とある死後の風紀委員   作:エヌミ観測手

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第19話最後の戦い

ある日、かなではハンドソニックと背中に羽を展開させて学習棟の屋上に佇んでいた

彼女の視線は校庭に向けられていた、校庭には何十体もの影が蠢いていた・・・。

 

かなで「!!!」

 

そして屋上から飛び降りた彼女は影の集団目掛け自身のハンドソニックで切りかかっていく。

ほぼ同時刻、戦線本部では・・・。

 

直井「では、僕らも行きましょう。」

 

日向「ちょっと待てよ、いつからお前が仕切るようになったんだ。」

 

直井「フンッ、無能な奴に指図される謂れはない・・・。」

 

日向「何ぃ、よくも言ったな!!!」

 

音無「お前らな、いい加減しろよ・・・。」

 

見慣れた日向と直井の口論が繰り広げられていた、こんな緊迫した状況でも2人はいつも通りだ。

そんな2人にやり取りに音無は嫌気が差しながらも2人を止めて、こう告げる。

 

音無「・・・2人とも喧嘩はやめろよ、かなでと黒子の2人が頑張ってくれているんだぞ

   この隙に俺達は全戦線メンバーに会って回るぞ!」

 

かなでと黒子の2人は現在戦線メンバー達を守る為に必死で戦ってくれている、この機を逃さず

音無達はまだこの世界から去る決心がつかずに迷っているメンバー達に会って説得しこの世界から

無事に旅立たせる為、自分達も行動を始めた・・・、その前にまずは音無達3人は銃を取り出し

スライドを軽く引いて薬室に弾が装填されているか確認する、武器装備のチェックは完了したので

意を決して戦線本部の外に一番最初に出た音無は廊下で・・・。

 

音無「あれ、お前らここで何やってるんだよ?」

 

関根「私達はもう良いって言うか・・・。」

 

ひさ子「ここにいるのはあんた達の話を聞いて納得したグループだよ。」

 

入江「もう踏ん切りがついちゃったんだよね。」

 

関根「だから、お別れを言いに来たんだ。」

 

廊下にいたのは関根と入江とひさ子と戦線メンバー数十人だった。

 

入江「言われなくても何となく分かっていた事だったんだけどね・・・。」

 

関根「もう気づかない振りや見ない振りはやめないと・・・。」

 

ひさ子「そう、いつかはやめなくちゃいけない事だったんだが中々決心がつかなかった・・・。」

 

音無と黒子が話したこの世界の真実は気づいている者も少なからずいた・・・。

その者達は気づかない振りや見ない振りでその事から目を背けていた、しかしそれでは

過去に囚われたままだ・・・。

 

ひさ子「でも、もう迷わないし立ち止まらない、あたし達は前に進まなきゃいけないんだ!」

 

関根「もう岩沢さんもユイも居なくなっちゃたから・・・いや未来に向かっていったから

   私達ももう行かなくちゃいけない!」

 

入江「うん、だからもう行きます!」

 

ガルデモのボーカル2人はすでに新しい人生に向かっていった・・・、それなら残された自分達も

新しい人生に向かおうと決意したひさ子達は音無にお別れを言う為にここで待っていたのだ。

 

音無「そうか、そ・・・。」

 

ひさ子「それとさ、やるんなら最後までやりきるって約束してくれないか?」

 

音無「約束?」

 

この世界から旅立つ彼女達を見送ろうとした音無だったが直前でひさ子に遮られた。

 

ひさ子「そう、これまで色々とやって来た戦線がなくなるんだ、あたし達は生前味わえなかった

    青春をここで楽しむ事ができた、だからこそ有終の美を飾るっていうのか、ともかく

    あんたら2人があたし達を説得した以上、ちゃんと最後まで責任を果たしてくれよ!」

 

音無「ああ、もちろんだ!」

 

ひさ子「いい返事だ、じゃああたし達は行くよ。」

 

音無「きっとまたガルデモを好きになる。」

 

ひさ子「ああ、またな・・・。」

 

自分達をこの世界から旅立たせるように説得した以上その責務を果たしてくれとひさ子に頼まれ

音無は力強く返事をした後ひさ子達は音無に別れを告げた、もう廊下には音無1人しかいない。

 

直井「下々共のお見送りお疲れ様でした。」

 

日向「お前、性格破綻してるぞ。」

 

直井「口の利き方に気をつけろ!!!」

 

本部から日向と直井が遅れて出てきた、どうやら音無とひさ子達に遠慮して待っていたのだろう

しかし出てきて早々また喧嘩を始めた、音無は呆れながらも2人を仲裁しようとした時・・・。

ガシャーンと音共に影が校舎内に侵入してきた。

 

