とある死後の風紀委員   作:エヌミ観測手

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第20話卒業式

影との戦いから3日後、意識を失っていたゆりが目を覚ますと見知らぬ天井が目に入った

ここはどこなのかを確認する為にゆりが顔を横に向けるとそこには・・・。

 

音無「・・・。」

 

黒子「・・・。」

 

日向「・・・。」

 

直井「・・・。」

 

かなで「・・・。」

 

音無たち5人がベッドで横たわっているゆりを見守っていた、ゆりは体を起こしながら

5人に尋ねる。

 

ゆり「ここはどこ・・・ていうか私はどれくらい眠っていたの?」

 

音無「保健室だ。」

 

黒子「あの戦いから3日経ちましたわ。」

 

影を消滅させる為に1人で奔走していたゆりは疲労からか3日間ずっと眠っていたのだ・・・。

完全に体を起こしたゆりは全員を見ながら再び尋ねた。

 

ゆり「そう、それはわかったけど何故あなた達はまだこの世界に居るの?」

 

日向「何故ここに居るかって?」

 

ゆり「もう影は居ないわ、邪魔する物は無い筈よ。」

 

音無「ああ、分かってる。」

 

ゆり「それなら・・・。」

 

黒子「まだゆりさんがいらっしゃるからですわ。」

 

ゆりは影を倒し終わった後皆を無事にこの世界から旅立たせる事が出来た筈だという安心感を

感じて意識を失った、きっと自分が目覚める頃には音無達も旅立っているだろうと思っていたが

音無達は律儀にもゆりが目覚めるまでの3日間待っていてくれた、理由が分からないゆりだが

実はちゃんと影との戦いの前に音無達から聞いていたのだがどうやら忘れていたようだ・・・。

 

ゆり「え、そ・そうなんだ・・・。」

 

音無「ゆりがまだ残っている。」

 

ゆり「あ、うん・そうよね、何て言うかその・・・。」

 

改めて音無がこの世界に留まっていた理由を告げるとゆりにしては珍しくアタフタと動揺し

ベッドのシーツを指でなぞったり、被っている布団に視線を落としたりと明らかに様子が変だ。

 

日向「ゆりっぺどうしたんだ?」

 

直井「何だ、まだ体の調子が良くないのか?」

 

かなで「・・・多分だけどゆりの抱えていた葛藤はもう解けている・・・。」

 

音日直「「「ええっ!!!」」」

 

黒子「御三方は気づきませんでしたの?」

 

ゆり「!!!」

 

何故ゆりの様子がおかしいか分からない男子3人とは対照的にかなでと黒子の2人は

薄々感づいていたらしく、その指摘にゆりは布団で慌てて顔を隠した・・・。

 

音無「ゆり、本当にそうなのか?」

 

ゆり「ひゃえ!?」

 

日向「ひゃえって・・・確かにこの慌て様は間違いねぇな・・・。」

 

ゆり「ええと違うのよ、そうこれは・・・。」

 

黒子「・・・ちなみに「そう」や「ええと」等の言葉が単語の前に付くとその発言の信憑性が

   下がるそうですわ・・・。」

 

直井「そんな法則よりも僕が催眠術で吐かせよう、本人の自白なら証拠とし・・・。」

 

ゆり「やめろぉぉぉ、コラァァァァァァ!!!」

 

かなでの言った事は事実なのかゆりに確認する音無達、ゆりは必死に誤魔化そうとするが自分

の言った言葉を黒子に鋭く突っ込まれ、直井の催眠術を被っていた布団を投げて阻止した時点で

墓穴を掘ってしまった形だ、かなでの指摘が正しいと自分で証明した・・・。

 

日向「このゆりっぺの反応は間違いないな・・・。」

 

黒子「語るに落ちるとはこの事ですわね・・・。」

 

ゆり「え、そんな事ないわよ・・・だって私リーダーなのよ、そんな簡単に解けてたら

   恥ずかしいじゃない!!!」

 

直井「疑惑を晴らす為に僕が催眠術で・・・ぐほっ!!!」

 

そう言い掛けた直井の顔面に枕が投げつけられた、投げた相手はもちろん・・・。

 

ゆり「ええ、そうよ葛藤は解けたわよ悪いかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

音無「あ、認めた。」

 

黒子「認めましたわね・・・。」

 

日向「はっきりとな・・・。」

 

これまで必死に誤魔化そうとしたゆりだったがこれ以上誤魔化しても仕方がない・・・、

皆を引っ張る戦線リーダーらしく、潔くその事実を認めた・・・、ゆりはベッドの上に座った

状態で体を音無達に向けた、ゆりの前にはかなでと黒子の2人がいる。

 

ゆり「かなでちゃんたら意地悪なんだから・・・それに黒子ちゃんも一緒になって・・・。」

 

かなで「ゆりが天邪鬼なだけ・・・。」

 

黒子「天邪鬼というより素直じゃないだけですわね。」

 

黒子とかなでには敵わないなと言わんばかりにゆりはベッドの端で足をプラプラと振った

そしてゆりはクスッと笑みを浮かべて2人にこう言った。

 

ゆり「でも何だか嬉しいな、かなでちゃんにゆりって名前を呼んでもらえて・・・。」

 

かなで「どうして?」

 

