ONE PIECE~Two one~   作:環 円

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25-夕闇の赤

 1年はあっという間に行き過ぎる。

 義祖父に連れられ、やって来た海軍本部も今では見慣れた場所になっていた。

 あった出来事を数えてみると、濃密な日々を送っていると改めて思い至る。

 

 元帥の部屋にボールは既に用意されていた。センゴクが座る机に置かれていた箱に手を入れて、選択を掴み取る。

 見届け人は元帥と義祖父、黄猿と丁度本部に戻って来ていた赤犬だった。

 

 義祖父轟沈。

 

 「おじいちゃん、だから、心の目で読めって無理があると思うんだ」

 

 見聞色は意志の選択を読み取り、事前にその行動を察知する能力であり、決して分厚い厚紙の向こう側を透視する能力ではない。

 

 2年目の配属先を決めるボール選びが終わった。

 あれほど引く前に、印をつけて貰ったところで解らないと言っておいたのに、今回もまた頑張ったらしい。

 ガープは久々に孫の抱き心地を確かめ、大きなため息をつく。ただ柔らかいだけではない。一年前と比べ、しなやかな筋肉が備わっていた。

 

 「孫の成長を傍で見守ってやりたいのじゃがのう」

 

 黄猿も有能な部下が異動してしまい、残念だねぇ~と腕を組んでいる。

 

 「ねえ、おじいちゃん。それならゆっくりとお話、したいな?……例えば小さな頃の、預け先とか」

 にっこりとほほ笑みながら、小さな声で囁けば義祖父の顔色がさっと変わった。

 

 「おお、そうじゃわし、仕事があったんじゃ。アン、次の休みの時には一緒に村に帰ろう、じゃ!」

 そう言ってガチャリと扉を開けた義祖父へ、手を振り応える。

 祖父を見送り黄猿大将へ一年の礼を伝えれば受け渡しは完了となった。

 

 黄猿の艦から、赤犬の艦へ。

 勿論の事、下宿先も変わる。

 階級は変わらず少佐のままだ。

 

 「引っ越しはおいおいで構わん。すぐ船を出航させる、用意せい」

 「はい」

 アンは新たな上司の背を追う。

 

 サカズキはボルサリーノと比べ、戦艦で海を往く日数が長い。1年365日中、おおよそ200日は海の上だ。

 今までは黄猿の元で海軍本部を中心に近海を回っていたが、これからの日々は"偉大なる航路(グランドライン)"上全てが仕事場と化す。

 詳細を知っているのは、たまにおつるの下で書類整理を手伝っていたからだ。

 

 陸上勤務とは違い戦艦に乗っている海兵は、船から降りてからまとめて休みがやって来る。大体1カ月の航海の後に支給される連休は5日から7日前後だ。

 アンの場合兄弟達の元に帰ったり、聖地に呼び出されたり、隠れ島にせっせと器材を運んだりと、休日も活動的に動いていた。

 隠れ島とはアンとエース、デイハルド、そしてルフィの秘密基地である。兄弟と聖には面識が無い。ただ、それぞれの繋がりは知っている、という状況だ。

 

 ゆっくりと休まなくても毎日元気で走り回れるのは、若さ故の無茶もある。そしてもう一つ、何かをしていないと手持無沙汰になってしまうという、困った生活習慣に陥る事があった。

 こればかりは自身の気質であるため仕方無い。貧乏ヒマ無し、と何かを探しもとめてしまう。

 

 そういう時顔を出すのが、おつるが責任者を務める参謀室だ。

 そもそも参謀というのは高級指揮官の幕僚(ばくりょう)---軍隊においては司令部に直属し、軍の作戦、用兵などの一切を計画し指揮官を補佐する将校を指す。

 だが海軍本部においては表立った指揮官に対し、意思決定に際して進言や献策を行うだけでは無い。全ての事務と名のつく仕事の総括も行っていた。

 経理、資材調達、事務全般、庶務などなど、幾つかの課には別れているが、全てを束ねているのが参謀長、おつる中将だった。

 