全員「「「うわあああ」」」

 

慌てて校舎の外へ逃げた3人だったが、校舎の外のグラウンドにも大量の影が蠢いていた。

 

音無「嘘だろ・・・。」

 

日向「この数は一体、NPC達は・・・?」

 

直井「もうこの辺りにはこいつらしか居ないんじゃ・・・。」

 

音無「お前ら、俺達のやろうとしていることを分かってるんじゃないだろうな・・・。」

 

大量の影に怯む3人、音無がそんな中グロック17を取り出しながらそう呟いたがその直後

ビュンと4体の影が音無達に飛び掛ってきた、今まで対峙した影は地上を移動していたので

この影の動きは完全に予想外だった、身動きする間もなかったのでやられるかと覚悟する

音無達だったが・・・。

 

野田「セイッ!!!」

 

大山「皆頭を低くして!!!」

 

藤巻「おらあああ!!!」

 

TK「engage!!!」

 

とそこへ野田、大山、藤巻、TKの4人が駆けつけ音無達の窮地を救ってくれた。

 

音無「お前ら、俺達の為に戦ってくれるのか!」

 

野田以外「「「ああっ!!!」」」

 

野田「俺はゆりっぺの助けに・・・。」

 

日向「・・・お前一途なのはいいが、できれば協調性を持ったほうがいいぞ・・・。」

 

大山、藤巻、TKの3人は音無の問いかけに息を合わせ答えたが野田だけが場違いな返事をした為

空気を読めてないと日向にツッコミを入れられた・・・。

 

音無「こいつは役者が揃ってきたな・・・。」

 

???「セイッとりゃあああ!!!」

 

状況が自分達にとって有利になってきて音無がそう呟いた直後、校舎の2階ベランダから

影達が投げ飛ばされて、大声と共に細身の男が現れた。

 

???「何だこいつらは、この世界に何が起こったんだ・・・?」

 

日向「ていうか、お前に何が起こったんだ・・・。」

 

藤巻「誰だ、手前は?」

 

???「しばらく山篭りしてたんだが食い物が少なくてな・・・。」

 

藤巻「お前松下五段かよ!」

 

始めて見る細身の人物が何者なのか見当もつかなかったが言動から察するに松下五段のようだ。

 

音無「お前、激痩せしたけど大丈夫か?」

 

松下「体のキレがいい、今なら百人組み手もいけるかもしれねぇぜ!」

 

日向「それ柔道じゃなくて空手じゃねぇか、でも助かるぜ、相手はこれだけの数の敵だ。」

 

山篭りから戻った松下五段も加わり戦線主要メンバー8人は影に囲まれながらも余裕の表情だ。

 

藤巻「メンバーが誰一人欠けることなく無事にここから去っていこうぜ!」

 

音無「よし、突破するぞ!!!」

 

勢いよく音無が叫んで戦線メンバー達は影の集団に突っ込んでいく。

 

 

 

その頃単独行動していたゆりはギルドの連絡通路を進んでいた。

 

ゆり「確かに潜伏するならここが一番だけど、ここって私達の縄張りなのよ・・・。」

 

第1PCルームの秘密の地下入り口から犯人を追ってギルドに降りたゆりはため息混じりに呟いた

ギルドは犯人からしたら敵地のはずなのに・・・。

 

ゆり「っとここにも潜んでいたわね。」

 

視線の先で複数の影が蠢いていた、待ち伏せのようだ、呆れながらもゆりはヴェクターを構える。

 

 

 

ほぼ同時刻、音無達は第1連絡橋で影達に囲まれ足止めを受けていた・・・。

 

音無「くそっ!きりがないな・・・。」

 

直井「音無さん、下を見てください。」

 

片っ端から影を片付けていた音無だったが直井の言葉を聴いて橋の下を見ると影がウジャウジャ

いて連絡橋の階段や柱を登ってきている、ここだけで50体は居そうだ、音無はその様子に

つい気を取られていると・・・。

 

日向「後ろ気をつけろ!!!」

 

音無「!!!」

 

視線を戻したときには音無のすぐ傍まで影が迫っていた、注意した日向も自分のことで精一杯

で音無を援護できそうにない、万事休すかと思われた時シャキンシャキンと短刀の音が響く。

 

椎名「百人だ。」

 

音無「え?」

 

椎名「百人戦力が増えたと思え。」

 

音無「だから、何の事だよ?」

 

椎名が短刀を手にし音無の背後に就いてそう言ったが、音無は椎名の言葉の意味が分からずに

戸惑った、そして次に言った百人の戦力の言葉の真意も分からずにまた戸惑う音無・・・、

椎名は呆れながらも音無に告げる。

 

