とある死後の風紀委員   作:エヌミ観測手

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誤字脱字が多く、台詞形式の初心者作品ですがそれでもよろしければ
どうぞご覧ください。


第16話見つけた記憶の欠片

ゆり「この子一度にたくさんの意識と同化しちゃったんだってね・・・。」

 

音無「ああ・・・。」

 

黒子「とても苦しそうでしたわ・・・。」

三人がやり取りをしているのは保健室だ、立華の救出に成功し分身を消す事に成功したものの

結果として立華は昏睡状態に陥ってしまった。

 

ゆり「あたしのせいね・・・。」

 

音無「いや、ゆりはリーダーとしての責務を果たしたよ、戦線最大の危機を

   回避できた、それにギルドが分身によってすでに壊滅していて

   大量の分身がギルドの各所で待ち伏せしてるなんて予想できなかったし・・・。」

 

黒子{あの時の学習棟の揺れはギルドが爆発した際に発生した揺れでしたのね

   日下部さんはご無事でしょうか、そういえば製作して欲しい武器の件で武器庫に

   用事がありましたわね、いらっしゃるといいのですが・・・。}

 

音無「それにあれはかなでの・・・、冷酷なかなでの考えた作戦だから

   ゆりが気に病むことはないはずだから・・・。」

 

ゆりを励まそうとして言いかけた言葉を訂正する音無の表情は暗く

 

ゆりはその場を立ち去ろうとしていたが。

 

ゆり「そう言ってくれると助かるけど・・・。」カーテンに隠れ表情は伺えないが

悔しそうな声で答えて保健室から出て行く。

 

音無{お前、最初に出会った時病院なんてここにはない、誰も病まないって言ってたのに

   何で目を覚まさないんだ・・・!!!}

 

と音無はベッドに横たわるかなでを見て誰も死なない世界のはずじゃないのかと心の中で

問いかけていた・・・。

 

黒子「・・・音無さん、わたくし席をはずしますわ・・・。」

 

音無「・・・悪い・・・。」

 

黒子「いえ、気になさらないでくださいな。」

 

音無「ああ・・・。」

と黒子の気配りに淡々と答える音無、最初黒子はテレポートでこの場を去るつもりだったが

 

黒子「音無さん、あまりご無理をなさらずにどうかご自愛を・・・。」

ガラッと保健室の扉を開け、音無を気遣う言葉を残しその場を立ち去った。

 

 

 

それからしばらくして戦線本部では音無を除くメンバーたちが集まり今後のかなでの対応を

話し合っていた、ゆりは椅子の背もたれに体を預け椅子を揺らしている。

 

高松「これまでにないことです、天使のあんな状態は初めてです、

   このまま目覚めない可能性もありえるかもしれません・・・。」

 

ゆり「それこそありえないイレギュラーな事態よ、必ず目覚めるはず、時間の経過と共に

   傷が治るようにね、寝すぎたという結果になるだけよ。」

 

椎名「そのときの彼女はどの彼女なんだ・・・?」

 

全員「「「「椎名がしゃべった!!!」」」」

 

黒子{そういえば、はっきりと椎名さんの声を聞いたのはこれが初めてですわね・・・。}

 

普段無口な椎名がしゃべった事に驚く一同、深刻な状況であることを再認識させられるなか

黒子はちゃんと椎名の声を聞いたことがなかったので感心していた。

 

ゆり「それが問題なのよ。」

 

藤巻「どっちの天使なんだ?」

 

大山「それは最初の天使だよ、僕たちと釣りをした・・・。」

 

高松「しかしもう1つの意識は好戦的で冷酷でした、ギルドに配置されていた分身

   全てが一度に彼女に戻った以上、元に戻る確立は1%位ではないでしょうか?」

 

日向「なぜあいつの意識が戻らないのか、それはたくさんの冷酷な

   意識があいつの頭の中でぐちゃぐちゃになって酷い状態だからじゃないのか?」

 

ゆり「99%の冷酷な意識と1%の元の彼女の意識どちらになるか・・・。」

 

黒子「ゆりさん、どうしますの?」

 

ゆり「もちろん、手は打ってあるわよ、竹山君を天使エリアに潜り込ませてあるわ

   英語がわかる仲間と共にね。」

 

黒子「松下さんの姿が見えませんが・・・?」

 

ゆり「TKと一緒に保健室の見張りをさせてるわ。」

 

日向「あいつああ見えて英語ダメだしな・・・。」

 

黒子「適材適所というわけですのね・・・。」

 

直井「Angel Playerのデータを消してログインパスワードを変更させて使わせないよう

   にするという事か、わかっているのかこれは一時しのぎでしかないという事を・・・。」

 

ゆり「ええ、もちろんいつかは解読されてプログラムを使われてしまう・・・。」

 

野田「ならマシンごと破・・・。」

 

高松「パソコンとAngel Playerのソフトは学校の備品ですよ、壊しても補充されます。」

 

ユイ「ありゃ今日の皆さんは頭良さそうですよ、悪いものでも食べたんですか?」

 

ゆり「人事は尽くしたわ、後は天命を待つだけ。」

 

リーダーがアホと公認している死んだ世界戦線にしては珍しく全員で知性的で論理的な議論が

交わされた、しかしこれ以上議論を続けても結論が出せないので、かなでが目覚めるのを待つ

しかなかったのでゆりは本部の全員に解散の指示を出した。

 

ゆり「今夜はこれで解散しましょう。」

 

日向「そうすっか、長い一日だったしな、みんな帰ろうぜ。」

 

ゆり{果たして神はどちらの味方をするのか・・・?}

解散指示を聞いて部屋を後にするメンバーたちを見送り、ゆりは窓の外に目をやりながら

神を憎んでるゆりとは思えない考え事をしていた。

 

 

 

メンバーが解散した後、黒子は1人武器庫に向かって歩いていた。

 

黒子{なぜか今夜はテレポートを使う気分になれませんわね、便利なものを使いすぎるのは

   良くない事ですが、能力の使用は自己鍛錬の一環で悪い事ではないのに・・・。}

 

この天上学園はあまりにも敷地が広大なので、普段黒子は近くの場所へ行くときでも

また急ぎの時でなくてもテレポートで目的地に移動していたのだが、どうしてか今夜

は使う気分になれなかった。

 

黒子{それにギルドでの戦闘で疲れてるはずなのにちっとも眠くないですわ・・・。}

 

黒子「さて、着きましたわね。」

 

目的地である武器庫前に到着し、隠し扉を開けて黒子は中に入った。

 

黒子「こんばんわ、失礼いたしま・・・。」

 