ゆり「だって名前で呼ぶって友達みたいじゃない。」

 

かなで「友達・・・。」

 

ゆり「差し詰め、黒子ちゃんは先輩に言いたい事をズバズバ言う嫌みったらしい後輩ちゃんね、

   いや口うるさい姑かなwww」

 

黒子「な、わたくしは年上の方をちゃんと敬いますし、わたくし自身、花も恥らう中学一年生

   の若き乙女ですのよ!!!」

 

こんなにも遠慮なく本音をぶつけ合う事ができる関係を友達と言わずして何と言うだろうか

3人の乙女が織り成す美しき友情に男達3人はニヤニヤとその様子を見守っていたが・・・。

 

日向「さて、そこのお嬢さん方おしゃべりはそこまでにしろよ。」

 

音無「もうそろそろ移動しておかないと遅くなるからな。」

 

ゆり「遅くなる・・・この後に何かする事があるの?」

 

唐突に日向と音無がまるで時間が押しているから急いでくれと言わんばかりにゆり達を急かした

ので、ゆりはこの後一体何があるのか音無達に尋ねた。

 

音無「最後にしたい事があるんだ、かなではまだやった事がないんだってさ。」

 

ゆり「・・・何をやるの?」

 

黒子「ゆりさん、まずは制服に着替えてくださいな、わたくし達は廊下でお待ちしてますので。」

 

この後に何があるのかを音無は詳しく教えてくれなかった、とりあえずゆりは黒子に言われた

通りパジャマから制服に着替え始めたので音無達は席を外した・・・。

 

 

 

制服に着替え終わった後、ゆりは音無に言われるがまま医局の外へ連れ出された・・・。

 

ゆり「そういえば、他の皆は?」

 

音無「全員行ったよ。」

 

ゆり「そっか・・・。」

 

音無「皆で協力したおかげだ。」

 

日向「あいつらを纏めるのが大変だったからな、ホント何人かは苦労させられたぜ・・・。」

 

直井「まさか、貴様その何人かに神である僕は含んでいないだろうな・・・?」

 

黒子「・・・日向さん発言には気を付けた方がいいですわよ。」

 

日向「・・・何だかんだ言って皆ここでの暮らしを楽しんでいたんだよな、それがわかったぜ。」

 

直井「コイツ、誤魔化したな、そっちがその気なら・・・。」

 

音無「直井、あんまりムキになるなよ。」

 

直井「音無さん違います、僕はムキになったりなんかしませんよ!!!」

 

医局から出た一同はどこかへ向かって歩いていた、その行き先をゆりは知らされていない・・・。

その道中ではゆりは他のメンバーがどうなったのかを日向から聞かされた、日向がその経緯を

話す中で直井が日向の言葉に苛立ちを覚えて危うく騒動に発展するところだったが音無が止めた。

 

日向「・・・それもゆりっぺのおかげだ、それと高松も行けたんだぜ、NPCになった後でも

   魂が戻ったんだ。」

 

ゆり「へぇ~そうなんだ。」

 

日向「あれ、あんま驚かないな、NPCになったら二度と戻れないって言ってたじゃねぇか。」

 

ゆり「・・・思いの強さでいつか人に戻れるようにしてあったのね・・・。」

 

日向「何だって、何か言ったか?」

 

ゆり「何でもないわ。」

 

他のメンバーがどうなったか話していた日向は、これを聞いたらゆりは驚くだろうと思い

NPCになった高松が無事に人間に戻った事を伝えるがゆりは興味がなさそうに返事を返したので

思わず以前にゆりがNPCになったら戻る事が出来ないと言っていなかったかとゆりに問いかけた

質問されたゆりは日向に聞こえない小さな声でAngel Playerのプログラマーはきっと自身を

NPC化した後、天文学的確率で死後の世界に現れた彼女と再会したときの為に人に戻れるように

プログラムしていたのだろうと推測し呟いていた、もちろん日向にはそれが聞こえなかった。

 

かなで「フンフンフンフン~~~♪、フンフンフンフ~ン♪」

 

音無「さっきから口ずさんでいる歌って何だっけ?」

 

一番先頭を歩いていたかなでが先ほどから口ずさんでいる鼻歌が気になり、音無はかなでに

尋ねた。

 

かなで「何だっけ?」

 

ゆり「それは岩沢さんが最後に歌った曲よ、My Song・・・。」

 

音無「ああ、岩沢がボツにするって言ってた曲か・・・。」

 

黒子「ゆりさんが歌う事を許可しなかったからお蔵入りになりかけた曲ですわね。」

 

直井「全校放送で流れた奴か、全く・・・。」

 

ゆり「改めて聞くといい曲よね、かなでちゃん気に入ったの?」

 

かなで「うん、歌ってた人の事はよく知らないけど・・・。」

 

ゆり「じゃあ、かなでちゃんにガルデモの事を教えてあげるわ。」

 

先頭のかなでにゆりは駆け寄り、並んで歩きながら岩沢やガルデモの事をかなでに

話し始めた、一方かなでの少し後ろを歩いていた音無は先ほどから口数が少ない黒子の事が

気になったので傍に近寄って話しかけてみることにした。

 

音無「お前、今日は大人しいけど何かあったのか?」

 

黒子「・・・。」

 

