『川神聖杯戦争』   作:勿忘草

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今回からバトルが始まります。
一応出来ればひと段落してから能力等のプロフィールは載せようかと思います。


『最強対最弱』

全サーヴァントとマスターが本拠地に戻って夜が明ける。

鶏が景気良く鳴く頃。

それより遡る事、数時間。

暁の時刻からある場所の一角にその男は居た。

 

「やっぱり不味い……」

 

供給されているのは良いのだがマルギッテさんの力を必要以上煩わせる必要はない。

俺はあれから朝早くに出て行って再び人を食べている。

悪人が多いここならば喰い放題、まさに天国、桃源郷だ。

当然、味を度外視した場合に言える事だが。

気力の使い道を考えれば自然と笑みが浮かぶ。

 

「何故独断行動をしたのですか?」

 

そんな事をしていたら後ろから声が聞こえて俺は振り向く。

そこにはマルギッテさんがいた。

 

「下準備ですよ、地理を覚えておかなくてはいけないので」

 

俺は手を広げて清廉潔白を意味するようなポーズを取る。

そんな俺を一瞬見た後マルギッテさんは俺に向かって一言言う。

 

「戦いに関する心構えは立派だと認めましょう、しかし……」

 

次の瞬間、喉にトンファーがめり込んでいた。

俺は何かを吐き出すように片膝をつく。

 

「あなたはサーヴァントとしての自覚が足りません、これは戒めと知りなさい」

 

そう言ってマルギッテさんが俺を諫める。

勝つ為にやっている事なのだが仕方ない。

見られたくないからこっそりやっているがそれはマスターを危険に晒す事だ。

そう考えて俺は立ち上がる。

 

「申し訳ありません」

 

頭を下げて俺は謝る。

マルギッテさんも流石にこれ以上懇々と説教する気はなくしたのか、トンファーを

 

下げてこちらを見ていた。

 

「一体、今からどういったように過ごすのですか?」

 

マルギッテさんがこれからの予定を聞く。

正直な話、今からやる事は一つだけだ。

 

「結界の構築を始めます、まずはあの橋に行こうかと」

「なるほど、大きな拠点は必要だ、行くとしましょう」

 

そう言ってお互いに数分の間歩く。

少し時間がたったら『変態の橋』に着いていた。

俺は着いた瞬間すぐに結界の構築を始める。

理想としては小型の結界を散りばめらせていき、橋自体を大型の結界へとする。

相手を閉じ込めたり自分を有利にするためには、念には念を入れておかなくてはいけない。

 

「しかし仕事は速いですね、あっという間にこの橋が結界になるとは……」

「急な工事と変わりませんから言うほど凄くありませんけどね」

 

マルギッテさんが驚きながらそんな事を言う。

しかし実態は言うほど凄くない。

せっせと作ってはいるが正直一日ではそれほどの効力は発揮されない。

これから時間をかけて気力を注ぎ込めば注ぎ込む。

そうすればするほど強い結界になるのだ。

今のこんな突貫工事の状態では目覚しい成果を得ることはできない。

せいぜい足止め程度。

もしくは一回限りだが大きなダメージを与えるぐらいだ。

 

「ふむ……では本日はもうこれで終わりですか?」

「いえ、ここからまた色々な所に作ります」

 

これ一つでは心もとない。

まだまだ河原や『親不孝通り』の『チャイルドパレス』といった有用な建物や場所が有る。

そこに作って自分の陣地を作って有利な状況を作り続ける。

当然その場所から本拠地までの転移ができるようにしておかなくてはいけない。

ちなみにこの『変態の橋』にはすでに施してある。

 

「とりあえず今から仕上げの工程をして『変態の橋』については今日の分は終わらせるか」

 

俺はそう呟いて大きな結界にする術式を描いていくのだった。

しかし次の瞬間どこかでとてつもない量の『気』を感じる。

そして僅かに風を切るような音が聞こえたのだった。

 

.

.

 

私は目を閉じてサーヴァントの気配を感じ取っていた。

そして気配を感じると同時に目を開けて笑みを浮かべる。

 

「……見つけたわ」

 

私は起きた後、昨晩のマスターの言葉を聞かずに単独で行動をしていた。

目的は当然私以外のサーヴァントを殲滅する事。

そんな事を考えていた探索の中で感じた気の力。

クラスは分からないけれど紛れもないサーヴァントの気配だ。

 

気の力を感じた方向はおおよそ掴んでいる。

これは『変態の橋』の場所だ。

私は目的地に向かって一直線に進んでいく。

風を切り、音になり、瞬く間にその距離は詰まっていく。

 

「段々近くなっているわね」

 

近づけば近づくほどその気配は強くなる。

そしてそれから僅か数秒。

私は目的地へと到着した。

 

「さて、誰が居るのかしら?」

 

目的地についたのは良い。

しかし誰が中に居るのかを視認できない。

一体どういった仕掛けなのかしら?

そう思って入ろうとする。

しかしその瞬間手が弾かれる。

 

「これは……結界かしら?」

 

全く……小賢しいわね。

この程度の気力で練られた結界では意味などない。

無駄な足掻きだというのに。

力の差というものを。

圧倒的な存在だということを。

その体、その心に教えてあげるわ。

 

「ハッ!!」

 

声を発して結界を両手で抉じ開ける。

小さな結界の集合体が壊れていく。

それはとてつもなく爽快だった。

そして相手の領地に入って一言いう。

当然その顔には満面の笑みを浮かべておいた。

 

「ちょっと遊びましょう」

 

目の前の相手が脆弱だと知りながら私は相手に問いかけた。

私の玩具(おもちゃ)にはなれるでしょ?

