とある死後の風紀委員   作:エヌミ観測手

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自己満足で書いてるようなものですので
それでも良いという方はどうぞご覧ください。


第12話直井の正体

ギギィと音を立て開く反省室の扉。

中から戦線メンバーたちが出てくる。

藤巻「固い床のせいで首が痛いぜ。」

大山「やっと出られたね・・・。」

とメンバーは口々に文句を言う。

松下「天使を失脚させればこの世界は我々の物になるんじゃなかったのか?」

藤巻「そうだぜ、ゆりっぺこんな事になるなんて聞いてないぜ!?」

ゆり「みんな落ち着きなさい、あたしも予想してなかったわよ。」

高松「副会長は我々に対して、正しい学校生活を送らせるために

今後も厳しく取り締まるでしょうね・・・。」

藤巻「ゆりっぺ、このまま引き下がるのか?」

ゆり「ええ、直井君はNPCだから攻撃しちゃまずいわ。」

日向「ああ、直井だっけかあいつの名前。」

音無「NPCにしては今までにいないタイプだったが・・・?」

高松「NPCといえども性格は十人十色ですから。」

音無「中には行き過ぎたやつもいるってことか。」

大山「これなら、天使が生徒会長だったほうがよかったんじゃない?」

日向「ただのNPCだから、天使よりも厄介だぜ。」

ゆり「そしてもう1つ厄介なのは・・・。」

音日「「黒子のことだよな。」」

ゆり「ええ、制服も一般生徒のものだったしあの様子からすると生徒会の仲間になったようね。」

音無「あいつ、テスト妨害を嫌がってたからな・・・。」

日向「味方にすれば頼もしいが、敵に回られると厄介だぜ。」

大山「ゆりっぺこれからどうするの?」

ゆり「しばらく様子を見ましょう、各自好きなように過ごしなさい。」

 

 