椎名「まだ分からないのか、ここは私に任せろ、行けっ!!!」

 

音無「・・・椎名、後は任せた・・・お前ら行くぞ、ついて来い!!!」

 

この場は引き受けると言ってくれた椎名の申し出を受けた音無は日向と直井に声を掛けて

第1連絡橋から立ち去ろうとしたが、3人の行く手を突如上空から現れた影達が塞いだ。

 

音無「くそっ・・・。」

 

???「わたくしに任せてくださいまし!!!」

 

悪態をついていた音無だったがそこへ聞きなれた口調の女子生徒の声が響くとバババ、

バババと3ショットバーストの銃声が響き渡った、その直後進路を塞いでいた影達が散った。

 

日向「流石黒子だな、助かった!」

 

黒子「遅れてしまい申し訳ありませんわ、武器庫周辺の影に手間取っていましたの・・・。」

 

音無「姿が見えないと思ったら武器庫の奴らを守っていたのか、それなら仕方ないだろ

   謝らなくて大丈夫だ。」

 

日向「うっしこれで鬼に金棒だ、一気に行こうぜ!」

 

黒子「わたくしもお供しますわ!」

 

影を倒してくれたのは黒子だった、今まで武器庫の防衛に就いていたが音無達の支援の為に

駆けつけてくれたのだ、心強い助っ人の加勢で音無達のテンションは上がり、先を急ぐ。

 

 

 

ギルドの連絡通路ではゆりが影たちに猛烈な制圧射撃を加えていたが弾倉交換の為

一旦岩陰に隠れた。

 

ゆり「数が増えてきてるって事はこっちで合ってるのよね、でも・・・。」

 

今まで影を倒しながら進んできたので、もしかしたら道を間違えたかもしれないとゆりは内心

不安だったが遭遇する影の数が増えてきている以上目的地に近づいてるのは間違いないはずだ。

 

ゆり{弾が少ないわね、まだあんなに影がいるのに・・・。}

 

道は正しいと確信できたが、今度は所持弾数に不安を感じ始めた、ゆりが持って来ているのは

ヴェクターと2丁のM9だけだ、残っているのはヴェクターの弾倉2本、さっき弾倉交換したので

残りは60発だ、M9に至っては予備マガジンを持ってきていないので装填されてる16発だけだ

しかもここに来るまでに結構使ったので残弾数は10発を切っているかもしれない・・・。

 

???「ゆりっぺ。」

 

そんな時だった、ゆりを呼ぶ男子の声が聞こえた、ゆりが視線を向けるとそこには。

 

ゆり「チャー・・・。」

 

チャー「話はギルドにまで伝わっている、お前達苦戦してるんだろう?

    今ギルド全員を地上へ向かわせている、これで少しは楽になるだろう・・・。」

 

ギルドで武器製作を行っているギルドリーダーのチャーがいた、見慣れた顔にゆりは安堵する。

 

ゆり「そう・・・。」

 

チャー「それとこれを持って行け。」

 

戦線メンバーの支援の為ギルドメンバーを投入してくれた事に感謝するゆり、チャーは更に弾薬

が少なくなったゆりにM4CQB-R分隊支援火器仕様を渡してくれた。

 

ゆり「あ、ありがとう。」

 

チャー「もうすぐ戦いも終わるんだな・・・。」

 

ゆり「そうね、もうすぐ終わるわ・・・。」

 

M4を受け取ったゆりは嬉しそうにチャーにお礼を言った。しかしチャーは戦いが最終局面に

近づいてる為か少し寂しそうだった、ゆりもチャーの気持ちを思ってか口数が少ない・・・。

 

チャー「それなら俺達ギルドはお役御免だ、お前たちが戦うから負けずに頑張ってこられた。」

 

ゆり「・・・チャー今までありがとう、あなたが居なければ例え私は戦線を作ったとしても

   ここまで来る事はできなかったでしょうし何も始まらなかったかもしれない・・・。」

 

チャー「いや、1人のバカがいただけだ・・・じゃあな・・・。」

 

そしてチャーはその場から消えていた、見送ったゆりはM4を構えると再び戦いに戻っていった。

 

 

 

数十分後ゆりはオールドギルドに到達していた、現在はギルドメンバー全員が出払ってるので

完全にゆり1人しかいない、ここは安全そうなので一旦ゆりは休息を取る事にしてその場に座る

 

ゆり{天使いや、かなでちゃんも頑張っているかな、何で気づかなかったんだろう・・・、

   気づいていれば仲良く出来たかもしれない、女同士だからこの世界でも似合う服を

   見つけてあげられたかもしれない・・・でも結局は無理か、私は神を許せないから。}

 