音無「黒子、聞いてるのか?」

 

黒子「え?ええ、聞いておりますわ、少し考え事をしていただけですの・・・。」

 

音無「考え事?」

 

黒子「たいした事ではありませんわ、ご心配をお掛けして申し訳ありませんの。」

 

音無「気になる事とかって解決しておかないと、後で心残りになりかねないぞ。」

 

黒子「ええ、わかっておりますわ・・・。」

 

保健室からここに来るまで比較的活発な性格の黒子が何故か今日は口数が少なく、表情も

暗い、何か悩みでもあるのだろうかと音無が問いかけるが黒子は話そうとしない・・・、

 

ゆり「もしかして向かってたのって体育館?」

 

音無「っと!ああ、やっておきたい事があるんだ。」

 

先頭を歩いていたかなでが体育館の前で足を止めたので隣のゆりも足を止めた、恐らくここが

目的地だろう、ゆりが音無に確認を求めると黒子と話してた音無は慌ててゆりに返事をした、

そして一同は体育館の中へと入っていった。

 

 

 

体育館の中には6個のパイプ椅子と壇上には飾り付けがされていた・・・。

 

ゆり「やりたかった事って卒業式の事だったんだ。」

 

音無「俺たちが作ったんだ、文字はかなでと黒子が書いてくれた。」

 

ゆり「へぇ、かなでちゃん卒業式した事なかったんだ・・・。」

 

かなで「どんな風なのかなって?」

 

日向「どんな風も何も堅苦しくてつまらないだけだよ。」

 

黒子「わたくしは最近したばかりですの、まあ面白いというわけではありませんわ。」

 

日向「女子は大抵泣くんだぜぇwww」

 

かなで「ふ~ん。」

 

音無「じゃあ、始めるか。」

 

体育館の壇上の看板には(死んだ世界戦線 卒業式)と書かれていた、かなでがやりたかった事

とは卒業式だったのだ、ゆりが眠っている間に音無達は着々と準備を進めていた・・・。

 

ゆり「今から!?」

 

日向「何の為に着替えたと思っているんだ・・・。」

 

ゆり「でも、あの本当に消えられるのかな・・・。」

 

直井「どうした、弱気になってそれでも戦線のリーダーか?」

 

音無「何か、お前皆が消えてから変わったよな・・・?」

 

ゆり「そう?」

 

日向「確かにな女の子っぽくなって可愛くなったな。」

 

ゆり「それって喜べばいいの、怒ればいいの?」

 

黒子「確かに可愛いですわね。」

 

ゆり「な、これはその、ええと、あわわわわわわ!!!」

 

卒業式を始めようとすると何故かゆりが慌てた、何かいつもと様子が違うなと思った音無達が

探りを入れるとゆりは更に慌てふためいた、戦いに身を投じているときは凛々しく頼もしい

リーダーだったが戦いが終わると年頃の女の子らしい可愛さと純情さを持った少女に戻ったのだ

そんな可愛らしいゆりを眺めていた音無だったが・・・。

 

音無「よし、始めるぞ。」

 

掛け声と共に一同は左側に女子が座り、右側に男子が座る形で卒業式に臨む。

 

音無「開式の辞、これより死んだ世界で戦ってきた死んだ戦線の卒業式を執り行います

   卒業生全員起立!」

 

開式の辞を述べた司会進行の音無の号令と共に一同は立ち上がる。

 

音無「戦歌斉唱!」

 

ゆり「戦歌って何よ?」

 

音無「死んだ世界戦線の歌だよ、校歌の代わり。」

 

黒子「立華さんが作詞しましたの、椅子の下に歌詞の書かれたプリントがあるので

   皆さんで歌いますわよ、せ~の。」

 

全員「「「「「「お空の死んだ世界から~~~♪」」」」」」

 

校歌ならぬ戦歌を歌い始める一同、その歌声は体育館中に響き渡る・・・。

 

全員「「「「「「麻~婆~豆~腐・・・♪」」」」」」

 

日向「・・・何だよこの歌詞は、思わず歌ったけど酷いだろ、誰かチェックしろよ!!!」

 

ゆり「まぁまぁかなでちゃんなりに一生懸命作ったんだから、そんなに怒らないであげて。」

 

黒子「とても熱心に作っていましたが、この出来だと流石に・・・。」

 

かなでが作ったという戦歌は麻婆豆腐の単語が3回も出てくる上お気楽ナンバーと歌詞に

書かれていて卒業式で歌うには相応しくない残念な出来だった、殆どのメンバーが呆れていた。

 

ゆり「皆もう、かなでちゃんを責めるのはやめにして音無君次は何するの?」

 

音無「ああ、次は卒業証書授与!」

 

ゆり「卒業証書あるんだ?」

 

音無「かなでが1人で作ったんだ・・・あれ黒子も手伝ったっけ?」

 

黒子「いいえ、わたくしは紙と卒業証書を入れる筒を作っただけですわ、文字を書いたのは

   立華さんお1人ですわ。」

 

惨憺たる出来だった戦歌は置いておいて、次に行われるのは卒業証書授与だ主にかなでが

頑張ったようで黒子は少し手伝っただけのようだ、ここでゆりは重大な事に気づく・・・。

 

ゆり「・・・ふ~ん、じゃあ授与する校長は?」

 