戦線男子1「シー、静かに・・・。」

と声を出して入ってきた黒子を武器庫担当の男子が静かにするよう制した。

 

黒子「申し訳ありませんわ、作業の邪魔になってしまいましたか?」

 

戦線男子1「そうじゃなくて、日下部が今机に突っ伏して寝てんだよ。」

 

黒子「日下部さんが?」

 

男子の視線の先で作業机で寝息を立てている日下部が居た、その体には制服のジャケット

が掛けられていた。

 

黒子「確かにお休みのご様子ですわね、これは失礼しましたわ。」

 

戦線男子1「知らなかったんだから仕方ないさ、それよりもこいつに用事でもあるのか?」

 

黒子「ええと、実は作って欲しいものが・・・。」

と黒子は生前の自分が使っていた鉄矢の事を話した、用意できれば銃に頼らずに闘えるからだ

しかし男子生徒は難しそうな顔でこう答えた。

 

戦線男子1「この世界では記憶にあるものなら車や飛行機だって作れるんだが、作る物の

     成り立ちや構造をきちんと把握してないと形だけのものしか出来ない・・・。

     話を聞く限りだと作れたとしても使えないものしか出来ないと思うぞ。」

 

黒子「形だけのものというのは?」

 

戦線男子1「この世界だと命あるものは生まれない、ただし形だけのものに命を吹き込む事は

     できるんだ、そうやって俺たちは土から武器や弾薬を作り出してる。」

 

男子生徒の死後の世界での仕組みを聞いて黒子は改めてこの死後の世界についてまだ知らない事

が多いなと痛感させられた、使っていた自分でも原材料の比率や製造方法等を知らない鉄矢を

他人に作ってもらうのは難しいだろう、どうやらあきらめるしかなさそうだ。

 

黒子「わかりましたわ、実は他にもお願いがありますの。」

 

戦線男子1「言ってみろ。」

 

黒子「わたくしが今使ってるMP5Kよりも強力な銃が欲しいのですが・・・。」

 

戦線男子1「それなら、俺でも力になれるな、お前は体が小さいから日下部はそいつを

     渡したんだろう、俺の見立てでいいなら新しいのを選んでやるよ。」

 

黒子「ええ、ぜひお願いしますわ。」

 

戦線男子1「じゃあ、欲しい性能をリクエストしてくれ、それを元に選ぶから。」

 

と鉄矢の製作依頼以外にも新しい銃が欲しかったので、黒子は様々な要望を出して、男子は

その意見を元に銃の選出を行って黒子のリクエストに適う銃を選び黒子に差し出した。

 

戦線男子1「お前にはH&KのG36Cが良さそうだな、こいつなら性能は申し分ない。」

 

黒子「ありがとうございます。」

 

新しい武器G36Cを受け取って帰り支度をする黒子に男子が声を掛けた。

 

戦線男子1「その銃について詳しい説明が必要なら2~3日後にまた来てくれ

     その頃にはギルドの機能移転を終えて日下部や俺たちも忙しくないはずだから。」

 

黒子「やはりギルドは天使によって陥落しましたのね・・・。」

 

戦線男子1「まあ、元々ギルドは1箇所に機能を集中させ過ぎてから、リスクを分散するために

     突貫工事で機能移転の作業を行っていたんだよ、そのおかげで分身による被害は

     最小限で済んだ、機能移転してなかったらと思うとゾッとするぜ・・・。」

 

黒子「そうでしたの、あまりここには来ないので知りませんでしたわ、

   お疲れのところすみませんでした、わたくしはこれで失礼しますの。」

 

そして黒子は武器庫を後にした。

 

 

 

 

黒子{さて、寮に戻りましょう・・・。}

 

足早に家路を急ぐ黒子、階段に差し掛かって下りているとズルッと足を滑らせてしまう。

ドサッとテレポートする間もなく踊り場に落ちてしまった。

 

黒子{・・・意識が・・・。}

 

NPC男子?「あ、大丈夫か?おいしっかりするんだ!!!」

 

NPC男子?「落とした課題のプリント探して明日提出しないと補修なのにどうして俺は

      不幸なんでせうか・・・って言ってる場合じゃないな。」

 

頭を打ち意識が朦朧とする黒子に誰かが駆け寄り声を掛けている、黒子は遠のく意識の中

自分の顔を覗き込む人物を見た、ツンツン頭が特徴の垂れ目の男子生徒がそこに居た、

しかしそこで黒子の意識は途絶えてしまった。

 

 

 

 

黒子「ハッ!?もうこんな時間ですの、そろそろ学校へ行かなければなりませんわね。」

 

ジャッジメント177支部のソファで目を覚ました黒子はテーブルの上の目覚まし時計を見てそう

呟いた、かぶっていた毛布を畳んでその上に枕を置いて歯磨きするために給湯室へ向かった。

第三次世界大戦から帰ってきた美琴は廃人のようになっていたので、見るのに耐えかね

傍に居るのが辛くなったので黒子は寮を飛び出して、177支部に泊り込む生活を始めた。

常盤台に入学した当初は美琴の傍に居たくてあんなに苦労してルームメイトになったのに

今は一緒になるのが嫌でなるべく会わないように避けてばかりだ。

 

黒子{・・・おねえさま・・・。}

 

黒子{・・・黒子はお姉さまの力になりたいだけですの・・・。}

 

黒子{・・・黒子ではお力になれませんの・・・?}

 

まったく自分を頼ってくれなかった美琴に心の中で問いかける黒子、すでに歯磨きは終わり

後は顔を洗い、朝食を食べて制服に着替えた後、髪をとかしツインテールにして出かけるだけ

だ。

 

黒子「行って参りますわ。」準備を終えた黒子は誰も居ない177支部に挨拶しテレポートで

学校へ向かった。

 

学校に到着し教室へ向かっていると黒子を呼ぶ声が聞こえたので黒子は振り返った。

 

湾内「白井さん、御機嫌よう。」

 

黒子「湾内さん、おはようございます。」

 

クラスメイトの湾内絹保がそこにいた、2人は挨拶を交わして雑談しながら教室に向かった。

 

湾内「そういえば、今日は先週行ったシステムスキャンを欠席された方々の為に

   臨時でシステムスキャンを実施するようですわ。」

 

黒子「わたくしはジャッジメントでの講習や訓練などで忙しかったので

   先週は参加出来ませんでしたわ、今日は出なければなりませんわね・・・。」

 

湾内「・・・最近の白井さんはご無理をなさってるようにしか見えませんわ・・・

   平和を守るのは大切な事ですが気晴らしも必要ですわ、週末に婚后さんと佐天さん

   たちも誘ってどこかへ参りませんか?」

 