休息中にゆりはかなでの事を考えていた、天使だと思っていた彼女はゆりと同じ人間だったのだ

なぜこの事実に気がつくまでこんなに時間が掛かってしまったのだろう、もっと早くに気づけば

理解しあって仲良く出来たかもしれない、この世界で天使と戦ってきたのは神に復讐する為だ

神の手先と思われる彼女を倒す為戦ってきた、彼女が天使でないなら神に復讐するのはどうすれば

いいのか・・・、諦めるしかないのかと思うゆりだったが脳裏に殺された妹達や戦線メンバーの顔

が浮かんだ・・・。

 

ゆり「はっ!!!」

 

考えてる途中だったがオールドギルドに影が現れた為、ゆりは考え事をやめてM4を構えた。

 

ゆり「考える時間もないってわけ、消えろ、消えろ、消えろぉぉぉ!!!」

 

ドラムマガジンを装備したM4の凄まじい火力の前に影はどんどん倒されていく、しかしゆりは

前方の敵に気を取られ背後に影が迫っているのに気がつかなかった・・・。

 

かなで「あっ!!!」

 

ほぼ同時刻学園大食堂で影の掃討中、かなでは何かを感じた。

 

 

 

ゆり「あれ?」

 

数学教師「え~ですのでこの問題はグラフを使って解く事ができます、じゃあ黒板が一杯に

     なってきたからこのグラフは消すぞ。」

 

ゆり「え、ああああああ!!!」

 

突然大声を出すゆりにクラスメイト達が驚いた、今は数学の授業中でゆりは上の空だったらしい

黒板を写していない真っ白な自分のノートに驚いて思わず大声を上げてしまったようだ・・・。

 

数学教師「仲村、消すぞいいのか?」

 

ゆり「え、あ・はい・・・。」

 

クラスメイト「「「あはははははは」」」

 

黒板消しを持つ教師がゆりに確認を取っていた、ゆりは恥ずかしそうに消すのを了承した・・・、

その様子を見て周りのクラスメイト達が笑っている。

 

女子「ねぇ、ねぇってばゆり。」

 

ゆり「え、何よ。」

 

授業が終わって休み時間中にある女子生徒が窓の外を眺めるゆりに話しかけてきたので

ゆりは女子生徒の方に顔を向ける。

 

女子「さっきあんな風に慌てちゃってさ、どうしたの?」

 

ゆり「ただの考え事よ・・・。」

 

女子「授業中上の空になるような、もしかして恋のこと!?」

 

ゆり「バ~カ違うわよ、出来るもんならやってみたいわよ。」

 

女子「上条君ならゆりに気があると思うけどなぁ・・・。」

 

ゆり「!!!」

 

数学の授業中様子のおかしかったゆりを問い詰める女子生徒は恋で悩んでいるのではとゆりに迫る

しかし誰かに恋してるわけではないのでゆりは呆れながら窓の外に目を向けると校庭で何か化け物

のようなものが蠢いていた様に見えたが・・・。

 

女子「・・・って聞いてるの、ゆり?」

 

ゆり「ハッ、ええ。」

 

声を掛けられたので女子生徒の方へ振り向いたゆりが再び校庭に視線を戻すと校庭には化け物

ではなく体育の授業の為に校庭に集まっている他のクラスの生徒しかいなかった・・・。

 

ゆり{今のは一体・・・?}

 

女子「ゆり校庭見てたの?上条君のクラスは次が体育だっけ、やっぱゆりも上条君の事が

   気になってんじゃん!」

 

ゆり「違うわよ、いい加減にしなさい・・・ってあんた誰だっけ?」

 

女子「え、隣の席のヒトミじゃん。」

 

ゆり「ああ、ヒトミか・・・。」

 

1人で盛り上がる女子生徒に呆れたゆりは止めようとしたが名前が分からずに思わず聞いてしまう

キーンコーンカーンとチャイムが鳴って教室に現代国語の教師が入ってきたので2人は席に戻る。

 

現国教師「この時主人公が感じていたのは・・・おい仲村どこ見てるんだ?」

 

現代国語の授業中ゆりは窓の外を眺めていた、授業に集中しないといけないのに

ゆりはそんな気分になれずボーっとしていた そんなゆりを教師が注意する。

 

ヒトミ「おーい、ゆり・・・。」

 

ゆり「え。」

 

現国教師「名前を読んだついでだ、仲村次のページの一行目から読んでくれ。」

 

上の空だったゆりを注意した教師は教科書を読み上げるようにゆりに言った、立ち上がったゆり

が一向に教科書を読もうとしないので不審に思った教師は・・・。

 

現国教師「どうした仲村、112ページからだぞ。」

 

ゆり「凄く幸せですね・・・。」

 

現国教師「ああ、何を言ってるんだ?」

 