???「俺だよ!!!」

 

卒業証書を授与する校長先生がいない事に気づくゆり、一体どうするのかと思っていると

1人の男の声が体育館のステージ上から聞こえた、声の主が居る方向を見るとそこには・・・。

 

日向「じゃ~ん。」

 

ゆり「・・・うわぁ・・・。」

 

日向「くそっ!俺がじゃんけんで負けたんだよ、悪いか!!!」

 

黒子「あんまり怒ると将来本当にそういう風になってしまいますわよwww」

 

ステージ上でハゲのカツラと付け髭と伊達眼鏡を掛けて校長役を演じるのは日向だった

そんな役を任せられたためなのか、ゆりに引かれたためか日向は激怒している、そんな日向に

止めを刺すかのように黒子がそんなに怒るとホントに禿げるぞと戒めた・・・。

 

音無「そろそろ卒業式を再開するから、皆用意しろよ。」

 

ざわめく日向や黒子を制し、音無は卒業式を再開した、次は卒業証書授与だ。

 

音無「卒業証書授与、まずは立華かなで!」

 

かなで「はいっ!」

 

呼ばれたかなではステージに上がり、校長役の日向から証書を礼式通りに受け取った。

 

音無「次は仲村ゆり!」

 

ゆり「はい!」

 

次に呼ばれたゆりも壇上へと上がる、ゆりは日向から証書を受け取った。

 

ゆり「それ、似合っているわよ。」

 

日向「うるせぇ・・・。」

 

カツラを被った日向を見てゆりはこう言った後自分の席へと戻る途中に何となく証書を見ると

そこにはこう書かれていた・・・。

 

(あなたは本校においてみんなのためにがんばりぬいたことをここに証します)

 

ゆり「・・・バカ・・・。」

 

その言葉を見たゆりは思わずそう呟いてしまった、これまでかなでの事を天使と称して

争ってきた戦線のリーダーの自分に対して優しい言葉を送ってくれたかなでにゆりは申し訳ない

気持ちになってこれまでしてきた酷い事や天使が人間であると気づけなかった自分に対して

こんな言葉をボソッと呟いてしまった。

 

音無「次、白井黒子!」

 

黒子「はいですの!」

 

3番目に呼ばれた黒子が壇上へと上がり日向から卒業証書を受け取った、しかしその後黒子は

ステージから降りずに校長役の日向を見つめていたので何事かと思い日向が声を掛ける。

 

日向「お前も俺を笑うのか・・・。」

 

黒子「そんな訳ありませんわ、その伊達眼鏡があまりにも日向さんに似合わないので

   やはり勉強よりもスポーツ向きの殿方だなと思っただけですわ・・・。」

 

日向「ああ、そう思ってたのか・・・。」

 

もしや黒子も自分を笑うのではと警戒する日向だったが予想外の言葉に思わず拍子抜けした。

 

音無「次、直井礼人!」

 

直井「はいっ!」

 

次は直井の番だ、呼ばれた直井はポケットに手を入れたまま壇上に上った。

 

直井「我を称えよ・・・。」

 

日向「はぁ?・・・ったくお勤めご苦労様でした。」

 

直井「フンッ。」

 

最悪な態度で証書を奪い去るように取った直井、受け取るときも片手で証書を受け取っていた。  

 

黒子「次は、音無結弦!」

 

音無「はい!」

 

5番目の音無の名前を呼んだのは黒子だった、音無は壇上へ上がり礼式通りに証書を受け取る。

 

音無「日向、カツラとか取れよ。」

 

日向「え、じゃあ・・・。」

 

証書を受け取った音無はその場に残って日向に変装を解くように言った、言われたとおり日向が

カツラや付け髭をはずしていると・・・。

 

黒子「最後、日向秀樹!」

 

日向「え、は・はいっ!」

 

音無「ホラッ。」

 

日向「何だよ、照れるな・・・。」

 

変装を解いた日向の名前を黒子が呼び慌てて日向は気をつけの姿勢を取った、音無が制服の

中から日向の分の卒業証書を取り出して日向に手渡した、日向は気恥ずかしそうに応じた・・・。

 

日向「ありがとうな。」

 

音無「こちらこそすげぇ世話になった。」

 

そして壇上で音無と日向は固い握手を交わした、自分の席に戻った一同、この次に行うのは。

 

音無{黒子そろそろ頼む。}

 

黒子{承知しましたわ、音無さん。}

 

アイコンタクトを行う黒子と音無の2人、口を開いた黒子がこう言った。

 

黒子「続きまして卒業生代表答辞、卒業生代表の音無結弦さんお願いします!」

 

音無「え~ゴホン、振り返ると色々な事がありました、この学校で最初に出会ったのは仲村ゆり

   さんでした、突然死んだのよと説明され、この死後の世界に残っている人達は皆一様に

   自分の生きてきた人生を受け入れられずに神に抗っている事を知りました、私もその一員

   として戦いましたが・・・。」

 

卒業生代表として答辞を読み上げている音無は一瞬かなでに視線を送り、一呼吸置いてから

続きを読み始めた・・・。

 

音無「私は失っていた記憶を取り戻した事により自分の生きてきた人生を受け入れる事が

   出来ました、それは掛け替えのない物でした・・・そして私はその気持ちを皆にも

   感じて欲しいと思い始めました、ずっと自分の過去に苦しみ神に抗ってきた彼らです

   それは大変難しいものでした・・・。」

 