湾内が黒子を心配し気分転換に遊びに行かないかと誘ったが。

 

黒子「わたくしはジャッジメントとしての職務に従っているだけですわ、

   それに休息は十分取ってますので大丈夫ですの、お気遣いありがとうございます

   そのお気持ちだけ受け取っておきますわ。」

 

湾内「でも!寮に戻らないのは・・・。」

 

黒子「急ぎますので失礼しますの!!!」

テレポートでその場を立ち去る黒子、湾内の忠告を最後まで聞かなかった。

1人残された湾内は途方にくれるしかなかった・・・。

そして臨時のシステムスキャンの時間、黒子は計測担当教師の前で能力の計測を行っていた。

 

教師「じゃあ、この物体を移動させてみて下さい。」

 

黒子「はいですの。」

 

シュンッと今までは物体に触れなければ移動させられなかったが、黒子は物体に触れずに

移動させてしまった。

 

教師「次はあらかじめ手に触れていたものを順番通りにテレポートしてください。」

 

黒子「1、2、3、4・・・。」と離れたテーブルに置いてある番号のついた錘が黒子の前に

次々現れる、計測機を見つめる教師は液晶画面に表示される数値に釘付けだ

やがて計測を終えた計測器は終了のアラームを鳴らす。

 

教師「すごいわ、これならレベル5に認定されるわ!」

 

黒子「・・・お褒めに預かり光栄ですの・・・。」

 

と計測された数値に教師は興奮していたが、それとは対照的に黒子は冷めた様子で答えた

黒子は心のどこかで美琴に自分の成長した姿を見て欲しいと思う自分がいるのと

廃人のように変わり果てた美琴に今の自分を見せても意に介されずに自分が虚しくなるだけ

と諦めている自分がいた、もう黒子が慕う常盤台のエース御坂美琴の姿はない・・・。

 

黒子「・・・ジャッジメントの仕事がありますので、今日はもうよろしいでしょうか?」

 

教師「え?ええ、あとは正式にレベル5に認定してもらう為に統括理事会の認定委員の前で

   能力の実演を行ってもらうだけだから、今日はもうやることは無いけど・・・。」

 

黒子「失礼いたしますの・・・。」テレポートで消えた黒子は177支部に向かった。

 

シュンッと177支部に現れた黒子を支部長の固法美偉が厳しく出迎えた。

 

固法「白井さんテレポートで支部に来るのは自重してくれない?」

 

黒子「申し訳ありませんわ、遅れそうだったので・・・。」

 

固法「それとここに泊り込むのも・・・。」

 

黒子「わたくしは誰の迷惑にもならずに仕事を片付けたいだけですわ、ここなら夜遅くでも

   書類や報告書をまとめられますので・・・。」

 

固法「・・・わかったもういいわ、けど体調管理には気を付けなさい・・・。」

と支部に泊り込む黒子を説得しようとした固法だったが諦めるしかなかった、

ため息を吐く固法をよそに黒子はパソコンの前で作業中の初春の元に向かった。

 

黒子「初春、何か変わったことはありますの?」

 

初春「・・・特に何も無いですよ・・・。」

 

黒子「そうですの・・・。」

 

初春「・・・。」ここ最近初春と黒子は殆ど会話が無かった、誰にも相談せずに

常盤台の寮を飛び出したうえに事件解決の為に無茶ばかりする黒子を初春は必死に

やめさせようと説得していたが一向に態度を改めない黒子に対し堪忍袋の緒が切れたのだ

そして初春は必要最低限の会話以外口を開かなくなった、今では挨拶すらしてくれない。

結局この日も重たい空気のままこれといった事件や通報もなく177支部は業務を終えて

初春と固法は帰宅していった。

 

黒子{さて書類は片付けてありますし就寝時間まで何をしましょうか・・・。}

 

ソファに凭れ掛かる黒子、今日は事件は無かったが疲労を感じていた黒子はそのまま

ウトウトと眠ってしまった。

 

黒子【初めまして、殿方さんわたくしお姉さまの露払いしております白井黒子と申しますの。】

 

黒子【寮監の見回り!?やむを得ません強制排除しますわ、あら能力が?】

 

どうやら自分は過去に起きた出来事の夢を見ているようだ。

夢の中では1人の男に関する自分の記憶が映像のように再生されていた。

確か上条当麻という名前の高校一年生だ、美琴が好意を寄せていると思われる人物だ

自分にとってはお姉さまに付き纏う厄介な存在だが、自らの危険を顧みずに人助けする

など性格や人柄は好感が持てて決して悪い人間ではなかった。

 

黒子「!?」と黒子は突如目を覚ます、時計を見ると日付が変わっていた。

 

黒子「1月29日午前0時41分・・・、変な時間に目が覚めてしまいましたわ。」

 

黒子「そういえば、あの殿方の事でお姉さまは一喜一憂されたりしてましたわね・・・。」

と第三次世界大戦が終わった後は美琴の事で頭が一杯だったが、そういえば最後に会ったのは

地下街で美琴と一緒にいた時だった、もしかして美琴がおかしくなったのは上条当麻が

原因なのではないかと推測した、そこからの黒子の行動は早かった。

美琴を救えるかもしれない、一縷の希望を見つけた黒子はソファから飛び起きた。

支部においてある自分のパソコンを起動させて学園都市のバンクにアクセスするためだ。

しかし上条当麻のデータを見た黒子は壁に当たってしまう。

 

黒子{何故、レベル0の男子高校生の情報閲覧に権限の高いアクセス権が必要なんですの?}

簡単に発見できたバンクの上条当麻の項目にはプロテクトが掛けられており

アクセス権限がないと見られないようになっていた。

 

黒子{初春でしたら簡単にハッキング出来ますがわたくしでは難しいですわね・・・。}

一瞬諦めかけた黒子だったが

 

黒子「いや、初春でなくても初春のパソコンの解析プログラムを使えばできますわね。」

今度は初春のパソコン机の前に座ってパソコンを立ち上げる黒子、解析プログラムを

起動させたのであとは終わるのを待つだけだ、ここ最近支部に黒子が寝泊りしてるので

初春はパソコンのセキリュティレベルを下げていた、おかげで本人以外でも起動できた。

 

黒子「やりましたわ、アクセスに成功しましたわ・・・これは!!!」

解析に成功したデータを見た黒子は希望を失ってしまった・・・。

 

