進撃の巨人 ―立ち向かう者―   作:遠野雪人

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 クリスタ無双回。


第12話 模擬戦③

 

 

  

 

 

「汚されちゃった……私、汚されちゃったよぉ……」

 

 涙声でそう繰り返しながらすがりつくクリスタを、よしよしと背中を撫でながらミーナがあやしている。その視線は慈愛と憐憫を込めてクリスタに向けられており――時折思い出したように責めるような色合いを帯びて俺へと向けられる。

 

 ――凄い絵面だな。

 

 他人事のようにそう思う。これを絵に残したら売れるだろうな、と客観的に見れば外道極まりないことを考えながら息を吐く。

 情がないわけでもない。外道に堕ちたつもりもない。

 向けられる視線から、俺が当事者であることは客観的に見ても間違いない。それでもこうしてふてぶてしくも平然としていられるのは、

 

「おいおい何語弊しか招かないような発言してるんだお前は」

「思うんだけどさ、加害者って皆同じ事言うよね?」

「したり顔でこっちを見るんじゃあないぞミーナ。そもそも何でお前もそっち側に回ってるんだ」

 

 というか俺の記憶が正しければお前も煽っていたよな、とジト目を向けながらこうなるまでの一連の流れを思い返す。

 結果として、クリスタはアニに勝利した。殴りかかってきたアニの拳を完璧に逸らし、懐に飛び込んだところで顎を押し出してのカウンター。文句のつけようもない見事な返し技だったな、と教えた立場としては非常に誇らしい結果となった。

 

 だが、どうも――俺にはよくわからないことだが――その後が問題だったらしい。これは勝敗条件を明確に決めていなかった俺にも責任があるのだろうが、その時俺はどちらかが一本を取るか、危険と判断したら止めればいい、としか考えていなかった。

 二人からも特に質問はなかったし、特にアニなんかは俺と全く同じことを考えていただろうと思う。というよりはアニの場合は速攻で沈めればいい、としか考えていなかったのだろうが、まあどちらにせよその場合はアニの勝利で俺が締めることになるだろうから問題はなかった。

 それが悲劇を呼んだ。いや、教えた側としては悲劇どころかむしろ称賛されて然るべきことのはずなんだが、周囲はそうは評しなかったからこそこうなっているわけで。

 

 地面に背中をつけて仰向けに倒れるアニ。誰もが決まった、と歓声を漏らしそうになったその時――しかしクリスタは更に動いた。

 倒れた衝撃で生まれた硬直をクリスタは見逃さない。浮いていたアニの手を取ってアニの身体をぐるりと回して俯せにし、アニの顎中に膝を落とす。

 えっ、と愕然とした声が多重に漏れた。俺からしてみれば当然のことだが、こういった技の知識がない同期達にとってはそうではない。その光景は、端から見れば戦意もなく抵抗の意志さえ薄い相手への容赦ない追い打ちにしか見えないだろう。

 

 顎中――うなじの下辺りに膝を落とし、相手の抵抗を抑圧した状態で、クリスタはアニの手を捻り上げて拘束する。こうなってしまうとアニはどう身体を動かしても逃げられない。

 ここで俺が「そこまで」と勝負を締めた。結果は勿論クリスタの勝利。高らかにそう宣言したところでクリスタの顔が喜色満面に輝き、しかし周囲のあまりの静けさに一気に強張った。

 無理もない。愛らしい小動物と思っていた少女が、今や肉を食い破る鋭利な牙を持つ肉食動物に生まれ変わったのだ。可愛がっていた猫が死んだネズミを持ってきたような衝撃と喪失感に同期達は例外なくうちひしがれ、そこでようやくクリスタは自身がやりすぎたことを悟ったらしい。周囲を見回して途方に暮れるクリスタへ、ここぞとばかりに両手を広げて救いの手を差し伸べたミーナの胸にクリスタは半泣きになりながら飛び込んでいった。

 

 ――喜ばしいことじゃないか。

 

 慰め合う二人を見ながら外道そのもののことを思う。どう考えてもこれ俺悪くねえよな、と。

 そもそも倒した程度で終わりと考えるのが間違いだ。打撃で昏倒させたわけでもなければ満身創痍でもない。そんな状態ではすぐさま相手は起き上がってきてこちらに反撃をかけてくるだろう。その時こちらが甘い考えを抱いていたのならそのままやられてしまうこともありえる。最善を選びたければ、可能な限り相手の選択肢を潰すために動き続けるべきなのだ。