読む場所が分からず黙っているのかと思った教師はゆりの的外れな返事に思わず聞き返した。

 

ゆり「凄く幸せな風景、私には眩し過ぎる、皆こんな時間に生きているんだ、いいですね

   羨ましいです、ここから消えたらやり直せますかね、こんな当たり前の幸せを私は

   受け入れられますかね・・・。」

 

現国教師「仲村・・・?」

 

ヒトミ「ゆり・・・?」

 

悲しそうに話すゆり、その様子に教師やクラスメイト達も動揺する中ゆりは更に続ける。

 

ゆり「記憶も失って、性格も変わるならできますよね・・・、だったら生まれ変わるって

   何?それはもう私の人生じゃない別の誰かの人生よ、人生は私にとってたった1度

   の物、それはここにたった1つしかないもの・・・。」

 

そう言いながら胸に手を当てて更にゆりは話し続けた、クラスメイトや教師は黙って聞いている。

 

ゆり「これが私の人生、誰にも託せない、奪いも出来ない、押し付ける事も、忘れる事も

   消す事も、踏みにじる事も、笑い飛ばす事も、美化する事も何も出来ないありのままで

   残酷なたった1度の人生を受け入れるしかないんですよ・・・。」

 

悔しそうに話すゆりだったが突如周りに居たはずの教師やクラスメイトが居なくなった・・・、

教室に居るのはゆり1人だけとなった、いつの間にか昼から夕方に空模様も変わっていた。

 

ゆり「・・・先生分かりますか?だから私は戦うんです、戦い続けるんです!

   だってそんな人生なんて一生受け入れられないから!!!」

 

そういった直後教室の窓が割れて大量の影が波のように教室に流れ込んだ、ゆりは抗えず

あっという間に飲み込まれてしまった・・・。

 

ゆり「あ、ううっ!!!」

 

???「手を伸ばしてくださいまし!!!」

 

もう駄目かと思われたその時ゆりの耳に声が聞こえた、手を伸ばせと聞こえたので手を伸ばすと

誰かがゆりの手を掴む感触を感じて、ゆりは目を覚ます。

 

ゆり「はっ!!!」

 

黒子「間に合って良かったですわ。」

 

日向「よっ、ゆりっぺ危機一髪だったな。」

 

目を覚ましたゆりの前に黒子、日向、音無、かなで、直井の5人が居た・・・。

 

ゆり「戻ってこられた・・・。」

 

音無「お前の声がいやお前の想いが爆発してるってかなでが教えてくれて、黒子に頼んで

   ここまで連れて来たもらったんだ。」

 

ゆり「そう、みんなに助けられたのね・・・。」

 

助けてくれた事に感謝するゆり、ふと疑問に思った事を音無達に問いかける。

 

ゆり「それよりもあなた達どうしてここにいるの?」

 

音無「皆に任せてきた、俺達の思いを皆が引き継いでくれたから。」

 

ゆり「・・・それで私を助けに来たの?」

 

音無「一緒に戦いに来たんだよ。」

 

黒子「これから先はわたくし達もゆりさんと一緒に進みますわ!」

 

ゆり「ありがとう、じゃあ行くわよ!」

 

無事に合流できたゆりと黒子達は6人で先へと進んだ。

 

 

 

ギルド連絡通路B20で音無達はT字路を目前にして様子を伺っていた、T字路で数十体の影が

集まっていて音無達に気づき、3体の影が近づいてくるのだが他の影はそこから微動だにしない。

 

音無「なぁ、あいつらあそこを守ってる気がしないか?」

 

ゆり「奇遇ね、私もそう思うわ。」

 

黒子「・・・しかしあれだけの数が集結している以上突破は難しいですわ・・・。」

 

日向「あんなの絨毯爆撃でもしなけりゃ片付けられないぞ・・・。」

 

かなで「行ってくる。」

 

その言葉を発した直後かなでは影に突っ込んでいき、そのまま影の集団の中に消えてしまった。

 

黒子「立華さん!!!」

 

音無「・・・いやかなでは大丈夫だ!」

 

影に飲み込まれてかなでがやられたと思った瞬間、影が爆発四散して中からかなでが現れた。

 

音無「今だ、行くぞ!」

 

影の集団が居た場所でかなでがもう安全だと合図した為、音無達はかなでの元へ駆け出した

かなでの背後には奥へと続く穴があり、影の集団はこの穴を隠しながら守っていたようだ。

 

日向「くそ、もう湧いてきやがった!」

 

黒子「反対側からも影が近づいてきますわ!」

 

その穴から犯人の元へ向かおうとしていた音無達にT字路の左右から影が迫ってきた・・・。

 