黒子「第三次世界大戦のロシア近海において上条当麻を発見し死亡を確認、海から遺体を回収し

   学園都市で火葬の後、第10学区の墓地に納骨、死因は溺死・・・。」

暗闇の中で差し込んだ光は消えてしまった、黒子は初春の机から離れソファに

座り項垂れる、美琴は上条当麻の死により茫然自失となってしまったのだ。

 

黒子「わたくしは一体何を期待したんでしょう、お姉さまの性格を考えれば

   あの類人・・・いや殿方を探すはずですわ、そして戦争中のロシアへ赴いたものの

   助ける事ができなかった・・・。」

 

黒子{・・・、パソコンの電源を落としてもう寝ましょう・・・。}

そう思い黒子は初春の机に向かったが、デスクトップ画面に解析完了の

メッセージを見つけ、なんとなくその画面を開くとそこには・・・。

 

 

 

そして1月29日、第19学区を黒子は歩いていた、深夜のパソコンの解析完了のメッセージは

この学区で夜に行われる予定の会合についての暗号メールの解析結果だった

昨日は事件がなかったので黒子は書類や報告書の作成を終わらせた後は暇だったが

初春はジャッジメント本部に提出する報告書と未解決事件で押収した証拠品

のリスト作りに追われていたので、恐らく暗号メールを解析ソフトに掛けていたのを

忘れてしまいその後調べ物するために黒子が解析ソフトを起動すると同時に

暗号メールの解析が完了して、デスクトップに表示されたのであろう。

 

黒子{本来は管轄外でのジャッジメントの活動は規則違反ですが、統括理事による

   学園都市外部の犯罪組織との会合があるのならば、話は別ですわ・・・。}

 

暗号メールによると,この学区の廃ビルがアジトとなっており、人身売買組織が

誘拐した子供を統括理事が買い取っているようだ、今回は取引はないらしく単なる会合だけだ。

最初黒子はこの案件はジャッジメントの活動範囲と権限を越えた事案であるため

アンチスキルに捜査を要請しようと判断したが統括理事が関わっている以上、上からの圧力で

有耶無耶にされる恐れがあるので証拠を掴んでから通報しようと考えていた。

 

黒子{このカメラで証拠写真を撮れば言い逃れはできませんわね・・・。}

手にした小型デジカメを眺めながらそんな事を考える黒子、ちなみにこのデジカメは耐久性と

耐熱性が抜群で高所落下や燃え盛る炎の中でも壊れる事は無いという宣伝文句の代物だ

 

黒子{着きましたわ、見つからないように行動しなければ・・・。}

アジトに到着し、黒子は潜入を開始した。

潜入に成功し誰にも見つかることなく黒子は天井裏に入り込んだ・・・。

しばらく進むと下のほうから話し声が聞こえたので、様子を窺うとそこには

 

 

統括理事「もうすぐ相手が来る時間だ・・・。」

 

暗部組織「警備は万全です、ねずみ一匹入れやしません。」

 

黒子{いましたわ、確かにあの男は統括理事の1人ですわね・・・。}

と天井裏に潜んでいる黒子は天井の小さな穴から男2人のやり取りを見ていた

数分後に会合相手が現れ会合が始まり、黒子はデジカメでその現場を撮影し始めた。

写真だけでなく動画も撮影した、撮影した映像と写真は証拠として十分だったので

黒子は通報の為にテレポートで移動しようとしたが・・・。

 

暗部組織「大変です、この建物内に能力者がいます!!!」

 

統括理事「AIM検知器に引っかかったのか、何故すぐ気づかなかった!!!」

 

暗部組織「キャパシティダウン起動します!!!」

 

黒子{まずいですわ、カメラを隠さないと!!!。}

咄嗟にカメラを天井裏にあったエアダクトに滑り込ませた黒子、能力が封じられる前に

急いで自分も逃げようとしたが、時すでに遅くキャパシティダウンが作動してしまった。

 

黒子「きゃ!!!」頭に激痛が走った事によりドスンと天井裏から部屋に落下する黒子。

 

暗部組織「侵入者を捕まえたぞ!!!」

 

統括理事「どれどれ、確かこいつは常盤台のジャッジメントでまだ認定されてないが

     レベル5のテレポーターか、厄介な奴に見られてしまったな・・・。」

 

キャパシティダウンにより体の自由が利かない黒子はすぐに捕まってしまった。

 

暗部組織「この娘をどうしますか?」

 

統括理事「暗部の世界に引き込むのは難しいだろう、殺すしかあるまい・・・。」

 

暗部組織「レベル5なのにですか?」

 

統括理事「こういう奴を説得するのはほぼ無理だし、空間移動能力者に催眠や洗脳を行うと

     能力が弱体化するかもしれん、殺す前にDNAや脳細胞の回収を忘れるなよ・・・。」

そこで黒子の意識は途絶え悪人の会話も聞こえなくなった・・・。

 

 

 

どれだけ時間がたっただろうか、黒子は朦朧とした意識の中で男たちの会話を聞いていた。

 

???「そういや、数ヶ月前にも無能力者の男のDNAと脳細胞の摘出をしたっけかな?」

 

黒子{声が聞こえますの・・・?でも目が開けられませんし体も動きませんわ・・・。}

 

???「口を動かしてないで、手を動かせよ!!!」

 

???「そんな怒鳴るなって、手で思い出したけど数ヶ月前の奴って何故か

    右腕も切断したんだぜ、しかも腐らないように大急ぎで保存カプセルに

    入れたんだ。」

 

???「ああ、上条当麻ってやつのことか、確かに珍しかったよな。」

 

黒子{・・・!!!上条当麻、あの方は死亡した後すぐには火葬されませんでしたの・・・?}

 

???「それで思い出したがお前の名前もとうまだったよな、漢字は違ったけど。」

 

???「今じゃ名前じゃなくて番号で呼ばれちまってるけどな・・・。」

 

???「この女は天国へ行けるだろうな、まともに生きてきたんだし。」

 

???「もし俺たちが死んだら確実に地獄へ落ちるんだろうな・・・。」

 

???「何だ、良心の呵責か?俺たちみたいなクズは地獄しかねぇよwww」

 

目が見えないのでわからないが、どうやら手術台かベッドのようなものの上で

DNAや脳細胞摘出のための施術をほどこされてるようだ

声しかわからないが恐らく黒子を処置してる2人の男は元医者か元研究者だったのだろう

聞こえてくる話からすると上条当麻もこの男たちの手で死んだ後も体をいじられたのだ。

そして2人の男はこんな非道な事に手を染めている以上、俺たちは地獄に落ちるしかないと

自らの境遇を嘲笑っていた。

 

 