 一連の動きを指導した俺としては、クリスタのあの技は流石に念入りに教えただけあって文句のつけようもない、素晴らしい動きだったと思う。それだけにこの反応は理解しがたいものがあるのだが――クリスタを抱きしめるミーナは拗ねるように唇を尖らせつつ、こちらへ非難の視線を浴びせてくる。

 

「だって汚されたのは事実だしぃ」

「はっはっは。汚れキャラが何寝言言ってんだ」

「よ、汚れっ!?」

 

 ショックを受けたように大仰に仰け反るミーナ。うん、その反応がすでにそれっぽいんだよなお前。

 

「よ、汚れてないもん私! 汚れたとしてもそれ絶対ジョシュアのせいだからね!?」

「ミーナ、ミーナ。よく考えろ、そもそも本人に素質がなければ普通そうはならないんだよ」

「慈愛顔で諭すように……!? だ、騙されない、騙されないんだから!」

「騙すも何も。……そら」

 

 つい、と立てた人差し指の先を二人へ向ける。意味がわからない、とばかりに不思議そうにミーナが首を傾げるも、指が指す先を追って視線を向け、

 

「?」

「ッ――!」

 

 ――それを見る。

 自身の腕の中から、不意に沈黙したミーナの顔色を窺うように、涙目のまま、上目遣いにこちらを見上げる小動物を思わせるクリスタの姿を。

 

「ごフっ」

 

 ミーナは吐血した。

 

「み、ミーナ――!?」

 

 クリスタの悲痛な叫びが天を衝く。一方、痛烈なクリティカルヒットをモロ喰らいしたミーナは仰け反って天を仰いだ後、生まれたての子鹿のようにがくがくと全身を震わせながらの満身創痍で、

 

「ほら、あれ。あれだよ。あれがお前との違いだよ」

「う、……生まれてきてごめんなさいっ……!」

「どうしたのミーナ!?」

 

 蹲るミーナの肩を叩きながら親指でクリスタを指すとミーナがマジ泣きを始める。受け入れがたい事実に堪えられなかったんだろう。それを心配したのかクリスタが駆け寄ってくるが、どう考えても追い打ちにしかならない。

 

「そっとしておけ。今お前があいつに声をかけるのは逆効果だ」

「ど、どういうこと?」

「持つ者が持たざる者にかける言葉ってのはいつだって残酷なものなんだよ」

「……? えっと」

「わからないのはお前が汚れてない証拠だ。――だからお前はそろそろあいつらの誤解を解きに戻れ。もう手遅れかもしれないが、な」

 

 妄想が捗るクリスタの発言が周囲に与えた影響は計り知れない。

 顔を赤らめる者。鼻から熱い情熱を垂れ流して蹲る者。思春期の青い衝動が抑えきれずに前屈みになる者。溢れ出る殺意が抑えきれずに教官に立体機動装置の使用許可を求めに行く者。そのあまりの純白さに自身を省みてミーナと同じように暗い顔をする者。死屍累々と称して決して誇張表現にならない地獄がそこにあった。

 

「ほ、本当にどういうこと!?」

「お前は格闘術学ぶよりも自分の影響力を学ぶ方が先かもしれんなあ……。まあとにかくだ、早く行ってくれ。このままだと明日の朝日さえ拝めない展開になりかねん」

「そ、そうだね!」

 

 返事をするなりすぐさまクリスタが駆け出していく。それに応じて同期達が輪を作り、クリスタの論説タイムが始まった。……が、誤解を解くため、という目的で向かったにしては同期達の反応がおかしい。悲痛な叫びが上がったり殺意の視線がこちらを向いたり、何故か黄色い声が聞こえてきたりしている。はっきり言って嫌な予感しかしない。

 

「人選ミスじゃないのかい?」

「……言うなよ、アニ」

 

 折角人が言葉にするのを押しとどめたのに、と嘆息を吐きながら近寄ってきたアニに向き直る。

 受け身を取ったとはいえ背中から地面に叩きつけられたというのに、本人の表情は平然そのもの。服装こそ土埃で汚れているものの、この辺りは流石、と言わざるをえない。

 

「で、負けた私はどうすればいいんだい? 失礼なこと言ってすみませんでした、と土下座でもすれば気がすむのかい?」

「お前な、そういうのはもっと殊勝な態度で言えよ」

 

