二つほど話しておこうか。一つ目は「選択」についての話。
人生において、選択は非常に重要な要素の一つだね。もちろん、自分のこれからを決定することには違いないけれど、それ以上に世界に与える影響も小さくないから。君たちが知る有名人も、最初からそうなることを望んだ人ばかりじゃない。時には自分の選択によって、時には他人の選択によって今君たちに知られている。
人はその重要性を自覚しているから、自分が選ばなかった選択肢に思いをはせることもある。もし自分があの選択をしていたらどうなっていただろうか。そんなifを思い描いて、後悔したり、逆により自分の選んだ選択に自信を持ったりする。また、そこにどんな物語が生まれただろうかと楽しむこともある。
そこからつながってもう一つの話をしよう。平行世界の話だ。
ifの世界は無限の可能性だ。今よりもっと技術が進んだ世界。科学では説明できない魔術を取り込んだ世界。人類が存在しない世界。そんな本来知りえない他世界を、君たち人間は想像で補って見せる。またそれを舞台にした物語を書いて見せる。実に面白いね。
もちろんただの想像だと言われてしまえばその通りだ。人間に世界を作る力は存在しないから、あくまで頭で思い描くだけだ。実際にその世界に入ることはできない。でも、そんな可能性の世界を示してしまった時点で、その世界がないなんて断言することも難しい。君たちでいうところの悪魔の証明とかいうやつかな?
だけど、ない、と断言できてしまう存在もいる。そしてその存在は、ないなら作ってしまえばいい、と言えてしまう。こうして今回の物語は始まる。
君たちが知らないifの物語。選択の違う物語。ゆっくり気ままに楽しんでもらえれば幸い、かな?
木ノ葉隠れの里に住んでいる者なら、忘れられない日となった十月十日。九尾の妖狐が里に襲来し、その圧倒的な力によって多くの物が壊され、多くの者が死んでいった。九尾は四代目火影が、まさにその日生まれた己の子供―後にうずまきナルトと呼ばれるその赤子―に自分の命を犠牲に封印したものの、その直後である今まだ里は地獄のようであった。子供は泣き叫び、大人さえおびえて震え、その夜寝れるものなど誰もいなかった。
そして、忍なら下忍でも手が必要とされる状況で、一人のお面を付けた男が赤子の前に立っていた。そこは奇跡的に無事だった火影亭の部屋の一つで、中は地震の後のようにものがひっくり返っている状態だった。
赤子はまさに先ほど九尾を封印するための器となったうずまきナルト。男は暗殺戦術特殊部隊―通称暗部と呼ばれる部隊に所属し、うずまきナルトの警護を任されていた。通常なら九尾が封印された者に一人しかつけないということはありえなかったが、里人の救出のために人手が必要なことと、臨時に長となって指示を出している三代目火影が、封印を行った四代目火影の腕を信頼したことから、そばにつける人数を最小に抑える判断をした。
しかし、その判断を三代目火影はあとで後悔する。
彼は三代目火影と共に赤子を運んできた一人であった。そのまま流れで彼が警護することになったのだが、その時三代目火影は赤子についての説明をすることを忘れていた。四代目火影の妻が今日子供を産む予定だったことは里の上層部のほんの一握りの人間しか知らなかったのだ。
部屋の扉を閉めると、外とは切り離されたように静寂に包まれる。赤子は眠っていた。そこで初めて冷静になれた彼は、ふと考え始めてしまう。この赤子の素性を。
最初はこの赤子は人間で、九尾を封印されているのだろうかと考えていた。しかしそうするとこの赤子はどこから連れてきたのか。孤児院から?いや、とてもそんな時間はなかったはずだ。それにこの赤子はあまりにも生まれたてすぎだ。まるで今日の九尾襲来を図ったかのようではないか。
――まさかこの赤子は、人間ではないのではないか
その可能性が頭をかすめてしまうと、無視はできなかった。三代目火影は九尾を封印したとは言っていたが、どのような形で封印したかは言っていない。一番考えられるのは人間に対する封印だが、そもそもこんな赤子にあの強大な力を持つ九尾を封印できるのか。なら、もしや四代目火影は…九尾を赤子の形にして封印したのではないか。
気づけば彼は震える手で苦無を持っていた。その鋭い刃を赤子に向けて。振り下ろせば、間違いなく赤子に刺さる位置で。
彼の前に選択肢が現れる。
腕を振り下ろす?下ろさない?
赤子を刺す?刺さない?
赤子を○す?○さない?
そして彼は―――――
あらすじであのようにコメントしましたが、もうすぐ8月が終わってしまい忙しくなってしまいます。はたしてどれだけ書けるのやら…