戦線メンバーが副会長の出方を見るために好き勝手やってるころ、黒子は焼却炉の

そばで考え事をしていた。

黒子{武器は押収しましたし、とりあえずは流血にいたらず事態は解決しましたが・・・。}

黒子{・・・、結果的に裏切ってしまいましたわね・・・。}

無茶な提案やオペレーションに渋々ながら参加していた黒子だったが一緒にいるうちに

戦線メンバーに仲間意識を感じ始めていた、その矢先にゆりの黒子の能力を悪用しての

テスト妨害にはどうしても納得できなかった。

黒子{ゆりさんも皆さんのために神への手がかりを探してるのでしょうけど、そのために

人を姑息な手段で陥れるなんて・・・。}

先日の天使のテスト妨害は結局黒子抜きでも成功した。

戦線の思惑通り、天使は生徒会長を辞任させられた。

黒子{あんな卑怯な手で人を陥れる事に加担させようとし、それで能力を使えばわたくしが主犯に

なってしまいますの・・・。}

黒子は作戦に参加するのはもちろんいやだが何よりも黒子が直接手を下す以上罪悪感は

黒子が1人で背負うのだ。

黒子{日下部さんとの会話で思い出せましたわ、テレポートは生前苦労の末に手に入れた力、

それを悪用するのはわたくしのプライドが傷つきますわ・・・。}

自分にもし能力が無かったら、こんなふうに作戦の要として選ばれなかっただろう。

結局のところ自分はそういう風にしか見られてないんじゃないかと思い、生徒会長代理の直井の

誘いに乗り生徒会役員の見習いとして協力する事にして今に至る。

黒子{元々こういう性格でしたのね、わたくしは・・・。}

黒子{生前は学級委員や生徒会に所属してたのかもしれないですわね。}

黒子「正義感が強いから風紀委員だったかも・・・。」

ズキッと頭が痛み、記憶の断片が蘇る。

黒子{確信というわけではないですが、わたくしは平和を守る立場にいたようですわね。}

不鮮明な記憶の中の場面だったがなんとなく、いやそう思えてならない。

黒子{蘇った記憶、わたくしは不良と対峙してましたわね・・・。}

黒子{わたくし自身は平和を守るため戦っていた、それならばあの作戦に

わたくしが参加するのは・・・。}

そう考えていた黒子は感情が高まり、こう叫ぶ。

黒子「そんなのは正義じゃありませんの!!!」

???「「うおっ!!!」」

と2人の男の驚く声が響いた。

黒子「日向さん、音無さんでしたの・・・。」

日向「お前の姿が見えたから、声をかけようかなって。」

音無「やっぱり生徒会の腕章は付けてたか、見間違いじゃなかったんだ。」

黒子「・・・、裏切り者を始末するために来られたんですの?」

日向「もしそうだったらどうする。」

音無「日向!!!」

と自嘲気味に答えた黒子に日向が返すと音無が仲裁に入ろうとする。

日向「そんな事しねぇよ、冗談だ。」

音無「黒子、ちょっと話さないか?」

日向「おい、音無!!!」

黒子「いいんですの?」

音無「日向、俺たちは仲間だったんだぞ。」

日向「でもこいつは・・・、わかったよ話せばいいんだろ。」

黒子「音無さん日向さん、わたくしは自分が正しいと思う事をしようと思いましたの。」

黒子「助けていただいてから、みなさんと行動を共にしてきましたが・・・。」

音無「この前のテスト妨害のことでゆりを信じられなくなったんだろ。」

日向「あのな、お前らは知らないだろうが俺たちは天使から色々酷いことを・・・。」

黒子「正々堂々と立ち向かうなら、もちろんわたくしだって協力しますわ!!!」

黒子「でも、こんな卑怯な事にわたくしの能力を利用するなんて

わたくしのプライドが傷つきますし、罪悪感だって・・・。」

音無「そうだよな、手を下すのは黒子だしな。」

日向「悪い俺も軽率だった、黒子1人が罪を背負うの忘れてた・・・。」

黒子「わかっていただけなら、もうよろしいですか?」

日向「ああ、音無、黒子、俺頭冷やしてくるわ・・・。」

と日向はその場を立ち去る。

残された2人は顔を合わせ。

音無「俺も適当にぶらぶらしてるよ、お前と話せてよかった。」

黒子「ええ、わたくしも気持ちをわかっていただけて何よりですわ。」

そしてその場を立ち去った。

 

 

その後生徒会室に戻った黒子は生徒会役員と共に会長代理の訓示を聞いていた。

直井「・・・と説明は以上だ、さて最後に全員僕に注目してくれ・・・。」

その言葉の後役員たちは生徒会室を出て行った。

 

 

気がつくと黒子は意識がはっきりとしない状態だった、まるで夢を見ているみたいだった。

夢の中の自分は夏服のブレザーに身を包み右腕に付けた緑色の腕章を掲げて、目の前の男に

こう言い放っている。

黒子「ジャッジメントですの、恐喝の現行犯で逮捕しますわ。」

と男に宣言する黒子は夢の中では誇り高く、自信に満ち溢れていた・・・。

やがてはっきりしない意識が鮮明になり始めてきた、まるで夢から覚めるように。

すると次の瞬間、黒子は恐怖に慄いた、夢の中とは違い掲げた右腕に腕章はあるものの生徒会と

かかれている、そして何より両手でMP5Kを構えている。

戦線男子1「ぐは・・・。」

目の前で戦線メンバーが血だらけでうずくまっている。

黒子{!!!、声が出ませんわ、体も自由が利かない!!!}

黒子は意識があるのに体は自分の意思とは関係なく動いている。

パパパッと目に付いた戦線メンバーを撃ちながら歩いていた。

黒子{いや、いやですのどうしてこんなことに・・・。}

黒子は殺戮をやめたくてもやめられない。

黒子{なぜですの・・・、こんなことしたくない、お願いもうやめてくださいまし!!!}

しばらくすると黒子は前方で生徒会NPCがNPC女子を

羽交い絞めにしながら歩いているのを見た。

すると黒子も体が勝手に動いて、こちらに向かって逃げてくる

NPC女子を捕まえ羽交い絞めにした。

NPC女子「きゃあ、やめて!!!」

黒子{ごめんなさいですの・・・。}

NPC女子「!?クラススリーエスのメンバーがなぜ生徒会に?」

黒子{え、あなたは一体?}

羽交い絞めにしたNPC女子が黒子の顔を見て驚くが、今の黒子は彼女に質問する事ができない。

NPC女子「お願い、離して!!!」

NPC女子「いやぁぁぁ、誰か助けて!!!」

と大声でNPC女子が叫んだ後、後ろから声が聞こえる。

???「おい、お前何やってんだ!?」

と男の声がした後、男が黒子の肩に手を触れるとバキィと音と共に黒子が足を止める。

黒子「体が自由に動く・・・、キャッ。」

自分の意思で体が動くようになり、安堵する黒子だったがその瞬間NPC女子が黒子を押しのけ

NPC「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」と逃げ出した。

???「生徒会は一体何をしてるんだ?」とNPC男子がつぶやいたがその直後。

???「」突然無言になり硬直する、まるでゲーム中にバグが発生したように微動だにしない。

黒子「ええと、あなたは・・・。」と黒子の質問も気にする様子もない。

そして何も無かったようにその男子は背を向け歩き始めていた、黒子は追いかけようとしたが。

黒子「それより今はわたくしが自分の意思に反して何故あんな事をしたか突き止めなくては。」

黒子「とりあえず銃声がする方向へ行きましょう!!!」

と黒子は走り出した。

 