答辞を読む音無は一呼吸置き、今度は黒子に視線を送ってから続きを話し始めた・・・。

 

音無「皆がすぐに理解してくれるものではありませんでした、しかし私の思いに白井黒子さんを

   始めとする有志が共感し協力してくれました、そのおかげもあって我々はお互いを助け合い

   信じあう事が出来ました、仲村ゆりさんを中心に結成された戦線はそんな人達が集まる組織

   になっていたのです、その力を勇気に皆は受け入れ始めました、皆最後は前を向いて

   旅立っていきました・・・ここに残る6名も今日を以って卒業します、一緒に過ごした

   仲間の顔は忘れてしまってもこの魂に刻んだ絆は忘れません、みんなと過ごせて

   良かったです、ありがとうございました、卒業生代表 音無結弦!」

 

答辞を読み終えた音無を黒子たちが拍手で労った、そして黒子が頃合いを見計らって・・・。

 

黒子「卒業生全員起立、仰げば尊し斉唱!」

 

全員「「「「「「仰~げ~ば、尊しわが師の恩~♪」」」」」」

 

号令と共に全員立ち上がり、卒業式で歌う定番の仰げば尊しを歌い始める。

 

全員「「「「「「今~こそ~、分~かれ目・・・。」」」」」」

 

黒ゆか「「「いざ・・・。」」」

 

音日直「「「い・・・。」」」

 

出だしは順調に歌っていたが最後の部分で女子と男子のタイミングがずれてしまった・・・。

 

直井「貴様、テンポが遅いぞ!!!」

 

日向「ちげぇよ、お前が周りより早すぎるんだよ!!!」

 

ゆり「私達はピッタリだったわよね?」

 

かなで「うん。」

 

黒子「何故、最後だというのに上手く行かないのでしょう、この戦線は・・・。」

 

せっかく卒業式という重要な場面なのに死んだ世界戦線は最後までグダグダだった。

気を取り直して音無がリードして続きを促す・・・。

 

音無「せーの・・・。」

 

全員「「「「「「いざ、さら~ば~♪」」」」」」

 

黒子{さて、もうそろそろですわね・・・。}

 

そして仰げば尊しを歌い終わった一同は口を閉じ、体育館に静寂が訪れた

頃合いを見計らって黒子が音無にアイコンタクトで合図する。

 

音無「閉式の辞、これを以って死んだ世界戦線の卒業式を閉式と致します

   卒業生退場!」

 

卒業生代表の宣言により卒業式は終了した。

 

直井「女の泣き顔は見たくない、先に行く・・・。」

 

最初に口を開いたのは直井だった、帽子に手を当てながら音無の元へと歩み寄った。

 

直井「グスッ。」

 

日向「お前が泣いてるじゃないか。」

 

直井が帽子に手を当てていたのは帽子で泣き顔を隠していたためだった、

去っていく前に音無に挨拶するらしい・・・。

 

直井「・・・音無さん、音無さんが居なかったら僕はずっと報われなくて・・・、

   でも、僕は、僕はもう迷いません、ありがとうございました!」

 

音無「・・・ああ、もう行け・・・。」

 

泣きながら頭を下げて感謝の気持ちを伝える直井を音無は優しく頭を撫でて別れを告げた

 

直井「ありがとうございます・・・。」

 

最後にもう一度感謝の言葉を発した直井が頭を上げると、その場から直井が消えていた・・・。

 

日向「アイツ行ったな。」

 

黒子「ええ、きっと次の人生は悪いものではないはずですわ。」

 

日向「さて、次に泣くのは誰だぁ?」

 

ゆり「泣いたりなんかしないわよ。」

 

日向は次に旅立ちのときに泣くのは誰だと茶化すように言いながら周りを見回すとゆりが反論した

 

ゆり「むさ苦しい男達は置いといて、かなでちゃん、黒子ちゃんちょっと来て。」

 

かなで「うん?」

 

黒子「何ですの、ゆりさん。」

 

冷やかす男子を他所にゆりの元へ黒子とかなでが近寄った。

 

ゆり「まずはかなでちゃん、今まで争ってばかりでごめんね、どうしてもっと早くあなたと

   友達になれなかったのかな、本当にごめんなさい。」

 

かなで「気にしてないから平気・・・。」

 

ゆり「私長女でね、やんちゃな弟や妹を親代わりに面倒を見てきたから、かなでちゃんに

   色々な事教えたり、一緒に遊べたんだよ、かなでちゃん世間知らずっぽいから、心配でね

   もっと色々な事が出来たのにね、色々遊べたのにね、もっと早く気付けば良かったのに

   もっと時間があったらいいのにね、もうお別れね・・・。」

 

かなで「うん。」

 

後悔するとはこの事だろう、ゆりは戦線の皆を思ってこれまで天使と戦ってきたが

実は天使は人間で、かなでもこの世界に迷い込んでくる若者達を思って

彼らにごく普通の人生や人並みの青春を伝えるために行動していたのだ

両者の行動の原点は同じだったが違う道を歩んでしまっただけなのだ

もっと早くこの事実に気付いていればお互いを理解しあえたかもしれない・・・。

しかしこの事実に気付いただけでも幸いだった、おかげでゆりはかなでに謝罪する事ができた。

 