ただ壊されるだけの悲しい玩具でも私の退屈は晴らしてくれるでしょ?

私は口角も上げて相手に歩み寄っていくのだった。

近づいてくる私に気づいたのか、相手は警戒心丸出しで構えていた。

 

.

.

 

俺は警戒心をむき出しに相手を見ている。

結界を破ってきた相手の言葉に対して俺は苦笑いをする。

 

「駄目だと言っても聞かないのだろう?」

 

俺は苦笑いをしながら相手に質問を投げかける。

この力の奔流は紛れもないサーヴァントだ。

一般人でここまで至るなど一握りだろう。

 

「当然よ、貴方は獲物だもの」

 

笑みを浮かべてまるで当然といわんばかりに女は答える。

別にそれはどうでも良いのだが驚いたのはその容姿だった。

 

この女は川神百代と瓜二つの姿だ。

目鼻立ちだけで言えば見分けはつかない。

しかし違いは確かにあった。

 

髪の毛が交差していないこと。

女性特有のふくらみの僅かな違い。

ただ一番目を引くのは川神百代を凌駕する力の大きさ。

 

それを感じ取った時、背筋に冷たいものが走り抜ける。

これは人の形をした怪物だった。

これは人の形をした災害だった。

 

今からやることは化け物退治だ。

俺は全力で戦う為に八極拳の構えを取った。

 

「身構える必要なんてないわよ」

「はあっ?」

 

こちらが構えた瞬間に変なことを女は言い出す。

俺は一瞬頭の中で疑問符が浮かぶ。

こいつは一体何を言っているのだ?

気づけば俺は素っ頓狂な声を出していた。

 

「だってすぐに貴方は消えるんだから」

 

そう言って女は駆けて来る。

速い。

風を切って押し寄せてくる。

こちらが見ているのは残像だろうか?

そう考えている時には相手は懐に居た。

 

「くっ!!」

 

拳が当たるのを感じる。

とてつもない衝撃だ。

衝撃が背中を突き抜ける前に俺は後ろへ飛ぶ。

だが想像以上だった。

衝撃が体中を震わせる。

後ろへ飛んだ後に転がって地面へと逃がした。

八極拳を使う暇さえもあの一瞬にはなかった。

 

「なかなか上手じゃない」

 

こちらの必死な状態を見て笑う女。

俺は相手の強さに苦い笑みをこぼしながら苛立ちを胸に募らせていた。

 

「随分と上から目線だが……足元見ないとつまずくぜ」

 

ゆらりと立ち上がって俺は言う。

相手の態度に一言物申すがそれはどうでも良い。

正直な所少しでもさっきの攻撃の痛みを抜いておきたいのだ。

 

「貴方が弱いのよ、だから下に見られるの」

 

この女……こちらが弱いからいけないと思っているのか?

お前の目線での評価なんて参考にはならない。

災害に評価された所で意味なんて有るものか。

 

「才能がないからここまでの差がつくのよ、悲しい人」

 

手を開いたり閉じたりしながら女が言う。

俺はその言葉に疑問を抱いた。

才能って言うのは誰にだってあるものだ。

でもそれの大小は俺たちでは操作できない。

それを補う為に自分の中にある才能を最大限に引き出すために努力をする。

 

ただお前の才気があまりにも大きくて他人の者が小さく見えるだけの話だ。

この女の才気に俺の才気が劣るのは認めよう。

それはいまさら考えても覆しようのない事実だ。

だが……

 

「俺を舐めるんじゃねえ!!」

 

怒りの叫びと共に踏み込む。

その踏み込みでわずかに橋が揺れていた。

 

相手との距離が詰まる。

腕を伸ばせば届く距離だ。

 

その間合いで息を吐く。

気は練られて一撃を叩き込む準備ができる。

 

繰り出された女の拳を逸らす。

その距離で更に強く踏み込む。

 

「『裡門頂肘』!!」

 

一気に気を爆発させるように肘を突き出す。

そして大きな声と共に気合を入れた一撃を放った。

しかし手応えは感じられない。

何故だ?

何が起こった?

その答えは目の前に有った。

 

そこには俺の『裡門頂肘』を片手で受け止めた女が居た。

 

「所詮貴方はこの程度なのよ」

 

そう言って女が動く。

俺の肘から手を離される。

腰が捻られて少しずつ体が逆方向へとむいていく。

そして一気に速度を乗せた一撃が放たれる。

気づいた時には目の前に拳が有った。

 

「ガッ……」

 

俺は裏拳をくらい吹き飛ばされる。

頭がぐわんぐわんと揺れる。

それでも俺はゆっくりと確実に立ち上がる。

そして笑みを浮かべてどんなもんだと視線を送る。

しかし想いとは裏腹に膝ががくがくと笑っていた。

 

対峙するのは『最強』と『最弱』。

始まりの戦いはあまりにも兵力差を感じさせるものだった。

 

そして同時刻、別の場所でもう一つの戦いは始まっていた。




次回も別の所のバトルの予定です。
何かご指摘等ありましたらメッセでお願いします。

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