鳥竜種な女の子   作:NU

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第1章 密林に眠る少女
プロローグ


 一寸先も見えない豪雨の中、その青年はベースキャンプを目指して全力疾走を続けていた。

 

 一瞬周囲をまばゆい光が満たし、ほぼ同時に今度は爆音が空間を支配する。すぐ近くにで起こった落雷に小さく悲鳴をあげるが、足を止めることはなく、必死で頭を低くして海岸沿いを駆け抜ける。

 腰に下げられた片手剣と数々の道具がカチャカチャ音をたてる。

 

 こんなはずではなかった。

 今日はハンターとしての長い修行を終えた彼、レンドがついに一人で狩り場へ出てきた日であった。期待と興奮と少しの緊張を抱えてランポス五頭の討伐を受けた彼は、意気揚々とこの密林にやって来たのだ。

 だがさっさと倒して初クエストを達成しようと奥地に入ったのも束の間、今まで経験したこともない程の豪雨が彼を襲った。

 これではいくらハンターとしての修行を積んできた彼であっても狩りどころではない。

 

 

 

 目を手で覆って視界のない状態で走るレンド。バケツをひっくり返したという表現では足りない程の凄まじい大雨だ。呼吸をしようとして雨水を飲んでしまい、全力で咳き込む。

 その瞬間、彼はすぐ前に迫っていた岸壁に凄まじい勢いで激突した。反動で後ろにひっくり返り、地面に後頭部から激突する。

 

「いってぇぇ!!」

 

 目を抑えて咳き込みながら、ごろごろと地面を転がって悶絶する。狩り場で目を瞑って走るなど自殺行為もいいところだ。身をもって学習した彼は額を押さえながら体を起こす。

 

 だがその瞬間、目を開けた彼が見たものはベースキャンプへ行く道へ立ちはだかる数頭の鳥竜種のモンスター、ランポスの姿だった。

 

「まじかよ」

 

 更に運の悪いことに、周囲をきょろきょろと見回していたランポス達は雨の中呆然と座り込む彼の存在にすぐさま気がついた。

 そして絶好の獲物に興奮したように数回声をあげると、一斉にレンドへと襲いかかる。

 

「これはマズい!」

 

 何が何だか分からないまま片手剣を抜き放ち、立ち上がる勢いで最初に突進してきたランポスを斬りつけた。

 一瞬怯んだところを、今度は上から叩きつける斬撃で息の根を止める。だが休む間もなく次のランポスが襲いかかってきた。

 最初の噛み付きを盾で受け流すと、そのまま盾で頭を殴りつける。衝撃で目を回したところを剣で貫いてとどめをさす。この間僅か数秒。二頭の亡骸が音をたてて地面に横たわる。

 

 テンションの上がるレンド。もしかするとこれはこの場でクエスト達成となるかもしれない。

 そうなることを期待しつつ再び戦いに集中する。

 

 雨水に目を閉じそうになるが必死で耐え、近くで様子を伺っていた三頭目のランポスに襲いかかる。勢いに乗った彼は止められない。ランポスはなすすべもなく全身から血を吹き出して息絶えた。

 ニヤリと少し離れた場所に立って鳴き声をあげていたランポスを振り返る。彼の身に纏うハンターシリーズは返り血と雨で濡れている。それを見てどう思ったのか、ランポスは一歩後ろに後ずさったが、すぐに顔を見合わせると、二頭同時にレンドに向かって飛びかかった。

 

「うお!?」

 

 二頭同時に飛びかかられては反撃ができない。どちらかを攻撃しようにも残り一頭にやられてしまう。残された道は一つ。

 

「うおおおおお!!」

 

 レンドは死にものぐるいで横にダイブする。地面を何度か転がって体制を立て直すと、先程まで自分がいた場所にランポスが着地するところが見えた。もしかわしていなければ、とその鋭い爪を見て彼はぞっとする。だが今度は反撃をする番だ。

 

 剣を構え、突進する。それは一頭の体に深々と突き刺さり、大量の血を撒き散らした。悲鳴をあげるランポス。

 レンドは構わずにそれを思いっきり引き抜き、今度は首を目掛けて振り下ろす。見事に首は一刀両断され、胴体と引き離された。

 小さくガッツポーズしながらもう一頭の姿を探す。しかしその姿はどこにもなかった。

 もしかして逃げたのか。と後ろを振り向き、そして彼が見たものは五頭目のランポスが正面から突っ込んで来る瞬間だった。

 