 皮肉気に口元を釣り上げたまま言われても全然勝った気がしない。

 まあ、とはいえ。

 

「あれだけ手抜かれて勝ってもなあ。勝ち誇る気にもならねえよ」

「私は本気でやってたけど?」

「お得意の蹴り技を一回しか出してないのに本気も何もねえだろう。それにその一回も防いでくださいと言わんばかりのハイキックだしな。……正直エレン達にやったみたいに開始早々に膝下に蹴り入れとけばそこで勝負は終わってた。痛みには慣れてねえからな、あいつら」

 

 だからこそハイキックが決まった時には一時的にとはいえ形勢逆転となったわけだし。あの時だって休む間も与えずにアニが追撃をかけていればクリスタは抵抗することさえできずに沈んでいた。結局のところ、最初から最後までこの勝負はアニの手の平の上にあったのだ。

 

「二年間もあって痛みにも慣れさせてないなんて、怠慢もいいとこじゃないか」

「返す言葉もないな。こればっかりは俺の落ち度だ」

 

 二人の素質、モチベーション等を考えれば仕方のないことではあったが、それもこうして弱点となって露呈した今では言い訳にしかならない。

 今後はそういうことも教えていくかなあ、と考えながら顎を擦る。

 

「しかしお前、随分言うじゃないか」

「何が?」

「さっきの言葉。まるで自分はそういう訓練をしてきたって言ってるように聞こえたが?」

「……蹴り技を学んでれば嫌でも慣れるさ。嫌でも、ね」

 

 そうかそうか、と口元を釣り上げる。すぐさま絶対零度の視線が飛んできたが所詮まんまとボロを出した負け犬の目だ。気にもならない。

 

「勝たせてもらった上にご高説まで頂いたとあっちゃ、礼を言わないわけにはいかねえよなあ」

「喧嘩を売ってるんだね? いいよ、今ならいくらだって買えそうな気分さ」

「女が拳バキバキ鳴らすんじゃねえよ、指痛めんぞ。……まあ、それは冗談としても礼を言わなきゃならねえのは本当だ。お前のおかげであいつも少し変われたみたいだし」

 

 少し目を離した隙に何があったのか、同期達の輪の中でユミルに弄り回されながら顔を真っ赤にさせているクリスタに視線を向けながら呟く。

 正直なところ、クリスタを変えようと思っていたとはいえ、それが成功するか否かは五分五分だった。お膳立てをすることはできる。けれど結局、そこから変わろうとするか否かは本人次第なのだ。

 一歩を踏み出すこともできずに敗北し、失意のまま卒業を迎えてしまう危険性もあったことを考えれば、必要なことだったとはいえ、あのように煽ったにも関わらず良い方向に進むようにしてくれたアニには感謝してもしきれない。

 

 だが、だからこそ聞いておきたいこともある。無粋かもしれないが、聞くだけなら許されるだろう。

 

「なあ、アニ。お前、どうして手を抜いてくれたんだ?」

 

 向き直ってそう問いかける。アニは沈黙を保ったままこちらを見ている。

 

「さっきも言ったが、お前の実力ならすぐに決着をつけることもできたはずだ。なのにそれをせず、どころかクリスタを成長させるような煽りまでして」

 

 ――本当は、その答えとして薄々感づいているものはあった。

 それが正解かはわからない。だけれど、だからこそこの問いは必要のあるものだと感じていた。

 

 こちらの問いに対して、アニはしばらく無言を保った。鷹を思わせる冷たい目が感情を伴うことなくこちらを射貫いている。

 視線を切るかどうかを考えるほどに長い間を置いて、不意にアニの方が視線を切った。

 

「……別に、そんな意図があったわけじゃない。あんたのお気に入りをすぐにノしたら面白くない。そう思って手を抜いていたらこっちが無様に負けた。ただそれだけさ」

「そうか」

 

 淡々とした声に、そう一言だけ相づちを返した。これ以上はそれこそ無粋というものだろう。

 

「それより、私はどうしてあんたがこんなことをやっているのかの方が気になるね」

「こんなこと、とは?」

「あの二人の成績が低かったことも、たまたま抜擢されたあんたが教官の真似事を一日限定でやらされたことも聞いた。あんたの役目は本来そこで終わりだったはずだろう? なのにどうして続けてるんだか」

「偶々だよ。偶々あいつらに教えることになって、偶々それが教官の目に留まって、偶々続けることになった。それだけさ」

「惚れでもしたかい?」

「人の話を聞けよ」

 