 

そして多数の銃声が聞こえてきた校庭に向かうとそこは

黒子「あ、何ですのこれは・・・。」

眼前では戦線メンバーと生徒会NPCが激しい銃撃戦を繰り広げていた。

地面には倒れたNPCや戦線メンバーが血だらけで倒れていた。

雨の振る中戦闘は続いているが、双方とも互角の状態だった。

しかしそこへNPC女子を人質にした生徒会NPCが入り込んでからは事態は急変した。

無闇に撃てなくなった戦線メンバーが次々に倒されていく。

黒子「やめさせなくては!!!」

黒子は飛び込んでいった。

 

 

音無「何だ、これ・・・。」

しばらくして音無と天使が駆けつけたときには校庭は血の海だった。

音無「あれは!?」と音無が視線を向けるとそこには。

直井「この裏切り者が。」ドガッと直井が黒子に蹴りを入れていた。

黒子「ガハッ!!!」

日向「やめろ・・・。」

直井「ふん、裏切った仲間を庇うとは見上げた心がけだ。」

と覆いかぶさるように日向が黒子を庇う。

音無「日向、黒子!!!」と叫びながら音無が駆け寄る。

音無「2人とも大丈夫か!!!」

日向「俺の名前が先に来るなんて、これなのか?」

音無「冗談言ってる場合か!!!」

黒子「うう・・・、うるさいですの。」

と音無と日向がいつものやりとりをしてる横で黒子が呻く、近くで天使を見つけた直井は

直井「あそこからどうやって出てきた?」

天使「扉を壊した・・・。」

直井「何年かけてつっくたと思ってるんだ、生徒会長代理として命じる、大人しく戻れ。」

音無「立華、こんな惨状だこれが正しくないのはわかるよな。」

天使「ガードスキルハンドソニック・・・。」

と天使が言ったところで直井はこう言った。

直井「逆らうのか?神に。」

音無「はぁ?」

直井「僕が神だ。」

日向「バカかこいつ?」

黒子「?」

直井「愚かな、ここが神を選び出す世界だと誰も気づかないとは、生きていたときの記憶がある

皆一様に酷い人生だったろうなぜ、それが神になる権利だからだ、生きる苦しみを知る僕らは

神になる権利がある、そして僕はそこにたどり着いた・・・。」

音無「・・・、神になってどうするんだ?」

直井「安らぎを与える・・・。」

日向「俺たちにかよ!!!」

音無「無茶苦茶してくれてんじゃねぇかよ!!!」

黒子「そのためにわたくしを利用しましたの!!!」

直井「抵抗するからだ、それと君のおかげで大量の武器が手に入り計画はスムーズに進んだ。」

直井「神は決まった、なら僕は君たちに安らぎを与えよう・・・。」

と直井は倒れているゆりに近づく。

音無「ゆり!!!」

ゆり「ぐはああ。」

直井は倒れてるゆりの髪を掴み体を引き起こす。

音無「これ以上、何をする気だ!!!」

と音無が止めようとするが周囲のNPCが銃を向けてきたため、空振りに終わる。

ゆり「な・何よ。」

直井「君は今から成仏するんだ。」

直井「岩沢まさみを憶えてるだろう、彼女は生前声を失い歌う夢を断念、ひどい家庭環境の下

惨めに死に至ったがこの世界で夢を叶えた、だから成仏した。」

日向「え!?」

ゆり「・・・。」

日向「・・・。」

直井「君も成仏するんだ、幸せな夢と共に・・・。」

ゆり「あなたはあたしの過去を知らない・・・。」

直井「知らなくても可能なんだ、僕が時間をかけて準備したのは天使の牢獄だけじゃない。」

直井「催眠術だ。」

黒子{それで、わたくしやNPCたちを操っていましたのね。}

直井「さあ、目を閉じるんだ、君は幸せな夢を見る

こんな世界でも幸せな夢は見られるんだよ・・・。」

とゆりの顔を覗き込む直井、ゆりは直井の目を見て催眠術にかかり始める。

ゆり{そんな、まさか・・・。}

 

 