ゆり「次は黒子ちゃん、テスト妨害の時はごめんなさい、私は戦線リーダーの立場に在りながら

   あなたの気持ちを無視してあなたの力を悪用しようとした・・・、これじゃあなたの事

   を仲間としてではなく駒として見ていたようなものね、本当にごめんなさい・・・、

   そして今まで戦線の為に戦ってくれてありがとう、黒子ちゃんは心強い仲間だったわ。」

 

黒子「そんな事はもう気にしておりませんわ、それにわたくしは無我夢中だっただけですの。」

 

次にゆりが話しかけたのは黒子だった、以前ゆりは天使を生徒会長の座から下ろす為に

黒子のテレポート能力を使ってテストの妨害をしようとしたのだ、それは黒子の気持ちを

無視する形で強要しようとしたので、黒子が一時的に死んだ世界戦線から離れ生徒会に入る

という事態にまで発展してしまった・・・、直井の騒動が解決した後ゆりは黒子から

責められても仕方ないと思っていたが、ゆりの思いとは裏腹に黒子は戦線を裏切った事で

負い目を感じてゆりに謝罪までした・・・、そして偽天使や影の騒動の時は戦線の為に

尽力し戦ってくれた、そんな勇敢で優しい黒子にゆりは謝罪と感謝の気持ちを伝えた。

 

ゆり「2人とも並んで立ってくれる?」

 

黒子「?」

 

かなで「こう?」

 

ゆりはかなでと黒子の2人を自分の前に並んで立たせるとそのまま2人を抱きしめた。

 

ゆり「さようなら、かなでちゃん、黒子ちゃん・・・。」

 

かなで「うん・・・。」

 

黒子「はいですの・・・。」

 

2人を抱きしめ別れを告げたゆり、今度は日向と音無の方へ体を向けた。

 

ゆり「じゃあね。」

 

音無「ああ、ありがとうなゆり、今まで世話になった。」

 

日向「リーダーお疲れ様。」

 

黒子「ゆりさん、これまでお世話になりましたわ。」

 

ゆり「うん、じゃあまたどこかで・・・。」

 

軽く手を振って別れの挨拶をしたゆりが体育館から消え無事に旅立っていった・・・。

 

日向「さて、次は俺の番だな。」

 

音無「いや俺からでもいいぜ。」

 

日向「何言ってんだ、かなでちゃんを残して先に行くなよ、俺が行くって・・・。」

 

腕を伸ばしながら日向が前に進んで次は自分の番だと申し出た、音無が自分が順番を代わっても

いいと日向に申し出たが、日向はかなでの方に視線を送りながらその申し出を断った・・・。

 

音無「そうか・・・。」

 

日向「ああ、俺が行くよ、色々ありがとうな、お前と黒子が居なければ何も始まらなかったし

   こんな終わりも迎えられなかった、本当に感謝してる・・・。」

 

音無「たまたまだよ、それに黒子の力もあったからさ。」

 

黒子「わたくしだって焼却炉の中から日向さんに助けられましたわ、そして直井副会長の

   騒動の時は戦線を裏切ったわたくしを身を挺して守ってくださいました・・・。」

 

日向「お、黒子の中で俺の株が上昇中か、照れちまうな・・・。」

 

黒子「まあ・・・この様にすぐ調子にのるのはあまりよくはありませんが、殿方として

   尊敬できるのは確かですわね。」

 

日向「な、最後なんだからそういうのは勘弁してくれよ・・・。」

 

黒子「おほほほ。」

 

音無「あのさ、お前らちょっといいか?」

 

別れの前でも日向はいつもの日向だった、黒子もいつものように日向に接する・・・。

そんな2人を他所に音無は2人にある事を打ち明けることにして口を開いた。

 

音無「実は俺、ここに来る事はなかったんだ・・・。」

 

日向「どういう事だ?」

 

黒子「音無さん、もしかしてあの時保健室でお話していた事が関係してますの・・・?」

 

ここで音無は重要な事を2人に話し始める、以前黒子は盗み聞きという形だったが音無の過去の話

を漏らさず聞いていたが、音無の言葉に耳を傾けた。

   

音無「・・・俺は最後には報われた人生を送っていたんだ、その記憶が閉ざされていたから

   この世界に迷い込んできた、それを思い出したから報われた人生の気持ちをこの世界で

   知る事が出来たんだ・・・。」

 

日向「そうだったのか、お前は本当に特別な存在だったんだな・・・、もしかして黒子もか?」

 

黒子「残念ながらわたくしは違いますわ、しかし聞かされた音無さんの過去から考えると

   そう思う事が出来るなんて音無さんは本当に立派な方ですの、感心しましたわ・・・。」

 

病気になった妹にありがとうと言われるのが生きがいだった音無、それに気付くのが遅れ

妹を亡くしてしまったが、誰かにありがとうと言ってもらいたくて医者を目指し必死に勉強し

センター試験へと臨もうとして鉄道事故により志半ばでその夢は潰えたと思っていたが、

実は生存していて事故から一週間の間被災者達を救おうと奔走し、

最後には自分の体を臓器提供の為にドナー登録で残した、自分の体は誰かを救えたはずだから

自分の人生は悪いものではなかったと納得できた、そんな音無の話を聞いた日向はやっぱり音無は

特別だったんだと口にし、黒子は自分の命を犠牲にしてまで人を救おうとした音無に改めて

尊敬の念を抱いた・・・。

 