音無「ゆり、先に行け!こいつらの相手は俺たちがする!」

 

黒子「影を片付けたら、わたくし達もすぐゆりさんに追いつきますわ!」

 

ゆり「わかったわ、お願い。」

 

とりあえず迫り来る影との戦いは音無達が行い、ゆりは先行することになった、

ゆりは穴の奥へと進んでいった・・・。

 

 

 

ゆり「バカにしてる・・・。」

 

穴を進んだゆりの前には第二コンピューター室と書かれた扉があった、これにはゆりも

ずいぶん嘗められたものだと怒りを露にするが、全てを終わらせる為にゆりは扉を開けて

部屋の中へと進む、この時ゆりは扉を閉めないまま中へと入っていった・・・。

 

ゆり「・・・こんなに盗んでいたとは・・・。」

 

部屋の両壁にはパソコンが山積みになっていた、数は80台ぐらいはありそうだ・・・。

しかもパソコンの画面を除くとNPCを影に変換するプラグラムが起動しており、その様子が

作業進行ゲージや変換されたNPCの映像で鮮明に確認できる、まるでゲームのようだ・・・。

 

???「よくたどりここまで着けましたね・・・。」

 

ゆり「!!!」

 

突如男の声が聞こえゆりは声のするほうへ視線を送ると部屋の奥で椅子に座った男子生徒が

ゆりを眺めていた、どうやらNPCの様だ・・・。

 

ゆり「バカにしないでくれる、ドアのプレートに堂々と書かれていたじゃない。」

 

???「ここは学校ですからね・・・。」

 

ゆり「ずいぶんと律儀なのね、こそこそとパソコンを盗んだ人とは思えないわ・・・、

   いや盗んだパソコンでこんな馬鹿げた事をやっている以上、まともじゃないのは当然ね。」

 

???「いいえ、僕はこの世界のルールに従ってるだけですよ・・・。」

 

ゆり「ルール?この世界の神が定めた・・・?」

 

???「・・・神、果たして存在するか否か哲学的なテーマですね・・・でも僕にはその答え

    を追求する術はありません、決められた事に従い行動するだけです・・・。」

 

ゆり「・・・あなたもプログラミングで動いているという訳ね。」

 

???「お察しの通りですよ・・・。」

 

この男子生徒が神かと思ってゆりは質問し続けてきたが、どうやら他のNPCのようにプログラム

に従って行動しているだけのようだ、しかし他のNPCとは違いこの世界の性質を理解している、

ゆりはこのNPCを問い詰めれば神への手がかりを掴めると確信し更に問いかける。

 

ゆり「あなたにそうやってプログラミングしたのは誰なの?」

 

???「名前を言っても分からないでしょう、遠い昔の人ですから・・・。」

 

ゆり「・・・Angel Player、このソフトは一体何なの?」

 

???「見ての通りこの世界のマテリアルを作成、改変できるソフトです・・・。」

 

NPCを問い詰め神の情報を聞き出そうとするゆりだったが有効な情報は聞きだせそうにないので

今度は影が発生した元凶のAngel Playerについて探りを入れる。

 

ゆり「なぜそんな事ができるの?」

 

???「さあ、僕が開発したわけではないので・・・でもあなた達だって土から武器を

    作り出している、同じ事じゃないですか・・・。」

 

ゆり{結局同じルールに則ってた訳ね・・・。}

 

しかしAngel Playerに関しても、ゆり達が土から武器を作り出してるのと同じ事をしている

だけだと指摘される・・・結局物や力を生み出す本質は一緒だという事が判明しただけだ・・・。

 

ゆり「・・・じゃあ時間がないから本題に入るわよ、あなたはこの世界に何が起きたらこうする

   様にプログラミングされてるの・・・?」

 

???「僕にはプログラミングの内容は分かりません・・・。」

 

ゆり「では言葉を変えるわ、あなたにとってこの世界に何が起きたの?」

 

これまで質問を続けてきたが時間が長くなると影が増え続けて戦線メンバー達が危なくなるので

何故このNPCがこんな事をしたのか問い詰めた。

 

???「・・・この世界に愛が芽生えました・・・。」

 

ゆり「あ、愛?」

 

どんな答えが返ってくるか身構えたゆりはNPCの意外な回答に驚かされる、そして周りのパソコン

の液晶画面に黒いハートマークが表示され、今まで飄々と答えていたNPCが真剣な表情に変わる。

 

???「そう、愛です・・・それがあってはならないこの世界では・・・。」

 

ゆり{そうか、この世界で愛を覚えたのならすぐに消えるはずだ、じゃあ愛が芽生えると

   この世界はどうなる・・・?}

 