目を覚ますとゆりは真っ白な空間にいた。

ゆり{ああ、あの子達だ。}

ゆりの前に3人の子供が現れる、ゆりの妹たちだ。

皆笑顔でゆりを見つめてる。

ゆり{やめて、そんな顔しないで、私は守れなかったのよ。}

ゆり{1人ずつ死なせてしまったのよ、1人ずつ、1人ずつそして誰も残らなかった・・・。}

ゆり{なのに!!!}

妹「あのね、お姉ちゃんがお姉ちゃんでよかった。」

ゆり「そんな、そんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

とゆりは叫んだ、次の瞬間。

音無「だめだーーー!!!」

バシンッと音と共にゆりは目覚める。

目の前で音無が直井を殴り飛ばしていた。

音無「そんなまがい物の記憶で消すなーーー!!!」

音無は直井に近づきながら胸倉を掴む。

音無「俺たちの生きてきた人生は本物だ、何1つ嘘の無い人生なんだよ、みんな懸命に生きてきたんだよ、そうして刻まれた記憶なんだ、必死に生きてた記憶なんだよ

それがどんなものであれ俺たちの生きてきた人生なんだよ!!!」

息を整えながら音無は直井にこう言い放つ。

音無「それを結果だけ上塗りしようだなんて、お前の人生だって本物だったはずだろう!!!」

 

 

その言葉で直井は過去を振り返る・・・。

陶芸の名士の下に生まれた直井文人と双子の兄健人

兄健人は幼い頃から才能を発揮し、世間から名士の跡取りとして注目されていたが。

文人は親からも誰からも期待されずに部屋に篭って1人で遊ぶ毎日だった。

そんなある日、兄と2人で遊びに行った近所の山で木登りの最中に2人は転落してしまう。

文人は奇跡的に助かったが、兄健人は落ちた場所が固い岩の上だったため亡くなってしまう。

その時空を見上げていた文人は空がこう言っているように思えた。

{死んだのは文人、お前だと。}その日から文人はこれまでの自分を捨て、兄健人と入れ替わり

生きていく決意をする、誰からも期待されず1人で遊ぶ日々ではなく、日本一の陶芸家を目指す

意味のある人生を、そして文人は健人として父親の元で修行の毎日を送っていく。

父親の怒号や罵声を聞く日々、修行は苛烈を極めた・・・。

文人は痛感した、兄はとてつもない場所にいたんだと、自分がたどり着くにはあまりにも遠い

それでも、文人は挑み続ける、自分の人生を価値あるものにするため。

やがて展覧会で入賞を果たした、兄としては小さな賞だったが今の自分が出せる最高の結果だった。

いつも厳しい父もこの日は少しばかり、文人を褒めてくれた。

これからも父の元で修行を積み、日本一の陶芸家になろうと決意する文人だったが

その矢先に父が病に倒れ床に臥せってしまう、回復する見込みは無かった・・・。

文人が食事を与えると父親は優しげに微笑んだ、もうろくろを回すことも怒鳴る事も無い。

文人はこれから先の人生を悲観した、今の自分の腕じゃ工房を持つどころか独り立ちもままならない。

この人の世話をしていく人生なんだと、そして文人は叫んだ。

直井「ねぇ、神様!!!」

あの時死んだのは健人ではなく文人だった、ここにいたのは健人で、頑張っていたのも健人だった。

文人はどこにもいなかった・・・。

 

 

音無「お前の人生だって本物だったはずだろう!!!」

音無は直井を抱きしめる。

音無「頑張ったのはお前だ必死にもがいたのもお前だ、違うか!?」

直井「何を知った風な・・・。」

音無「わかるさ、だってお前もここにいるんだから・・・。」

直井「なら、あんた認めてくれるの?」

直井「この僕を・・・。」

音無「お前以外の何を認めろって言うんだよ、俺が抱いてるのはお前だ、お前以外いない

お前だけだよ・・・。」

直井「・・・。」直井の脳裏にある光景が思い浮かぶ。

文人は兄と柿の木に登って柿を取ろうとしてた。

父親「取ったってどうせ渋柿じゃぞ。」

父親はため息をつく。

文人「やった、取った兄さんに勝った、ああ!!!」

バランスを崩し、文人は木から落ちてしまう。

文人「痛たた。」

父親「渋柿ごときで何を・・・、だが文人もやりよる。」

文人「!?」

その場を立ち去ろうとした父親が文人を一瞥し投げかけた一言。

直井{一番聞きたかった言葉、僕を認めてくれた言葉・・・。}

黒子「・・・、雨がやみましたわね。」

日向「もう朝か・・・。」

 


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