黒子{確かに上条さんは天国へ行けたでしょう・・・ではわたくしは?}

黒子は地獄というキーワードを聞いて死後の世界について考える

間違いなく自分はレベル5としての利用価値がなくなったあとは殺されるだけだろう・・・。

 

???「おい、お前はスキルアウトを捕まえようとアジトに入ったものの犯人の返り討ち

    に遭って逆に倒され口封じの為に殺された、しかしお前の命がけの行動により

    凶悪なスキルアウトグループが後日逮捕されるって言うシナリオで正義の為に

    死ぬんだ・・・。」

 

???「安っぽい脚本だが、『レベル5テレポーター志半ばで散ったものの凶悪犯人たち

    は捕まり本人の死は無駄ではなかった』と新聞の一面に載るだろうな。

    遺体発見後はお涙頂戴の記事や追悼番組で話題になるぞwww」

 

???「お前だって、さっきから手が止まってるぞ・・・。」

 

黒子{わたくしは愚かですわ、お姉さまの力になれないばかりか、わたくしの死により

   お姉さまを更に悲しませる事になるとは・・・。}

死を覚悟すると人間は走馬灯をみるというが本当にその通りだった

初春たちは心配してくれたのに自分は見向きもしなかったと黒子は後悔の念に駆られた。

 

???「じゃあ血液と毛髪と口腔内の粘膜は採取したから、そろそろ・・・。」

そう聞こえた直後に頭に何か刺さるのを感じた黒子は

 

???「・頭・・穴を・・て、ノ・ル・・し込・で・・採取・・・。」  

声を聞き取る事も難しくなって意識を失った。

 

それからしばらくして黒子は朦朧とする意識の中自分の体が運ばれているのを感じた。

 

しゃべる事も体を動かすことも出来ない中、黒子はこんなことを考えていた。

 

黒子{・・・上条さんを見つけなければいけませんわね、お姉さまの為に、それとお姉さまの

周りの世界の為にも、あの方を探し出さないと・・・。}

体に施術を受けた為に正常な思考と判断が出来ない黒子だったが、何かにとり憑かれたように

上条当麻を探さねばならない、そう思い込んでいた。

やがて黒子の体は焼却炉のようなところに投げ込まれた。

 

黒子{・・・1月30日17時58分にわたくしは旅立ちますのね・・・。}

左腕の時計が黒子の死亡日時を示していた、そして黒子の体が燃え始める・・・。

 

 

 

 

 

音無「ハッ!?」

試験会場に向かう電車で衝撃を感じてから意識がなかったがどうやら自分は気絶したものの

生きているようだ、とりあえずポケットの携帯を取り出して時刻を確認すると・・・。

 

音無「やべ、過ぎてんじゃんセンター試験・・・。」

画面には1月15日1:23と表示されていて、センター試験はとっくに終わっていた。

ひとまず起き上がって車内の様子を見た音無は愕然とする。

 

音無「・・・。」

 

車両の窓ガラスは割れて、あちこちに乗客が血まみれで死んでいた、しかし呻き声もわずかに

聞こえてくるので、まだ生存者もいるようだ。

 

キィと連結部のほうからドアの開く音が聞こえ音無が振り返ると、男子高校生が蹲っていた。

音無が駆け寄って、男子高校生の容態を確認した。

 

音無「おい、大丈夫か!?」

 

???「少しふらふらする・・・。」

 

音無「額から血が出てる・・・。」

 

弱弱しい声で男子高生は答えた、音無は包帯代わりにハンカチを裂いて患部に巻き付けた。

 

音無「意識は?」

 

???「大丈夫・・・。」

 

音無「気分はどうだ、吐き気とかあるか?」

 

???「何だあんた医者か?」

介抱しながら診察するように自分に話しかける音無を見て、男子高生はそう尋ねる。

 

音無「まさか、ただの学生だよ、立てるか?」

 

???「ああ。」

 

音無「とにかく外に出よう。」と男子高生に肩を貸しながら車両の外へ脱出した。

 

音無「平気か?」

 

???「ああ、すまない・・・。」

外に出る際、バランスを崩しかける男子高生を支える音無、トンネルのほうを見ると

 

音無「!!!」

 

???「ひでぇ・・・。」

トンネルは落盤していて、土砂に電車が乗り上げていた、あまりに酷い光景に言葉を失くす2人

 

音無「とにかく助けを・・・。」携帯を取り出した音無だったが、携帯は圏外で繋がらない。

 

???「連絡できないか?」

 

音無「ああ、とりあえず電車の中に残っている人たちを助けよう。」

 

???「手伝おう。」

 

音無「大丈夫か?」

 

???「少しは良くなったよ、俺は五十嵐だ。」

 

音無「音無。」

 

五十嵐「行こう。」

2人は電車の中の生存者たちを外に連れ出し、車内に常備されている懐中電灯やカーテンや座席

乗客の鞄を持ち出して、使えるものがないか探し出した、見つけたもので包帯や骨を固定する

添え木を作った、乗客は軽傷者ばかりでなく中には重傷者もいたが出来る限りの手当てを行った。

 

音無「出口を見てくる、出られたら助けを呼んで、必ず戻ってくるからライトを借りていく。」

 

五十嵐「ああ、頼む。」

 

被災者の救助と応急処置が済んだので、助けを呼ぶ為音無はトンネル入り口に向かった。

 

五十嵐「音無。」

 

音無「!?」

 

五十嵐「絶対に助かろう!!!」

 

音無「ああ!!!」

歩き始めた音無を五十嵐が呼びとめ、必ず助かろうと約束を交わす。

 

入り口に向かって歩く音無は途中で足を止めた、視線の先に落盤により土砂で塞がれてしまった

トンネルの入り口があったからだ、これにより音無たちは完全に閉じ込められた事になる。

 

音無「くそっ、!?痛つつつ!!!」

 

諦めきれず携帯を取り出して電波が通じないか試す音無だったが突如腹部に激痛が走り

その場に蹲ってしまう、咳き込みながらも痛んだ下腹部を見た音無は思わず絶句してしまう。

 

音無「・・・、何だよこれ・・・。」

 

 

五十嵐「お、音無どうだった?」

戻ってきた音無を見て五十嵐は駆け寄ってきた。

 

音無「ちょっと難しい・・・。」

 

五十嵐「そっか・・・。」

 

期待していただけに音無の言葉を聞いて肩を落とす五十嵐、2人は生存者たちのほうに目をやると

みな一様に期待を込めた視線でこちらを眺めていた、音無は意を決してみんなに告げた。

 