音無「だからさ、皆を助けられたのもそういう偶然だったんだよ・・・。」

 

日向「そっか・・・まぁ、長話もなんだし俺はもう行くわ。」

 

音無「ああ、ユイに会えたらよろしくって伝えてくれ。」

 

黒子「日向さん、ユイさんを幸せにして上げて下さいな。」

 

日向「ああ、運は残してあるはずだからな、ユイと一緒に使いまくってくるぜ。」

 

立つ鳥後を濁さずと言わんばかりに日向は短いやり取りだけで終わらせた。

 

日向「よし、お前ら2人で並んで立って真ん中を空けてくれ。」

 

黒子「こうですの?」

 

音無「何をするんだ?」

 

見送ろうとしていた音無と黒子は突然の日向の頼みを受け、言われたとおりに並んで立って

2人の間を空けた。

 

日向「よし、じゃあな親友達!」

 

並んだ音無と黒子2人の間を日向はそれぞれにハイタッチを交わしながら2人の真ん中を通り抜け

軽く言葉を交わした後旅立っていった・・・。

 

黒子「さて、わたくしもそろそろ行く事にしますわ。」

 

かなで「そう。」

 

音無「黒子、いいのか。」

 

黒子「レディファーストですわよと言ってもゆりさんがいらっしゃったのでセカンドに

   なってしまいましたが・・・とにかく次はわたくしが行きますの、音無さん、立華さん

   色々ありがとうございました、お2人には感謝してもしきれない位お世話になりました。」

 

4番目に旅立つのは黒子だった、やはり日向のときのように音無が代わろうかと提案したが

黒子は断った。

 

音無「いや、助けられてたのは俺の方だ、お前に何度も救われた。」

 

黒子「わたくしが言いたいのは音無さんがいつだってわたくしの味方で居てくださった事ですの

   戦線を裏切って生徒会に入った時、わたくしの思いを理解してくださいました・・・、

   その後、わたくしが戦線に戻るのが不安で迷っていた時も背中を押して下さいました。」

 

音無「そうか、お前の力になれていたんだったらそれでいい。」

 

黒子「音無さんといい日向さんといいわたくしはとても良い仲間に恵まれましたの

   この戦線の一員で居られた事を誇りに思いますわ、本当にありがとうございました。」

 

かなで「さようなら。」

 

黒子「ええ、立華さん、音無さん、わたくしはこれで失礼いたしますわ

   では御機嫌よう・・・。」

 

そう言った黒子はスカートの両端を持って頭を下げ別れを告げた、思わず音無は女の子が

スカートを持って横に広げた動作に恥ずかしさから顔を背けた・・・。

 

音無「のわっ!」

 

かなで「・・・あの子はもう行ったわ。」

 

音無「そ、そうかお嬢様の挨拶とはいえちょっとびっくりした・・・。」

 

かなで「・・・。」

 

黒子はその場から消えていて、体育館には音無とかなでの2人が残された。

 

音無「え~と、どうだった卒業式、楽しかったか?」

 

かなで「うん、すごく、でも最後は寂しいのね・・・。」

 

音無「でもさ、旅立ちだぜ、みんな新しい人生に向かって歩き出したんだ、良い事じゃないか。」

 

かなで「そうね。」

 

音無「・・・。」

 

かなで「結弦、どうかしたの?」

 

音無「かなで、ちょっと外に出ないか、風に当たりたいんだ・・・。」

 

かなで「うん・・・。」

 

2人きりになって音無はかなでに感想を聞いたりしていたが、突如音無の表情が暗くなり

心配してかなでが声を掛けると音無に外へ出ないかと誘われ、かなでと音無は体育館を後にした

 

 

 

体育館を出ると外は夕方だった、夕日に包まれたグラウンドではNPC達が部活に励んでいた

校舎からグラウンドへ向かう階段までやってきた音無が踊り場で足を止めたので、かなでも

階段の途中で止まった、考え事をしている音無は何か決心したような表情をすると階段の途中

で佇んでいるかなでに振り向き、話を切り出した・・・。

 

音無「なぁかなで、一緒にこの世界に残らないか?」

 

かなで「え!?」

 

音無「急に思いついたんだけどさ、これから先もゆりや日向達のように理不尽な人生を送って

   この世界に来る奴が居るって事だろ、そいつらもまたゆり達のようにこの世界に居続ける

   かもしれない、ここで過去を受け入れられずに苦しみ続けるかもしれない、生きる事に

   抗ってしまうかもしれない・・・。」

 

かなで「そうね・・・。」

 

音無「でも、俺達が居ればさ、そいつらに今回のように生きる事の良さを教えてさ

   卒業させられる、もしかしたら俺はそういう役目の為にこの世界に来たのかもしれない

   だから一緒に残らないか、俺はかなでが居てくれればこんな世界でも寂しくないから!」

 