「うあっ!」

 

 ランポスが頭突きを炸裂させる。凄まじい衝撃に後ろへ倒れ込むレンド。そこに好機とばかりにランポスが全体重をかけてのしかかる。

 思わずうめく。体を鍛えている彼には大したダメージではない。だが体の自由を完全に奪われてしまった。これでは武器を使うこともできない。

 

 

 ハンターともあろうものが背後を取られるとはなんという不覚。これでは師匠に合わせる顔がない。そんなことが頭の中を駆け巡るが、このままではハンターとしてクエストを一つもこなさないまま死ぬことになってしまう。

 レンドは必死に体を動かそうとする。だが腕を動かすことはまったく叶わなかった。それどころか仰向けに倒れているので、激しすぎる雨に目を開けることすら難しい。だが目だけはしっかり開けたまま、せめてもの抵抗にとランポスを睨みつける。

 

「ギャオッ!」

 

 ランポスは勝利を確信したように声を挙げた。悔しさにレンドの顔がゆがむ。そしてランポスは顔を近付けると、凶悪な牙の並んだ口を大きく開いた。必死に武器を持つ手を動かそうとするレンド。だが完全に抑えつけられている。

 

(くそ、ここで終わるのか!)

 

 だがその時ふと空に視線を向けた彼は、彼らの真上の空がゴロゴロという不穏な音を立てながら時折光っていることに気がついた。それは段々と激しさを増している。

 

(なんだ……?)

 

 思わず体に入った力が緩む。その瞬間、ランポスは更に抑えつける力を強めて牙を光らせながらレンドの首筋へと噛みついて、

 

 だが彼はその時確かに見た。

 スローモーションのように見ていた。

 自分たちの頭上、真上の空から一筋の稲妻が降ってくる瞬間を。

 やがてそれはランポスに降り注ぎ、それは自分にも

 

 閃光と爆音が空間を支配した。

 

 

 

 

 真っ白な視界の中、レンドは思い出していた。自分がハンターを目指し始めたころのことを。

 あの時村を守ってくれたハンターに憧れて弟子入りしたことを。多くの苦難を乗り越えてようやくハンターとして自立できたことを。ギルドに登録して正式なハンターになれたことを。

 それらが全てこの数十分のためだったというのか。あまりにもひどい現実に泣きたくなってくる。だが彼には今自分がどうなっているのかも分からなかった。やがてその意識も薄れていき……。

 

 

「ううん……」

 

 どれくらい眠っていたのだろうか。レンドが目を覚ましたときにはもうあの凄まじい雨は止んでいて目の前には高く青く美しい空が広がっていた。しばらくそれをぼーっと見つめていたが、突然彼はハッとして体を起こした。

 

「生きてる!?」

 

 思わず自分の両手を凝視する。それは焼けこげてもいなければ透けてもいなかった。ペタペタと体のあちこちを触って確かめてみるがどこにも外傷はない。確かに彼は生きていた。

 

 何がどうなっているのか分からない。確かに自分は雷に打たれたはずだ。だが確かに無傷で生きている。レンドの頭には疑問しか浮かばなかった。

 もしかするとあれは夢だったのだろうか。いやしかし、と彼は左側を見渡して自分の倒したランポス達の亡骸を確かめる。これが残っているということは確かにさっきまでのことは夢ではない。彼は悩みつつ今度は右側へ視線を移し、

 硬直した。

 

「……え?」

 

 思考が数秒間停止する。だが彼は正面に向き直ると頭を抱えて目を閉じ、何やらぶつぶつと呟き始めた。

 

「目の錯覚に違いないよな、うん」

 

 しばらく何やら呟いて、ふいに彼は「よしっ」と気合いを入れると決心したように再び視線を右側に移した。

 だが再び硬直する。

 

 そう、目の錯覚でも何でもない。彼は見てしまったのだ。

 彼の右側、普通ならばランポスの亡骸があるべき場所に、別のものが転がっている光景を。

 

 彼は見てしまった。

 砂浜に倒れている青髪の少女を。

 




はじめましてでない方もはじめましての方もこんにちは。
ここでのモンハン小説は二作目となります。一方のほうが真面目な話なのでこっちの話は息抜きもかねてのかなりはっちゃけちゃった話になっています(笑)
今まで書いたことのないラブコメ要素の強いファンタジー色の強い話になる予定です。
温かい目で見守っていただけると幸いです。

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