音無「みんな、聞いてくれトンネルは前も後ろも土砂で塞がれている、携帯も繋がらない

   外との連絡はとれない、ここからは一心同体だ、一人だけ助かろうとは考えないで欲しい

   食料と水を集めて平等に分けよう。」

 

被災者「ちょっと待てよ、いつからお前が仕切るようになった!!!」

 

五十嵐「じゃあ、誰が仕切るんだ、けが人の看病はどうすんだ、こいつには医療の知識がある

    まさかけが人は放置なんてことはないよな・・・?」

 

被災者「そ・それはないけどよ・・・。」

 

音無「必ず助けが来る、それまで一緒に頑張ろう!!!」

 

音無の意見に逆らう者も居たが、全員で協力しながら救助が来るまで待とうと決意をした。

 

 

DAY2

 

     

五十嵐「食事は時間になったら伝える、気分の悪いものは音無に申し出てくれ。」

 

音無の負担を減らそうと五十嵐も声を掛けるなど、被災者たちを助けようとしていた。

ふと音無の方に目を向けると

 

音無「これで少しは暖かくなりますよ、もう少しの辛抱で助けも来るはずです

   何かあったら呼んでください。」

 

重傷者「ああ、すまない・・・。」

と重症の男性の介抱をしていた、五十嵐は音無を見て優しいやつだなと感心した、

紙コップに入れた水を音無に渡す為に声をかける。

 

音無「食料は?」

 

五十嵐「手作り弁当が1つとお菓子が少し、ペットボトルのお茶と水が5~6本ってとこかな?」

 

音無「持って3日か・・・。」

 

五十嵐「それにしても、凄いなお前は。」

 

音無「何で?」

 

五十嵐「献身的なところだよ、NPOで海外にでも行く気か?」

 

音無「そんなつもりはないが・・・。」

 

五十嵐「真に受けるなよ、冗談だ、でも自分も大事にしろよ

    お前は十分やっている、1人で抱え込むな。」

 

一旦被災者の介抱を休んで雑談しながら歩く2人、五十嵐は音無の行動に驚かされてばかりだ。

そして被災者の為に頑張る音無をからかいながらも気遣った。

 

被災者1「おい、何する気だ!!!」怒号が聞こえ、視線を向けると水の入った鞄を持って被災者

の1人が走り出していた、慌てて音無たちもそこへ向かう。

 

被災者1「野郎!!!」

 

被災者2「くっ!!!」

逃げ出した被災者を男子高生が取り押さえるがその際に一本のペットボトルから水がこぼれた。

 

被災者3「ああ、水が。」

 

被災者2「何だよ、みんな分かってるんだろう、どうせ俺たちは助からねぇんだ!!!」

 

音無「心配するな。」

水が減った事で困惑が広がる被災者たちを音無が宥める。

 

音無「今のは俺の分だ、今後一切俺は水を飲まない。」

 

被災者4「こっちの気が済まないわ、誰かそいつを殴ってよ!!!」

 

五十嵐「心配するな、後で懲らしめとくよ、俺の分も分けるから大丈夫だ、音無。」

 

音無「すまん。」

 

とりあえず音無と五十嵐により騒動は治まった。

 

 

DAY3

 

 

五十嵐「音無、音無!!!」

 

ただ事でない様子で寝ていた音無を起こす五十嵐、音無が起き上がって傍に駆け寄ると

手当てした重傷者の傍で五十嵐が慌てた様子でいた、音無が重傷者の様子を伺うと・・・。

 

重傷者「」

 

一同「!!!」

 

重傷者の男性は自発呼吸もなく瞳孔が開いていたので、胸に顔を近づけ心臓の音を確かめた

心肺停止状態だった、急いで重傷者に心肺蘇生の為に心臓マッサージと人工呼吸を施す。

 

音無「くそっ!!!」

 

音無「戻れよ・・・、戻れぇぇぇ!!!」

 

重傷者「」

 

必死に蘇生させようとする音無だったがそれも空しく重傷者は一向に呼吸と心拍を再開しない。

 

五十嵐「・・・。」ポンッと音無の肩に手を置く五十嵐、諦めろということだろう・・・。

 

音無「う・うう・・・、くそっ!!!」

 

助けられなかった事で自分の無力さを痛感させられる音無は涙を流していた。

その夜、時間は分かるので被災者たちは眠りについていたが、音無は心の中で

 

音無{俺はあの日から何を頑張ってきたんだろう・・・、初音に生きる意味を教えられ

   それでまた眼前で人の命を失って、何も変わってない、俺は無力なままじゃないか

   あの時から、何も変われてなんかいないじゃないか、くそ・くそっ!!!}

 

とこれまで頑張ってきたが結局自分は何も変われず無力なままだと思い知らされただけだった。

そんな自分が情けなくて心の中で後悔の念に苛まれていた。

 

 

DAY7

 

 

もう食料と水が底を尽き被災者たちは衰弱していた、音無と五十嵐ももう体が動かない。

そんな中音無の脳裏にある光景が映し出される。

 

初音【ゴホッ、ゴホッ・・・。】

 

音無【もう、休んだほうがいいんじゃないか?】

 

初音【もうちょっと読みたい・・・。】

 

音無【しょうがないな、ほら】

と具合が良くないのに漫画を読み続ける初音に音無は着ていたコートを掛ける。

 

音無【何で良くならないのかなぁ?】

 

初音【ドナーがいたら良いんだけどね・・・。】

 

音無【ドナー?】

 

入院して治療を続けてるのになぜ病状が良くならないのかと疑問に思う音無に初音が臓器提供

してくれるドナーがいれば良くなるかもしれないと答えた。

過去の記憶から再び事故現場に場面は変わり、音無はおもむろに財布から何かを取り出し

五十嵐に話しかける。

 

音無「五十嵐、サインペン持ってるか?」

 

五十嵐「ああ。」

ペンを受け取った音無は自分の保険証の裏面に記載されている臓器提供意思表示の項目に

必要事項を記入し始める、それを見た五十嵐は同じように保険証を取り出して署名をする。

 

被災者1「何だよ、それ?」

 

五十嵐「こうしとけば、もし自分の命が尽きてもその命が人の為に使われる

    生きてきた意味が作れるんだ・・・。」

 

被災者一同「!!!」

その言葉を聞き、絶望しかけていた被災者たちはそれぞれ起き上がり、同じように

保険証裏面に署名を始めた、その光景に五十嵐は感動しつつも音無に呼びかける。

 

五十嵐「音無、やっぱりお前はすげぇよ、見ろよあんなに絶望していた連中が

    誰かに希望を託そうとしてるんだから、お前が皆の人生を救ったんだ・・・。」

 