 常に修羅場と化しているこの部屋は主に実戦部隊から、物資使用後の資材調達願いや、次の航海へ出る為の金銭要求などの書類の山が幾つも築かれている。紙の山はアンにとっては心落ちつく空間を作りだしていた。

 おつるはアンの手持無沙汰な状態を知っていたため、こっそりと訪ねると優先的に書類を回してくれていた。

 追い返したりはせず、そっと居場所を与えてくれたのだ。しかも仕事が出来ると示してからは、職員達から諸手を挙げて歓迎されるようにもなってゆく。

 

 黄猿関係の書類はここでの処理を考え、出来るだけ紙の容量を抑えた報告書を心掛けていた。目を通す必要のある枚数を減らせば、それだけ許可も早く通るからだ。

 

 准尉の時は多少、報告書を書く事はあれど余り書類を見る立場では無かった。がしかし、少佐に格上げされてからは報告を聞く立場になってしまったのだ。書類仕事に追われて鍛錬がおろそかになったり、エースとの組み手が出来なくなるのは避けたかった。となれば、やり方を工夫するしかない。

 

 なんだかんだと書類に関しては、ここでやり方を盗みながらやりくりしていたわけだ。

 だが当分は来れそうにもないだろう。

 アンはサカズキに置いて行かれないよう小走りで後を追いながら、通りすぎた部屋を見た。

 

 艦に着くと赤犬艦に所属する海兵達がいつでも出航できるよう、準備を整えて待っていた。

 赤犬が艦に上がると同時に、副長が指示を出す。

 艦長の後について船に乗り込んできた小さな将校の姿を見て、ざわめきが起っていた。表面では何事も無く作業をしているが、ちらちらと視線が向かって来ている。

 

 「…舞風が来た…」

 舞風。

 いつの頃からか呼ばれるようになったアンのふたつ名だ。

 

 呼ばれるたび、まだ、誰の事だろうと思ってしまう。

 風のように舞いながら戦う様が呼び名として定着してしまっていると、黄猿の艦でも聞いていた。挨拶を早々と済まし、部屋に案内される。そこは長年赤犬の補佐を務めている副長との相部屋だった。

 

 解らないことなどがあれば、気軽に聞いてください。

 強面の赤犬とは違い、物静かで優しげなおじさまだった。

 アンよりも年上の娘がふたりいるという。

 「大将は余り言葉が多くありませんが、堅実な方です。海賊討伐ともなれば多少、厳しい面も覗かせますが……」

 

 その多少、を経験する機会はすぐにやって来た。

 黄猿の艦に一度飛んで、私物を持ってこようかと思っていた矢先、海賊船と遭遇したのだ。時間にして出航から3時間余り、夕日が傾き始めている。

 

 望遠鏡でどうにか見えるか、という位置にはためく黒い旗に向け、赤犬は迷うことなく進路を変えさせた。さすがに乗組員の誰もが急旋回後に何が待っているかを熟知しているようで、船内が慌ただしくなる。

 アンも船首像に近い、舷側でよく目を凝らす。

 見たことがある旗だった。進路はシャボンディ諸島では無い。そちらから、出て来た船だ。黄昏時ほど、目に宜しくない時間帯はないだろう。凝視していた瞳がしばしばとする。

 視覚での感知は止め、六感での探索を始めた。そう、覇気だ。

 

 懐かしい気配がした。

 感覚を研ぎ澄ませば、遠くの景色も視ることができる。

 

 (シャンクス久し振り。変わりないようでなによりだよ)

 

 届かないと分かっていてもそう思う。

 意識の向こう側でエースががたり、と反応した。

 

 船の距離は遠い。相手には追い風、軍艦には向かい風だ。

 幾ら海軍の船が造波抵抗を出来るだけ小さくし、走行速度を高めているとはいえ追いつける距離では無い。

 

 あちら側も軍艦の艦影を捉えたらしく、上手く波を切り、海流に乗った。

 