音無の話とはこれからもこの世界に来るであろう不幸な若者達の為にこの世界に2人で残って

救い続けていこうという提案だった、それを聞いたかなでは階段を下りて音無の元へとゆっくり

と進んでいった、音無の話は一見すると人助けの為にと思えるが実際は・・・。

 

音無「前にも言ったかもしれない、俺はお前とこれから先も一緒に居たい、だって俺は、

   俺はかなでの事がこんなにも、こんなにも・・・好きだから!!!」

 

かなで「!?」

 

そう言うと音無はかなでを抱きしめた、さっきの話は言い換えると転生しても

また会えるとは限らない、この世界から卒業し来世で会える保障はどこにもないのだ

だったらいっその事この世界に残れば別れる事もなく一緒に居続けられる、それこそ永遠に。

 

音無「好きだかなで、俺と一緒に残ろう・・・。」

 

かなで「・・・。」

 

音無「・・・どうして何も言ってくれないんだ?」

 

何故か音無の告白にかなでは無言だった、たまらず音無がかなでに問いかけた・・・。

 

かなで「・・・言いたくない。」

 

音無「どうしてだよ?」

 

かなで「今の気持ちを伝えたら私は消えるから・・・。」

 

音無「どういう事だ?」

 

かなで「だって私はあなたにありがとうを言いに来たから・・・。」

 

音無「・・・?」

 

かなで「私があなたの心臓を移植する事によって生きながらえる事が出来た女の子だからよ。」

 

音無「!!!」

 

かなで「今も私の胸の中であなたの心臓が鼓動を打ち続けている、私のただ1つの不幸は

    私に青春をくれた恩人にありがとうとお礼が言えなかったこと、それが言いたくて

    それが心残りでこの世界に私は迷い込んできたの・・・。」

 

以前ゆりがかなでが天使ではなく人間だという事実を言った時、何故かなでは生徒会長という

もっとも消えやすい立場に居たのに消えずにこの世界に居たんだと音無が聞いたとき、ゆりは

かなでにはかなでのこの世界に居る理由があるのだろうと言った、かなでは過去に音無が

臓器提供のドナーとなって心臓移植を受けられた事によって生き長らえた少女だったのだ・・・。

 

音無「そんな、どうして俺だってわかったんだ・・・?」

 

かなで「最初に会ったときハンドソニックであなたを刺した時に気づいた、あなたには

    心臓がなかったから・・・。」

 

音無「でも、俺以外のドナーだったかも・・・。」

 

かなで「あなたが失われた記憶を取り戻せたのは私の胸の上で夢を見たから、自分の心臓の音を

    聞き続けていたから・・・。」

 

音無「そんな・・・。」

 

この世界に音無は記憶喪失の状態で迷い込んだのは自分の一部が欠けていた為だったのだ

保健室でかなでを看病をしていた音無が眠った際にかなでに寄りかかった為、過去の世界で

音無が生まれた瞬間から死ぬ直前まで鼓動を続けた音無の生命その物、生きてきた証の心臓

の鼓動を聞く事により、欠けていた記憶を取り戻す事ができた。

 

かなで「・・・結弦お願い、さっきの言葉もう一度言って。」

 

音無「嫌だ、それを言ったらかなでが消えてしまう!!!」

 

先ほどの音無の告白をかなでは再び求めたが音無はそれを拒む、今かなでに愛を伝えたら

恩人に感謝できない事が心残りになったかなでを満足させる事になる、恩人に愛される

というのはドナーの名前も顔を知る事が出来ないまま死んだかなでにとっては本望だからだ。

 

かなで「結弦、お願い!」

 

音無「そんな事できない!」

 

かなで「結弦!!!」

 

音無「!!!」

 

離れ離れになるのが嫌で必死に音無は拒もうとしたが、かなでの意思は固かった・・・。

 

かなで「結弦が信じてきた事を私にも信じさせて、生きるってすばらしいんだって・・・。」

 

音無「・・・わかった・・・。」

 

固い意志を持って決断したかなでを思い、音無は覚悟を決めた・・・。

 

かなで「結弦。」

 

音無「かなで愛してる、ずっと一緒に居よう・・・。」

 

かなで「うん、嬉しい。」

 

音無「ずっと、ずっと一緒に居よう、かなで!」

 

かなで「凄く嬉しい、ありがとう結弦・・・。」

 

音無「嫌だ、消えないでくれ、かなで、かなで・・・。」

 

かなで「命をくれてありがとう、結弦・・・。」

 

音無「ああっ!!!」

 

その言葉の直後、かなでを抱きしめていた感触が消えて音無は重力に逆らうことなく前のめりに

倒れた、慌ててかなでがいた場所に両腕を振ってかなでの痕跡を探す音無だったがそんな物はなく

ただ虚しく空気に触れるだけだった、そして音無は空に向かって叫んだ。

 

音無「かなでぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

その直後天上学園の夕暮れの空に1つの光が上っていった・・・。

 

 

 

???「・・・。」

 

その光景を一部始終目撃している者が校舎屋上に居た、その人物は屋上の貯水タンクの上に

腰掛けていたが立ち上がって、こう呟いた・・・。

 

黒子「無事に見届けましたので行動開始ですわね。」

 

その人物とは消えたはずの白井黒子だった、そのまま黒子はテレポートで屋上から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作に基づいた展開はここまでです、次話からはオリジナル展開です。

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