音無「」

 

五十嵐「音無、おい聞いてんのか?」

 

呼びかけている五十嵐の声はもう音無しの耳に届いていなかった、やがて瓦礫の方から

掘削機の音と共にトンネルに光が差し込み被災者たちや音無は光に包まれた。

 

 

 

音無は誰かが頭を撫でる感触で目を覚ます、顔を上げるとかなでが優しい表情で見つめていた。

 

音無「かなで心配したんだぞ、もう体は平気なのか!?」と思わず大声を張り上げる

 

立華「壮絶な闘いだった。」

 

音無「闘い?」

 

立華「あなたと約束した私が目覚めたのは奇跡ってこと。」

 

その言葉を聞いてホッと胸をなでおろす音無は穏やかな表情でかなでに語りかける。

 

音無「なあ、俺全部思い出したよ、死んだときの事を俺はセンター試験の会場に向かう途中

   鉄道事故に巻き込まれたんだ・・・俺は医者になりたくてさ、誰かの為になりたい

   ありがとうって言って貰えるようになりたいと思って必死に勉強したんだけどさ・・・

   でもさ、俺は最後にドナー登録でこの体を残せたんだ、

   きっと俺の体は誰かを助けられたんだ、俺はそう信じる・・・。」

 

立華「きっとその誰かは見知らぬあなたにありがとうって感謝し続けるわね。」

 

かなでは音無の話を黙って聞いていたが、音無の頬に優しく手を当ててそう話した。

音無は恥ずかしそうに俯いた、その様子を見てかなでは何か決心したように話し始める。

 

かなで「結弦。」

 

音無「何だ?」

 

かなで「もう思い残す事はない?」

 

音無「そうだな、誰かを助けられたなら俺の人生はそう悪いものではなかったと思えるよ。」

そう言い終わった所で音無は重大な事に気づく。

 

音無「もしかして俺は消えるのか?」

 

かなで「思い残す事がなければ・・・。」

 

音無「いや、黒子や日向達がいる・・・。」

 

かなで「そう、あの人達とずっと一緒にいたい?」

 

音無「そりゃ居たいさ、でもな今は違う気持ちもあるんだ、あいつらも俺みたいな気持ちに

   なって、みんなでこの世界から去れれば良いなって思うんだ、きっと新しい人生は

   そう悪いものではないはずだ。」

 

かなで「でしょ?」

 

音無「ああ・・・。」しみじみと自分の思いを話す音無にかなでは「そうでしょ?」

と同意してくれた、次の瞬間音無は重大な事実を聞いたことに驚き、かなでに問いかけた。

 

音無「ちょっと待て、もしかしてお前はこの気持ちを皆に知ってほしかったのか?」

 

かなで「知らなかった?」

 

音無「知らねぇよ!ていうか俺、初対面で刺されたんだぞ!!!」

 

かなで「だってあなたが死なない事を証明しろって言ったから・・・。」

 

音無{何てすれ違いをしてきたんだよ、こいつとあいつらはそしてこいつの不器用さは・・・。}

 

音無「真面目に授業したら幸せなのか、部活動したら満たされるのか?」

とかなでの不器用さと戦線メンバーの勘違いにあきれる音無、この世界であきれるのは

今に始まったことでないが、長い間誰も気づかなかったということはゆりが公言するように

全員アホなのだ・・・。

 

かなで「だってここに来るのは青春時代をまともに過ごせなかった人達だもの。」

 

音無「そうなのか?」

 

かなで「知らなかったの?」

 

音無「知らねぇよ!てかそんな事どうやったらわかるんだよ?」

 

かなで「見ていて気づかなかった?」

 

音無{そうか、ここは若者たちの魂を救済する世界だったんだ、日向もあの時セカンドフライ

   を捕っていれば報われて消えていたんだ、俺とユイは余計な事をしてしまったのか・・・

   岩沢はそれを自分の力で達成し報われて消える事ができたんだ、みんなここに居たくて

   居るんじゃない、人生の理不尽に抗っているだけだ・・・、それをかなではそうじゃない

   と理不尽じゃない当たり前の青春を教えたくて、人並みの青春を送らせてあげたくて、

   この世界に留まろうとする彼らを説得してきた・・・、突き詰めれば彼らの為を思って

   かなでは行動していただけなんだ、たったそれだけの事なのにお互いの信念を貫く為に

   対立し、やがて武器を作り出して、今では抗争の毎日だ・・・。}

 

かなでの話によりこの世界の真実に気づいた音無はこれまでの戦線と天使の対立を思い

こいつらは何て無益な事をしてたんだと愕然としうな垂れる。

 

音無「どんだけ、不器用なんだよお前・・・。」

 

かなで「知ってる。」

 

音無「自覚はあるんだ・・・。」

 

かなで「でももし、あなたが居てくれたらできるかもしれない・・・。」

 

音無「それは手伝えって事か?」

 

かなでの不器用さにあきれる音無、しかも本人も自覚していた。

何とかならなかったのだろうかと思っているとかなでが自分を手伝わないかと提案してきた。

 

かなで「本当ならあなたは消えているはず、でもあなたは残っているわ。」

 

音無「お前の味方でいられるって事か、俺は?」

 

かなで「あなたが思い残しているのはその事なんじゃないの?」

 

音無「!?そうかもしれない・・・。」

 

音無はかなでの話を理解し納得できるものの不安材料も少なからずあるのを考えた

そして音無はゆりの過去を思い浮かべた、姉弟たちを殺されてその事で神を憎むゆり

ゆり以外のメンバーもみな一様に理不尽な人生を歩んできた者が多いはずだ。

 

音無{無理だ・・・、いやだからこそやらなければならないんじゃないのか

   そんな悲しい記憶を抱え永遠に苦しみ続けるあいつらを助けてやりたい

   果たして出来るのだろうか、この不器用な天使と俺で・・・?}

 

そう考える音無をかなでは首を傾げ、何を考えてるのだろうという表情で見つめている。

 

音無{頼りないなぁ、やっぱり無理か・・・いやそれだと何も変わらず抗争が続くだけだ

   一体どうすれば、ここはあいつらの仲間でもあり、かなでの味方でいられる俺が何とか

   するしかないんじゃないのか・・・。}

 

悩んでいた音無だったが決心し真剣みを帯びた表情でかなでを見つめ返した。

 

音無「かなで協力してくれるか?」

 

かなで「それはこっちの台詞じゃない。」

 

音無「そっか、そうだよな。」俺は一体何言ってるんだと自分でツッコミを入れる音無

 

音無「わかったよ、かなで卒業させよう、ここから皆を・・・。」

 