 となれば、アンへ声が掛かるのは時間の問題だろう。

 大将の性格からして、見逃す、という行為はあり得ない。

 黄猿であれば、遠いけれど追ってみて、駄目なら駄目で構わないと言うだろう。だが赤犬は追いかける。

 それぞれの艦によって、性格がまるで違い、面白かった。

 

 大将が動いていた。向かっているのはここであろう。大体何を言われるのかも予想が付いていた。行って足止めを行うか、そのまま殲滅して来い、の2択か。

 

 「行って止められるか。旗はまだ確認出来とりゃせんが」

 足音が止まる。艦の中央で指揮を執っていた赤犬がアンの元へやって来た。

 軍艦側が逆光となっている為、見難い状態ではある。

 まだあの船が誰のものなのか、こちらは把握していない。

 

 六式の中で空をも往ける技術、月歩(ゲッポウ)を会得している数名も出撃の用意を行なっている。

 (……どう足掻いても、海ポチャされるだろうなぁ)

 アンは自分を含めた先行者の面々を確認しながら思う。赤犬が共に出るならば打撃を与えられるだろうがしかし、サカズキは残念ながら月歩を習得出来てはいない。

 

 誤魔化してもいいが、必死に望遠鏡を覗く海兵達が余りにも必死な形相をしているのが気の毒で、真実を伝えることにした。

 「切り込めとおっしゃるなら行きましょう。ただ戦果は期待しないでくださいね」

 

 眼光が理由を問う。

 「あの船、赤髪です」

 あっさりと告げられた言葉に周囲がざわめく。

 四皇のひとりがわざわざ新世界から出て来てくれているならば、探しに行く手間も省けたと言わんばかりに、赤犬は出撃命令を出す。

 「では挨拶だけでも」

 にこりとほほ笑んで、アンは敬礼を取る。その瞬間、姿が掻き消えた。

 初めて瞬間移動を目の辺りにした海兵達が声を上げる。

 赤犬の目は夕陽の中に隠れた敵船を睨みつけていた。

 

 

 △▽△▽△▽△▽△▽△▽

 

 海風が激しく髪をかき乱す。夕日が沈もうとする黄金の海を背に追ってくる船を見る男がいた。

 座しているのは水が入った樽の上であった。黄昏時は地獄と現世が繋がると伝わる地域もある。

 多くが迷信とするそれを、男は今日だけは信じてもいい、そう思えていた。

 声が聞こえたのだ。いつもその背を追いかけていた。忘れられるはずもない。懐かしい、その声が。

 

 出てきているとは知っていたが、よもやこのタイミングで会うとは思いもしなかった。

 

 「お頭ァこのままだと逃げ切れそうそうだぞ」

 「……そうか、ならいい」

 

 海軍の戦艦が遠くに見える。

 それぞれの進行方向は同じではあるものの、左右のぶれがあった。

 この船は右側へ、海軍の船は左側へ。

 潮の流れも、風も、味方しているのは此方側だった。

 

 ぶつかるなら海軍であろうと、他の海賊たちであろうと容赦はしない。

 この海は誰のものでもないからだ。

 自由に渡る分には無駄な争いなどしないほうがいい。

 

 「と、思ってたんだがな」

 

 落ち着いた声音が終わるや否や、突如現れたひとりの海兵が甲板に突然現れた。

 小さな姿だった。少女だ。

 正義のコートを一人前に羽織っている。だが影の中に見える目には殺気など無い。

 

 薄く笑んだ唇だけが逆光の中、光を受けていた。

 「何モンだ!!!」

 乗組員(クルー)のひとりが声を荒げる。

 

 (ああそうか、こいつは知らないんだった)

 

 荒げられた声に何事だとベックやルウ、ヤソップが出て来ていた。

 該当する問題に気付いた黒髪をひとつに束ねた男が、赤髪の男へ面白げに唇の口角を上げる。

 

 「こんばんは。シャンクス」

 少女が親しみの声音を含み、名を呼んだ。どこと無く、声が弾んでいるようにも聞こえる。

 