???「愛が芽生えるとここは永遠の楽園に変わってしまう、しかしこの世界はそうなっては

    いけない、なぜならここは卒業していくべき場所だからです・・・。」

 

ゆり「過去にそう思った人がいたのね・・・。」

 

この死後の世界では満足した人間は消えてしまう、愛を知った人間も同様に消えるのだったのだ

生前できなかった事や思い残した事などの後悔はこの世界で達成すればなくなる物だ・・・、

しかし愛はどうだ、愛という感情は中々消えるものではない、ましてやこの世界で愛を知ったら

滅びのないこの世界で愛を知った者は永遠と存在し続ける事になってしまう・・・。

 

???「ただ、誰かの為に生きて報われた人生を送った者が記憶喪失でこの世界に迷い込む

    事が稀にあるのです、その時にそういうバグが発生するんです・・・。」

 

ゆり「そしてその人がAngel Prayerのプログラマー・・・。」

 

???「驚きました、ご名答です。」

 

今までの話を聞いて、Angel Playerのプログラマーはこの報われた人なのではと思ったゆり

がそう答えるとNPCは的を射た答えで思わず真剣な表情から元の飄々とした笑顔に戻った。

 

ゆり「その人はこの世界でのバグに気づき修正を施した、影を使ってのNPC化、つまり初期化。」

 

???「連続正解です。」

 

ゆり「じゃあNPCの中には私達のような人が他にも居るの?」

 

???「はい、2人居ます。」

 

ゆり「可哀想に・・・。」

 

報われた人生を送ったプログラマーが愛が芽生えたこの世界のバグを修正する為に影を生み出した

とこれまでの話から的確な推理をしたゆりにNPCは淡々と賛辞を述べる・・・。

 

???「そのうちの1人はプログラマーです。」

 

ゆり「!!!」

 

そしてNPCの中にはゆり達のような人間がいるという事実に哀れむゆりにそれはプログラマーだと

NPCが教えたのでゆりは驚いて言葉が出てこなかった、そんなゆりに構わずNPCは話し始める。

 

???「彼は待ち続けました、愛を知り1人この世界を去っていった彼女を・・・。」

 

ゆり「そんなもう一度出会える可能性なんてないのに・・・。」

 

???「天文学的な数字ですが、ゼロではありません、しかし彼女を待つ時間はあまりにも

    長すぎて彼は正気を保てなくなったので自分をNPC化するプログラムを組んだ。」

 

ゆり「そっちが先なんじゃないの、そして同じ事が二度と起きないように世界に適応させた。」

 

???「可能性は否定できませんね・・・。」

 

ゆり「1人はプログラマーだとして、もう1人は?」

 

???「彼はプログラマーが自身をNPC化する際に偶然プログラミングされた(この世界にいる

    理不尽な人生を送った全ての魂もNPC化する)という設定の為、運悪くこの世界に来た

    ばかりで何も分からない状態なのに不幸にもNPCになってしまった・・・。」

 

ゆり「いつか、その人たちは報われるのかしら?」

 

???「さあ、それは分かりませんね・・・。」

 

ゆり「一体何が正しくて何が間違っているのやら・・・。」

 

???「僕も何が正しくて何が間違っているか分かりません、しかしここまでたどり着いた

    あなたならばその答えを導き出せるかも・・・。」

 

ゆり「え、どういう意味よ?」

 

???「全てはあなた次第です、この世界を改変するかしないかは。」

 

ゆり「改変して何になるのよ?」

 

???「プログラマーが選ばなかった道を選べる・・・。」

 

ゆり「つまりそれは私が神になれるってこと?」

 

NPCとなってしまった2人の話は余りにも切ない、その事にゆりは胸を痛めながらもこの世界に

発生したバグを修正する為にこんな事をしなくて良かったのではないか、もっと別の方法が

あったのではと頭を悩ませる、そんなゆりにNPCが提案を持ちかける、この世界の神になれる

そんな魅力的な提案を・・・。

 

???「そういう事です。」

 

ゆり「ここを永遠の楽園にすることができる?」

 

???「彼はそうしませんでしたが僕は否定しません、いや否定する感情がないので。」

 

ゆり「私が神になれる、この世界の神に・・・フフフ、アハハ。」

 

突然笑い出したゆり、今まで神に復讐してこの世界を手に入れるという目的で戦ってきた

求め続けていた物にもう手が届くのだ、世界を手に入れるだけでなく神にもなれる・・・。

 

ゆり{手に入れたんだこの世界を、私はやったんだ、戦ってきたのはこの為なんだ

   この力なら天使だって倒せる、これだけのシステムがあれば最強だ・・・。}

 

ゆり「・・・なんて事するわけないじゃない、かなでちゃんはもう敵じゃないもの

   私がここまで頑張ってきたのは、私がここまで来たのは・・・。」

 