かなで「うん。」こうして2人でこの世界から皆を卒業させる決意をした時

 

ガタンッと保健室内に何かが落ちる音が響く、音無は慌てて音のする方向へ目を向けると

かなでの隣のベッドの床にベレッタPX4が転がっていた。

 

かなで「盗み聞きしてないで、出てきたら?」

 

???「仕方ありませんわね・・・。」

閉まっていた隣のベッドのカーテンが開けられ、声の主が現れる。

 

音無「黒子、どうしてここに?」

 

黒子「色々ありましたの、それよりも先ほどのお話ですが・・・。」

 

音無「あ、お前聞いていたのか!?」

 

黒子「音無さんが「かなで心配したんだぞ」の辺りからしか聞いておりませんわ・・・。」

 

音無「全部聞いてるじゃないか!!!」

 

隣のベッドにいたのは黒子だった、どうやら音無とかなでの会話は全て聞かれてしまったらしい。

 

黒子「まぁ音無さん落ち着いてくださいまし、あの立華さん。」

 

かなで「何?」

 

黒子「わたくしもお力になりますわ。」

 

音無「お前も手伝ってくれるのか?」

 

黒子「ええ、この世界はもしかしてそういう場所なのではと思っていましたが確信が

   持てずに他の可能性も考えておりましたの、でも立華さんのお話で確信できましたわ。」

 

音無「そっか、まじで助かる、3人なら何とかなりそうだ。」

 

こうして黒子も加わり3人で戦線メンバーたちを卒業させるための行動を開始する。

 

 

 

数日後体育館で全校集会が行われていた、かなでが生徒会長に復帰した為である。

かなでを陥れた輩がいるという証拠を突きつけた為、校長は生徒会会長復帰を認めそれに伴い

 

竹山「ああ、何で僕がこんな事を!!!」

 

日向「1人残らず暴きやがった・・・。」

 

高松「あの錐揉み飛行は何だったんですか?」

 

日向「だよなぁ!!!」

 

高松「おや、珍しく意見が合いましたね・・・。」

 

日向「この気持ちはやらされた奴にしかわからねぇよ、俺たちは錐もみ飛行仲間だ。」

 

高松「私を脱がせる気ですかwww」

 

日向「おう、脱いでやれ、脱いでやれ俺も脱ぐからさ!!!」

 

黒子「女子の前で公然わいせつなさる殿方は最低ですわよ・・・。」

 

テスト妨害に参加したメンバーは空き教室で反省文を書かされていた。

見張りとして監督する立場の黒子は高松と日向を注意した。

注意された高松と日向は大人しく反省文を書く作業に戻った。

 

大山「それにしてもあの子、ここ数日の事憶えてないみたいだね・・・。」

 

高松「当然です、99%の方が勝ったんですから我々を襲った方が。」

 

日向「仲間になれるかなと思ったけど・・・くそっ!!!」

 

音黒「「・・・。」」かなでの事を知ってる2人はそのやり取りを黙って見てるしかなかった。

 

 

 

数時間前の保健室に場面は戻る、今後の方針として戦線メンバーの過去を調べないといけない。

しかし敵を失った戦線のままではゆりの目をかいくぐってメンバーの過去を探るのは難しかった。

 

音無「かなでは生徒会長に復帰して欲しい。」

 

黒子「再び敵対するわけですのね。」

 

音無「俺たちの指示通りに動いてくれ。」

 

かなで「私にぴったりの作戦ね。」

 

黒子「立華さん、辛い思いをさせてしまい申し訳ありません・・・。」

 

音無「でも全てが終わったら・・・。」

 

自分の言った言葉でハッとする音無、メンバー全員の過去を聞いて卒業させるという事は

自分たちも卒業するという事だ、この世界から消えた後は・・・。

 

音無「・・・。」

 

黒子{音無さん、全てが終わるという事はわたくしたちも卒業して転生するという事ですの       この世界から去り、新しい人生に向かっていきますの・・・。}

押し黙った音無が心の中で出せなかった答えを黒子が代弁する、そんな黒子もこの世界から

去った後はちゃんと転生できるのかと少なからず不安を感じていた。

 

音無「そういや、黒子お前なんで保健室に居たんだ?」

 

黒子「え、ええと階段から足を滑らせましたの!!!」

 

気分を変えようと音無は黒子に質問したが、突然とはいえ黒子は驚いた。

 

音無「階段から落ちたって事か?」

 

黒子「ええ、そうですの頭を打ってしまい意識が・・・。」

 

音無「よく1人で来られたなぁ、ああでも死後の世界だから怪我は関係ないか・・・?」

 

気絶しかけた黒子が保健室に来た理由を推理する音無、黒子はなぜか落ち着かない様子だった。

実は黒子は階段で転落した後、欠けていた過去の記憶を夢という形で見ていたが

それ以外にもまるで夢と現実が混同してるようなはっきりとしない意識の中で

こんな光景を目の当たりにしていたのだ、それは音無が全ての記憶を取り戻し目覚める数時間前

 

???「医局の改装工事ってまだ終わらないんでせうか?」

 

黒子{あれ、わたくしは一体・・・?}

 

意識が朦朧とした中で黒子は自分が誰かに運ばれているように感じる。

過去の記憶で死体遺棄の為にまだ生きている黒子を運ぶ感覚とは違う、これは自分が窮地に陥った

ところを誰かに助けられたようなそんな優しい感覚だ、いわゆるお姫様抱っこという物のようだ。

 

黒子{暗くて顔はよくわかりませんが、この腕の感触とにおいは覚えがありますわ・・・。}

 

???「さて保健室に到着しましたよ、失礼しまーす。」

 

黒子{そうですわ、これと同じような状況が過去にありましたわ、残骸事件の時の・・・。}

 

???「あれ先客か立華会長・・・?いや元会長か、全科目のテスト0点なんて信じられませんよ

    秀才だって思っていたのに猿も木から落ちるって言うし、調子悪かったのか?」

 

黒子{わたくしはこれで2回も助けられた事になりますわ、あなたは変わりませんのね・・・。}

 

???「隣のベッドに寝かせて、俺は退散させてもらいまーす。」

 

 

男子生徒に保健室へと運ばれた黒子は翌朝の音無とかなでの会話で

目を覚まして2人に協力する事になった。

 

 

 




今回長くなってしまいましたが、ここで終わりです。
しばらくは仕事が忙しいので更新速度は遅くなります。
見てくださってる方、申し訳ありません。
追伸間違って修正前のものをUPしておりました。
重ねてお詫び申し上げます・・・。

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