読むたびに、自分の頭の中で忍術を決める自分を想像するしかできなかったが、今度から試せるようになる。喜び叫んでも仕方なかった。
「でも」
「え?」
「まさか一日でできるようになるとは思わなかったなぁ」
その声色にナルトは嫌な予感がした。チャクラを使いすぎたわけでもないのに汗が頬を伝い流れる。マツモを見やると、そのニコニコした笑顔の中に何か気づいてはいけない要素が入っている気がした。全力で逃げたくなったが、もう遅い。
「それだけ早くできるなら、ほかの修行も並列してできるよね」
「これからたくさん教えないといけないことがあるから」
「結構年数長く見積もってたけど」
「もっと短くしてよさそうだ」
ナルトは課題を終わらせるのが早すぎた。それだけの能力があるから構わないのだが、しかしだとすると、教える側はもっといろんなことを教えたくなるというもの。マツモの目に危ない光が宿っていることに気づいたナルトは、その笑顔の迫力にいつの間にか腰を抜かしてしまっていた。必死に後ずさるナルトにマツモがゆっくり、ゆっくりと近づく。
「ナルト」
「明日から」
「頑張ろう」
「ね?」
翌日からナルトはボロボロになって家に帰ってくるようになった。マツモは、ナルトが思っていたよりずっと、スパルタだった。
というわけでナルト、チャクラを練れるようになる、の巻でした。
ナルトがチャクラを練れるようになってしまいました。
もうナルトの成長を止められるものはありません。
後は使うことに慣れてしまえば全部応用ですから。
って、もちろん才があるからなせることですけれども。
なので次はまた時間を飛ばすつもりです。
時期的にはアカデミー入学になりますかね。
やっと原作キャラとの絡みが始まるわけです。
…大丈夫かな(汗)