 「この野郎!!!」

 「おい、待てそいつは」

 止める間も無く、乗組員(クルー)のひとりがナイフを抜き飛びかかった。

 少女は木の葉がひらりと落ちるように避けながら、足払いをかけ体勢を崩した男の首筋に軽く手刀を一発当てる。肩に力が入っていない、いい動きだった。

 

 一撃である。

 この船の船長である男に惚れ、どうしてもと付いてきた若者ではあるがなかなか見所のある筋を持っていた。

 がしかし、まだまだのようである。

 海兵とはいえ弱い12歳になったばかりの少女にやられていては、海賊など続けてはいけない。

 

 「おーい、誰か、そいつの手当て、してやれ」

 

 男が倒れた人物の介抱を指示すれば、仕方が無いと仲間が引きずって医務室へと運び始める。

 お大事に。

 己が倒したというのに、少女は両手を合わせて祈る。そして幾つかの段差を超え、この船の船長である赤髪の元までやってきた。

 何が気恥ずかしいのか、はにかんでいる。

 

 「えへへ。シャンクス久し振り」

 

 その笑顔は別れたあの日から変わってはいない。成長の証として目線の高さが違っている。それだけである。

 

 「エースは、一緒ではないのか」

 「うん」

 

 低く抑えられた赤髪の声を聞きながら、倒れた男の体をひょいと飛び越え、海兵がこっちに歩いてくる。

 何が気恥かしいのか、えへへ、とはにかみながらだ。

 「お久しぶり。何年ぶりかな」

 「だなぁ、で、どうしたよ。海兵なんかになっちまって。おれァてっきりお前も海賊になるかと思ってたんだがな」

 

 破天荒なふたりの狭間にあり、その手綱を上手く取っていた少女である。

 巻き込まれるがまま、そのまま引っ張られると考えていた。

 だが現実は違う。

 白を基調とする、この世界の正義を声高に叫び拳を振り上げる海兵のひとりとなっていた。

 

 「うちに来るってのはどうだ」

 

 周囲に集い、程よい距離を保っている幹部達も思わず瞬間、表情を変える。

 頭であるシャンクスが気に入った人員を船に誘うのは珍しくはない。ここにある多くがそうである。

 

 お前面白いな、一緒に行こうぜ。

 

 誘われ手を取った者達である。だがこの一件だけは以外であった。

 

 「新たな趣味に目覚めたか」

 「それならそれで、まあ」

 

 外野の声にアンがまず噴出した。赤髪も冗談がきつい、と苦笑する。

 

 「ありがとう。でも、ごめんね」

 

 静かに伝えられた答えは、断りである。

 じと、お互いが視線を交し合う。

 いい目をしていた。いつの間にこのような目をするようになったのか。

 未来を、その先を見据えているかのような決意があった。

 

 「おれぁ、しつこいので有名なんだ」

 「ふふ、口説かれるのは嫌いじゃないわ。了承するかどうかは別だけど」

 

 

 思いがけない事こそが海で起きる。偶然と幸運が重なるだけで、こんなにも胸躍る再会や出会いがあるのだ。

 勧誘いは断られたが、再会を祝しての宴への誘いには乗ってくれるだろう。

 今まさにそれを口に出そうとしたところに、少女の人差し指が唇に触れる。

 

 「それも残念。軍務中なの。機会は次に取っておくわ」

 「こりゃあ先手を取られたな、お頭!」

 

 すいっと進み出てきたのはラッキー・ルウである。

 シャンクスは破顔し、続けて振られた結果を笑い飛ばす。それが合図となり、アンは顔見知りから取り囲まれた。

 ニュース・クーの新聞を見たという声が大半だ。

 海賊の多くは新聞に挟まれた手配書以外に興味を示すことはほとんどない。だが写真が載らず、文字だけで語られる、かつて東の海で拠点としていたとある村の友人が『海軍』という組織の中を引っ掻き回している様が載っているものだけには食いついて見ていた。

 

 「内部事情に関してゲロれ? 機密は内緒。でも、お酒の席なら別かなぁ」

 