 何がおかしいのかくつくつと笑う。確かに二人とも可愛いと思うし、役得だと思わないかと聞かれればノーと答えるのは難しい。だが訓練については心の底からそういった感情は持ち込んでいないという自負がある。

 

「冗談さ。別にあんたが本気でそう思ってるだろうとは思ってない」

「……やけに素直に引き下がるな」

 

 思わず眉をひそめた。ひねくれ者のアニがこれほど素直な反応を返すと、何よりも先に警戒の念が表われてしまう。

 俺の訝しげな視線に、本当さ、とアニは薄ら笑いを浮かべたまま肩をすくめ、

 

「だってそうだろう? あんたにとっちゃ、別に他人なんてどうでもいいことでしかないんだから」

「……」

 

 ――そっと、吐息をつく。

 

「随分知ったような口を聞くんだな」

「わかるさ。あんたの目は私と似ているから」

「お前と?」

「世の中の全てに価値を見出せていない。明日世界が滅んだとしてもあるがままを受け入れる。そういう目をしているよ」

「そんなこと考えてるのかよお前」

「あんたもそうだろう?」

「生憎と俺はそこまで冷めちゃいねえよ」

「『そこまで』ってことは、程度の差はあれそう考えているってことじゃないのかい?」

「揚げ足を取るなよ。っていうかしつこいぞ」

「そうかい? まあ、意趣返しってやつさ。……全ての巨人に復讐する。そんな途方もない目的を抱えてる奴が、他人におせっかいするなんておかしくてね」

 

 ――こちらの腹の内を見透かすようなアニの視線。

 それがどうしようもなく、不快だった。

 

「あ、アニ!」

 

 どう言い返そうかと考えていると、輪の中からクリスタがユミルを引き連れてこちらへ駆け寄ってきた。それがきっかけ、というわけではないが、それ以上話を続けるのも空気を読めてない気がして口を閉じた。

 まあ、続けるだけ不快な話だ。別に無理をして続ける必要もない。

 

「あの、アニ、さっきはごめんね。怪我とかなかった?」

「あれくらいでどうにかなると思われてるならむしろその方が失礼だね」

「あ、ご、ごめん」

 

 何だその無駄なプライドは。

 

「それでねアニ、私、さっきのことでお礼が言いたくて」

「私は別に何かした覚えなんてないよ」

「……そう、だね。そうかもしれない。でも、さっきの模擬戦で私、色々なことに気づけた気がするんだ。だからやっぱり、私はアニにお礼が言いたい」

 

 ありがとね、アニ。そう言って微笑むクリスタの表情は成程、同期達が冗談半分で女神と称するだけの神聖さがあるなと一人頷いた。

 その優しい表情に当てられたのか、アニの視線がクリスタから逸らされる。何でもない風を装っているが、どう見ても照れているようにしか見えない。あの万年仏頂面のアニでも流石にクリスタの前では毒気を抜かれてしまうのか、別に、と捨て台詞のように残してそそくさと去って行った。

 

 逃げたな、とアニの背中を眺めながら考えていると、クリスタが今度はこちらを向いた。その表情はつい今し方浮かべていた笑顔を引っ込めた神妙なもので、

 

「ジョシュア、その、今までごめんね。私、今までジョシュアに凄く失礼なこと――」

「とう」

「あうっ」

 

 思わず、我慢しきれずに放ったでこぴんが強制的にクリスタの言葉を途切れさせる。

 

「おいこらてめえ私のクリスタに何しやがる」

「敢えて言う。それでも俺は悪くない」

 

 良い度胸じゃねえか、と拳を鳴らすユミルと、それを慌てた様子で止めに入るクリスタ。

 何もわかってないな、と露骨にため息を吐きながらクリスタに対して言葉を吐く。

 

「色々掴めたんだろう。変わろうと思えたんだろう。その上せっかく勝ったって言うのに何でそんな顔をする必要がある」

「あ……」

 

 アニに向けた笑顔はとても綺麗だったというのに、その直後にあんな辛気くさい顔を向けられたら気が滅入ってしまう。

 不公平だ、なんて子供のような我が儘を言うつもりはないが、模擬戦とはいえ教え子の初の勝利の直後だ。初めに聞く言葉は謝罪ではなく喜びの声であってほしい。

 

 少し悩んでから、そっとクリスタの頭の上に手を乗せた。避けられるかとも思ったが、クリスタは意表を突かれたように目を見開いたまま動かない。嫌がられている様子はないが、まあ、俺のキャラじゃあないか。

