鳥竜種な女の子   作:NU

12 / 36
第2章 少女の生きる理由
第11話 空腹の中で


 灼熱の太陽が砂を焦がす。

 砂漠。砂と岩に囲まれた灼熱の世界。陽炎が景色を歪め、砂嵐が視界を遮る。

 

 彼女はその大地をふらふらと歩いていた。

 彼女、といっても人間ではない。

 

 彼女はゲネポスである。

 

 

 自分が何の為に生まれ、生きているのか彼女には理解出来なかった。

 周りの同じ雌のある者は子孫を残し、群れを続けさせていくことが生きる理由だと言い、またある者はボスの為に戦い、役に立つことが生きる理由だという。

 下らない。

 

 彼女はその全てを理解しなかった。雄と交わって子孫を残したところで何が楽しいというのだろうか。ボスの為に尽くしてもボスは自分の為に何かしてくれるだろうか。

 何も楽しくはないし何もしてくれはしない。

 自分を追いかけてくる雄はどれも同じような奴ばかり。ただ子孫を残すことだけしか考えてはいない。だから彼女はその雄全てを拒否し続けて来た。

 周りのゲネポス達はそんな彼女を変わり者と扱い、彼女との関わりを絶った。ついには彼女は完全に群れから孤立し、彼女が帰る場所は無くなった。

 群れにいたところで何も楽しくはない。群れを離れる、それ自体は別に構わなかった。

 ただ問題が生じる。

 

 ふらり、とゲネポスの体が揺れた。倒れる直前に足を曲げて何とか持ちこたえる。

 もう何日も何も食べていなかった。

 

 ゲネポスは本来集団で狩りをするモンスターである。一頭だけではアプケロスさえも倒すことは出来なかった。この数日間、水だけをすすってなんとか命を繋いできた。

 だがそれももうすぐ限界らしい。彼女は空腹で視界がぼやけるのを感じ始めていた。

 

 ついに耐えきれず、力が抜けてそのまま地面にドサリと崩れ落ちる。

 太陽がじりじりと倒れる彼女に照りつける。ぼんやりと空を見上げ、ついに死を確信した。

 今までの生活を振り返り、本当につまらない生涯だったと思う。

 今度生まれて来る時には何に生まれようか。彼女はそんなことを考える。

 

 真っ先に思いついたのが人間だった。

 

 砂漠を行く人間達を彼女は何度も見たことがあった。それぞれが自分たちとは違って多種多様な見た目で、自由に動くことが出来た。そんな人間達が彼女は羨ましくてたまらない。

 楽しそう。

 なんの根拠もない、ただそれだけの理由であった。ゲネポスとしての退屈な日常とは違う、別の日常。それを彼女は待ち望んでいた。

 目を閉じてただ死の時を待つ。

 

 と、その時。

 彼女の耳は何かが砂を踏む音を捉えた。

 その音は段々と彼女に近付いて来る。身の危険を感じるが、動く気力が無い。もし凶暴なモンスターであれば何もできないまま捕食されることになるだろう。どっちにろ死ぬのには変わりないと彼女は全てを諦めた。

 音が止まる。その主は明らかに彼女のすぐ隣に立っていた。今か今かと死の時を待ち続ける。

 

 しかし、次に聞こえてきたのは、

 

「い、生きてる……のか?」

 

 人間の、声だった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。