 首を傾げ、謝罪の言葉を口にしつつ、全くそう思っていない態度に誰もが笑った。

 酒を飲まぬ、混ぜたとしても決して口をつけぬ者の口を割る方法はそう多くない。

 ならば先に本題を片付けてしまおうか。

 樽の上に座る男の目が細く狭まる。それは友人対友人の関係から、海賊対海兵との関係に変わったことを意味する。

 

 「……あの船に乗ってるんだろ?」

 「ええ。海軍本部赤犬大将率いる一団の、ね」

 

 和やかであった空気が一瞬にして温度を下げる。

 遠眼鏡を使ったとしても目視できる距離ではまだない。先と比べ、軍艦との距離も大きく開いている。逃げ切る距離にあった。

 単独でひとりやってきた海兵を捕虜とすることも、出来る状態だ。

 

 「殺りあう気は、ないよ」

 

 アンは両手を挙げ、敵意が無いことを示す。

 

 「……ただ、このまま帰るわけにもいかないんだ。『挨拶』名目で来ているから。だから、」

 「相手を寄越せ、と」

 「ご名答」

 

 だめ、かな。

 そう首を傾げられ尋ねられても困る事案である。

 

「おーい、誰かアンの相手したいヤツいるか?」

 

 呼びかけたとしても誰も手を上げない。それはそうだ。先ほど、出現した時たった一撃で、下っ端とはいえ落とした実力を見せたのである。実力が底辺にある者たちは、多少の恐怖のため手を上げられず、幹部達は上げたい手を必死で我慢している状態であると見て取れた。

 

 相手は少佐である。

 単独で切り込んでくる筆頭である。

 

 「…お頭が、やりゃあいい」

 

 細い煙草をくもらせ、副長である男が笑む。

 

 「え。シャンクスが遊んでくれるの?!」

 

 やけに嬉しそうに満面の笑みを浮かべる少女に赤髪は困り顔続きだ。

 周囲もすでにそれが決定事項だといわんばかりに用意をし始める。樽を転がし場を広く取り始めたのだ。

 ノリが良いのである。

 さまざまが起こったとしても、その本質は全く変わらないのであろう。自身が変わる気がないのだ。乗組員たちも当然、頭を見習ってお祭り騒ぎが好きになる。

 白の服を身にまとう存在と、船に来てはベックマンが集めた本を読み漁っていた姿が重なった。

 

 「よーし、負けても文句言うなよ」

 「うん、言わない! 言わないけれど、勝ったらお願い聞いて?」

 

 叶えられる願いであれば。

 シャンクスは樽の上から甲板へと下りる。武器の使用は一切禁止とし、海へ投げ込まれた時点で終了となる。

 コートを羽織ったままのセーラー姿で少女は立つ。

 

 「さーて、お前ら! アンに襲われている感じで騒げ! やつらを騙すぞ!」

 

 鬨の声が上がる。

 風で流れ、もしかすればそれが海軍の船に届く可能性もあるだろう。

 挨拶という名の強襲である。

 

 程なくし、波の音に混じり、盛大に水を叩き打つ音が響き渡った。

 「あー、やられた」

 

 シャンクスは唇の片側を持ち上げる。

 交戦の証として、であろう。着ていた衣服のボタンをひとつ、握って持って行かれていた。

 気に入って着ていたものである。

 返してもらい、縫い直せばいいだけではあるが、良い口実を与えてしまった、のだろう。

 少女の姿はもう海には無い。

 

 何を願われるのか。

 シャンクスは訪れるだろうその時を待つこととした。

 それに、と日が暮れ、その姿を消した軍艦に目をやる。

 酒の席での、笑い話が一つ増えたのである。出会えば、かつてほど殺し合いをしなくなった好敵手と交わす話題が増えたとしてもいい。

 

 「これだから、気ままな旅はやめられない」

 

 頭が振られた記念とした宴が始まろうとしている。

 シャンクスは薄く笑みを浮かべ、その輪へと加わった。


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