 

「――見事な返し技だった。よく頑張ったな」

 

 ぽん、と軽く叩くとともにそう言って手を引いた。消えた手の感触を確かめるようにクリスタは不思議そうに頭を撫でており、それが俺の後悔を加速させる。

 

 ――遠い昔の記憶。姉から対人格闘術を学んでいた頃、訓練を終えてへとへとになっていた俺の頭を撫でてくれた優しい手のひら。

 

 誰かに褒められるということは、それだけで嬉しい。たとえ周りにどう言われようと、誰が認めてくれずとも、たった一人だけでも褒めてくれる人がいればそれは何物にも代えがたいほどの救いになる。

 

 言いたくないことなら無理をして語る必要もない。さらけだす必要もない。

 今はただ、何も考えずに無邪気に喜んでいればいい。誰が認めずとも、自分で自覚がなくても、その頑張りを間近で見てきた俺は決してそれを否定しないから。

 

 そんなことを考えながら、少しでもクリスタの救いになればと思っての行動だったが、やはり早まった行動だっただろうか。クリスタは頭に触れたまま無言を保ち、ユミルからの視線は責めるように俺を貫く。

 友人ゼロの少年時代を過ごしたガキが下手なことをするもんじゃあないな、と鬱々とした感情を募らせていると、ようやくクリスタが反応を見せた。――何故か、その反応は口元を押さえて笑うという予想外のものだったが。

 

「……悪かったな。自分でも馬鹿なことしたって思ってるよ」

「あ、違うの! ごめん、そういうわけじゃなくて」

 

 愚痴る俺に、大げさに手を振りながらクリスタが言う。

 何て言うか、と言葉を選ぶように間を置いて、

 

「ジョシュアって、お兄さんみたいだね、って思って」

 

 照れくさそうに頬を染めながら、笑顔で。

 

「――そう、か」

 

 遠い日の記憶。夕焼けに染まる姉の顔がフラッシュバックする。針で刺したような痛みが胸を衝き、そして……じわりと、温かな想いが染みこんでいく。

 

「こんな奴が兄貴でいいのかよクリスタ。私だったら絶対に嫌だね」

「そう? 結構それっぽいって思うんだけど」

「同期一腹黒いこいつが? まったく、本っ当に男を見る目がないなお前は。絶対に悪い男に騙されて破滅するタイプだよお前」

 

 そうならないように私がしっかり調教してやらねえとなあ、といやらしい笑みを浮かべながら頭を撫で回すユミルと、顔を真っ赤にさせて抗議するクリスタ。

 

 ――兄、ね。

 

 二人の賑やかな声を聞きながら、けれど意識のほとんどはクリスタが口にしたその言葉に向けられていた。

 姉さんに育てられた俺が、姉さんのように誰かを導く兄のようだと表現された。そのことはとても嬉しい。姉さんを尊敬し、姉さんの背中を追いかけていた俺としては、それは何物にも勝る喜びだ。

 

 ――けれど、俺は。

 

 振り向けば、そこには《そいつ》がいる。人間を模したような球体関節の人形が、物も口にせず静かに俺を見つめている。

 

 ――あんたにとっちゃ、別に他人なんてどうでもいいことでしかないんだから。

 

 そんなことはない、と思う。

 ただ――断じて譲れないものがあるだけだ。

 

「ジョシュア?」

 

 どうしたの、とクリスタが小首を傾げて声をかけてくる。

 

「何でもない」

 

 振り返った時には、いつも通り答えることができた。

 

 

 

 

 




 唐突にもらった“暴言”

 予想外の“現実”

 特に理由のない(言葉の)暴力がミーナを襲う――!!



 意外と改造されてないように見えて、実はしっかりジョシュア色に染まっていたというオチ(意味深
 いやまあ本当に誰よりも染まってるのはミーナですけどね!

 実は現段階だとアニよりユミルとの方が関係が良かったりするという。
 何だかんだ言いつつ、クリスタの頭に触れさせる程度にはユミルとの仲は悪くなかったりします。
 この二人の関係は正直原作読んでても難しいところがありますが、ジョシュアというキャラに対しては多分こんな感じかなあと思いつつ。

 次回は総評を絡めつつの順位発表を予定。
 実はまだ順位どうするか悩んでたりしますが、どうなるか楽しみにしつつお待ちいただければ幸いです。

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