また今年も頑張っていこうと思いますのでお願いします。
ランサーはぐるりと首を傾けていったい何が有ったのかを確かめる、と言っても目の前にオレの顔が有れば一体何があったのかは一目瞭然だろう。
「なんだ…おい…こ…れ」
血を吹き出しながらオレを見るランサー、いくらオレの顔を見たところでこの状況が変わることはない。
今その胸に開いている傷もお前自身が感じているものも全て本当の事なのだから。
「見ての通りだ、刀でついさっきまでお前を刺してたんだ」
どうやら理解が追いついていないようだな、それとも決して痛みを感じない奴だから刺されたということに全く気づかなかったのか?
「ふざけんな……話が…ち…がう」
「えっ、話が違うって何のことだ?」
オレはランサーの言葉に首を傾げる、おかしいな。
オレはあの時の約束を思い出して一つでも間違いがあったか頭の中で照らし合わせてみるが別に嘘を言った覚えはない。
つまりどこかをランサーが勘違いしているだけだろう、ライダーの事ばかり考えておざなりに聞いていたから話があまり入ってこなかったんだろうな。
「お前……アーチャーのトドメをさすって…いったんじゃ…」
やはりあの同盟の提案の時の事か。
思ったとおりランサー自体が勘違いをしていただけのようだ、これはきちんと教えてあげないといけないな。
「確かにそう言ったよ、でも『誰の』なんていってなかったぞ、勘違いしている奴にこんな事を言うのも変だけどちゃんと話を聞いていたかい?」
オレはあの時に標的の指定などしていなかった、それをランサーが自分に都合が良くなるように解釈をしただけの話だ。
「聞いてなかったにしても普通ならそう思うはずだろ、もしかしてあの言葉も嘘だったのか?
亜巳に聖杯を渡すのも……」
歯軋りをしながら憎しみを込めた声色で言葉を搾り出すランサー。
おいおい、流石に今のは人聞きが悪いな、まるでオレが常日頃から嘘をつくような人間だと思われるじゃないか。
「『止めを刺す』事も『聖杯を譲る』事も本気でいった言葉だよ
でもさっきも言ったけど止めについては指定してなかったし、聖杯はお前が居なくても渡せる
だからオレはお前をアーチャーと戦ってもらうためだけに動かしたんだよ」
オレはランサーに向かって言い放つ、それに今回の作戦はお前だったから成功できたし上手くこっちも利用が出来た。
痛みを感じないであろう体。
時間が経つにつれて、逃げる選択肢が消えていく無謀な戦い方。
こちらの要求に得があれば食いつく欲深さ。
そして条件に関しても正直に信じてしまう愚かさ。
どれか一つでも欠けていたならこっちも考えて策を練っていただろう。
しかしここまで要素が揃ってたらもはや考えなんてものは必要じゃなかった。
「くそ野郎が……地獄に……落ちやがれ」
オレを睨みつけながら呪詛の言葉を吐き、そのままうつ伏せに倒れていくランサー。
辺りを見渡すといつの間にかアーチャーのやつは逃げていた、きっと令呪を使ったんだろう。
「そっちが思うほど憎まれ者は簡単に死なないものさ」
文句を言うのならば初めからオレを疑って提案を蹴るのが正しかったはずだ、それもせずに恨み言をいわれても困る。
オレは最後にランサーに一言いって、この河原から去っていくのだった。
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俺は意識が混濁し始めていた、あいつに貫かれて血が流れただけじゃない。
霊核の損傷が激しいのだ、流石に戦う気持ちがあっても体が動かなければ何も意味を持たない。
「くそっ……あいつを追いかけないと……」
目もあまり見えていないが何とか体を引きずっていく、そんなときに亜巳の声が上から聞こえてくる。
「ものの見事にあの子達にやられたねえ」
声に悔しさは宿っていなかった、まるで当然の結果だというような声色だった。
俺は一瞬耳を疑っていたが次に聞こえた言葉で一つの確信を得ることができた。
「やっぱりこっちを嵌めるために私たちとの同盟を願ったんだね
情報を次々に出したのも『死人に口無し』だからか
まあ、きちんと約束を守ってくれればそれでいいけどさ」
亜巳はあの交渉の中にあった穴やセイバー達がこういった真似をするというのを事前に見抜いていたのだ。
それなのに俺には一言もその情報や危険性を伝えてはいなかった、俺はその事に愕然として言葉を搾り出していた。
「どうして…なんだ…」
こっちは信頼をしていたはずなのに亜巳は重要な事を俺に黙っていた、つまり俺は亜巳に信頼されていなかったんじゃないのか?