大いなる力を手に入れられる喜びからか笑っていたゆりが突然悲しそうな顔になって

笑うのをやめる・・・。

 

NPC「?愛を感じ取りました、こんな大きいのは初めてです、恐ろしい速度で拡大を・・・。」

 

笑うのをやめたゆりをNPCは不思議そうに眺めていたが同時に異変を感じた、愛を感じたのだ。

周りのパソコンの画面のハートが黒から赤に変わった直後ゆりは突然M4の銃口をNPCに向けた。

 

NPC「何ですか?」

 

ゆり「私がここまで頑張ってきたのは皆を守る為なのよ。」

 

NPC「成る程、発生源はあなただったんですね、それで何をするつもりなんです?」

 

銃口を向けられても飄々とした態度を崩さないNPCにゆりは自分は神になる力を手に入れるため

に戦ってきたのではなく仲間を守る為に戦ってきたと告げる、その言葉から愛の発生源はゆりだと

NPCは気づく、そしてNPCはこれから何をする気だとゆりに尋ねると・・・。

 

ゆり「全てのマシンをシャットダウンしなさい、今すぐ。」

 

NPC「本当に良いんですか、決めるのが早すぎませんか、まだまだ考える時間はありますよ

   それこそ永遠に・・・。」

 

この世界を手に入れる力を諦めるのは早すぎるのではとNPCはゆりに考え直すように勧めて

考える時間を与えるが・・・。

 

ゆり「・・・あのね、教えてあげる人間というものはたったの十分だって

   我慢してくれないものなのよ!!!」

 

過去の記憶を蘇らせながらゆりはNPCの勧めを断る、考えたところで無駄だったからだ、

ゆりはM4を壁際に積まれてるパソコンに向けた。

 

ダダダダダダダダダダと5.56mm弾が山のように積み上げられたパソコンを蜂の巣にしていく

あっという間にM4は弾切れになるが今度はヴェクターを取り出し反対側の壁際のパソコンに

向けて45ACP弾を叩き込んでいく、最後にNPCに向かってM9を両手に一丁ずつ構えた・・・。

 

NPC「・・・。」

 

ゆり「!!!」

 

銃を向けられても不敵な笑みを浮かべるNPCにゆりは一瞬迷うが引き金を引いた、パンパンと

銃声が響き、排莢された薬莢がカランカランと転がった・・・。

 

ゆり{・・・これで終わったんだ、きっと皆は助かったはず、これで無事にこの世界から

   去って行けたはず・・・それにしても不覚だお姉ちゃんあんた達と同じくらい皆の事

   を大切に思っていたんだ、私はあんた達だけを愛する姉で居たかったのに・・・。}

 

頭に浮かぶのは殺された兄弟達だった、しかし最初に頭に浮かんだのは戦線メンバーだった。

全てが終わった疲れからかゆりは顔を下に向けた、最初は姉弟達の復讐の為に戦ってきたが

いつの間にか戦線の皆も姉弟達と同じくらい大切な存在になっていたのだ・・・。

 

ゆり{・・・この気持ちは何なんだろう、一体どうしたんだろう、私を突き動かしていた

   ものが消えていく、それが消えたらここに居られなくなるのに・・・人生はあんなにも

   理不尽にあんた達の命を奪ったのに・・・なのにみんなと過ごした時間はかけがえの

   ないもので・・・私も皆の後を追いかけたくなっちゃた・・・!!!}

 

そう思いながら頭を上げたゆりの前に妹たちが現れる、しかも周りの風景も生前ゆりが暮らした

家の中に変わった、妹たち3人が生前の姿のままでゆりの前に並んでいる・・・。

これは幻だと思うゆりだったが不思議とその光景に違和感を感じず寧ろ心地よさを感じていた。

そして妹たちがこう告げた。

 

妹1「ありがとう、もう十分だよ。」

 

妹2「もうお姉ちゃんだけ苦しまなくていいよ。」

 

弟「長い間お疲れ様、お姉ちゃん。」

 

妹たちがゆりにお礼を言って微笑んだ、それを見た瞬間ゆりは泣き出した

今まで必死に堪えてきたからだ、そしてそのままゆりは意識を失った・・・。

 

 

 

目を覚ましたゆりの目には見知らぬ天井が映っていた、どこか分からないのでゆりが顔を横に

向けるとそこには・・・。

 

音無「・・・。」

 

黒子「・・・。」

 

日向「・・・。」

 

直井「・・・。」

 

かなで「・・・。」

 

音無達5人がベッドで寝ているゆりを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はここまでです、もうすぐで最終話になります。
最後まで頑張りますのでどうかよろしく。

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