「どうしてって……むしろ何でも教えてもらえると思っていたのかい?
只でさえ少ないあんたへの信頼が壊れてた事にあんたは気づかなかったんだろうね」
俺はその言葉に答えずに苦い顔をする、確かにその様な事には気づいていなかった。
もし気づいていたのならこのような状況にもなっておらず情報を共有できたからだ。
「信頼が崩れた原因として決定的なのが天への暴言だ、それに重ねて自分勝手な行動もあった、まあ、それ以前からもこっちの言葉を聞かないといったことはあったけどね」
あの時の言葉を聞き逃してはいなかったのか、そして自分勝手な行動と言うのは交渉の時の俺の行動だろう。
「それにあんなに甘い話だったなら罠だと気づかないほうがどうかしてる、あいつらはあからさま過ぎたのさ」
そう言って棒をくるくるとまわす亜巳、俺は一つ疑問に思ったというよりは余りにも無謀だと感じた事を聞いてみる。
「それなのに疑わなかったのか、セイバーのマスターの事を……」
仮にあいつらが約束を破ったら一体どうするつもりなんだ、抵抗することも出来ないのに。
俺がそう聞くと亜巳は冷たい声で俺に言い放つ、その考えが当然だというように。
「何年も過ごしてきた家族とたった何日かの人間のどっちが信用できるかは分かるだろ?
それに天は私に逆らうような真似は出来ない、なぜなら怖いからね、約束を自分から取り付けたのに放り投げるような真似もしないさ」
「信用した結果が…これじゃあねえか…」
俺は歯を軋らせて地面をひっかく、信じた結果がこれだったなら何の意味もない。
こちらからすれば聖杯を手に入れるための駒にされたのだ、いい気もしないだろう。
「まあ、今回は一本取られたね
それであんたがこうなったってのも分かるよ、でもそんな事はどうでも良いのさ
私とあんたは無関係に近いんだからね
そんな人間がどんな酷い目にあった所で心は痛まないし、それで仮に幸せになれるなら安い犠牲だよ」
そう言って微笑んでいる亜巳を見て俺は背筋が凍りそうだった、こんな笑顔をするとは想像できなかったのだ。
「……でもこのまま恨まれるのも後味が悪いし、少しは礼呪って奴で花を添えてやるよ」
そう言って亜巳は手を掲げる、そして息を吸い込んで命令を言い始める。
「令呪にて命じる『傷を癒せ』
重ねて命じる『体力を戻せ』
そして最後に命じる事は……」
亜巳が令呪で俺に命じる。
するとさっきまで体に有った傷がなくなっていき、ぼろぼろだった体に力が入る。
最後に命じたことは聞こえなかったが一体なんだったのだろうか?
すると自分の手が少しずつ光の粒子になっていくのが分かる、そろそろお別れってわけだ。
「速くあんたを待っている人間の所に帰るんだね、いつまでもぐずぐずしてたらそっぽ向かれて捨てられちまうよ」
俺はその言葉に苦笑いをする、これは痛い所を突かれた。
確かに俺にめそめそぐずぐずしてる暇はない、帰らなくてはいけない場所へ向かわなくては。
俺は頭を振り雑念を払って、地面に手を着いて起き上がる。
「起き上がったんなら私とあんたの関係はお終いだ、達者でやりなよ」
そう言うと亜巳は歩いて去っていく、そのまま俺の方を二度と振り向くことは無かった。
俺はその姿が見えなくなるまで見送っていた、そして見えなくなった後に亜巳とは逆の方向を歩き始める。
俺は体の全てが粒子となり意識を手放す時まで自分を待ってくれている人間への思いを馳せるのだった。
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聖杯戦争……七日目。
落ちたのは『最速』のサーヴァントであるランサー。
残りはセイバー、アーチャー、ライダー、アサシンの四人。
戦う者が半分となり戦いも佳境へと差し掛かる。
月光は戦うものを照らし夏の熱気がこれからの更なる激戦を予感させていた。
次回もバトルの予定です。
今回でランサーが脱落です。
なかなか落としどころが難しくこのような形になってしまい申し訳ありません。
今回コラボに協力してくださったうなぎパイさんにはこの場で感謝申し上げたいと思います
うなぎパイさん、本当に有難うございました!!